民法413条の2第2項と567条2項の関係

 民法413条の2第2項と567条2項。どちらも、受領遅滞による危険の移転に関する条文です。

(参照条文)民法

413条の2(履行遅滞中又は受領遅滞中の履行不能と帰責事由)
1 (略)
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

567条(目的物の滅失等についての危険の移転)
 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。

 一見すると、413条の2第2項は帰責事由のことを言っているだけのようですが、売買の事例では、このことが「追完請求、代金減額請求、損害賠償請求及び解除をすることができない。」ということと、「買主は、代金の支払を拒むことができない。」という帰結を導きます。

(参照条文)民法

415条(債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 (略)

536条2項 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

543条(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前2条の規定による契約の解除をすることができない。

562条2項 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

563条3項 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
 

 追完請求、代金減額請求及び解除については、562条2項、563条3項及び543条によって債権者(買主)有責の場合にはできないことが明らかです。また、「債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。」ということは、双方有責ではないことも含意するので、債務者(売主)に帰責事由がないことになり、415条ただし書によって損害賠償請求もすることはできなくなります。そして、536条2項によって、反対給付の履行、すなわち、代金の支払を拒むことができないということになる。

(「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案(案) 補充説明(民法(債権関係)部会資料83-2)」より引用。※注は筆者。)

 素案4(※注:413条の2第2項に相当する。)を前提とすると……(略)……債権者が契約の解除をすることができない旨の規律は、債権者に帰責事由があるときは契約の解除をすることができない旨を定める第12、3(※注:543条に相当する。)によって導かれることになる。また……(略)……債権者が反対給付の履行を拒むことができない旨の規律は、債権者に帰責事由があるときは反対給付の履行を拒むことができない旨を定める第13、2(2)(※注:536条2項に相当する。)によって導かれることになる。また……(略)……債務者が履行不能による責任を負わない旨の規律は、債務者に帰責事由がないときは債務者は損害賠償責任を負わない旨を定める第11、1(※注:415条1項ただし書に相当する。)によって導かれることになる。

 そうだとすると、567条2項をわざわざ規定した意味はどこにあるのか。立案担当者によると、413条の2第2項は「債務の履行が不能となったとき」としていて、修補可能な損傷のように、履行不能とはいえない場合には適用できないので、特に規定したものだ、とされています。

(「民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(9)(民法(債権関係)部会資料75A)」より引用。※注は筆者。)

 売主が契約の趣旨に適合した目的物の引渡しを提供したにもかかわらず買主がそれを受領しなかった……(略)……受領遅滞後に生じた目的物の滅失又は損傷により売主の債務の全部又は一部の履行が不能となった場合については、この受領遅滞の規律(※注:413条の2第2項に相当する。)の適用によって処理されることになる。しかし、受領遅滞後に目的物が滅失又は損傷したとしても、目的物の修補や代替物の引渡し等による履行の追完が可能であれば……(略)……売主の債務の履行が不能となったとまでは言えない場合がある。受領遅滞後に目的物の滅失又は損傷が生じた場合に履行の追完が不能であるか否かで差異を設ける合理的理由はないことから、履行の追完が可能な場合にも目的物の滅失又は損傷の危険が売主から買主に移転することとするのが相当であると考えられる。そこで、この規律(※注:567条2項に相当する。)も明文化する必要がある。

(引用終わり)

 以上のことを踏まえると、修補可能な損傷が生じた事例については、413条の2第2項ではなく、567条2項を適用しなければならない。安易に413条の2第2項を適用してしまうと、「それは不能の場合の条文でしょ。ちゃんと条文を読んでないね。」ということで、積極ミスと判定されるおそれがあるので、気を付けたいところです。
 なお、上記引用の部会資料では、代替物の引渡しによる場合も例示されています。しかし、567条2項の「目的物」は、特定されたものに限られます(同条1項括弧書)。そして、特定された目的物が滅失した場合には、売主が特定後も調達義務を負い続ける特約等がない限り、履行不能となるとするのが、立案担当者の立場です(「司法試験定義趣旨論証集債権総論・契約総論」の「不特定物債権における目的物滅失と履行不能(特定後)」の項目の※注の説明を参照)。なので、代替物引渡しが可能であるという理由で567条2項を適用すべきケースというのは、あまりありません。

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