【論点】
事前に書面による議決権行使をした法人株主が、株主総会当日に議決権行使について権限のない従業員を傍聴等のため出席させた場合に、事前にされた書面による議決権行使は撤回されたものとなるか。
【論証例】
確かに、書面による議決権行使制度の趣旨は出席せずに議決権を行使できる便宜を図る点にあり、総会当日の出席がある場合には、当日の意思を優先すべきであるから、株主又は議決権行使の権限のある代理人が出席した場合には、事前にされた書面による議決権行使は撤回されたと考えられる。しかし、総会当日に出席した者に議決権行使の権限がない場合には、上記のことは妥当しない。したがって、株主総会当日に議決権行使について権限のない従業員を傍聴等のため出席させたにすぎない場合には、事前にされた書面による議決権行使は撤回されたものとはならない(アドバネクス事件高裁判例参照)。
※ 同事件の第1審(東京地判平31・3・8)は、出席した従業員を職務代行者とみて、事前にされた書面による議決権行使は撤回されたものとなるとしている。
(参考)
・修正動議と書面投票の取扱いおよび株主総会決議の成立時点 東京高等裁判所令和元年10月17日判決 関西学院大学教授 笹川敏彦
・権限を逸脱した議決権行使により株主総会決議が取り消された事例 東京地方裁判所平成31年3月8日判決 専修大学助教 澤山裕文