1.最近、SNS等で、論証を公開している例がとても多くなったと感じます。そのほとんどは、特定の予備校の論証に微修正を加えたもので、「〇〇の論証のいらないところを削ったものです。」とか、「〇〇の論証がベースです。」等の記載があったりする。そのようなものは、「〇〇の論証を有料で購入しなくても、ここでダウンロードすればタダじゃん。」という意識でダウンロードされることでしょう。これが当該予備校の目からみてどう映るのか、ということを、考えてみる必要があると思います。ここでは詳論しませんが、仮に創作性がなくて著作物とはいえない内容であっても、公開の態様によっては事業上の利益を損なわせるものとして一般不法行為が成立する余地があるということも、考慮すべきでしょう。SNS事業者に照会すればダウンロードの回数を確認でき、それと正規に購入された場合の利益を掛け合わせれば、容易に逸失利益を算定できてしまいます。
2.各予備校は、一応論証を作成するに当たり、相応の文献の基礎を持っているでしょう(どの程度きちんと調査しているかはわかりませんが)。仮に、「あなたの公開している論証ではこんな表現になっていますが、これはどの文献を参照しましたか?」と問われて、「〇〇という予備校の論証に書いてあったので」としか答えられないのであれば、ちょっとやばいかもしれません。独自に作成した場合には、結果的に似たものになることはあっても、全く同一になることはあまりないものです。ちなみに、当サイト作成の定義趣旨論証集は、独自に調査して内容を作成しているので、同一の判例に関するものでも、市販の論証と同一ではなかったりします。これは、ある判例の規範のうち特定の文言を削除できるかどうか、より簡易な表現にできないか等についても、文献を調査し、その文言の意味がどのように理解されているか、どのような事案において意味を持つか、ということを独自に確認した上で判断をしているからです。場合によっては、たった1つの文言のためにいくつもの学術論文を参照する等して、かなり時間を掛けて検討することもあります。なので、例えば、「司法試験定義趣旨論証集(憲法)」であれば、企画段階から完成まで8年くらい掛かっているのです(職業の自由に関する判例法理及び政府見解を把握するため、小売商業調整特別措置法の前身である小売商振興法案の立案過程等を改めて調査したことで、当時の内閣法制局の見解と行政法学の裁量論との関係がその後の判例法理に及ぼした影響等がかなりクリアになったことは、今でも印象に残っています。)。
3.これまでは大丈夫だったとしても、それを多数の者がやるようになり、その結果、事業上の利益に無視できない影響があると判断された場合、まずは目立つ人から標的にされる可能性が高いでしょう。検索すると上位に出るような人や、SNSで話題になっている人は、特に気を付けたいところです。