【答案のコンセプト等について】
1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点があります。したがって、①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示することが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。下記に掲載した参考答案(その1)は、この①~③に特化して作成したものです。規範と事実を答案に書き写しただけのくだらない答案にみえるかもしれませんが、実際の試験現場では、このレベルの答案すら書けない人が相当数いるというのが現実です。まずは、参考答案(その1)の水準の答案を時間内に確実に書けるようにすることが、合格に向けた最優先課題です。
参考答案(その2)は、参考答案(その1)に規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をしたものです。参考答案(その2)をみると、「こんなの書けないよ。」と思うでしょう。現場で、全てにおいてこのとおりに書くのは、物理的にも不可能だと思います。もっとも、部分的にみれば、書けるところもあるはずです。参考答案(その1)を確実に書けるようにした上で、時間・紙幅に余裕がある範囲で、できる限り参考答案(その2)に近付けていく。そんなイメージで学習すると、よいだろうと思います。
2.参考答案(その1)の水準で、実際に合格答案になるか否かは、その年の問題の内容、受験生全体の水準によります。今年の公法系第1問についていえば、論点が問題文上明示されているとはいえ、時間内に問題文を読み解いて意味を正しく理解し、規範に合わせて合憲方向、違憲方向に事実を整理して答案に書くというだけでも、かなり大変だったのではないかと思います。また、「判例無視で人権の重要性と規制態様の強度をテキトーに羅列して、とりあえず中間審査基準」という書き方しか知らない人は、規範の明示すら適切にできなかった可能性があります。なので、参考答案(その1)の水準でも、合格レベルに達してしまうのではないか、というのが、当サイトの直感的な印象です。
3.参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集(憲法)」に準拠した部分です。
【参考答案(その1)】 第1.設問1 1.遺族の範囲(骨子第3) (1)年齢要件そのもの ア.25条適合性 著しく合理性を欠き、明らかに立法裁量の逸脱濫用とみざるをえないかで判断する(堀木訴訟判例参照)。 イ.14条1項適合性 立法目的に合理的根拠があるか、具体的な区別と合理的関連性があるかで判断する(国籍法事件、非嫡出子相続分差別事件各判例参照)。自らの意思や努力によっては変えることのできない事柄で区別される場合であって、重要な法的地位に関わるときは、実質的相当性も審査する(国籍法事件、非嫡出子相続分差別事件各判例、再婚禁止期間事件における千葉勝美補足意見参照)。尊属殺事件判例も実質的均衡を考慮している。 (2)年齢要件の男女格差の14条1項適合性 性別は同項後段で列挙され、自らの意思や努力によっては変えることができない。新遺族年金を受給できるかは重要な法的地位に関わる。 2.旧遺族年金受給者の受給資格喪失の25条適合性
(1)既に生じている旧遺族年金受給権を消滅させてしまう以上、前記1(1)アのような広い立法裁量は認められず、消滅を正当化する積極的理由が必要である。 (2)よって、25条に反する。 第2.設問2 1.遺族の範囲(骨子第3) (1)年齢要件そのもの ア.25条適合性 (ア)生活に困窮するひとり親は生活保護を受けることができるとの反論が想定される。 (イ)ひとり親に支給しなければ、健康で文化的な最低限度の生活を営めなくなるとは必ずしもいえないとの反論が想定される。 (ウ)よって、Xの意見は適切でない。 イ.14条1項適合性
上記ア(イ)に示した理由により、具体的な区別と合理的関連性があり、遺族が就労によって自ら収入を確保することを促進する目的のために年齢要件を課すことがひとり親の負担と均衡を欠くともいえないから、実質的相当性がある。 (2)年齢要件の男女格差の14条1項適合性 ア.男女の就労状況、収入の格差を是正するアファーマティブ・アクションであるから実質的相当性は不要であるとの反論が想定される。 イ.男女の就労状況、収入の格差の実情を示す統計が存在するとの反論が想定される。 ウ.よって、Xの意見は適切である。 2.旧遺族年金受給者の受給資格喪失の25条適合性
(1)子のいる妻が遺族年金受給資格を欠くことになっても、子が遺族年金を受給でき、家庭全体では月2万円程度の減収にとどまるとの反論が想定される。 (2)旧遺族年金受給者の期待利益を考慮した経過措置(骨子第6)があるとの反論が想定される。 (3)よって、Xの意見は適切である。 以上
