【答案のコンセプトについて】
1.当サイトでは、平成27年から昨年まで、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案を掲載してきました(「令和元年司法試験論文式公法系第1問参考答案」参照)。それは、限られた時間内に効率よく配点の高い事項を書き切るための、1つの方法論を示すものとして、一定の効果をあげてきたと感じています。現在では、規範の明示と事実の摘示を重視した論述のイメージは、広く受験生に共有されるようになってきているといえるでしょう。
2.その一方で、弊害も徐々に感じられるようになってきました。規範の明示と事実の摘示に特化することは、極端な例を示すことで、論述の具体的なイメージを掴みやすくすることには有益ですが、実戦的でない面を含んでいます。
また、当サイトが規範の明示と事実の摘示の重要性を強調していた趣旨は、多くの受験生が、理由付けや事実の評価を過度に評価して書こうとすることにありました。時間が足りないのに無理をして理由付けや事実の評価を書こうとすることにより、肝心の規範と事実を書き切れなくなり、不合格となることは避けるべきだ、ということです。その背景には、事務処理が極めて重視される論文の出題傾向がありました。このことは、逆にいえば、事務処理の量が少なめの問題が出題され、時間に余裕ができた場合には、理由付けや事実の評価を付すことも当然に必要となる、ということを意味しています。しかし、規範の明示と事実の摘示に特化した参考答案ばかり掲載することによって、いかなる場合にも一切理由付けや事実の評価をしてはいけないかのような誤解を招きかねない、という面もあったように感じます。
上記の弊害は、司法試験の検証結果に基づいて、意識的に事務処理の比重を下げようとする近時の傾向(「検証担当考査委員による令和元年司法試験の検証結果について」)を踏まえたとき、今後、より顕著となってくるであろうと予測されます。
3.以上のことから、平成27年から昨年までに掲載してきたスタイルの参考答案は、既にその役割を終えたと評価し得る時期に来ていると考えました。そこで、今年は、必ずしも規範の明示と事実の摘示に特化しない参考答案を掲載することとしました。より実戦的に、現場で答案に事実を書き写している間に瞬時に思い付くであろう評価を付し、時間に余裕がありそうな場合には、規範の理由付けも付すこととしています。
もっとも、現時点でも、規範の明示と事実の摘示に最も配点があるという傾向自体には変わりはないと考えています。また、規範の理由付けと事実の評価を比較すれば、後者、すなわち、事実の評価の方が配点が高いというのが、これまでの再現答案等の分析からわかっていることです。ですので、参考答案では、規範の明示と事実の摘示を最優先とし、次に事実の評価、それでもまだ余裕がありそうなら規範の理由付け、という優先順位を設け、それに基づいて論述のメリハリを付けることとしています。また、応用論点についても、現場でそれなりに気付くことができ、それほど頭を使うことなく、瞬時に問題意識に触れられそうなものについては、一言答案に触れていく、という方針を採用しました。
4.近時の刑法は、事務処理の比重を下げようという姿勢を装いつつ、実際にはむしろ事務処理の量が増えているという傾向にあります。今年の刑法もその傾向どおりで、書くべき事項が多いだけでなく、内容的にも、一部の当てはめ等部分的に難易度が高いところを含む問題でした。多少の論点落ちや当てはめの誤りがあっても、合否には影響しないでしょう。刑事系はもともと8頁書くのが前提のようなところがあり、参考答案①も、1行30文字換算で8頁の下の方まで必要な文字数になっています。どうしても時間内に文字をたくさん書けない場合のテクニックとして、文字を崩して速く書くということのほかに、日本語を崩して文字数を減らす、というものがあります。今回は、このテクニックを大胆に用いた参考答案②も用意しました。参考答案②は、概ね参考答案①と同じ内容ですが、さらに事実の評価を加えた上、1行30文字換算で6頁の文字数に抑えた驚異的なものとなっています。