平成30年司法試験論文式民事系第3問設問1の補足説明

1.民訴法は、当サイトで実施したアンケートで難しかったと答えた人の割合が最も高かった科目でした。設問2で文書提出義務という、これまで出題頻度の低かった分野からの出題があったこともありますが、設問1で何を答えてよいかわからず、戸惑った、ということも、難しいと感じさせた原因になっていたのでしょう。そこで、設問1について、補足的な説明をしておきたいと思います。

2.まず、合格点を取るためには、どのように考えればよかったか、という話をしましょう。当サイトで繰り返し説明しているとおり、現在の司法試験では、基本論点について、規範を明示し、事実を摘示して解答すれば、優に合格答案になります。一見して何を解答してよいか判然としないような問題であっても、部分的にみれば、明らかに配点がある基本論点があるものです。そこをきちんと書いておけば、後はほとんど白紙に近い解答でも、合格答案になる。本試験の現場では、そのような視点を持っているかどうかで、問題文を見る目が変わるものです。その観点から、設問1で、配点があることの明らかな基本論点は何か。冷静に見れば、以下の部分だとわかるはずです。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 L1:これらの課題に答えるためには,まず,Bの訴えの訴訟物を明示して,それが,Aが起こそうとしている訴えの適法性にどのように関わってくるのかを考える必要があります。

(引用終わり)

 

 Bの訴えは、いわゆる請求の趣旨で上限を示さない金銭債務の一部不存在確認の訴えです。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 L2は,Bの訴訟代理人として,Bを原告,Aを被告として次のような内容の訴状を乙地裁に提出して訴えを提起した(以下「Bの訴え」という。)。

①請求の趣旨:「本件事故に係るBのAに対する不法行為に基づく損害賠償債務は150万円を超えないことを確認する」との判決を求める

(引用終わり)

 

 これは、最判昭40・9・17のある基本論点ですね。

 

最判昭40・9・17より引用。太字強調は筆者。)

 上告人らの被上告人に対する請求の趣旨として、「上告人Aの被上告人に対する債務の残存元本は金一四万六、四六五円を超えて存在しないことを確認する。その余の上告人らの被上告人に対する債務の不存在を確認する」の記載があり、その請求の原因の要旨としては、(1)訴外Dは昭和三二年四月二三日被上告人から金一一〇万円を弁済期同三三年三月末日などの約で借り受けたが、同訴外人は、同年九月三日死亡し、上告人ら一一名が相続し、右債務を承継したが、上告人Aにおいて単独で右全債務を引き受けることとし、被上告人も、これを承諾し、その余の上告人らに対する債務わ免除した。(2)そして、上告人Aは、右貸金債務に対し(イ)同三二年一二月二四日金八三万三、五三五円を、(ロ)同三三年四月七日金五万円を、(ハ)同年一二月二八日金七万円を、それぞれ弁済したから、右貸金債務の残元金は金一四万六、四六五円になつた。(3)よつて、上告人らは請求の趣旨記載の判決を求める。というにある
 上告人らの右請求に対し、原判決は、上告人Aにおいて本件貸金の元本債権に弁済したと主張する(イ)同三二年一二月の金八三万三、五三五円の支払について、その内金五〇万円のみが右元本債権に弁済されたが、その余の三三万三、五三五円は本件貸金債権の利息などに弁済されたにすぎず、かりに、(ロ)同三三年四月の金五万円、(ハ)同年一二月の金七万円の弁済が上告人ら主張のとおり本件貸金債権の元本債権に弁済されたとしても、本件貸金の残金元本債権が上告人Aにおいて自認する金一四万六、四五六円をこえることは明らかであり、しかも、上告人らが主張する債務引受の事実は認めがたい旨判示して、上告人らの本所請求を全部排斥していることが認められる。
 しかし、本件請求の趣旨および請求の原因ならびに本件一件記録によると、上告人らが本件訴訟において本件貸金債務について不存在の確認を求めている申立の範囲(訴訟)は、上告人Aについては、その元金として残存することを自認する金一四万六、四六五円を本件貸代金債権金一一〇万から控除した残額九五万三、五三五円の債務額の不存在の確認であり、その余の上告人らにおいては、右残額金九五万三、五三五円の債務額について相続分に応じて分割されたそれぞれの債務額の不存在の確認であることが認められる。

