令和5年司法試験論文式公法系第2問参考答案

【答案のコンセプト等について】

1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点があります。したがって、①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示することが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。下記に掲載した参考答案(その1)は、この①~③に特化して作成したものです。規範と事実を答案に書き写しただけのくだらない答案にみえるかもしれませんが、実際の試験現場では、このレベルの答案すら書けない人が相当数いるというのが現実です。まずは、参考答案(その1)の水準の答案を時間内に確実に書けるようにすることが、合格に向けた最優先課題です。
 参考答案(その2)は、参考答案(その1)に規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をしたものです。参考答案(その2)をみると、「こんなの書けないよ。」と思うでしょう。現場で、全てにおいてこのとおりに書くのは、物理的にも不可能だと思います。もっとも、部分的にみれば、書けるところもあるはずです。参考答案(その1)を確実に書けるようにした上で、時間・紙幅に余裕がある範囲で、できる限り参考答案(その2)に近付けていく。そんなイメージで学習すると、よいだろうと思います。

2.参考答案(その1)の水準で、実際に合格答案になるか否かは、その年の問題の内容、受験生全体の水準によります。今年の公法系第2問についていえば、時間内に事例、会議録、参照条文を読解して4つの小問にすべて答えるというのは、普通の受験生には厳しいという印象です。また、設問1(1)の処分性のところは、本気で検討すると様々なことを論じることができ、ここで時間を使い過ぎてそれ以降の設問が時間不足になった人もいたでしょう。小問2(2)も、解散命令の要件と効果の関係が微妙だったり、実績資料等のヒントをうまく判断枠組みに乗せて整理することが難しかったりするので、うまくまとめきれずに途中答案のようになった人もいたのではないかと思います。そのようなことを考えると、参考答案(その1)の水準でも、合格レベルになりそうです。

3.参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集行政法【第2版】」に準拠した部分です。なお、参考答案(その1)では、処分性について、多くの概説書等で現在でも採用されているごみ焼却場事件判例の判断基準を公権力性と直接法効果性に読み替える立場(いわゆる「実務的研究」説)を採用しています。

【参考答案(その1)】

第1.設問1

1.小問(1)

(1)処分とは、公権力主体たる国・公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいい(ごみ焼却場事件判例参照)、公権力性と直接法効果性があればこれを満たす。

ア.公権力性とは、法律を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行うことをいう(労災就学援護費事件判例参照)
 解職勧告は法56条7項を根拠とし、所轄庁という優越的地位に基づいて一方的に行うから、公権力性がある。

イ.しかし、同項は「勧告」の文言を用い、不遵守に対する罰則規定がない。したがって、解職勧告は行政指導(行手法2条6号)であって、直接法効果性がない。

(ア)医療法勧告事件判例を参考にすれば処分性を認めうるとの見解が想定される。
 確かに、同判例は、法的効果と同視しうる不利益の確実性、重大性を考慮して行政指導である勧告に処分性を認めた。本件のように、解職勧告に従わないと、「他の方法により監督の目的を達することができない」(法56条8項)と判断され、解散命令を受けるに至る可能性は否定できない。解散命令を受ける不利益は重大といえる。
 しかし、解職勧告に従わないとほぼ確実に解散命令を受けるという事情はないから、確実性がない。
 したがって、同判例を参考にしても処分性は認められない。

(イ)解職勧告に「弁明の機会」(同条9項)が設けられているから、処分性が認められるとの見解が想定される。
 確かに、弁明手続は処分に関して設けられることが多い(行手法13条1項2号)。
 しかし、同法13条1項1号の聴聞手続の対象をみると、重大なものであり、弁明手続の対象は軽微といえる。したがって、弁明手続が設けられただけでは処分として法定されたとはいえない。

(2)よって、本件解職勧告は処分に当たらない。

2.小問(2)

(1)「法律上の利益を有する者」(行訴法9条1項)とは、処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(小田急高架訴訟判例参照)
 処分の相手方は当然に上記の者に当たるが、相手方に準ずる者も、同様に上記の者に当たる。
 本件解散命令により、DはAの業務執行理事の地位を失うだけでなく、評議員及び役員となることができなくなる(法40条1項5号、44条1項)。
 したがって、Dは本件解散命令の相手方に準ずる者といえる。