再現答案や実際に書いた人の話等から、この程度まで日本語が崩れてもセーフらしいことは一応わかっています(「(採点時の答案は匿名化されるため)『外国出身者かな?』と思われるくらい徹底してやる方が印象点の低下が少ない。」と豪語する人もいたほどです。)。この書き方は、現場でいきなりやろうとしても、心理的な抵抗があって、かえって時間をロスしてしまいがちです。仮に用いるなら、事前準備をした上で躊躇なくやれるようにする必要があるでしょう。どうしても時間内に書き切れない、という人は、参考にしてみてもよいのではないかと思います。このような書き方については、「人としてどうなのか。」とか、「考査委員に対して失礼だ。」と感じる人が多いでしょうし、筆者としても積極的には勧めたくない気持ちがあります。しかし、法的な知識・理解が十分であるのに、「文字を書く速度が遅い」というだけの理由で不合格になってしまう人が現に存在することを踏まえれば、このような手段を採ることも、やむを得ない場合があるでしょう。そもそもの原因は、文字を書く速さが合否に直結するような試験を続けている考査委員の側にあるのですし、答案を読むのは考査委員の仕事なのですから、受験生としては、必要とあれば遠慮なくやるべきでしょう。
参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(刑法総論)」及び「司法試験定義趣旨論証集(刑法各論)」に準拠した部分です。
【参考答案①】
第1.設問1
1.暴力団組員を装い、本件債権の額は500万円であるのに、「600万円だとAから聞いている。」と言った点につき、詐欺未遂罪(246条1項、250条)を検討する。
(1)欺く行為とは、財産的処分行為の判断の基礎となる重要な事項を偽ることをいう。
ア.暴力団組員かは、Bを畏怖させる要素であっても、財産的処分行為の判断の基礎とはならない。
イ.債権額を偽った点につき、①の立場からは600万円全体の交付の判断の基礎となるとの説明が、②の立場からは100万円の交付の判断の基礎となるとの説明が考えられる。重要な事項といえるのは、真実の額を超える点であるから、②の立場が妥当である。
以上から、債権額を偽った点が欺く行為に当たる。
(2)Bは、甲の指定する口座に真実の額より100万円多い600万円を送金した。これは、現金の交付と評価できる。
(3)因果関係が認められるには、欺く行為による錯誤、それに基づく交付による財物の占有移転という一連の因果経過が必要である。
Bは、本件債権の額は500万円と認識していたから、欺く行為による錯誤に陥っていない。したがって、因果関係がない。
(4)以上から、100万円について詐欺未遂罪が成立する。
2.暴力団組員を装い、「うちの組の若い者をあんたの家に行かせる」と言った点につき、恐喝罪(249条1項)を検討する。
(1)上記行為により、Bは、甲が暴力団組員であると誤信し、甲の要求に応じなければ自身やその家族に危害を加えられるのでないかと畏怖した結果、甲に600万円を交付することとし、甲の指定する口座に600万円を送金したから、同罪の構成要件に該当する。
(2)①の立場からは600万円全額が損害であり、違法性阻却の余地もないとの説明が、②の立場からは、500万円の限度で財産上の損害又は違法性がないとの説明が考えられる。
恐喝罪は個別財産に対する罪であるから、送金された600万円が損害である。恐喝の手段による権利行使は、その権利の範囲内であり、かつ、その方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えない限り違法性が阻却される(判例)。暴力団組員を装う脅迫は社会通念上一般に認容すべき限度を超えるから、違法性阻却の余地がない。したがって、①の立場が妥当である。
(3)以上から、600万円について恐喝罪が成立する。
3.上記1の罪の法益は同2の罪に包摂され、両者は同一機会に同一の意思決定でなされたから、包括して恐喝一罪として評価する。
4.よって、甲は、恐喝罪の罪責を負う。
第2.設問2
1.甲がAのワインに混入した睡眠薬は、Aの特殊な心臓疾患がなければ、生命に対する危険性は全くないものであった事実