(引用終わり)

 

 請求の趣旨において債務の上限額が示されていない場合であっても、請求原因などの記載から上限額が特定できるときは、その額を上限として訴訟物を確定するのでした。本問は、請求原因の記載から、400万円を上限とするものと特定することが可能な事例です。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

 L2は,Bの訴訟代理人として,Bを原告,Aを被告として次のような内容の訴状を乙地裁に提出して訴えを提起した(以下「Bの訴え」という。)。

 ①請求の趣旨:「本件事故に係るBのAに対する不法行為に基づく損害賠償債務は150万円を超えないことを確認する」との判決を求める。
②請求の原因の要旨:本件事故はBとCによるAに対する共同不法行為に当たるが,本件事故によって発生したAの損害の金額は,高く見積もっても150万円である。ところが,Aは損害額が400万円を下回らないと主張して譲歩しようとしない。よって,Bは,Aとの間で,本件事故に係る不法行為に基づく損害賠償債務が150万円を超えないことの確認を求める。

(引用終わり)

 

 そうすると、訴訟物は、上限額である400万円から自認額である150万円を控除した額ということになるわけですから、250万円ということになる。このことを、上記判例の規範を明示し、問題文の事実を摘示して答案にきちんと示すことができたか。これが、設問1で合否を分ける第1のポイントです。言われてみれば、「何だ簡単じゃん。」と思うかもしれませんが、「配点のあることが明らかな基本事項はないか。」という視点を持っていないと、意外と落としてしまうものなのです。ここに大きな配点があることに気付かないと、特に理由も付すことなく、漫然と、「Bの訴えの訴訟物は本件事故に係るBのAに対する不法行為に基づく損害賠償債務のうち150万円を超える部分である。」などと、雑に書いてしまいがちです。これでは、評価を落とすでしょう。本問は、課題(1)、(2)の中身を議論する前の段階で、大きく差が付くのです。

 もう1つ、問題文で明示的に指示されていたのは、「Aが起こそうとしている訴えの適法性にどのように関わってくるのか」でした。重複訴訟(142条)のことだろう、ということは、容易にわかります。判例は、重複訴訟に該当するか否かについて、既判力抵触のおそれがあるかによって判断しています。

 

最判昭49・2・8より引用。太字強調は筆者。当時の民訴法231条は、現在の142条に対応する。)

 確定判決の既判力は、主文に包含するもの、すなわち訴訟物として主張された法律関係の存否に関する判断の結論そのものについて及ぶだけで、その前提たる法律関係の存否にまで及ぶものではなく(最高裁昭和二八年(オ)第四五七号同三〇年一二月一日第一小法廷判決・民集九巻一三号一九〇三頁参照)、本件の場合、本件土地ほか二筆の土地の売買契約による所有権に基づき右土地の所有権移転登記手続を求める別件訴につき、仮にこれを認容する判決が確定しても、その既判力は基本たる所有権の存否に及ばないから、後訴である本件訴のうち所有権の確認を求める請求に関する部分は、前訴である別件訴と重複して提起された訴として民訴二三一条の規定に違反するものと解することはできない。そうすると、この点に関する所論は採用することができない。しかし、別件訴と本件訴のうち被上告人らが上告人に対し本件土地売買による所有権移転登記請求権を有しないことの確認を求める請求に関する部分は、いずれも同一の当事者間において、本件土地の同一の売買契約に基づく所有権移転登記請求権につき、前者が積極的にその存在を前提として登記手続を求め、後者が消極的にその不存在の確認を求めるものであつて、両請求にかかる判決の既判力の範囲は全く同一であるから、本件訴のうち登記請求権不存在の確認を求める請求に関する部分は、民訴法二三一条の重複起訴の禁止に牴触するものといわなければならない。