(2)よって、Dに原告適格が認められる。

第2.設問2

1.小問(1)

(1)「重大な損害」(行訴法25条2項)の判断に当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質・程度、処分の内容・性質をも勘案する(同条3項)。

(2)本件解散命令により、Aは経営している社会福祉事業を継続することができなくなるという不利益を被る。特に、Aは特別養護老人ホーム、老人デイサービスセンター等の複数の社会福祉事業を経営し、B県における社会福祉事業の中核を担ってきたため、多数のAの福祉サービス利用者やAの従業員にも不利益が生ずる。

(3)本件改善勧告、本件改善命令を経ても、Aから依然として具体的な改善策が示されていない現状ではAの経営基盤は不安定であり、これを放置すれば、Aの福祉サービス利用者の待遇が悪化し、B県におけるAの多数の利用者にも福祉サービス利用上の被害が及ぶとのB県の反論が想定される。
 しかし、弁護士に対する業務停止3か月の懲戒処分について執行停止を認めた最決平19・12・18がある。同判例の事案とは損害の回復の程度、損害の性質・程度は異なるが、社会福祉事業と弁護士業務は公益性・公共性で共通する。弁護士業務も放置すれば利用者に被害が及ぶおそれがあるが、上記決定は執行停止を認めた。上記決定はわずか3か月でも執行停止を認めたのだから、より重大な解散命令ならますます執行停止が認められる。

(4)以上から、「重大な損害」がある。

2.小問(2)

(1)裁量の範囲は、法律の文言・趣旨、権利利益の制約、専門技術・公益判断の必要性、制度・手続上の特別規定等から判断する(群馬バス事件、マクリーン事件等判例参照)
 法56条8項は「解散を命ずることができる」の文言を用いる。監督目的達成可能性の評価には専門技術・公益判断の必要がある。
 他方で、同項は、「他の方法により監督の目的を達することができないとき」とし、「認めるとき」の文言を用いない。解散命令の相手方は解散する(法46条1項6号)から、権利利益の制約は重大である。法61条1項2号は、「地方公共団体は、他の社会福祉事業を経営する者に対し、その自主性を重んじ、不当な関与を行わないこと。」と規定する。
 以上から、裁量はあるが、逸脱濫用があれば違法となる(行訴法30条)。

(2)裁量逸脱濫用かは、重要な事実の基礎を欠くか、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くかで判断する(マクリーン事件、呉市学校施設使用不許可事件、小田急本案事件等判例参照)
 B県知事は、Cが退任しないならばAには適正な法人運営が期待できず、「他の方法により監督の目的を達することができない」(法56条8項)として、直ちに本件解散命令を選択した。
 しかし、C自身はAの運営改善に向けて努力しており、貸付けの事実経緯も一部判明してきた。B県知事は、不正がDに起因することを認識しているにもかかわらず、上記判断において本件解職勧告の拒否を重視した。
 上記判断は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くから、裁量逸脱濫用がある。

ア.以下のようなB県の反論が想定される。
 実績資料では、改善命令に対する改善措置が採られた事案では解散を命じなかったが、改善措置が採られなかった事案では、解散が命じられている。
 Aは、本件改善命令に対し、B県知事に対し、本件改善命令を期限内に履行することは困難であると申し出た。Aは、本件解職勧告に対しても、従う意思がない旨を表明した。したがって、改善措置が採られなかった事案といえる。
 したがって、解散命令を選択したB県知事の判断は上記実績に沿うもので、著しく妥当性を欠くとはいえない。

イ.しかし、本件貸付金は1億円で、Aの総流動資産の2分の1に当たるが、解散を命じた例では、Aよりはるかに資産規模の小さい法人である。Dは、本件貸付金の返済は直ちには困難と説明するものの、事実経緯の一部をDから聴取できており、Cは、弁明手続において、本件貸付金を回収する意欲をみせている。他方、解散を命じた例では、使途不明金として理事長個人に流出した結果、破産の危機にまで陥っており、理事長自身が事案の解明にも全く協力せず、当該使途不明金の回収の見込みも立たなかった。以上から、上記反論を踏まえても、結論を左右しない。