実行の着手を否定する要素となりうるからである。
2.Aには、A自身も認識していなかった特殊な心臓疾患があり、Aは、睡眠薬の摂取によって同疾患が急激に悪化して急性心不全に陥ったものであり、Aに同疾患があることについては一般人は認識できず、甲もこれを知らなかった事実
因果関係を否定する要素となりうるからである。
3.甲が有毒ガスを発生させることを止めたこと及び睡眠薬は病院で処方される一般的な医薬品で、甲も本件で混入した量の睡眠薬を摂取してもAが死亡することはないと思っていた事実
故意を否定する要素となりうるからである。
第3.設問3
1.犯罪で得たことを秘して預金の払戻しを受けた点につき、詐欺罪(246条1項)を検討する。
(1)犯罪で得た預金の払戻しは、誤振込金の払戻しに類似する。
誤振込であっても、受取人は銀行に対する預金債権を取得する(判例)。しかし、銀行は誤振込の事実を知れば受取人に対する支払を拒絶し、組戻しを行うから、受取人には誤振込である旨を銀行側に告知する信義則上の義務がある。したがって、受取人が誤振込の事実を秘して、窓口係員に対して預金の引出しを請求する行為は、欺く行為に当たる。そして、受取人に交付される現金の占有は、その管理者である支店長に帰属し、窓口係員はその占有補助者であるから、上記欺く行為により錯誤に陥った窓口係員が現金を交付すれば、1項詐欺が成立する。このことは、犯罪で得た預金の払戻しにも妥当する。
(2)以上から、前記第1の2の犯罪で得たことを秘してしたFに対する払戻請求は欺く行為であり、Fが犯罪で得たことを知らずに600万円を甲に交付した時に、D銀行E支店の支店長に対する詐欺罪が成立する。
2.500万円をCへの弁済に充てた点につき、横領罪(252条1項)を検討する。
(1)民事上金銭の所有と占有は一致するが、使途を定めて寄託された金銭については、なお刑法上は寄託者の所有に属するというべきであるから、受託者との関係では「他人の物」に当たる。
甲が払い戻した600万円のうち500万円は、回収を委託したAに交付すべきであるから、使途を定めて寄託された金銭と同視すべきであり、刑法上はAの所有に属し、甲との関係では「他人の物」に当たる。上記金銭は前記第1の2の犯罪で得たが、Aとの委託信任関係はなお刑法上保護すべきであり、上記結論を妨げない。
(2)甲は、上記500万円の払戻しを受けて占有する。
(3)「横領」とは、不法領得の意思を実現する一切の行為をいう。横領罪における不法領得の意思とは、委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできない処分をする意思をいう(判例)。
甲には回収金の処分権限がなく、自己の債務の弁済に充てるのは、Aからの委託の任務に背き、所有者でなければできない処分である。したがって、Cへの弁済は不法領得の意思を実現する行為であり、「横領」に当たる。
(4)以上から、横領罪が成立する。同日にBが返還時期についてAにうそをついた点は、共罰的事後行為である。
3.500万円の返還を免れる目的でAを死亡させた点につき、強盗致死罪(240条)を検討する。
(1)「強盗」とは、強盗犯人を意味し、既遂・未遂を問わないが、少なくとも強盗の実行に着手したことを要する。
ア.債権者を殺害して事実上債務を免れたことによる財産上の利益の移転を認めるためには、他の債権者又は被害者の相続人による債権の行使が事実上不可能若しくは著しく困難となるか、又は債権の行使が相当期間不可能になったことを要する。
本件債権の存在を証明する資料はなく、AB甲以外に知っている者はおらず、Aに相続人がいないから、Aを殺害すれば500万円の返還請求権の行使は事実上不可能となる。したがって、返還を免れる目的でAを殺害すれば、2項強盗(236条2項)となる。
イ.Aに有毒ガスを吸引させる行為は、被害者の反抗を抑圧する程度の有形力の行使であり、同条の「暴行」といえる。
ウ.実行の着手とは、構成要件該当行為の開始又はこれと密接な行為であって、結果発生に至る客観的な危険性を有するものを行うことをいう。
甲の計画上、Aに睡眠薬を飲ませる行為(行為1)は上記イの行為(行為2)の準備行為であったが、行為1でAは死亡した。
