論証例:会計限定監査役の注意義務

【論点】

 会計限定監査役(会社法389条1項)は、監査において、会社が作成した会計帳簿の正確性を調査する義務を負うか。

 

【論証例】

 会計限定監査役の監査の対象は計算書類等の正確性の確認であって、会計帳簿の正確性の確認を含まない(436条1項)。会計帳簿を正確に作成すべき義務を負うのは株式会社(432条1項)、すなわち、取締役とその指示を受けた使用人であって、会計限定監査役ではない。したがって、会計限定監査役は、会計帳簿に信頼性のないことが容易に判明しえたなど特段の事情がない限り、会計帳簿の記載内容を信頼して計算書類等の監査をすれば足り、会計帳簿の裏付資料を直接確認するなどして積極的に調査すべき義務は負わない(高裁判例)。

(参照条文)会社法
389条1項 公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)は、第三百八十一条第一項の規定にかかわらず、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができる。
432条1項 株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
435条2項 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。
436条1項 監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含み、会計監査人設置会社を除く。)においては、前条第二項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、法務省令で定めるところにより、監査役の監査を受けなければならない。

 

(参考)

会計限定監査役の任務懈怠と会社に対する損害賠償責任 東京高等裁判所令和元年8月21日判決 明治大学教授 受川環大

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