(3)よって、本件解散命令は違法である。

以上

 

 

【参考答案(その2)】

第1.設問1(1)

1.狭義の処分とは、公権力主体たる国・公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(ごみ焼却場事件判例参照)

(1)法56条7項は行政指導を指す文言である「勧告」を用い、不遵守に対する罰則規定はない。解職勧告によって遵守義務が発生するとすれば、下命(解職命令)の性質を有するから聴聞を要する(行手法13条1項1号ハ)はずであるが、法56条9項は弁明手続で足りるとするから、遵守義務は発生しないことが前提とされている。

(2)したがって、解職勧告の性質は法的効果のない行政指導(行手法2条6号、32条1項)であって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものでないから、狭義の処分に当たらない(医療法勧告事件判例における藤田宙靖補足意見参照)

2.狭義の処分以外にも、権力的事実行為など抗告訴訟の対象とすべきものは、「公権力の行使に当たる行為」として処分性がある(行訴法3条2項かっこ書)。抗告訴訟の対象とする趣旨の法律の有無、公権力性、相手方の地位への影響、実効的な権利救済等を考慮する

(1)行手法上、弁明手続は、不利益処分の事前手続と位置付けられている(13条1項2号)が、行政指導の事前手続としてすることもある(行手法36条の2第1項ただし書)。前記1(1)のとおり、法56条9項は解職勧告に法的効果がないことを前提とするが、権力的事実行為のように、法的効果がなくても処分とされることもある。同項が解職勧告を抗告訴訟の対象とする趣旨かは判然としない。もっとも、このことは、他の要素から処分性を肯定する余地を否定するものではない。

(2)公権力性とは、法律を根拠とする優越的地位に基づいて一方的に行うことをいう(労災就学援護費事件判例参照)

ア.指導・助言は私人でもなしうるから、行政指導に公権力性は認められないとの見解が想定される。
 しかし、私人になしえない法制度上の特別な位置付けがあるときは、私人の地位でする単なる指導・助言とは異なるから、公権力性を認めうる。医療法勧告事件判例も、医療法に基づく勧告に従わない場合、保険医療機関の指定が拒否されるという私人による単なる指導・助言とは異なる位置付けがあることに着目している。

イ.法は、所轄庁に監督権を与え(56条見出し)、解職勧告は同条7項の監督手段であり、同条8項の「他の方法」の1つと位置付けられる。その不遵守は、解職勧告の方法では監督目的を達しないとの法的評価を基礎づけうるものとして、「他の方法により監督の目的を達することができない」かの考慮要素となることが当然に予定されている。私人になしえない法制度上の特別な位置付けがある。その意味で、解職勧告は、所轄庁が法を根拠とする監督者としての優越的地位に基づいて一方的に行うといえ、公権力性がある。

(3)法的効果のない行為による相手方の地位に及ぼす影響については、法的効果と同視しうる不利益の確実性、重大性を考慮する(医療法勧告事件判例参照)

ア.解職勧告不遵守によって相当程度の確実さで解散命令がされる運用はなく、上記判例によれば不利益の確実性を欠くとの見解が想定される。
 しかし、上記判例は、医療法上の勧告と健康保険法上の保険医療機関の指定が本来は別個の制度に属し、指定拒否は運用上の結果にすぎないことに着目して、高度の確実性を要求したと考えられる。これに対し、解職勧告と解散命令は法の定める同一の監督制度上の手段であって、前記(2)イのとおり、解職勧告不遵守は解散命令の要件である「他の方法により監督の目的を達することができない」かの考慮要素となることが当然に予定されている。したがって、上記判例と異なり、相当程度の蓋然性があれば足りる。解職勧告に至るには、指導監査(法56条1項)、改善勧告(同条4項)、改善命令(同条6項)の手続が積み重ねられた上、改善命令に従わないことを要する(同条7項)。さらに解職勧告にも従わないことは、「他の方法により監督の目的を達することができない」との法的評価の余地を高めるから、解散命令に至る相当程度の蓋然性があり、不利益の確実性があると評価できる。