(引用終わり)

 

 この規範を示して、本問で課題とされている各訴えについて当てはめる。そうすると、Bに対する訴えについては、250万円の限度で重複する訴えとなるが、Cに対する訴えについては、当事者(115条1項1号)が異なるのだから、既判力が抵触することはなく、重複する訴えとはならないこの点について、答案で明示的に解答することになります。重複訴訟については書いた人が多いと思いますが、漫然と各課題の訴え全体が重複訴訟に当たる、とするだけで、Bに対する訴えについて重複訴訟となるのは250万円の限度であることや、Cに対する訴えとの関係では重複訴訟とならないことについて、明示できているものは、意外と少ないのではないかと思います。これが、合否を分ける第2のポイントです。
 ここまでを的確に解答していれば、後は、よほど変なことを書いていない限り、合格ラインは超えるでしょう。上記のことを前提に形式的に処理するなら、課題(1)前段は150万円の限度で適法、課題(1)後段はBに対する訴えは150万円の限度で適法、Cに対する訴えは全部適法、課題(2)も課題(1)後段と同じ、ということになるでしょう。「これじゃ適法にしろという問いの要求に答えてないし、課題(2)の意味がないじゃないか。」と思うかもしれませんが、これでも、最低限の合格答案だろうと思います。逆に、ここまでが雑だと、「課題(1)と課題(2)は上位陣と同じ筋で解答したのに、どうしてこんなに評価が低いんだ!」ということになるわけです。

3.そういうわけで、ここから先は、実戦的にはどうでもいい話です。とはいえ、多くの受験生の関心は、ここから先の部分にあるのでしょう。合否に関係のある基本部分については関心が薄いが、合否に関係のない応用部分には、関心が集まる。これは、答案の評価について主観と客観にズレが生じる原因の1つでもあります。そのことを確認した上で、雑談的に、少し検討してみましょう。
 まず、確認しておくべきは、本問で問われている「訴え」とは、別訴だけを指すのか、反訴も含むのか、ということです。

 

(問題文より引用。太字強調は筆者。)

L1:そのとおりです。では,まず,AがBを被告として乙地裁に訴えを提起する場合に,訴えが適法といえるか,また,その場合に,Aは,CをもBと共同被告とすることができるか。いずれも適法であるとの方向で立論を工夫してください。これらを「課題(1)」とします。

P:分かりました。

L1:しかし,AとCは甲市に住んでいて私の事務所も甲市にあるので,費用や時間の点から,甲地裁に訴えを提起して訴訟追行ができるかも考えておきたいところです。AがBとCを共同被告とする訴えを甲地裁に提起する場合に,この訴えが適法といえるか。これも,この訴えが適法であるという方向で,説得力のある立論をしてください。これを「課題(2)」とします。

P:分かりました。

(引用終わり)

 

 受験生の通常の感覚からすれば、単に「訴え」と言われれば、それは別訴のことだろう、と思うのではないかと思います。旧司法試験の問題文では、そのような理解に基づく用例もみられます。

 

平成15年旧司法試験論文式試験民事訴訟法第2問より引用。太字強調は筆者。)

 甲は,乙に対し,乙所有の絵画を代金額500万円で買い受けたとして,売買契約に基づき,その引渡しを求める訴えを提起した。
 次の各場合について答えよ。

1 甲の乙に対する訴訟の係属中に,乙は,甲に対し,この絵画の売買代金額は1000万円であるとして,その支払を求める訴えを提起した

(1) 甲は,乙の訴えについて,反訴として提起できるのだから別訴は許されないと主張した。この主張は,正当か。

(引用終わり)

 