構成要件該当行為である第二行為の準備行為である第一行為において結果が発生した場合において、第一行為が第二行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠で、第一行為に成功すればそれ以降の犯行計画遂行の障害となる特段の事情はなく、第一行為と第二行為との間に時間的場所的近接性があるときは、たとえ行為者が第二行為をもって犯罪を実現する意思であったとしても、第一行為は第二行為に密接な行為であって、第一行為時に既に結果発生に至る客観的な危険性が認められるから、第一行為に実行の着手を認めることができる(クロロホルム事件判例参照)。
Aを眠らせた上で有毒ガスで殺害する計画上、行為1は行為2を確実かつ容易に行うために必要不可欠で、行為1に成功すればそれ以降の犯行計画遂行の障害となる特段の事情はない。X剤等はA方に隣接する駐車場に駐車した自車内にあるから、行為1と行為2の間に時間的場所的近接性がある。したがって、行為1に2項強盗の実行の着手が認められる。
行為1は特殊な心臓疾患があれば生命の危険があり、諸事情の変動により結果が発生する可能性がある以上、行為の性質上結果発生が絶対に不能とはいえない(空気注射事件判例参照)から、前記第2の1の事実は上記結論を妨げない。
エ.以上から、甲は、「強盗」に当たる。
(2)因果関係は、行為の危険が結果に現実化したか否かによって判断する。
Aは、睡眠薬の摂取によって急性心不全に陥って死亡したから、行為1の危険が結果に現実化したといえる。被害者はありのままの状態で保護されるべきであるから、たとえ被害者の特殊事情が相まって重い結果が生じたとしても、行為の危険が現実化したといえる以上、前記第2の2の事実は、上記結論を妨げない。
したがって、行為1とAの死に因果関係がある。
(3)甲にはAの死の認識・認容はあるが、行為2でなく行為1で死ぬ認識はない。因果関係に錯誤がある。
構成要件の範囲で主観と客観が一致すれば故意が認められるから、行為者の認識において法的因果関係を認めうる限り、現に生じた因果経過と一致しなくても故意を阻却しない。
前記第2の3の事実から、甲の認識では、Aの死は行為1の危険が現実化したものでない。そうすると、行為2を止めた以上は、甲の認識においてAの死は自己の行為の危険が現実化したものという余地がなく、法的因果関係を認めることはできない。現実に第二行為まで行ったクロロホルム事件とは、事案が異なる。したがって、故意が阻却される。
(4)結果的加重犯としての性格から、強盗の手段である暴行と因果関係のある死傷結果については、故意・過失を問わず強盗致死傷罪が成立する。
確かに、強盗の手段である暴行は行為2である。しかし、前記(1)ウのとおり、行為1はその着手と評価できる。そして、上記(2)のとおり、Aの死は行為1と因果関係がある。
以上から、甲の過失を問わず強盗致死罪が成立する。
(5)甲は急にAを殺害することが怖くなり、有毒ガスを発生させることを止めたが、43条ただし書は結果不発生の場合の規定であることは明らかであるし、たとえ中止行為があったとしても、結果が発生すれば非難に値する以上、同ただし書の準用の余地もない。
4.A所有の高級腕時計を自らの上着のポケットに入れて、A方から立ち去った点につき、強盗罪(236条1項)を検討する。
(1)甲が同腕時計に気付いたのは、行為1の後である。
強盗罪の暴行・脅迫は財物奪取に向けられたものでなければならないから、暴行・脅迫後に財物奪取の意思が生じた場合に強盗罪が成立するためには、新たな暴行・脅迫が必要である。もっとも、この場合の新たな暴行・脅迫は、それ自体として反抗を抑圧する程度である必要はなく、既に生じた反抗抑圧状態を継続させる程度のもので足りる。
甲は新たに上記程度の暴行・脅迫もしておらず、強盗罪は成立しないとみえる。
(2)強盗の手段としての暴行・脅迫の時に奪取する物・財産上の利益が特定する必要はないから、先行する暴行・脅迫が物又は財産上の利益の奪取に向けられていれば、その後に新たな物が見付かった場合でも、その物の強取について1項強盗罪が成立する。