イ.解散命令により相手方は解散し、法人格を失う(法46条1項6号)から、解散命令に至れば重大な不利益を受ける。

ウ.以上から、解職勧告には、法的効果と同視しうる不利益の確実性、重大性がある。

(4)解職勧告の前提となる改善命令の取消訴訟の提起及び効力停止の申立てや、解散命令がされた段階でその取消訴訟を提起し、効力停止を申し立てる手段、実質的当事者訴訟としての本件解職勧告の違法確認訴訟があるから、解職勧告取消訴訟は実効的な権利救済とはいえないとの見解が想定される。
 しかし、改善命令取消訴訟の主な審理対象は法令違反の有無、改善勧告不遵守に係る正当理由、改善命令の必要性等であり(法56条4項、6項)、解散命令取消訴訟の主な審理対象は監督目的不達、解散命令の必要性等であって(同条8項)、解職勧告の対象役員選定の適否や対象役員の職務遂行の評価は直接の審理対象でない。本件解職勧告の違法確認訴訟では相手方であるA以外のC、Dその他利害関係人に第三者効(行訴法32条1項)が生じない(同法41条1項)。したがって、解職勧告の対象役員選定の適否や対象役員の職務遂行の評価を争う手段としては、上記各手段は実効的な権利救済でない。
 また、解散命令は直ちになされるとは限らないから、解散命令を待つことなく、早期に解職勧告に係る不服を争う機会を与えることは実効的な権利救済に資する。

(5)以上から、解職勧告は、「公権力の行使に当たる行為」として処分性がある。

3.よって、本件解職勧告は、取消訴訟の対象となる処分に当たる。

第2.設問1(2)

1.取消訴訟は、判決の形成力によって処分の法的効果として個人に生じている権利利益の侵害状態を解消させ、その回復を図ることを目的とし、「法律上の利益」(行訴法9条1項)とは、このような権利利益の回復を指す。したがって、「法律上の利益を有する者」とは、処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(小田急高架訴訟判例参照)
 不利益処分の相手方には、当然に原告適格がある。不利益処分は相手方に直接に義務を課し、又はその権利を制限する処分である(行手法2条4号柱書)から、相手方は自己の権利を侵害される者に当たるためである。同様に、処分の相手方以外の者が処分の法的効果による権利の制限を受ける場合には、その者は、処分の相手方に準じ、その処分により自己の権利を侵害される者に当たる(滞納者持分差押事件判例参照)

2.解散命令の効果により、相手方である社会福祉法人は解散(法46条1項6号)するが、その役員も、その地位を失うとともに、評議員・役員となる資格を失う(法40条1項5号、44条1項)という効果を受ける。役員の地位や評議員・役員となる資格は、いずれも外延・帰属の明確な法的地位であって、評議員・役員が社会福祉法人の必要的機関(法36条1項)として様々な権限(法43条、45条の13、45条の16第2項)を有することに照らせば、「権利」というを妨げない。
 以上から、解散命令当時の役員は、解散命令の相手方に準じ、解散命令により自己の権利を侵害される者として、「法律上の利益を有する者」として原告適格が認められる。

3.Dは、本件解散命令当時の業務執行理事であるから、本件解散命令の取消訴訟の原告適格が認められる。

第3.設問2(1)

1.「重大な損害」(行訴法25条2項)は、行政目的達成を一時的に犠牲にしてもなお申立人を救済する必要があるかで判断する(「表現の不自由展かんさい」事件地裁裁判例参照)。同条3項の要素を考慮する。

(1)最決平19・12・18は、業務停止3か月にとどまる事案で「重大な損害」があるとした。本件解散命令は、一時的な業務停止にとどまらず、Aが経営する複数の社会福祉事業の継続を不可能にする点で格段に重く、多数の利用者や従業員にも影響するから、行政目的達成を一時的に犠牲にしてもなお申立人を救済する必要がある。

(2)法25条の趣旨は、福祉サービスの利用者の利益の保護(法1条)を図るため、サービス提供に十分な資産の具備を要求する点にあるところ、Aの経営基盤は不安定で、Aの福祉サービス利用者の待遇が悪化し、B県におけるAの多数の利用者にも福祉サービス利用上の被害が及ぶおそれがあるから、行政目的の達成を一時的にであれ犠牲にすることはできないとのB県の反論が想定される。
 しかし、現時点では、放置すると将来上記おそれがあるというにとどまり、直ちに上記事態に至ることをうかがわせる事実はない。一時的に執行を停止しても、行政目的達成は阻害されない。
 以上から、上記反論は不当である。