 単に「訴えを提起した」と記載されていますが、その後の「別訴は許されない」という記載から、これは専ら別訴を指すことがわかります。このような理解を前提にすると、本問は専ら別訴の適法性が問われているということになるので、重複訴訟に当たるけれども弁論の併合によって適法と考えるべきだ、というくらいしか、思い付かないだろうと思います。参考答案は、そのような考え方から、なんとなくふにゃふにゃと書いています(「平成30年司法試験論文式民事系第3問参考答案」)。これでは低い評価になる、と思った人は、この記事の前半部分をもう一度読み直すべきです。

 正解という意味でいえば、本問では、反訴も含めて考えるべきでした。そもそも、反訴とは、係属中の訴訟における被告が、原告に対して提起する「訴え」であるとされていますから、概念的には、「訴え」の中に反訴も含まれるのです。すなわち、「訴えを提起する」には、「反訴として提起する」場合と、「別訴として提起する」場合がある過去の司法試験における用例でも、そのように理解されるものがあります。

 

平成28年司法試験民事系第3問より引用。太字強調は筆者。)

P2:分かりました。Zとしては,Zの解任決議が無効であること,及びZがXの会長の地位にあることの確認を求める訴えを提起することが考えられ,その場合,Xを被告とすることが適当であると思います。そして,第1訴訟の中で,Zが会長の地位にあり,自らの解任決議は無効であることを主張するわけですから,反訴として提起することが簡便だと思います

 (中略)

L2:少なくとも,そういう反論に備えておく必要はあるでしょうね。以上のことを踏まえた上で,Zが解任決議が無効であることやZがXの会長の地位にあることを確認する訴えを提起することについて訴えの利益が認められるという理由付けを具体的にまとめてみてください。それから,反訴として提起するということですから,民事訴訟法第146条第1項所定の要件についての検討も念のために行っておいてください。

(引用終わり)

平成28年司法試験出題趣旨より引用。太字強調は筆者。)

 本問は,権利能力なき社団の構成員に総有的に帰属する財産をめぐる紛争を基本的な題材として,①当該社団の構成員が原告となって総有財産の所有関係を第三者に主張する場合には,それが固有必要的共同訴訟に当たることを前提に,そのような訴訟を現実に遂行した場合に生じ得る問題についての解決方法(〔設問1〕),②当該社団が原告となり社団の元代表者等を被告として総有財産の帰属関係等を争う訴訟において,元代表者が解任決議の無効や会長の地位確認を求める訴えを反訴で提起することにつき,訴えの利益や反訴要件の有無(〔設問2〕),③当該訴訟において敗訴した被告の一方が他方の被告に対して債務不履行責任を追及する場合に,前訴においても審理された総有財産の帰属に関して改めて審理・判断することの可否(〔設問3〕)に関して,検討をすることが求められている。

(引用終わり)

 

 もっとも、そう考えると、課題(1)後段と課題(2)が、急に難しくなるようにみえます。反訴というのは、本訴原告を反訴被告として提起する訴えですから、課題(1)後段のように、Cを共同被告とすることは、できないはずです。また、146条1項本文は「本訴の係属する裁判所に反訴を提起することができる。」としているわけですから、課題(2)のように、甲地裁に反訴を提起することも、できないでしょう。現場で、「訴え」に反訴が含まれるかも、と思いながらも、このようなことを考えて断念した、という人もいるかもしれません。ここに関しては、それでも仕方がないのかな、という感じです。
 正解という意味では、課題(1)後段については、いわゆる「第三者に対する反訴の可否」というマイナー論点です。結論的には、通常の反訴+主観的追加的併合として肯定するのが、学説では多数でしょう。任意的当事者変更における複合行為説と同様の考え方です。主観的追加的併合は平成20年司法試験でも、判例の射程論という形で問われていたので、同様の発想で解答することは、不可能ではなかっただろうと思います。「第三者に対する反訴の可否」という論点自体を知らなくても、過去問を繰り返し解いていた上位陣であれば、気付くことができたでしょう。とはいえ、本問では平成20年のような露骨な問われ方をしていないので、普通の受験生は、気付かなくてもやむを得ないところです。

 

平成20年司法試験出題趣旨より引用。太字強調は筆者。)

