令和3年司法試験短答式試験の結果について(2)

1.以下は、司法試験における短答式試験の合格点等の推移です。平成27年から試験科目が3科目となり、満点が以前の350点の半分(175点)になっていますので、比較のため、括弧内に倍にした数字を記載しています。

合格点 平均点 合格点と
平均点の差
受験者数 合格者数 受験者
合格率
平成
18
210 232.9 22.9 2091 1684 80.5%
平成
19
210 231.7 21.7 4607 3479 75.5%
平成
20
230 250.7 20.7 6261 4654 74.3%
平成
21
215 228.1 13.1 7392 5055 68.3%
平成
22
215 230.8 15.8 8163 5773 70.7%
平成
23
210 219.2 9.2 8765 5654 64.5%
平成
24
215 224.5 9.5 8387 5339 63.6%
平成
25
220 233.0 13.0 7653 5259 68.7%
平成
26
210 218.7 8.7 8015 5080 63.3%
平成
27
114
(228)
120.7
(241.4)
6.7
(13.4)
8016 5308 66.2%
平成
28
114
(228)
120.0
(240.0)
6.0
(12.0)
6899 4621 66.9%
平成
29
108
(216)
113.8
(227.6)
5.8
(11.6)
5967 3937 65.9%
平成
30
108
(216)
116.8
(233.6)
8.8
(17.6)
5238 3669 70.0%
令和
108
(216)
119.3
(238.6)
11.3
(22.6)
4466 3287 73.6%
令和
93
(186)
109.1
(218.2)
16.1
(32.2)
3703 2793 75.4%
令和
99
(198)
117.3
(234.6)
18.3
(36.6)
3424 2672 78.0%

 短答式試験の合格点は、平成29年から令和元年まで、3年連続で108点でした。もっとも、それは必ずしもすべての要素が安定していたからではなく、問題の難易度の低下(合格点の上昇要因)と合格率の上昇(合格点の下落要因)がバランスよく生じていたためでした。そのことは、平均点の上昇幅と、合格点と平均点の差の拡大幅の一致から読み取ることができます。昨年は、合格点が一気に15点も下がって、93点となりました。このうち概ね10点は問題の難化によるものであり、概ね5点は合格率の上昇によるものでした。そのことは、平均点が10点程度下がっていること、合格点と平均点の差が5点程度開いていることから読み取ることができます。
 今年の合格点は、99点昨年より6点高い数字ですが、平成29年から令和元年までの水準と比べると、まだまだ低い数字となっています。平均点を見ると、今年は、昨年より8点程度高い数字で、平成30年と令和元年の間くらいの水準でした。350点満点時代のものと比較すると、平成25年と近い数字です。その点でいえば、難易度は概ね標準的だったといえそうです。一方で、合格点と平均点の差は、昨年よりさらに2点程度開いており、これが、合格率の上昇とリンクしています。難易度が標準レベルに戻ったのに、合格点が低い水準にとどまっているのは、合格率の上昇傾向が止まらないからだ、ということができるでしょう。過去の数字と比べると、新司法試験最初の年である平成18年の合格率に近い水準まで上昇しています。数字の上では、とても受かりやすい試験になっているのです。

2.このように、現在の短答式試験は、普通に勉強していれば、比較的容易に合格できる試験です。とはいえ、受験生はみんな必死に勉強していますから、油断していると、すぐやられてしまう。「普通に勉強する。」というと、手を抜いてもよさそうな印象を持つかもしれませんが、「他の人と同じくらい必死に勉強する。」ことを意味していることには注意が必要です。
 短答対策の勉強法は、確立しています。肢別形式の問題集を解きまくる、ということです。昔は、紙媒体の肢別問題集が複数市販され、毎年内容が更新されていましたが、最近は、そうしたものが市販されなくなっています。現在のところ、辰已法律研究所のアプリ(「辰巳の肢別」)が、最も有力な学習ツールでしょう。筆者も試しに利用してみましたが、ゲーム感覚で解くことができ、正解・不正解等の記録も残すことができるので、使い勝手は悪くないと感じました。スマホがあればすぐ学習できるので、空き時間に手軽に学習できる点が大きな魅力です。ただ、アプリの起動から前回の続きの学習の開始までに複数回のタップを要するとか、操作感や視覚効果が一般の人気アプリと比較して明らかに劣っている等、不満を感じる部分は少なくありません。また、一般に、アプリには端末との相性による動作不良等が付きものです。本格的に問題を購入して利用する前に、レビュー等を参考にしたり、サンプル問題で操作感を確認する等して、自分の環境で使用に耐え得るものか確認すべきでしょう。上記アプリは誰でも利用可能なものですが、予備校等で講座を受講すると、オプションとして似たようなサービスが提供されることもあるかもしれません。