(3)上記判例は弁護士業務に求められる高度の公益性・公共性、業務の継続性に着目したと考えられるのに対し、Aの事業は弁護士業務と性質が異なるとのB県の反論が想定される。
 しかし、Aの経営する事業は、特養老人ホーム、老人デイサービスセンター等の社会福祉事業であり、高齢化社会において高齢者の生活ひいては命を預かる点で、弁護士業務に匹敵する公益性・公共性、業務の継続性が求められる。
 以上から、上記反論は不当である。

(4)上記判例は業務停止期間の3か月以内に本案判決が確定する見込みがなく、執行停止がなければ勝訴しても処分の全部を受けたのと同様の結果となり、社会的信用の低下、業務上の信頼関係のき損等が避けられないことを考慮したと考えられるのに対し、本件解散命令については、勝訴すれば法人格を回復して事業を再開できるから、処分の全部を受けたのと同様の結果にはならないとのB県の反論が想定される。
 しかし、本案判決確定まで事業停止を余儀なくされ、社会的信用の低下、業務上の信頼関係のき損等が生じることは同様である。一度失われた信用・信頼の回復は難しい。本案判決確定までの間に従来の利用者は他の施設に移ってしまい、解散命令が取り消されたとしても、従来の利用者を呼び戻すことは困難である。解散によって従業員の解雇や施設財産の処分を余儀なくされた場合には、事業の再開そのものも困難になる。
 以上から、上記反論は不当である。

(5)利用者や従業員の損害は考慮できないとのB県の反論が想定される。
 取消訴訟は主観訴訟であり、執行停止はその仮の救済であるから、申立人以外の者の損害を考慮できるのは、申立人自身の損害と評価しうるときに限られる

ア.デイサービスは日常生活に必要な介護を提供し、特養老人ホームはこれに加え利用者の居所をも提供するもので、サービスの停止は利用者の生活ひいては命に関わる。法1条が「福祉サービスの利用者の利益の保護」を目的に掲げるのも、このような福祉サービスの性質に由来する。AはB県における社会福祉事業の中核を担ってきたから、従来の利用者がB県内において代替サービスを自力で見つけることは困難である。Aとしては、これら利用者の不利益を回避しなければ、A自身の社会的信用の低下、業務上の信頼関係のき損だけでなく、役務提供契約上の責任を負うことにもつながる。利用者の不利益はA自身の損害と評価しうる。

イ.現代社会においては、国民の多くは雇用されることにより生計を維持しているため、企業は雇用を創出する社会的基盤としての役割を有し、とりわけ我が国では、雇用の維持は企業の社会的責務として認識されている(労契法16条参照)。Aとしては、多数の従業員を解雇する事態となれば、A自身の社会的信用の低下、業務上の信頼関係のき損だけでなく、雇用契約上の責任を負うことにもつながる。従業員の不利益はA自身の損害と評価しうる。

ウ.したがって、利用者や従業員の損害を考慮できる。

エ.以上から、上記反論は不当である。

(6)Aの損害は事後の金銭賠償で補填することが不可能ではないとのB県の反論が想定される。
 しかし、平成16年行訴法改正により、「回復の困難な損害」から「重大な損害」の文言に改められた趣旨は、金銭賠償が可能でも、それが困難・不相当な場合には執行停止を認める点にある。上記(4)、(5)のとおり、本件解散命令による損害は、金銭賠償が不可能ではないが、困難・不相当である。
 以上から、上記反論は不当である。

2.よって、「重大な損害」が認められる。

第4.設問2(2)

1.法56条8項は、要件について「他の方法により監督の目的を達することができないとき」とし、裁量を認める文言である「認めるとき」を用いない。他方、効果として、「解散を命ずることができる」とし、裁量を認める文言である「できる」を用いる。しかし、前者の要件を充足するときは、解散命令以外の有効な方法がない以上、方法選択の効果裁量は観念できないし、監督目的不達状況にある以上、解散を命ずることなく放置する不作為裁量も考えられない。そこで、要件・効果を別個に考えて裁量を論じるのでなく、両者を一体とみて、直ちに解散命令を選択するかの判断に係る所轄庁の裁量を検討する。

