(陸自八戸車両整備工場事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)
国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、公務員が職務に専念すべき義務(国家公務員法一〇一条一項前段、自衛隊法六〇条一項等)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(国家公務員法九八条一項、自衛隊法五六条、五七条等)を負い、国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(国家公務員法六二条、防衛庁職員給与法四条以下等)を負うことを定めているが、国の義務は右の給付義務にとどまらず、国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解すべきである。もとより、右の安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職種、地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであり、自衛隊員の場合にあつては、更に当該勤務が通常の作業時、訓練時、防衛出動時(自衛隊法七六条)、治安出動時(同法七八条以下)又は災害派遣時(同法八三条)のいずれにおけるものであるか等によつても異なりうべきものであるが、国が、不法行為規範のもとにおいて私人に対しその生命、健康等を保護すべき義務を負つているほかは、いかなる場合においても公務員に対し安全配慮義務を負うものではないと解することはできない。けだし、右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入つた当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであつて、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はなく、公務員が前記の義務を安んじて誠実に履行するためには、国が、公務員に対し安全配慮義務を負い、これを尽くすことが必要不可欠であり、また、国家公務員法九三条ないし九五条及びこれに基づく国家公務員災害補償法並びに防衛庁職員給与法二七条等の災害補償制度も国が公務員に対し安全配慮義務を負うことを当然の前提とし、この義務が尽くされたとしてもなお発生すべき公務災害に対処するために設けられたものと解されるからである。
そして、会計法三〇条が金銭の給付を目的とする国の権利及び国に対する権利につき五年の消滅時効期間を定めたのは、国の権利義務を早期に決済する必要があるなど主として行政上の便宜を考慮したことに基づくものであるから、同条の五年の消滅時効期間の定めは、右のような行政上の便宜を考慮する必要がある金銭債権であつて他に時効期間につき特別の規定のないものについて適用されるものと解すべきである。そして、国が、公務員に対する安全配慮義務を懈怠し違法に公務員の生命、健康等を侵害して損害を受けた公務員に対し損害賠償の義務を負う事態は、その発生が偶発的であつて多発するものとはいえないから、右義務につき前記のような行政上の便宜を考慮する必要はなく、また、国が義務者であつても、被害者に損害を賠償すべき関係は、公平の理念に基づき被害者に生じた損害の公正な填補を目的とする点において、私人相互間における損害賠償の関係とその目的性質を異にするものではないから、国に対する右損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法三〇条所定の五年と解すべきではなく、民法一六七条一項により一〇年と解すべきである。
(引用終わり)
(川義事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)
雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負つているものと解するのが相当である。もとより、使用者の右の安全配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によつて異なるべきものであることはいうまでもないが、これを本件の場合に即してみれば、上告会社は、D一人に対し昭和五三年八月一三日午前九時から二四時間の宿直勤務を命じ、宿直勤務の場所を本件社屋内、就寝場所を同社屋一階商品陳列場と指示したのであるから、宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかも知れない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もつて右物的施設等と相まつて労働者たるDの生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があつたものと解すべきである。
(引用終わり)
※ 本問で上位を狙うのであれば、「Cは、Aに対し、地上7メートルという高所にある本件家屋の3階ベランダに設置された柵を撤去するよう指示したのであるから、転落事故を防ぐための命綱や安全ネットを用意すべき義務があった。」 などとして安全配慮義務の内容を認定するのが望ましいでしょう。
(三菱重工造船所事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)
上告人の下請企業の労働者が上告人のD造船所で労務の提供をするに当たっては、いわゆる社外工として、上告人の管理する設備、工具等を用い、事実上上告人の指揮、監督を受けて稼働し、その作業内容も上告人の従業員であるいわゆる本工とほとんど同じであったというのであり、このような事実関係の下においては、上告人は、下請企業の労働者との間に特別な社会的接触の関係に入ったもので、信義則上、右労働者に対し安全配慮義務を負うものであるとした原審の判断は、正当として是認することができる。
(引用終わり)
