1.今回は、選択科目についてみていきます。まずは、選択科目別にみた短答式試験の受験者合格率です。
科目 | 短答 受験者数 |
短答 合格者数 |
短答 合格率 |
倒産 | 608 | 471 | 77.4% |
租税 | 329 | 231 | 70.2% |
経済 | 789 | 587 | 74.3% |
知財 | 597 | 435 | 72.8% |
労働 | 1299 | 1030 | 79.2% |
環境 | 256 | 163 | 63.6% |
国公 | 59 | 39 | 66.1% |
国私 | 492 | 331 | 67.2% |
短答は、選択科目に関係なく同じ問題ですから、どの科目を選択したかによって、短答が有利になったり、不利になったりすることはありません。ですから、どの選択科目で受験したかと、短答合格率の間には、何らの相関性もないだろうと考えるのが普通です。しかし実際には、選択科目別の短答合格率には、毎年顕著な傾向があるのです。
その1つが、倒産法の合格率が高いということです。例年、倒産法は、短答合格率トップでした。今年は、労働法にトップの座を譲りましたが、それでも、高い水準を保っています。このことは、倒産法選択者に実力者が多いことを意味しています。倒産法ほど顕著ではありませんが、労働法も似たような傾向で、今年は、倒産法を抑えてトップとなりました。
逆に、国際公法は、毎年短答合格率が低いという傾向があります。今年は、環境法のおかげでワースト1位を免れましたが、例年、短答合格率が極端に低い科目です。このことは、国際公法選択者に実力者が少ないことを意味しています。国際公法ほど顕著ではありませんが、環境法も類似の傾向で、今年は、国際公法を下回って最下位となりました。
また、新司法試験開始当初は、国際私法も合格率が低い傾向だったのですが、最近はそうでもない、という感じです。その原因の1つには、大学在学中の予備試験合格者の選択が増えている、ということがありそうです。国際私法は、他の選択科目よりも学習の負担が少なく、渉外系法律事務所への就職を狙う際に親和性がありそうにみえる、ということが、その理由のようです。もっとも、今年は、国際公法に次ぐ低めの合格率となっています。
2.論文合格率をみてみましょう。下記は、選択科目別の短答合格者ベースの論文合格率です。
科目 | 短答 合格者数 |
論文 |
論文 合格率 |
倒産 | 471 | 230 | 48.8% |
租税 | 231 | 97 | 41.9% |
経済 | 587 | 273 | 46.5% |
知財 | 435 | 194 | 44.5% |
労働 | 1030 | 482 | 46.7% |
環境 | 163 | 72 | 44.1% |
国公 | 39 | 13 | 33.3% |
国私 | 331 | 141 | 42.5% |
論文段階では、どの科目を選択したかによる影響が多少出てきます。もっとも、各選択科目の平均点は、全科目平均点に合わせて、どの科目も同じ数字になるように調整され、得点のバラ付きを示す標準偏差も、各科目10に調整されます。ですから、基本的には、選択科目の難易度によって、有利・不利は生じないはずなのです(※)。したがって、論文段階における合格率の差も、基本的には、どのような属性の選択者が多いか、実力者が多いのか、そうではないのか、といった要素によって、変動すると考えることができます。
※ 厳密には、個別のケースによって、採点格差調整(得点調整)が有利に作用したり、不利に作用したりする場合はあり得ます。極端な例でいえば、ある選択科目が簡単すぎて、全員100点だったとしましょう。その場合、全科目平均点の得点割合が45%だったとすると、得点調整後は全員が45点になります(なお、この場合は調整後も標準偏差が10にならない極めて例外的なケースです。)。この場合、選択科目の勉強をたくさんしていた人は、損をしたといえるでしょうし、逆に選択科目をあまり勉強していなかった人は、得をしたといえます。もっとわかりやすいのは、ある選択科目が極端に難しく、全員25点未満だった場合です。この場合は、素点段階で全員最低ライン未満となって不合格が確定する。これは、その選択科目を選んだことが決定的に不利に作用したといえるでしょう。このように、特定の選択科目が極端に難しかったり、易しかったりした場合などでは、どの科目を選んだかが有利・不利に作用します。とはいえ、通常は、ここまで極端なことは起きないので、科目間の難易度の差は、それほど論文合格率に影響していないと考えることができるのです。
論文合格率についても、かつては倒産法がトップになるという傾向が確立していました。ところが、平成26年に初めて国際私法がトップになって以降、この傾向に変化が生じました。以下の表は、平成26年以降で論文合格率トップとなった科目をまとめたものです。
年 | 論文合格率 トップの科目 |
平成26 | 国際私法 |
平成27 | 経済法 |
平成28 | 倒産法 |
平成29 | 国際公法 |
平成30 | 経済法 |
令和元 | 倒産法 |
昨年までは、倒産法がトップになったのは平成28年だけで、経済法が2回トップになっているものの、トップになる科目が安定しない結果でした。また、上位の科目については、論文合格率にそれほど大きな差が付かない状況が続いていました。今年は、再び倒産法がトップとなり、しかも、他の科目にそれなりに差を付けています。一時期の流動的な状況から、再び倒産法一強時代が戻ってくるのか。今年の結果だけではまだ何ともいえませんが、その可能性を感じさせる結果になっています。
一方、下位については、国際公法が圧倒的に論文合格率が低いという傾向で安定しています。今年も、圧倒的に低い合格率でした。平成29年に一度論文合格率トップとなっていますが、これは母数が少ないことによるイレギュラーな結果とみるべきでしょう。また、これまでは、環境法が国際公法と似た傾向でしたが、今年は、租税法や国際私法を上回っており、それほど悪くない合格率でした。ブレが大きいのが国際私法で、かつては国際公法と同様に低い合格率でしたが、近年は、前記のとおり、大学在学中の予備試験合格者の選択が増えたことで、むしろ合格率上位のグループに属する傾向となっていました。ところが、今年は低い合格率に沈んでいます。短答の合格率も下がっているところからみて、予備組があまり選択しなくなったのかもしれません。倒産法の復権傾向と併せて考えると、予備組の選択傾向が国際私法から倒産法に移った可能性もありそうです。