前記3(1)ウのとおり、行為1は強盗の実行の着手に当たる。したがって、行為1によってAの反抗を抑圧して「他人の財物」である同腕時計を強取したといえ、1項強盗罪が成立する。
5.よって、甲は、上記1から4までの罪責を負う。3と4の罪は包括して前者で評価し、その余の罪と併合罪(45条前段)となる。なお、1と3の罪は法益が共通するが、15日の時間的間隔があること、A殺害を決意したのは1の罪の後であり、別個に評価すべきであるから、上記結論を妨げない。
以上。
【参考答案②】
第1.設問1
1.詐欺未遂(246Ⅰ、250)
(1)欺く行為は財産処分の判断基礎に重要事項を偽るだ。
ア.暴力団装うはBを畏怖させるが、畏怖除けば暴力団だから返済する判断合理性なく財産処分の判断と関係ない。
イ.債権額偽ったは、①立場で600万判断基礎と説明でき、②立場で債権額超える100万判断基礎と説明す。債務全額との関係で多額むしろ払いたくない欺く意味ないから①不当で判断に重要は額超える部分だから②妥当。100万多く偽ったが欺く行為。
(2)Bが甲指定口座に100万多い600万送金これすぐ引き出せるから現金の交付と評価。ただ、因果関係は欺く・錯誤・交付・占有移転一連が必要でB額500万認識で錯誤なし、因果関係ない。
(3)以上100万詐欺未遂成立。
2.恐喝(249Ⅰ)
(1)恐喝の脅迫は、相手方畏怖、反抗抑圧ない程度の害悪告知だ。
甲暴力団装い「組の若いをあんた家行かせる」と言た。「暴力」団ゆえB身体・財産危害を示唆で直接身体加害ない反抗抑圧までいかぬから上記程度の害悪告知だ。
(2)Bは甲暴力団誤信で要求に応じなば自身・家族に危害と畏怖し甲指定口座600万送金だから、恐喝による財物交付ある。
(3)①立場は600万全額が損害で、違法性阻却の余地ない、②立場は500万限度で財産上の損害又は違法性ないと説明す。
恐喝は個別財産に対すから600万が損害だ。恐喝の権利行使は権利範囲内かつ方法が社会通念上一般忍容の程度を超えない限り違法性阻却(判例)だが、暴力団は反社会的組織と社会的認識これ装う脅迫は上記程度超え違法性阻却ないから、①妥当。
(4)以上600万恐喝成立。
3.100万で法益重なる上記1と2の罪は同一機会同一意思決定で包括一罪なるから重い恐喝一罪と評価。
4.よって、甲は恐喝罪責負う。
第2.設問2
1.睡眠薬一般的医薬品でA特殊心臓疾患なくば生命危険ない事実
睡眠薬が普通生命危険ないなら殺人実行着手ないから。
2.Aに特殊心臓疾患あり睡眠薬で同疾患が急激悪化で急性心不全だが同疾患一般人認識できず甲も知らぬ事実
Aの死は同疾患のせいで因果関係否定となるから。
3.甲毒ガス発生止め睡眠薬でA死ないと思った事実
毒ガス発生させない甲に睡眠薬でA死認識・認容なく、故意否定だから。
第3.設問3
1.詐欺(246Ⅰ)
(1)払戻た600万犯罪で得た点で誤振込金の払戻しに類似。
誤振込も受取人が預金債権取得(判例)。が、銀行知れば受取人に支払拒絶・組戻しだから、受取人は誤振込告知の信義則義務ある。だから受取人が誤振込秘して係員に引出請求は欺く行為で、受取人に交付の現金占有は管理者の支店長に帰属で係員は占有補助者で、欺く行為で錯誤の係員が交付すれば1項詐欺成立だ。正当払戻権原ない点共通これ犯罪で得た預金払戻しにも妥当。
(2)以上で犯罪得たを秘しFに払戻請求は欺く行為でFが知らずに600万甲に交付時にD銀行E支店長に対する詐欺成立。
2.横領(252Ⅰ)
(1)民事上金銭の所有占有一致だが、使途定め寄託の金銭は、刑法上寄託者所有で受託者との関係で「他人の物」だ。
甲は本件債権回収をAから委託で600万うち500万は回収のだから、使途定め寄託の金銭と同視でき刑法上A所有で甲との関係で「他人の物」だ。これ犯罪で得たがAとの委託信任関係は刑法上なお保護すべきで上記結論妨げぬ。
(2)500万甲が所持だから、「自己の占有する」だ。
(3)「横領」は不法領得意思実現行為。この不法領得意思は委託任務背いて権限なく所有者しかできない処分の意思だ(判例)。
甲処分権限なく、自己債務弁済はA委託任務背き、所有者しかできないから、Cへの弁済は不法領得意思実現行為で「横領」だ。
