論証例:定款とは異なる議長選任の可否

【事例】

 甲株式会社の定款には、代表取締役が株主総会の議長となる旨の規定がある。甲社の株主総会において、当初、代表取締役であるAが議長として総会の議事を進行していた(※1)が、その進行に不満を持つ株主から、Aに代えて、甲社の代表取締役でないBを議長とする旨の動議が提出され、Aが議長としてその動議について採決したところ、賛成多数で可決された(※2)。その後、Bが議長として議事を進行し、予定された議案について株主総会決議がされた。この株主総会決議について、決議不存在事由又は決議取消事由(※3)はあるか。
 ※1 議長でない者が当初から勝手に議長と称して進行を初めた場合には、仮にその自称議長の下で株主総会決議がなされたような外観が生じたとしても、決議は不存在である。
 ※2 議長不信任の動議や議長交代の動議について、議長にはその進行を回避すべき義務はなく、Aが議長としてその動議の採決をすべきである(インスタイル事件地裁裁判例参照)。したがって、本来の議長であるAの進行の下においていまだ議長交代の動議に係る採決がされていないにもかかわらず、Bが勝手にAを排除して自ら仮議長と称し、Bの進行の下で議長交代の動議の採決を行って可決された旨を宣言したような場合には、仮にそのBの下で株主総会決議がなされたような外観が生じたとしても、議長としての資格のない者の下で採決されたものとして、決議は不存在である(同裁判例参照)。
 ※3 株主総会が定款で定められた者以外の者を議長に選任することはできないという立場を前提に、定款違反の議長交代を全くの無効とみれば、有効に議長に選任されていない自称議長の議事進行によるものとして決議不存在事由となると考えられるが、一応株主総会の意思に基づいている点を重視した上で、そのような議長の決定も決議の方法の1つであるとみれば、決議方法の定款違反(831条1項1号)として決議取消事由となると考えられる。

 

【論点】

 株主総会の議長の資格について定款の定めのある株式会社において、株主総会は、定款で定められた者以外の者を議長に選任できるか。

 

【論証例】

 会議の議長の決定は、議事の方法に関する決定として、その会議体が決定すべきであるから、議長の資格に係る定款の定めは、株主総会が異なる定めをすることを排除しない。したがって、株主総会は、定款で定められた者以外の者を議長に選任できる(アドバネクス事件地裁裁判例参照)。

 

(参考)

判例研究 議長資格のない者により採決された株主総会決議とその追認決議の効力:インスタイル株主総会決議不存在確認請求事件(東京地裁平成二三年一月二六日判決) 来住野究

権限を逸脱した議決権行使により株主総会決議が取り消された事例 東京地方裁判所平成31年3月8日判決 専修大学助教 澤山裕文

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