【答案のコンセプトについて】
1.当サイトでは、一般的な合格答案の傾向として、以下の3つの特徴を示しています。
(1)基本論点を抽出できている。
(2)当該事案を解決する規範を明示できている。
(3)その規範に問題文中のどの事実が当てはまるのかを明示できている。
もっとも、上記のことが言えるのは、ほとんどの科目が、規範→当てはめの連続で処理できる事例処理型であるためです。民事実務基礎は、そのような事例処理型の問題ではありません。民事実務基礎の特徴は、設問の数が多く、それぞれの設問に対する「正解」が比較的明確で、一問一答式の問題に近いという点にあります。そのため、上記(1)から(3)までを守るというような「書き方」によって合否が分かれる、というようなものにはなっていません。端的に、「正解」を書いたかどうか。単純に、それだけで差が付くのです。ですから、民事実務基礎に関しては、成績が悪かったのであれば、それは単純に勉強不足であったと考えてよいでしょう。その意味では、論文試験の特徴である、「がむしゃらに勉強量を増やしても成績が伸びない。」という現象は、民事実務基礎に関しては、生じにくい。逆に言えば、勉強量が素直に成績に反映されやすい科目ということができるでしょう。
2.以上のようなことから、参考答案は、他の科目のような特徴的なものとはなっていません。ほぼ模範解答のイメージに近いものとなっています。
【参考答案】
第1.設問1
1.小問(1)
AY間の保証契約に基づく保証債務履行請求権
2.小問(2)
被告は、原告に対し、200万円及びこれに対する平成30年6月16日から支払済みまで年10%の割合による金員を支払え。
3.小問(3)
① Yが本件貸付に係る貸金債務について保証する旨の合意をした。
② 合意
③ 書面
④ 9日、Aは、Xに対し、本件貸付に係る貸金債権及びその同日までの遅延損害金債権を代金200万円で売った。
4.小問(4)
債務名義である確定判決(民執22条1号)への執行文付与(同26条)の手続を経て、甲土地の強制競売手続開始(同45条)の申立て(同2条)をすべきである。
第2.設問2
1.小問(1)
① 譲渡禁止特約の抗弁
② 抗弁とは、請求原因と両立し、その法律効果を障害・消滅・阻止させる主張で、被告が立証責任を負うものをいう。
譲渡禁止特約の主張は、債権譲渡の事実と両立し、その法律効果を障害させる(民法466条2項本文)。債権譲渡自由の原則(同条1項本文)から、その例外となる特約の立証責任は被告が負う。
以上から、譲渡禁止特約の主張は、抗弁となる。
2.小問(2)
Bは、乙絵画を所有していた。
3.小問(3)
① 必要である。
② 代物弁済は要物契約(「給付をしたときは」(民法482条))であり、成立要件として代物の引渡しを要するからである。
第3.設問3
① 抗弁として主張すべきでない。
② 債権譲渡の請求原因に対しては、通知・承諾(同法467条1項)があるまでは原告を債権者と認めない旨の権利主張が阻止の抗弁となり、通知・承諾の主張は再抗弁となる。Qが主張すべき抗弁として、Bについて通知・承諾があるまではXを債権者と認めない旨の権利主張が考えられるが、Yの言い分はBについての通知・承諾を争わない趣旨であるから、適切でない。
主債務に随伴する保証債務の移転については、通知・承諾は主債務者についてされれば足りる。Yに対する譲渡通知があるまではXを債権者と認めない旨のYの言い分は、主張自体失当であり、抗弁を構成しない。
以上が、①の理由である。
第4.設問4
1.処分証書とは、法律行為が文書によってされた場合のその文書をいう。
AY間の保証契約は、本件借用証書によってされた。したがって、上記契約につき、本件借用証書は処分証書である。
2.処分証書の成立の真正(民訴法228条1項)が認められれば、それによってされた法律行為を直ちに認定できる。
(1)「本人…の…押印」(同条4項)とは、本人の意思に基づく押印をいう。印影が本人の印章によって顕出されたときは、反証のない限り、本人の意思に基づく押印と事実上推定される(判例)。
Y名下の印影がYの印章によることは、争いなく認められる。
また、BYは1歳違いのいとこで、幼少時から家族のように仲良くしており、Yの印章が実印であったことは、Y自ら供述しており、事実と認定できる。上記事実から、保証が不合理といえない人的関係にあり、認印と比べてYの印章の盗用は困難だったと評価でき、Yの意思に基づく押印であることが事実上強く推定される。
他方、Yが印章をタンスの一番上の引出しにしまっていたこと、滞在中B1人になったこと、Yに貯蓄がないことなどについては、Yが自らに有利な事情として一方的に主張するにすぎないから、事実と認定できない。AがYと直接話したことがないことはX自ら認めており事実と認定できるが、上記推定を覆すに足りない。
以上から、「本人…の…押印」がある。
(2)同項による成立の真正の推定を覆す間接事実はない。したがって、本件借用証書の成立の真正が認められる。
3.よって、Yが保証契約を締結した事実が認められる。
以上