1.今日、司法試験の全日程が終了します。今年は、様々な例外事情があり、とりわけ負担の大きい試験だったと思います。それだけに、終わった後の解放感も大変に大きいことでしょう。しばらくは試験のことなど忘れて、ゆっくり休みたい。そう思うのは、無理もないことです。ただ、1つだけ、今のうちにやっておきたい嫌なことがあります。それは、再現答案の作成です。
2.再現答案は、重要な反省材料になりますし、予備校に提供すれば、それなりの収入になります。また、知人や後輩に渡してあげると、喜ばれることが多いでしょう。基本的には、作成しておいて損はありません。
3.もっとも、再現答案の作成は、とても辛い作業です。答案を書くこと自体がなかなか大変な作業ですし、しかも、書いている最中に自分の間違え、見落とし等に気付いてしまいます。間違えだとわかっていても、それを訂正して書くわけにはいきませんから、そのまま間違えを再現することになる。嫌な作業です。ほとんどの人が、やりたくないと思うでしょう。「別に今すぐじゃなくても、後から書けばいいじゃない。今はちょっと休ませてよ。」という気持ちになるのもわかります。しかし、今でなければならない理由があるのです。
4.人間の記憶というのは、とても曖昧なものです。時間の経過によって、驚くほど正確さが失われていきます。しかも、本人にその自覚があまりないこともある。司法試験が終了すると、その直後から、友人との会話や、ネット上の掲示板やSNS等で、本試験に関する情報がどんどん入ってくる。一週間程度すると、予備校の速報のようなものも、見聞きするようになるでしょう。そうした情報に触れていると、その情報と、自分が実際に書いた内容とがごっちゃになって、どんどん記憶が混濁していきます。本当は書いていない論点でも、何度も繰り返し聞いていると、なんとなく、「多分自分も書いたんじゃないかな。」と思うようになっていきます。本当は、その場の思い付きで論理的な順序を考えることなく適当に書き殴ったような内容なのに、解説講義等で論理的な流れを説明され、それで理解してしまうと、再現答案でも理路整然とした順序で書いてしまう。一度論理の流れが頭に整理されて定着してしまうと、本番で自分が書いた論理不明の内容は、思い出せと言われても、もう思い出せません。そうして不正確になった記憶に基づいて作成された再現答案は、実際に現場で書いた内容よりも、良いものになってしまうことがほとんどです。そのような再現答案を基礎にして反省しようとしても、「俺も他の合格者と大体同じこと書いてるじゃん。こんなの運だよね。何も反省することないや。」ということになってしまいがちです。
5.こういった事情があるので、周囲からの雑音が耳に入ってくる前に、できる限り早く再現答案を作成しておく必要があるのです。