※ 本問で上位を狙うのであれば、「そもそも安全配慮義務が認められる根拠は、労働者が使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うという点にある(川義事件判例参照)から、直接の契約関係がなくても、元請人の指揮監督の下、指定した場所に配置され、元請人の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行っていた場合には、雇用関係がある場合と同様の特別な社会的接触の関係に入ったと評価すべきである(三菱重工造船所事件判例参照)。」などと説明するのが望ましいでしょう。
(労働契約法5条)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
※ 雇用契約が存在する事例の場合には、現在では労働契約法5条が適用されるため、これを避ける趣旨で契約関係のない事例を出題した可能性はあるでしょう。
(陸自331会計隊事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)
国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設若しくは器具等の設置管理又は公務員が国若しくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理に当たつて、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負つている(最高裁昭和四八年(オ)第三八三号同五〇年二月二五日第三小法廷判決・民集二九巻二号一四三頁)。右義務は、国が公務遂行に当たつて支配管理する人的及び物的環境から生じうべき危険の防止について信義則上負担するものであるから、国は、自衛隊員を自衛隊車両に公務の遂行として乗車させる場合には、右自衛隊員に対する安全配慮義務として、車両の整備を十全ならしめて車両自体から生ずべき危険を防止し、車両の運転者としてその任に適する技能を有する者を選任し、かつ、当該車両を運転する上で特に必要な安全上の注意を与えて車両の運行から生ずる危険を防止すべき義務を負うが、運転者において道路交通法その他の法令に基づいて当然に負うべきものとされる通常の注意義務は、右安全配慮義務の内容に含まれるものではなく、また、右安全配慮義務の履行補助者が右車両にみずから運転者として乗車する場合であつても、右履行補助者に運転者としての右のような運転上の注意義務違反があつたからといつて、国の安全配慮義務違反があつたものとすることはできないものというべきである。
(引用終わり)
※ 本問では、Bの指示違反が甚だしいことから、Cの安全配慮義務違反のみから通常生じる損害とはいえないとか、Bの指示違反は予見不能な特別事情であるなどとして、C単独の安全配慮義務違反とAの損害全部との間の相当因果関係(416条)を否定した場合(上級者向けの認定)には、損害全額をCに請求するために、別途Bを履行補助者として構成する余地が生じますが、Bを安全配慮義務の履行補助者と評価し得るか、Bの注意義務違反は通常の注意義務違反ではないかという点が問題となります。
(三井金属神岡鉱山じん肺事件地裁裁判例より引用。太字強調は当サイトによる。)
原告等のうち,被告ら双方の下(下請会社も含む。)で粉じん作業に従事した原告A26,亡B1,原告A18,原告A14,原告A27,原告A21,原告A15,原告A36,亡B3,原告A4,原告A28及び原告A17(以下「原告等(被告ら勤務)」という。)に対しては,被告らが原告等(被告ら勤務)を粉じん作業に従事させていた期間,すなわち被告三井金属が昭和61年6月30日までの期間について,被告神岡鉱業が同年7月1日以降の期間について,それぞれ安全配慮義務を負っており,これを尽くしていなかったものと評価される。
(中略)
民法719条1項後段は,被害者の救済を図るため,複数の加害者につき,それぞれ因果関係以外の点では独立の不法行為の要件が具備されている場合において,被害者に生じた損害が加害者らの行為のいずれか又はこれが競合して発生したことは明らかであるが,現実に発生した損害の一部又は全部がそのいずれによってもたらされたかを特定することができないときには,発生した損害と加害者らの各行為との因果関係の存在を推定する規定であり,この場合には,加害者らの側で自己の行為と発生した損害との間の一部又は全部に因果関係がないことを主張,立証しない限り,その責任の一部又は全部を免れることができないことになる。
そして,本件は,契約上の付随義務の不履行に基づく責任が問題となっている事案であるが,その債務は,いずれも債権者の生命又は身体を保護することを目的とするものであり,因果関係以外の点で債務不履行に基づく損害賠償責任の要件を充足する場合であって,かつ,債権者を救済する必要のあることは不法行為の場合と異ならない。
したがって,本件における債務不履行に基づく損害賠償責任についても,民法719条1項後段を類推適用するのが相当である。
(引用終わり)
※ 本問では、Bの指示違反が甚だしいことから、Cの安全配慮義務違反のみから通常生じる損害とはいえないとか、Bの指示違反は予見不能な特別事情であるなどとして、C単独の安全配慮義務違反とAの損害全部との間の相当因果関係(416条)を否定した場合(上級者向けの認定)には、損害全額をCに請求するために、別途BCを共同不法行為者類似の関係とみて不真正連帯債務と構成する余地が生じますが、そこで719条を類推適用できるかが問題となります。その場合、BCをいずれも安全配慮義務違反による債務不履行責任を負う者と構成するか、Cは安全配慮義務違反による債務不履行責任を負う者であるがBは不法行為者であると構成するかという点も問題となるでしょう。
(最判昭37・12・14より引用。太字強調は当サイトによる。)
