1.令和4年の予備試験から、論文式試験の試験科目として、従来課されていた一般教養科目が廃止され、新たに選択科目が追加されます。
(司法試験委員会会議(第157回)議事要旨より引用。太字強調は筆者。)
○ 司法試験予備試験については,令和4年に実施される試験から,論文式試験に選択科目を導入するとともに,論文式試験から一般教養科目を廃止することとなっている
(引用終わり)
2.そもそも、なぜ、予備試験に選択科目が課されるのか。本音をいえば、「予備試験のハードルを高くして、法科大学院に学生が流れるようにしたい。」といったところなのでしょう。法曹コースの創設、法科大学院在学中受験等、今回の一連の改革の動機については、法科大学院関係者からも、そのような指摘がされているところです。
(衆院文部科学委員会平成31年4月23日議事録より引用。太字強調は筆者。)
須網隆夫(早稲田大学大学院法務研究科教授)参考人 法案提出の動機なんですけれども、この提案理由は非常に抽象的な書き方をしているのでよくわからないんですが、やはり真の動機は、予備試験との競争において法科大学院の競争条件を改善する、こういうことなんだろうというふうに思います。
(中略)
ギャップタームについて、多くの合格者にとっては逆に長くなるのではないかと。おっしゃるとおりだと思います。ただし、この法案は予備試験との競争しか考えていませんので、要するに、予備試験に合格するようなごく一部の層をどっちがとり合うのかということしか考えていませんので、そこで競争できるようになればほかの人のことはどうでもいいと言ってはちょっと言い過ぎかもしれませんけれども、二の次、三の次にやはり優先順位が落ちてしまうんだろうなというふうに思います。
(引用終わり)
しかし、そのようなことは、堂々とは言わないのが大人というものです。表向きの理由が、ちゃんと用意されている。それは、「法科大学院で選択科目を履修すべきことが明確化されたので、法科大学院修了者と同等の能力を要求する予備試験にも、選択科目を課す必要がある。」というものです。
(司法試験委員会会議(第157回)議事要旨より引用。太字強調は筆者。)
今般の法科大学院改革の一環として,法科大学院教育の充実を図るため,文部科学省令の改正により,法科大学院の教育課程において司法試験論文式試験の選択科目に相当する科目を履修することが修了要件として義務付けられたこと等との関係の改正である。……(略)……法科大学院を修了した者と同等の能力を有するかどうかを判定することを目的とする司法試験予備試験の位置付け(司法試験法5条1項)に鑑みて,司法試験予備試験論文式試験に選択科目を追加することとしたものである
(中略)
○ まず,今般の連携法4条の改正により,大学は,法科大学院において,
(1)法曹となろうとする者に共通して必要とされる専門的学識及びその応用能力(1号及び2号)や
(2)「法曹となろうとする者に必要とされる専門的な法律の分野に関する専門的学識及びその応用能力」(3号)
などを涵養するための教育を段階的かつ体系的に実施すべきことが,責務として規定されている
これを踏まえ,専門職大学院設置基準を改正し,
(1)法科大学院において開設しなければならない授業科目について,「憲法,行政法,民法,商法,民事訴訟法,刑法及び刑事訴訟法に関する分野の科目」として「法律基本科目」,「先端的な法領域に関する科目その他の実定法に関する多様な分野の科目であって,法律基本科目以外のもの」として「展開・先端科目」などを定めている
(2)このうち,「法律基本科目」においては,連携法4条1号に規定する専門的学識を涵養するための教育を行う科目として「基礎科目」と,4条2号に規定する応用能力を涵養するための教育を行う科目として「応用科目」があると規定されるとともに,それぞれ30単位以上,18単位以上の修得を修了の要件として規定している
(3)また,「展開・先端科目」においては,「連携法第4条第3号に規定する専門的学識及びその応用能力を涵養するための教育を行う科目」として,「選択科目」を定め,①倒産法,②租税法,③経済法,④知的財産法,⑤労働法,⑥
環境法,⑦国際関係法(公法系),⑧国際関係法(私法系)について,その全てを開設することを努力義務とした上で,当該8科目の選択科目に係る4単位以上の修得を修了要件としているところである