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【参考答案(その2)】 第1.設問1 1.遺族の範囲(骨子第3) (1)年齢要件そのもの ア.25条適合性 (ア)同条の趣旨は、福祉国家の理念に基づく国の責務を宣言する点にある。同条は国の責務を定める客観法であり、個々の国民の主観的権利を保障するものではない。したがって、同条違反による違憲の原因は、個々の国民の主観的権利を侵害した点ではなく、同条の定める客観義務に違反した点にある。 (イ)年齢要件の目的は、遺族、特に女性の就労促進にある。この目的自体が不合理とはいえない。 (ウ)よって、25条に反する。 イ.14条1項適合性 (ア)14条1項の「平等」は相対的平等を意味し、合理的根拠に基づく区別は同項に違反しない(高齢公務員待命処分事件判例参照)。一般に、立法裁量事項に関する区別の同項適合性は、立法目的に合理的根拠があるか、具体的な区別と合理的関連性があるかで判断する(国籍法事件、非嫡出子相続分差別事件各判例参照)。なぜなら、立法裁量の枠内における不平等状態の合理性の審査であって、精神的自由の制限のように得られる利益と失われる利益の考量を必要とする場面(猿払事件判例参照)ではないからである(再婚禁止期間事件における千葉勝美補足意見参照)。もっとも、自らの意思や努力によっては変えることのできない事柄(客観条件)で区別される場合であって、重要な法的地位に関わるときは、本人にとって偶然の事情によって重大な不利益を負わせることとなるから、実質的相当性も審査する(国籍法事件、非嫡出子相続分差別事件各判例、再婚禁止期間事件における千葉勝美補足意見参照)。尊属殺事件判例も実質的均衡を考慮している。 (イ)年齢は、自らの意思や努力によって変えることができない。遺族年金を受給できるかは生計維持を左右するから、重要な法的地位に関わる。 (2)年齢要件の男女格差の14条1項適合性 ア.性別は同項後段列挙事由であるが、同項後段は歴史的差別の典型例を示したにとどまり、他の差別を軽視する趣旨ではないから、例示にすぎない(高齢公務員待命処分事件、尊属殺事件各判例参照)。 イ.就労による収入の有無、程度は保護の必要性に関わるから、男女の就労状況、収入を考慮することには合理的根拠がある。 2.旧遺族年金受給者の受給資格喪失の25条適合性
(1)既に生じた旧遺族年金受給権の消長は、最終的には国民の財産上の利害に帰着するから、これを消滅させる立法の25条適合性は、前記1(1)ア(ア)のような裁量逸脱濫用の審査ではなく、財産権の内容の不利益変更と同様に、内容変更に伴って当然容認される程度の不利益にとどまるかで判断する(国有農地売払特措法事件判例参照)。判断に当たっては、既に具体に発生した権利のはく奪か、期待の喪失にとどまるかを考慮する(同事件、損益通算廃止事件各判例参照)。このことは、「向上及び増進」(25条2項)の文言や立法で具体化された権利の制約と観念できること(抽象的権利説)を根拠として、いったん保障された内容を後退させることは、自由権の制約と同様の正当化根拠がない限り許されないとする学説(制度後退禁止原則)の趣旨とも合致する。 (2)よって、25条に反する。 第2.設問2 1.遺族の範囲(骨子第3) (1)年齢要件そのもの ア.25条適合性 (ア)生活に困窮するひとり親は生活保護により最低生活を維持できるから、25条違反の問題は生じないとの反論が想定される。 (イ)他の施策との相互補完によって、ひとり親についても最低生活は維持されるとの反論が想定される。 (ウ)Xの意見は、年齢要件によってひとり親が最低生活を営めなくなることを前提とする(第1の1(1)ア(イ))が、上記によれば、その前提を欠く。 (エ)よって、Xの意見は適切でない。 イ.14条1項適合性 (ア)社会保障給付の受給要件に関する区別については、何ら合理的理由のない不当な差別取扱いかで判断すべき(堀木訴訟、学生無年金事件各判例参照)との反論が想定される。 (イ)年齢による区別は客観条件とはいえず、実質的相当性は不要であるとの反論が想定される。 (ウ)他の施策も加味すれば、合理的関連性・実質的相当性があるとの反論が想定される。 (エ)よって、Xの意見は適切でない。 (2)年齢要件の男女格差の14条1項適合性 ア.男女の就労状況、収入の格差を是正するアファーマティブ・アクションであるから実質的相当性は不要であるとの反論が想定される。 (ア)アファーマティブ・アクションとは、格差解消を目的として劣位にある属性の者を優遇することをいう。 (イ)仮に、アファーマティブ・アクションと評価するとしても、実質的相当性の審査が不要であるとはいえない。目的が格差の解消にあっても、不利益を受ける者にとっては偶然の事情に変わりはないし、行き過ぎた逆差別となるおそれもあるからである。 (ウ)以上から、私は、上記反論は適切でないと考える。 イ.男女の就労状況、収入の格差の実情を示す統計が存在するとの反論が想定される。 ウ.よって、Xの意見は適切である。 2.旧遺族年金受給者の受給資格喪失の25条適合性 ア.29条1項、2項は個々の国民の主観的権利として財産権を保障し(森林法事件判例参照)、国有農地売払特措法事件判例は不利益変更がその制約となることを前提とする。これに対し、25条は国の責務を定める客観法であり、個々の国民の主観的権利を保障するものではない(堀木訴訟判例参照)から、社会保障給付の制度後退には国有農地売払特措法事件判例の趣旨は及ばないとする反論が想定される。
イ.子のいる妻が遺族年金受給資格を欠くことになっても、子が遺族年金を受給でき、家庭全体では月2万円程度の減収にとどまるし、新制度で遺族年金を受給できない場合にも、旧遺族年金受給者の期待利益を考慮した経過措置(骨子第6)がある点を考慮すべきとの反論が想定される。 ウ.よって、Xの意見は適切である。 以上 |