(4)以上で横領成立。同日BがAにうそは横領完成維持ためで返還時期遅らせるだけで共罰的事後行為。
3.強盗致死(240)
(1)「強盗」は強盗犯人つまり強盗実行着手必要。
ア.債権者殺害で事実上債務免れて財産上利益移転あるには、他の債権者・被害者相続人が債権行使事実上不可能か著しく困難又は債権行使相当期間不可能を要する。
本件債権存在証明資料なく、AB甲以外知らないしA相続人なしでA殺害は500万返還請求権行使事実上不可能。だから、返還免目的でA殺害は2項強盗(236Ⅱ)だ。
イ.強盗罪の暴行・脅迫は被害者反抗抑圧だ。
毒ガス吸引死の危険ありで被害者反抗抑圧の有形力行使で暴行だ。
ウ.実行着手は構成要件該当行為開始又は密接行為で結果発生の客観的危険あるを行うだ。
甲計画で睡眠薬(行為1)は毒ガス吸引(行為2)の準備だが、行為1でA死んだ。
構成要件該当行為の第二行為の準備な第一行為で結果発生の場合で、第一行為が第二行為を確実容易のため必要不可欠で、第一行為成功なら障害なる特段事情なく、第一行為・第二行為が時間的場所的近接ときは、たとえ行為者が第二行為で犯罪実現の意思でも、第一行為は第二行為に密接で第一行為時に客観的危険あるから、第一行為に実行着手ある(クロロホルム事件判例参照)。
X・Y剤バケツ混合で吸引は、A無抵抗でなければだから、行為1は行為2を確実容易に必要不可欠だ。A眠れば無抵抗で、行為1成功で障害なる特段事情ない。X剤等はA方隣接駐車場の自車内にあるから、行為1と行為2時間的場所的近接だ。だから、行為1は2項強盗の実行着手だ。
行為1は特殊心臓疾患なら生命危険あるから行為の性質上結果発生絶対不能でない(空気注射事件判例参照)で、前記第2の1は上記結論妨げぬ。
エ.以上甲は「強盗」。
(2)因果関係は行為の危険が結果に現実化したかだ。
A睡眠薬の摂取で急性心不全死亡だから、行為1の危険現実化だ。被害者ありのままで保護すべきで被害者の特殊事情相まって重い結果生ずも行為の危険現実化といえ前記第2の2は上記結論妨げない。
だから行為1とAの死因果関係ある。
(3)甲には、A死の認識・認容あるが、行為2でなく行為1で死ぬ認識ないで因果関係錯誤。
構成要件で主観客観一致なら故意あるから、行為者の認識で法的因果関係あれば現に生じた因果経過と一致なくても故意ある。因果関係行為後事情加味する同様、因果関係錯誤行為後事情加味で判断。
前記第2の3から、甲認識はA死は行為1の危険現実化でない。行為2を止めた甲の認識でAの死は自己の行為の危険現実化でなく、法的因果関係認められない。現実に第二行為まで行ったクロロホルム事件と事案異なる。以上で故意が阻却さる。
(4)結果的加重犯だから強盗手段の暴行と因果関係ある死傷結果は故意・過失を問わず強盗致死傷成立だ。
確かに強盗手段の暴行は行為2だが、前記(1)ウで行為1はその着手で上記(2)でA死と行為1因果関係ある。
以上過失問わず強盗致死成立。
(5)甲は怖くて毒ガス発生止めが、43但は結果不発生規定で結果発生なら非難に値するから準用余地もない。
4.強盗罪(236Ⅰ)
(1)強盗の暴行・脅迫は財物奪取向けられだから、暴行・脅迫後財物奪取意思の強盗成立には、新たな暴行・脅迫が必要だ。もっとも、反抗抑圧の必要なく既に生じた反抗抑圧状態継続で足る。
甲がA所有の高級腕時計に気付いたは、行為1の後で、甲は新たに上記程度の暴行・脅迫もしてなく強盗不成立とみえる。
(2)金銭奪おうと暴行・脅迫で反抗抑圧後宝石見付けて奪ったら当然宝石も強盗成立だから暴行・脅迫時に奪取物・財産上の利益特定する必要ない。先行する暴行・脅迫が物・財産上の利益奪取に向けられば、その後に新たな物見付かっても1項強盗成立。
前記(1)ウで行為1は強盗の実行着手からそれでAの反抗抑圧で「他人の財物」の同腕時計強取は1項強盗罪成立。
5.よって、甲は上記1~4罪責負い、併合罪(45前)。1と3法益共通も15日間隔あり、A殺害決意したは1の罪の後で別個に評価するから包括せず上記結論妨げず。3と4は法益同じAの財産で同一機会一連意思で包括して2項強盗一罪評価。
以上