1.4月8日、司法試験委員会から、令和2年司法試験・予備試験の実施が延期されることが、公式に発表されました。
(「令和2年司法試験及び司法試験予備試験の実施延期について」(令和2年4月8日司法試験委員会)より引用)
新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえ,令和2年司法試験及び司法試験予備試験の実施時期を延期することとします。
延期後の実施時期等については,おって,可能な限り速やかに法務省のホームページ上において公表する予定です。
(引用終わり)
上記の内容からは、延期後の実施時期等について、何もわかりません。もっとも、予備試験については、論文、口述も延期する見通しであることが報じられています。
(読売新聞WEB版2020/04/08 20:37配信記事より引用。太字強調は筆者。)
司法試験は5月13~17日、予備試験は短答式試験が17日に、東京、大阪、福岡など7都市で実施される予定だった。予備試験は、7月の論文式、10月の口述試験も延期される。
(引用終わり)
今回は、これを受けた受験対策上の注意点について、説明しておきたいと思います。
2.まず、何が起きても動じないよう、心の準備をしておく。
司法試験・予備試験の延期というのは、前例のないことですから、法務省(司法試験委員会)の事務方は相当に混乱していることでしょう。このような場合、通常では考えられないような不合理な事態が生じ得る。例えば、延期→再延期→再々延期→中止というようなことも、あり得ないとはいえないのです。こうした不合理な事態が生じたときに、一々憤慨・動揺して、精神をかき乱されないようにする。これは、とても大事なことです。法務省や司法試験委員会を批判したり、怒りをぶつけたところで、試験に受かりやすくなることはありません。
3.司法試験については、基本的に今までどおりの学習スタイルでよい。
司法試験に関しては、短答の知識を固めてから、論文の学習に集中するというのが、当サイトが繰り返し説明している一般的な学習の手順です(「令和元年司法試験短答式試験の結果について(4)」)。現時点で短答を確実にクリアできる状態でなければ、短答知識のインプットを最優先にすべきですし、短答を確実にクリアできる状態に達していれば、後は、淡々と論文の問題を解き、答案を書きまくる。このことは、延期されようがされまいが、変わらないことです。短答が現時点で不十分だったという人は、延期されてありがたい、と思うべきでしょう。短答知識のインプットは、短期間でかなり成果を出せるからです。
既に短答が合格水準に達していて、今は論文を書きまくっているよ、という人は、論文を書く期間が少し増えそうですね、というだけの話です。論文は、合格水準に達してくると、ノウハウが完全に身に付いてしまうので、いつ書いてもまあ合格答案は書けますよ、という状態になるはずです。なんなら、別に明日でもいいんじゃないの。そんな感覚になっていれば、合格レベルです。そんな人にとっては、「こんな毎日が延びてしまうのか。」ということで、延期は若干迷惑な話となるのでしょう。とはいえ、その程度のレベルの話です。今は緊急事態なのですから、そのくらいは我慢しましょう。
なお、司法試験の日程に関しては、通常は、短答・論文は同一時期に実施されます。しかし、延期に伴い、それが分離される可能性は、ないわけではなさそうです。理由は2つ。1つは、短答の試験問題の一部が、司法試験と予備試験で共通だということです。問題が漏れないように、司法試験の短答と予備試験の短答は、日時を合わせて同時に実施する必要がある。ところが、予備試験は、短答の後に論文、口述が控えているので、短答をあまり後ろ倒しにすることができないという事情があります。そのため、司法試験についても、とりあえず短答だけを切り離して、早めに実施したい、という事情があるのです。もう1つの理由は、会場の確保が楽になるということです。延期する場合、会場は新たに確保する必要があります。その際、同一時期に4日という条件は、やや厳しいかもしれない。多少時期がバラけてもよい方が、当然ながら会場確保が容易になります。さらに、場合によっては予備試験のように、短答合格者以外は論文を受験できないようにするという選択肢も、考えられないわけではないでしょう。これが可能であれば、確保すべき会場の収容人員を少なくすることができる。こうしたことから、場合によっては、短答と論文が分離実施される可能性も、否定はできないのです。もっとも、これについては、仮にそうなったとしても、上記の学習スタイルに大きな影響はないでしょう。公式にそのようなことがわかった時点で、少し考えれば足りることだろうと思います。