元請負人が下請負人に対し、工事上の指図をしもしくはその監督のもとに工事を施行させ、その関係が使用者と被用者との関係またはこれと同視しうる場合において、下請負人がさらに第三者を使用しているとき、その第三者が他人に加えた損害につき元請負人が民法七一五条の責任を負うべき範囲については、下請工事の附随的行為またはその延長もしくは外形上下請負人の事業の範囲内に含まれるとされるすべての行為につき元請負人が右責任を負うものと解すべきではなく、右第三者に直接間接に元請負人の指揮監督関係が及んでいる場合になされた右第三者の行為のみが元請負人の事業の執行についてなされたものというべきであり、その限度で元請負人は右第三者の不法行為につき責に任ずるものと解するのを相当とする。
(引用終わり)
※ 本問では、Bの加害行為が問題となっているので、上記判例の前提部分、すなわち、請負であっても使用者と被用者との関係又はこれと同視し得る関係がある場合には715条の適用があるという解釈を用いることになります。上記判例は、仮に本問のAが加害行為をした場合にも、Cが使用者責任を負う旨を判示したものです。
(空自芦屋分遣隊事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)
国が国家公務員に対して負担する安全配慮義務に違反し、右公務員の生命、健康等を侵害し、同人に損害を与えたことを理由として損害賠償を請求する訴訟において、右義務の内容を特定し、かつ、義務違反に該当する事実を主張・立証する責任は、国の義務違反を主張する原告にある、と解するのが相当である。
(引用終わり)
※ 本問で、②の請求を使用者責任として構成する場合には、Bの一般不法行為の成立要件について主張・立証をする必要が生じますが、本問の場合はその点の立証は容易でしょうから、大きな差は生じないでしょう。
(日鉄鉱業事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)
雇用契約上の付随義務としての安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、民法一六七条一項により一〇年と解され(最高裁昭和四八年(オ)第三八三号同五〇年二月二五日第三小法廷判決・民集二九巻二号一四三頁参照)、右一〇年の消滅時効は、同法一六六条一項により、右損害賠償請求権を行使し得る時から進行するものと解される。そして、一般に、安全配慮義務違反による損害賠償請求権は、その損害が発生した時に成立し、同時にその権利を行使することが法律上可能となるというべきところ、じん肺に罹患した事実は、その旨の行政上の決定がなければ通常認め難いから、本件においては、じん肺の所見がある旨の最初の行政上の決定を受けた時に少なくとも損害の一端が発生したものということができる。
(引用終わり)
(大石塗装・鹿島建設事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)
原審が認容した請求は不法行為に基づく損害賠償請求ではなくこれと択一的に提起された被上告人らが亡Dに対して負担すべき同人と被上告人B株式会社との間の雇傭契約上の安全保証義務違背を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求であることが原判決の判文に照らして明らかであるから、所論中前者の請求であることを前提として原判決の判断を非難する部分は理由がない。ところで、債務不履行に基づく損害賠償債務は期限の定めのない債務であり、民法四一二条三項によりその債務者は債権者からの履行の請求を受けた時にはじめて遅滞に陥るものというべきであるから、債務不履行に基づく損害賠償請求についても本件事故発生の翌日である昭和四三年一月二三日以降の遅延損害金の支払を求めている上告人らの請求中右遅滞の生じた日以前の分については理由がないというほかはないが、その後の分については、損害賠償請求の一部を認容する以上、その認容の限度で遅延損害金請求をも認容すべきは当然である。
(引用終わり)
(最判昭48・10・11より引用。太字強調は当サイトによる。)
民法四一九条によれば、金銭を目的とする債務の履行遅滞による損害賠償の額は、法律に別段の定めがある場合を除き、約定または法定の利率により、債権者はその損害の証明をする必要がないとされているが、その反面として、たとえそれ以上の損害が生じたことを立証しても、その賠償を請求することはできないものというべく、したがつて、債権者は、金銭債務の不履行による損害賠償として、債務者に対し弁護士費用その他の取立費用を請求することはできないと解するのが相当である。
(引用終わり)
(最判昭44・2・27より引用。太字強調は当サイトによる。)
わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。従つて、相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。
(引用終わり)
(最判平24・2・24より引用。太字強調は当サイトによる。)
労働者が,就労中の事故等につき,使用者に対し,その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その労働者において,具体的事案に応じ,損害の発生及びその額のみならず,使用者の安全配慮義務の内容を特定し,かつ,義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって(最高裁昭和54年(オ)第903号同56年2月16日第二小法廷判決・民集35巻1号56頁参照),労働者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。そうすると,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は,労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。
したがって,労働者が,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである(最高裁昭和41年(オ)第280号同44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁参照)。
(引用終わり)