債権法改正:連帯債務

 

1.連帯債務については、絶対効が減った、というのが、債権法改正に関してなされている一般的な説明です。しかし、改正の趣旨を端的に表すなら、「これまで不真正連帯債務と呼ばれてきたものが、本家の連帯債務になった。」というべきです。不真正なやつが本家を乗っ取った一種の下剋上といってもよいでしょう。

 

(「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明(平成25年7月4日補訂)」より引用。太字強調は筆者。)

 法律の規定により連帯債務とされるもののうち共同不法行為者が負担する損害賠償債務(民法第719条)については,判例・学説は,絶対的効力事由に関する一部の規定の適用がない不真正連帯債務に該当するとしているところ,本文アは,絶対的効力事由を廃止するという点で,前記(1)とともに,判例上の不真正連帯債務に関する規律を原則的な連帯債務の規律として位置づけるものといえる。これによれば,不真正連帯債務という条文に存在しない概念を用いる必要性は失われることになる。

(引用終わり)

 

2.ただし、従来の不真正連帯債務と違う部分もあります。それは、求償の要件です。従来の不真正連帯債務では、自己の負担部分を超えることが必要でした。

 

最判昭63・7・1より引用。太字強調は筆者。)

 被用者がその使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合において、右第三者が自己と被用者との過失割合に従つて定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、右第三者は、被用者の負担部分について使用者に対し求償することができるものと解するのが相当である。

(引用終わり)

最判平3・10・25より引用。太字強調は筆者。)

 複数の加害者の共同不法行為につき、各加害者を指揮監督する使用者がそれぞれ損害賠償責任を負う場合においては、一方の加害者の使用者と他方の加害者の使用者との間の責任の内部的な分担の公平を図るため、求償が認められるべきであるが、その求償の前提となる各使用者の責任の割合は、それぞれが指揮監督する各加害者の過失割合に従って定めるべきものであって、一方の加害者の使用者は、当該加害者の過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、他方の加害者の使用者に対し、当該加害者の過失割合に従って定められる負担部分の限度で、右の全額を求償することができるものと解するのが相当である。

(引用終わり)

 

 当初は、改正後も自己の負担部分を超えることを求償の要件とする方向性で検討されていました。すなわち、完全に不真正連帯債務化しようとしていたわけです。

 

(「民法(債権関係)部会資料55 民法(債権関係)の改正に関する中間試案のたたき台(3) (概要付き)」より引用。太字強調は筆者。)

 本文アは…自己の負担部分を超える出捐をして初めて他の連帯債務者に対して求償をすることができるとするものである。これは,負担部分は各自の固有の義務であるという理解に基づくものであり,不真正連帯債務者間の求償に関する判例法理(最判昭和63年7月1日民集42巻6号451頁参照)と同一の規律となる。

(引用終わり)

 

 しかし、議論の結果、結局は負担部分を超えるかにかかわらず、求償可能とされたのでした(442条1項)。

 

(442条1項。太字強調は筆者。)
 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、その免責を得た額が自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず、他の連帯債務者に対し、その免責を得るために支出した財産の額(その財産の額が共同の免責を得た額を超える場合にあっては、その免責を得た額)のうち各自の負担部分に応じた額の求償権を有する。

 

(「民法(債権関係)部会資料 80-3 民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案の原案(その2) 補充説明」より引用。太字強調は筆者。)

 部会資料67Aでは、連帯債務者の一人が自己の負担部分を超えて弁済等をしなければ、求償をすることができないこととしていた。しかし、第 77 回会議では、自己の負担部分を超えなくても求償を認めるべきであるとの意見が出されていたこと、一部求償を認める方が各債務者の負担を公平にするし、自己の負担部分を超えなくても求償を認めることで連帯債務の弁済が促進され、債権者にとっても不都合は生じないと考えられることから、素案では、自己の負担部分をこえるかどうかにかかわらず、求償を認めることとしている。

(引用終わり)

 

 従来、不真正連帯債務は条文にない日陰者で、求償権も不当利得や事務管理が根拠でしたから、他人が負担すべき債務を支払ったというために、負担部分を超える必要があったのです。その意味では、負担部分を超えることを求償の要件とする従来の解釈は、本家に成り上がり、堂々と求償の根拠条文が置かれる場合には、理論的にも維持する必然性が乏しかったともいえるでしょう。

3.一方、「本家」であった改正前の連帯債務は、「不真正」に乗っ取られた結果、どうなったのか改正前に合意による連帯債務とされていたものは、絶対効の特約をした場合(441条ただし書)として、脇役扱いではありますが、存在を許されています。

 

(441条。太字強調は筆者。)
 第四百三十八条、第四百三十九条第一項及び前条に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、 債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。

 

 もっとも、合意による連帯債務というものは、従来ほとんどなかったとされます。

 

法制審議会民法(債権関係)部会第43回会議議事録より引用。太字強調は筆者。)

内田貴委員 これまで議論されてきた連帯債務の中で不真正連帯債務を外し,そして法律によって生ずる連帯債務を外してしまいますと,残る合意で生ずる連帯債務の例というのは公表裁判例の中にはほとんどないのですね,極めて僅かです。大島委員から中小企業の取引の中で合意で連帯債務が生ずる場合というのは余りないという御指摘がありましたけれども,それは公表裁判例がやはり社会的実態をもある程度反映しているということなのではないかと思います。

(引用終わり)

 

 では、改正前の法定連帯債務はどうか。併存的債務引受け(最判昭41・12・20)、日常家事債務(民法761条)、商事連帯債務(商法511条)等がこれに当たります。条文の文言どおりに考えれば、改正前において、「本家」だったこいつらは、改正後の「連帯債務」、すなわち、改正前の「不真正」へと格下げされることになるでしょう。したがって、改正の前後で取扱いが変わることになる。事案によっては、黙示の絶対効の特約を認定すべき場面もありそうです。論文では、条文どおりに相対効とした場合に不都合がないか、という視点を持っておくべきでしょう。

4.このように、改正後に「連帯債務」と呼ばれているやつは、ちょっと前まで「不真正」と呼ばれていたあいつです。改正後は、共同不法行為(民法719条)や役員の連帯責任(会社法430条)などは、本家の連帯債務として、連帯債務の条文をそのまま適用すれば足りることになるので、注意が必要です。

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