令和5年司法試験論文式民事系第1問参考答案

【答案のコンセプト等について】

1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点があります。したがって、①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示することが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。下記に掲載した参考答案(その1)は、この①~③に特化して作成したものです。規範と事実を答案に書き写しただけのくだらない答案にみえるかもしれませんが、実際の試験現場では、このレベルの答案すら書けない人が相当数いるというのが現実です。まずは、参考答案(その1)の水準の答案を時間内に確実に書けるようにすることが、合格に向けた最優先課題です。
 参考答案(その2)は、参考答案(その1)に規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をしたものです。参考答案(その2)をみると、「こんなの書けないよ。」と思うでしょう。現場で、全てにおいてこのとおりに書くのは、物理的にも不可能だと思います。もっとも、部分的にみれば、書けるところもあるはずです。参考答案(その1)を確実に書けるようにした上で、時間・紙幅に余裕がある範囲で、できる限り参考答案(その2)に近付けていく。そんなイメージで学習すると、よいだろうと思います。

2.参考答案(その1)の水準で、実際に合格答案になるか否かは、その年の問題の内容、受験生全体の水準によります。今年の民事系第1問についていえば、設問1は配偶者短期居住権の条文を見付けられない人、従前の使用貸借の議論を展開してしまう人がいそうですし、設問2は大変な難問で、基本論点に限ってみても、通常の債務不履行の議論を引取義務不履行の場合に応用して書く必要があり、設問3は、転賃料債権への物上代位という意味では典型論点ですが、当てはめ方が難しく、必要な事実の摘示、特に、先に抵当権設定登記があるのでその後の賃貸借はすべて抵当権に劣後するという大前提すら摘示できない人が多そうで、また、無理やり債権譲渡と物上代位の論点にして解答してしまった人も一定数いるようだ、ということ等を踏まえると、参考答案(その1)の水準でも、余裕で合格レベル、場合によっては上位になりそうです。

3.参考答案中の太字強調部分は、「司法試験定義趣旨論証集物権【第2版補訂版】」及び「司法試験定義趣旨論証集債権総論・契約総論」に準拠した部分です。

【参考答案(その1)】

第1.設問1(1)

1.Dは、被相続人Aの配偶者で、Aの所有する甲建物に相続開始時に無償居住していたから、遺産分割による甲建物の帰属確定日又は相続開始時から6か月経過日のいずれか遅い日までの間、甲建物を共同相続したBCに対し、配偶者短期居住権を有する(1037条1項1号)。
 令和5年8月31日現在、遺産分割未了で相続開始時(同年4月1日)から6か月を経過していない。

2.もっとも、DはBCの同意なく甲建物改築工事をし、1階部分で惣菜店を始めた。甲建物は居住用で従前の用法に従った使用とはいえず、1038条1項に違反する。
 Bが、同年8月10日、Dに「あなたには甲建物に住む権利はない。直ちに出て行くように。」と述べた行為は、消滅請求(同条3項)の意思表示と評価できる。これにより、上記1の居住権は、同日に消滅した。

3.よって、Dは、請求1を拒めない。請求2は、同日までに係る部分は拒めるが、その翌日以降明渡しまでに係る部分は拒めない。

第2.設問1(2)

1.Dは、BCとともに甲建物を共同相続した(887条1項、890条)から、共有持分権を有する(898条1項)が、BCの同意なく甲建物を単独使用する。

2.協議を経ずに共有建物を占有する共有者に対し、他の各共有者は当然にはその明渡しを請求できない(判例)。もっとも、他の各共有者は、持分過半数の決定(252条1項前段)を経ることにより、共有建物を占有する共有者に明渡請求をすることができる(同項後段)
 Aの遺言はなく法定相続分に従うから、DBCの持分割合は2:1:1である(898条2項、900条1号、4号本文)。Bは、仮にCの協力を得ても持分過半数に至らない。
 よって、Dは、請求1を拒める。