4.予備試験については、論文の学習を前倒しで行うことを考慮する。
前記3のとおり、短答の実施時期は、司法試験と予備試験を一致させる必要があります。仮に、司法試験の実施が7月に延期されたとした場合、予備試験の短答も7月に実施されることになる。この場合、予備の論文は、いつ実施されるのか。これについては、短答の延期幅に合わせて論文・口述も延期されるのだ、という報道があります。
(弁護士ドットコムニュース2020年04月08日16時28分配信記事より引用。太字強調は筆者。
予備試験は7月や10月にも一部試験が実施される予定だったが、5月の日程の延期幅に合わせて、後ろ倒しになるという。
(引用終わり)
これを文字どおりに受け止めると、短答が2か月延期されて7月に実施されれば、論文も2か月延期されて9月に実施される、ということになるでしょう。ただ、それは現実的には難しいのではないかと感じます。9月の実施だと、考査委員が十分な採点期間を確保することが困難だからです。
(司法試験委員会会議(第155回)議事要旨より引用。太字強調は筆者。)
・ 8月下旬から9月上旬に試験を実施することになると,採点の時期が10月に入ってからになってしまい,大学の教員が採点を行うのは困難である
・ 大学の教員は,10月に入ると授業の実施等で採点が困難になるので,9月末には採点を終えられるというスケジュールでなければ,考査委員の引き受け手となる研究者はなかなか見つからないのではないか
・ 臨時国会との関係で,連日連夜対応に追われる10月に法務省の考査委員が採点を行うのは現実的ではない
法務省の考査委員のことを考えれば,少なくとも,集中して採点だけを行える10日前後の期間を8月中に確保できるよう,お盆の頃には採点用答案を受け取れるようにする必要がある
・ 現場の裁判官の採点の実情は,期日の少ない夏期休廷期間に当たる7月下旬から8月中に,集中的に採点をしているというものである
夏期休廷期間というのは,基本的に法廷の期日が入っていない期間であるが,裁判官がこの期間に完全に休んでいるわけではなく,一般的には,複雑困難事件や大規模事件など,裁判期日のある期間では行えないような判決の起案や記録の検討等に充てる時間とされているところである
夏期休廷期間は,各裁判所の裁判官会議で決めるものであるが,例えば,行政法の考査委員が所属している東京地裁の行政専門部では,7月20日頃から8月10日頃までを前期,8月10日頃から8月末までを後期として,前期・後期それぞれ2か部ずつ休廷期間を割り当て,空白期間により利用者に迷惑をかけることがないようにしているところである
現場の裁判官は,土日や休日にも判決起案を行うことが少なくなく,裁判の期日が入っている期間に十分な採点期間を確保することは困難であるから,採点期間は,現行試験のように,前期及び後期の夏期休廷期間とそれぞれ一部でも重なることが望ましく,仮にそれが難しいとしても,比較的期日の少ないお盆前後頃に採点ができるよう,遅くとも8月中旬頃までには採点用答案が手元に届く必要がある
採点期間が夏期休廷期間やお盆頃の時期に全く重ならないということになると,現場の裁判官が採点を行うことは非常に難しい
(引用終わり)
上記は、司法試験に関する議論ですが、予備試験についても当てはまることでしょう。そのような事情を考慮すると、予備試験の論文については、短答よりも延期の幅を短縮して実施する可能性は、十分考えられるところです。その結果、短答と論文の間の期間は、例年よりも短くなります。論文と違って、短答は機械的にマークシートを読み取るだけで採点できるので、これはおそらく可能なのでしょう。
例年は、短答から論文の間に2か月くらいの期間があったので、短答試験までは短答の学習に専念し、短答試験が終わってから、論文の学習に切り替える、という学習スタイルでも、十分間に合ったのです。ところが、今年は、上記のような事情から、場合によっては、短答試験から論文試験までの間の期間が、1か月くらい、あるいはそれ未満に短縮されてしまうかもしれない。そのようなことから、今年は、例年とは異なり、短答試験の実施前から、論文の学習も併せて行うことを考慮すべきでしょう。もちろん、短答をクリアしなければ論文は受けられませんから、短答に全然自信がない、という人は、短答に特化して学習すべきでしょう。しかし、短答にかなり自信があるのであれば、短答の学習を少し削って、論文を優先して学習する、というのも、有力な選択肢でしょう。
以上のように、予備試験については、司法試験とは異なり、例年とは学習スタイルを変える余地があるのです。