 設問3は,取締役解任の訴えが,被告側の固有必要的共同訴訟であることを理解した上で,原告の立場から,主観的追加的併合(原告による被告の追加)が許容されるべきことの主張を具体的な事案に即して行わせるものである。周知のとおり,主観的追加的併合が理論的に許容されるか否かは,民事訴訟法の著名な論点の一つであるが,そこで論じられていることを踏まえつつも,より実務的な観点から,少なくとも本件の具体的な事例の下においては主観的追加的併合が許容されるべきことを示すことが必要になる。具体的には,取締役解任の訴えが被告側の固有必要的共同訴訟であって,訴訟共同と合一確定が要請される場面であることを考慮すべきであることはもとより,取締役解任の訴えにおいては,出訴期間が法定されており,本件においては,改めて再訴を提起する方法によっては期間徒過により対応できないということ,そして被告追加の申立てがされたのが,訴訟の極めて初期段階にあること,といった本件固有の事情を的確に抽出し,それを最高裁判決摘示の理由に対する反論の形で展開していくことが求められる

(引用終わり)

 

 課題(2)については、最判平16・3・25がヒントになります。

 

最判平16・3・25より引用。太字強調は筆者。)

 第2事件の平成7年契約関係被上告人5社の上記保険金支払債務の不存在確認請求に係る訴えについては,第3事件の上告人らの平成7年契約に基づく保険金等の支払を求める反訴が提起されている以上,もはや確認の利益を認めることはできないから,平成7年契約関係被上告人5社の上記訴えは,不適法として却下を免れないというべきである。

(引用終わり)

 

 債務不存在確認の訴えに対し、同一の債権についての給付の訴えが反訴として提起された場合には、先に提起された債務不存在確認の訴えは確認の利益を欠くに至る。本問についていえば、課題(1)の訴えが反訴として提起されると、Bの訴えは確認の利益を失い、却下されるということです。では、課題(2)のように、給付の訴えが別の裁判所に提起された場合には、どうか。これが、課題(2)の主たる論点です。上記判例の射程論ということもできるでしょう(※1)。
 ※1 従来であれば、上記判例を問題文に掲載した上で、その趣旨を確認させて射程論を展開するよう、誘導を付していたでしょう。考査委員の交代の影響かもしれませんが、不親切になった、という印象を受けます。

 上記判例の趣旨は、「不存在確認の訴えよりも給付の訴えの方が、執行力の点で紛争解決に資するのだから、両者が提起された場合には給付の訴えに一本化すべきである。」ということなのだろう、ということは、想像できます。そのことからすれば、反訴でも別訴でも、変わりがないようにみえる。反訴と別訴の違いは、併合審理の有無ということになるわけですが、不存在確認の訴えの方は本案審理に入らず却下されるのだから、併合の有無は関係なさそうだ。このようなことを指摘して、課題(2)の訴えによってBの訴えは却下されるに至るのだから、課題(2)の訴えは重複訴訟として不適法となることはない、と解答すれば、優秀レベルでしょう(後記大阪高決平26・12・2の原決定の立場)。厳密には、不存在確認訴訟において証拠調べがされていた場合、反訴であれば併合審理による証拠共通が働く(最判昭41・4・12)のに対し、別訴だとそれがないので、その場合には別訴によることはできないのではないか、という点は問題となり得るでしょう(※2)。しかし、本問ではいまだBの訴えについて証拠調べの段階に入っていないと考えられますから、その点も問題はないだろうと思います(※3)。
 ※2 例えば、不存在確認訴訟における証人尋問によって債権者である被告に不利な証言がなされたので、別訴を提起して仕切り直そうとする場合に、この問題が顕在化します。再度の証人尋問が必要となって期日を浪費するだけでなく、その間に証言を変更させようとする働きかけが行われるおそれもあるでしょう。もっとも、このようなやや極端な事例の場合には、訴訟上の信義則等を理由に排斥する余地はありそうです。
 ※3 仮に、このような論理によって課題(2)の訴えが適法となるなら、実は課題(1)の訴えも反訴とする必要はなく、別訴として提起できたことになります。そうなると、課題(1)から別訴1本で構成する解答もあり得ることになるわけですが、課題(1)については理論的なハードルの低い反訴の方を考えるのが素直なので、正解としては反訴の構成が想定されているのでしょう。