3.具体的な学習法としては、まず、2回全体を回して解く。その際、単に○か×かが合っているだけでなく、正しい肢なら、それは判例なのか、条文なのか、学説なのか誤りの肢なら、どの部分が誤りで、正しくはどのような内容か。そうした部分まで正しく記憶していたかを、解説をみて確認します。たまたま○×が合っていても、そうした部分まで正確に覚えていなければ、「不確実」をタップして、記録に残しておく。そして、3回目以降に解くときには、「正答率70~80%以下」(最初「100%」と表示されているものを、隣のスライダーをタップすることで操作できるのですが、細かい数字の操作が難しいので、70~80%の間の数字になればよしとします。)と「不確実」を表示するように設定します。この段階で、2回連続正解し、かつ、「不確実」をタップしていないものは除外されるでしょう。ですので、それ以外のものだけを解くことになります。そうやって再度解いていくわけですが、「不確実」のマークが付いていたものについては、上記に示した部分まで正しく記憶して正解できたときは、マークを外すようにします。続けているうちに、自分がどうしても覚えられない特定の肢だけが残ります。そればかりを繰り返し解くことになりますから、いずれはそれらの肢も自然と覚えていく。このようにして、最終的に、「正答率70~80%以上」と「不確実」を選択しても、1問も表示されない状態になるまで、詰める。「そこまでやらないといけないの?」、「面倒くさい。」などと思っているうちは、司法試験には受からないと思っておいた方がよいでしょう。これは、それなりに時間のかかる作業です。できる限り、早い段階から着手しなければなりません。短答で不合格になる人は、本格的に短答の学習をする時期が遅すぎるのです。逆に、一度ここまで詰めてしまうと、後はそれほど勉強しなくても、不思議とあまり忘れないものです。早い段階でここまで詰めれば、安心して論文の学習に集中できる。短答対策については、早すぎるということはないので、法科大学院入学前からでも、着手しておくべきでしょう。
 短答過去問に関しては、過去問自体を解く、という人もいます。現在は、紙媒体の肢別問題集を入手するのが難しいということもあるので、それでも構いませんが、その場合には、単にその問題に正解した、というだけではなく、すべての肢の正誤について、上記のような部分も含めて正確に判断できて初めて正解扱いとすべきです。かつての旧司法試験では、肢の組み合わせで解くことを前提に、敢えて正誤不明の肢を入れる、という出題のされ方をしていたのですが、現在はそのような出題のされ方はあまりされていないので、基本的にすべての肢を切れるように準備しておくべきなのです。
 憲法の判例問題が苦手な人は、おそらく判例の原文に目を通す習慣が付いていないのだろうと思います。著名な判例については、原文を読むようにしましょう。その際には、どのような事案であったか、どのような規範を用いたか、どのような事実をどのように評価したか、という部分に意識を向けます。これは、同時に論文対策にもなるのです。上記のポイントが頭に入っていれば、「…の場合には、…で判断する(○○事件判例参照)。」、「…を判断するに当たっては、…を考慮する(○○事件判例参照)。」というような形で、答案に書けるようになります(具体的には、当サイトの作成した「司法試験定義趣旨論証集(憲法)」を参考にしてみて下さい。)。判例百選や基本書等で引用されているのは、実はごくごく一部です。原文に目を通すことによって、初めて判例を使いこなすことができるようになるのです。 

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