一方,連携法4条に規定する法曹となろうとする者に必要とされる専門的学識等は,司法試験法3条1項及び2項柱書にそれぞれ規定される「裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力」及び「裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な学識並びに法的な分析,構成及び論述の能力」を示しているものであり,具体的には,連携法4条の定める「法曹となろうとする者に共通して必要とされる専門的学識」(1号)とその「応用能力」(2号)が,司法試験で共通して問われる法律基本科目に関する学識等に該当し,「法曹となろうとする者に必要とされる専門的な法律の分野に関する専門的学識及びその応用能力」(3号)が,司法試験の選択科目に関する学識等に該当するものである
これらの帰結として,法曹となろうとする者に必要とされる専門的学識等が法科大学院教育と司法試験とで一貫する形で整理され,司法試験の選択科目に関する司法試験において問われる学識等についても法科大学院教育において涵養すべきことが大学の責務として明確化されたということである
特に選択科目については,今般の法科大学院改革により,法曹となろうとする者に必要とされる専門的学識等の一つとして,司法試験論文式試験における選択科目に係る司法試験において求められる学識等が,法科大学院において涵養すべき学識等として明確化された上で,現在の司法試験論文式試験における選択科目として規定されている8科目に係る4単位以上の履修が法科大学院の修了要件として必修化されたところである
(引用終わり)
以上のような理由で選択科目が予備にも課されるということであれば、その科目も、司法試験の選択科目と同じになるはずです。現に、そのような内容の提案がされ、司法試験委員会でも了承されました。
(司法試験委員会会議(第157回)議事要旨より引用。太字強調は筆者。)
【丸山幹事】
今般の連携法及び司法試験法の改正並びに文部科学省令の改正の趣旨・内容を踏まえると,司法試験予備試験論文式試験の選択科目としては,現在司法試験の選択科目となっている8科目,すなわち,倒産法,租税法,経済法,知的財産法,労働法,環境法,国際関係法(公法系)及び国際関係法(私法系)を選定するのが相当であるということで幹事の意見が一致しました。
(中略)
【佐伯委員長】
司法試験予備試験論文式試験の選択科目としては,現在司法試験の選択科目となっている8科目,すなわち,倒産法,租税法,経済法,知的財産法,労働法,環境法,国際関係法(公法系)及び国際関係法(私法系)を選定するのが相当であるとの幹事会の結論については,これを是とするということでよろしいでしょうか。
(一同了承)
(引用終わり)
従来、予備試験受験生は、予備の合格発表後に慌てて司法試験のために選択科目の学習をしなければなりませんでした(今年は、特にその負担が大きいでしょう。)。予備試験の段階で選択科目を学習していれば、その点の慌ただしさは軽減されるでしょう。その意味では、予備試験の段階では負担は重くなりますが、予備合格後のことを考えると、それほど悪くないという感じもします。
一方、法科大学院修了の資格で受験する側の立場からみると、従来は、予備組は選択科目が手薄だという優位点がありました。今後は、予備組も選択科目を事前に学習して来るので、その優位点は消えることになります。他方、予備試験の選択科目の試験問題が過去問として蓄積するので、選択科目の演習の素材が増えるという点は、良いことかもしれません。
3.なお、この点について、意見募集(パブリックコメント)の手続が行われています(令和2年9月16日(水)から同年10月15日(木)まで。窓口はこちら。)。
(司法試験委員会会議(第157回)議事要旨より引用。太字強調は筆者。)
【佐伯委員長】
過去に司法試験の選択科目についての答申をするに当たっては,意見募集を行っているとのことですので,今回の司法試験予備試験論文式試験の選択科目に関しても,先ほどの8科目を選定することについて意見募集を行い,その意見を踏まえて答申案を検討していくということでいかがでしょうか。
(一同了承)
【佐伯委員長】
それでは,そのように進めます。
(引用終わり)
反対意見があったからといって、選択科目の内容が変わるということはないだろうと思いますが、どうしても言いたいことがある、という人は、意見を送ってみてもよいかもしれません。