2.裁量の有無・範囲は、法律の文言・趣旨、権利利益の制約、専門技術・公益判断の必要性、制度・手続上の特別規定等から判断する(群馬バス事件、マクリーン事件等判例参照)
 上記のとおり、法56条8項は「できる」の文言を用いる。監督目的達成可能性の評価には専門技術・公益判断の必要がある。一定の裁量は否定できない。
 もっとも、解散命令により相手方は解散し(法46条1項6号)、法人格を失うという重大な権利制約を受ける。法は、監督の程度が弱い上級行政庁を指す「所轄庁」の文言を用い、61条1項2号は、「自主性を重んじ、不当な関与を行わない」とし、自主性を損なう監督権行使を戒めている。上記裁量は相当程度き束される。

3.裁量逸脱かは、重要な事実の基礎を欠くか、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くかで判断する(マクリーン事件、呉市学校施設使用不許可事件、小田急本案事件等判例参照)が、上記2のとおり、裁量は相当程度き束されるから、比例原則、判断過程の考慮不尽・他事考慮を慎重に検討する。すなわち、処分の必要性に比して不利益が重きに失するときは、社会通念に照らし著しく妥当性を欠く(君が代懲戒事件判例参照)考慮不尽・他事考慮がなければ異なった結論に至る可能性があったときは(日光太郎杉事件高裁判例参照)、処分が社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたといえる(剣道実技受講拒否事件、呉市学校施設使用不許可事件、小田急本案事件等判例参照)

(1)解散命令は相手方の法人格を失わせる重大処分であるから、それに見合う高度の必要性を要する。実績資料を踏まえ判断する。
 解散を命じた例では、金額は1億円と同額であるが、使途不明金で返済が予定されず、Aよりはるかに資産規模の小さい法人で同額でも総資産に占める割合ははるかに大きく、破産の危機にあるという緊急事態で、理事長自身が事案の解明にも全く協力せず、使途不明金回収の見込みも立たずに、改善措置が採られなかったのであり、監督目的達成不能は明白であった。Aは経営破綻状況になく緊急性はないし、CはAの運営改善に向け努力し、貸付けの事実経緯も一部判明してきたから、期限を延長してAに本件調査を完遂させ、必要に応じて再調査(法56条1項、本件要綱7条2項)を求める等の方法により監督目的を達成しうると評価する余地がある。
 したがって、解散を命じた例と同程度の必要性がなく、処分の必要性に比して不利益が重きに失し、社会通念に照らし著しく妥当性を欠く。

(2)解散を命じなかった例では、貸付金が回収されるなど、改善措置が採られたが、Aは改善命令の期限までに改善措置を採らなかった以上、直ちに解散命令をしても著しく妥当性を欠くとまではいえないとのB県の反論が想定される。
 しかし、本件貸付金はその例より5000万円少ない。加えて、B県知事は、今回の不正がDに起因することを認識しているにもかかわらず、本件解職勧告の拒否を本件解散命令において重視した。一般に、解職勧告不遵守が解散命令の考慮要素となるとしても、本件解職勧告については、Cが退任してもDの態度が変わらない限り改善措置を期待できないから、本件解職勧告拒否は監督目的達成を直接左右しない。その点で本件解職勧告は手段の必要性・相当性を欠く違法の疑いがあるが、仮に適法であるとしても、これを重視して解散命令をすることは他事考慮である。他方で、上記(1)に示した事情を十分に考慮すれば、現時点で改善措置がなくても、将来採られる蓋然性があると判断でき、上記解散を命じなかった例と同様の評価に至る可能性があったのに、B県知事は十分に考慮しなかった。考慮不尽である。考慮不尽・他事考慮がなければ異なった結論に至る可能性があった以上、上記反論を踏まえても、本件解散命令は社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたといえる。

(3)以上から、直ちに解散命令を選択したB県知事の判断は、裁量を逸脱する。

4.よって、本件解散命令は違法である。

以上

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