 なお、裁判例では、先後関係を重視して他の裁判所への別訴を認めず、債務不存在確認訴訟の係属する裁判所に移送(17条)した大阪高決平26・12・2があります。

 

(大阪高決平26・12・2より引用。太字強調は筆者。)

 訴訟係属の先後関係は、訴状が被告に送達された日の先後をもって決すべきであるから、別件訴訟の訴訟係属の後に訴訟係属した基本事件は、民訴法一四二条が禁止する重複訴訟として、訴えの却下を免れない。したがって、基本事件は、東京地方裁判所に移送された後に、別件訴訟と併合され、別件請求の反訴として扱われない限り、却下されるべきものである。
 Yは、基本事件が提起されたことにより、別件訴訟のうち別件請求に係る訴えは、訴えの利益を欠くに至ったものとして、却下されるべきである旨主張するしかしながら、重複訴訟に当たるかどうかの基本となるべき訴訟係属の先後関係は、上記のとおり判断すべきものであるから、Yの上記主張は、この点において既に採用できない。」

(引用終わり)

 

 「重複する訴えであっても、反訴であれば適法に係属するので、その反訴の係属の効果によって、本訴である不存在確認の訴えの確認の利益が失われる。しかし、別訴の場合には、重複する訴えとして不適法却下を免れないので、別訴が係属することはなく、したがって、不存在確認の訴えの確認の利益が失われることはない。」ということなのでしょう。ロジックとしてはわかるのですが、いかにも形式論という感じがします。仮に、この高裁決定の考え方によるときは、課題(2)は無理なのか、というのは、誰も書かないでしょうが、ひょっとすると出題意図に含まれているかもしれません。本問を敢えて一部不存在確認の訴えの事例にしているので、上記高裁の考え方に立っても、甲地裁で訴訟遂行する余地はあるのです。どういうことか。まず、甲地裁には、Bに対する150万円の支払を求める訴えと、Cに対する400万円の支払を求める訴えを併合提起します。これは問題なくできる。次に、乙地裁には、Bに対する250万円の支払を求める反訴を提起します。これも問題なくできる。そして、Bに対する反訴についてBが応訴した時点で、Bの同意なしに反訴の取下げはできなくなる(261条2項本文)ので、この時点でBの訴えの確認の利益が確定的に失われたと主張して、Bの訴えを却下してもらう(※4)。その上で、残った反訴について甲地裁への17条移送の申立てをする。こんなことを問う趣旨かどうかはわかりませんが、敢えて一部不存在確認の事案にした趣旨を汲み取ると、このようなことになる、ということです(※5。※6。)。もちろん、こんなことを現場で考えているようでは、早く受かるようにはなりません。 
 ※4 仮に、Bが、どうせ却下されるのだからということで、自らBの訴えを取り下げた場合、261条2項ただし書によってBの同意なく反訴を取り下げることができるか。これは、本問の解答には直接関係ありませんが、1つの論点です。同ただし書の趣旨は、本訴原告が紛争解決の意欲をなくして本訴を取り下げた以上、反訴の取下げも認めるという点にあることからすれば、反訴で争うことを前提に本訴を取り下げた場合には、同ただし書は適用されないと考えるのが自然でしょう。
 ※5 仮に、Bの訴えが全部不存在確認の訴えであった場合、甲地裁にはCに対する訴えしか提起できないので、「AがBとCを共同被告とする訴えを甲地裁に提起する場合」という問題文の指定にそぐわなくなってしまいます。
 ※6 おそらくは、単に債務一部不存在確認訴訟の訴訟物についての理解を問いたかった、というだけなのでしょう。

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