【答案のコンセプトについて】
1.当サイトでは、一般的な合格答案の傾向として、以下の3つの特徴を示しています。
(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。
もっとも、上記のことが言えるのは、ほとんどの科目が、規範→当てはめの連続で処理できる事例処理型であるためです。民事実務基礎は、そのような事例処理型の問題ではありません。民事実務基礎の特徴は、設問の数が多く、それぞれの設問に対する「正解」が比較的明確で、一問一答式の問題に近いという点にあります。そのため、上記(1)から(3)までを守るというような「書き方」によって合否が分かれる、というようなものにはなっていません。端的に、「正解」を書いたかどうか。単純に、それだけで差が付くのです。ですから、民事実務基礎に関しては、成績が悪かったのであれば、それは単純に勉強不足であったと考えてよいでしょう。その意味では、論文試験の特徴である、「がむしゃらに勉強量を増やしても成績が伸びない。」という現象は、民事実務基礎に関しては、生じにくい。逆に言えば、勉強量が素直に成績に反映されやすい科目ということができるでしょう。
2 以上のようなことから、参考答案は、他の科目のような特徴的なものとはなっていません。ほぼ模範解答のイメージに近いものとなっています。
【参考答案】
第1 設問1
1 小問(1)
(1)法的手段
XのYに対する貸金返還請求権を被保全債権とするYのAに対する代金債権の仮差押命令の申立て(民保2条1項、20条1項)
(2)講じなかった場合の問題
仮差押命令がAに送達されると、Yに対する処分禁止効とAに対する弁済禁止効が生じる(民保50条1項、5項、民執145条4項、民法481条1項)。これを講じなかった場合には、YがAに対する代金債権を譲渡したり、AがYに弁済したときに、Xはその債権から回収することができない。
2 小問(2)
消費貸借契約に基づく貸金返還請求権及び履行遅滞に基づく損害賠償請求権
3 小問(3)
被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する平成28年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 小問(4)
Xは、Yに対し、平成27年9月15日、100万円を、平成28年9月30日を支払期日として、貸し付けた。
平成28年9月30日は経過した。
第2 設問2
1 小問(1)
平成28年9月30日、請求原因の貸金債務の履行として、100万円を支払った。
2 小問(2)
(1)(i)
アの売買契約に基づく代金債権をもって、請求原因の貸金債権とその対当額について相殺する旨の意思表示をした。
(2)(ii)
必要である。アの主張によって同時履行の抗弁権の存在が明らかとなることから、その存在効果を障害・消滅させる事実を抗弁において主張する必要があるからである。
第3 設問3
本件カメラの売買代金についての消滅時効は平成29年10月1日に完成する(民法166条1項、167条1項)ところ、それ以前の平成28年9月30日に相殺適状(同法505条1項)となっており、相殺の効果の発生を障害することができない(同法508条)からである。
第4 設問4
1(1)預金通帳は、第三者である銀行が業務として作成し、入出金があるごとに機械的に記載されるから、その記載内容は信用できる。本件通帳の成立に争いはない。したがって、Yが、平成28年9月28日と同月29日にそれぞれ現金50万円を引き出した事実を認定できる。
また、同月30日にXYが会って食事をした事実につき、XY供述が一致するから、これを認定できる。
以上の各事実は、「平成28年9月30日に、Xと会って、レストランで食事をおごるとともに、前々日と前日に銀行預金口座から引き出しておいた合計100万円をXに渡しました。」とするY供述と整合する。
(2)住民票は公文書である以上、その記載内容は信用できる。本件住民票の成立に争いはない。したがって、Yが、平成29年8月31日に現在の住所に移転した事実を認定できる。
上記事実は、「私は、平成29年8月31日に現在の住所に引っ越したのですが…その引っ越しの際に…領収書を処分してしまった」とするY供述と整合する。
(3)平成29年9月半ば頃、同窓会の経理につき、Xが他の幹事たちの面前でYから指摘を受けた事実につき、XY供述は一致するから、これを認定できる。
上記事実は、「Xは、私を恨みに思っているようでした。そのようなこともあって、同年10月に…請求し始めたのだと思います。」とするY供述と整合する。
2 Xは、「色々と忙しかったので、私が初めてYにお金の返済を求めたのは、平成29年10月だったと思います。」と供述する。しかし、前記1(1)のとおり、返済期日である平成28年9月30日にXYが食事をした事実が認められるところ、この時にYに返済を求めなかった理由が何ら示されていない。
3 以上のとおり、Y供述は他の認定事実と整合し、矛盾がないのに対し、X供述は返済期日にYに会ったのに返済を求めていない点で不合理である。
4 よって、弁済の抗弁事実が認められる。
以上