3.もっとも、Dは別段の合意なく自己の持分を超える使用をしているから、対価償還義務を負う(249条2項)。
 よって、Dは、請求2を拒めない。

第3.設問2(1)

1.契約①で、代金の弁済期は引渡しから2か月とされ、まだ経過していないから、Fの代金債務不履行を理由とする催告解除(541条)はできない。

2.受領遅滞は解除権発生原因でない(413条)。

3.Fの引取義務不履行を理由とする催告解除が考えられる。

(1)買主は当然には引取義務を負わない(555条)。契約①でFが引取義務を負う旨の明示の合意もない。
 しかし、目的物の本件コイは乙池で育成中の100匹の1等級錦鯉全部で、毎日の世話、保管用の池を要するから、Fは信義則(1条2項)上の引取義務を負う。

(2)契約①で本件コイの引渡しは令和4年10月1日にEの事務所で行うとされた。同日早朝、Eは、本件コイを出荷用容器に入れて事務所に運び込み、終日、事務所でFを待ったが、Fは来なかった。Fに引取義務違反があり、「債務を履行しない場合」(541条)に当たる。

(3)同月16日、Eは、Fに、同月30日までに本件コイを受け取りに来なければ同月31日付けで契約①を解除する旨を告げ、「相当の期間を定めてその履行の催告をし」た。

(4)Fは、同年10月30日を過ぎても、本件コイを受け取りに行かなかった。「その期間内に履行がないとき」に当たる。

(5)Eは、釣堀の営業を断念せざるを得なかったから、「軽微」(同条ただし書)でない。

(6)以上から、同月31日に解除の効力が生じる。

4.よって、下線部㋐の主張は正当である。

第4.設問2(2)

1(1)前記第3の3(2)のとおり、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき」(415条1項)に当たる。

(2)免責事由(同項ただし書)は債務者が引き受けていないリスクかで判断する。
 不履行の原因はFが同年9月以降に錦鯉相場が下落したため錦鯉輸出事業計画を中止したことにあり、Fが引き受けていないリスクとはいえないから、免責事由はない。

(3)前記第3の3のとおり、同年10月30日経過時に解除権が発生(同条2項3号)した。

(4)以上から、填補賠償を請求できる。解除はこれを妨げない(545条5項)。

2(1)通常損害(416条1項)とは、契約上当然予見すべき定型損害をいう

ア.Fが引取義務を履行していれば、Eは本件コイ100匹の価格と代金額との差額の利益を得るはずであった。引取義務を履行しないため解除に至ったことによる上記逸失利益は、契約上当然予見すべき定型損害である。

イ.損害算定は、賠償請求権発生時を基準とする(判例)
 前記1の賠償請求権が発生するのは、同(3)の解除権発生時であるから、10月末の時価を基準に本件コイ100匹の価格を算定すると、70万円となる。

ウ.したがって、代金100万円との差額30万円が通常損害として損害範囲に含まれる。

(2)ア.同年10月末から同年11月末までの本件コイの時価下落による10万円の損害は、契約上当然予見すべき定型損害とはいえず、通常損害でない。

イ.「予見すべき」(同条2項)かは、契約におけるリスク分配からみて、不履行時に債務者が賠償を覚悟すべきかで判断する
 Fは錦鯉輸出事業を新規計画し、契約①を結んだ。契約①によれば同年10月1日に本件コイはFに引き渡されるはずであった。Fが引き取らなかったのは、同年9月以降に錦鯉相場が下落したため錦鯉輸出事業計画を中止したことによる。そうすると、契約①におけるリスク分配からみて、Fは、本件コイの時価下落のリスクにつき、不履行時に賠償を覚悟すべきであったといえ、「予見すべき」に当たる。

ウ.以上から、上記損害は特別損害として賠償範囲に含まれる。

(3)よって、賠償請求できるのは本件コイの代金相当額100万円の全部でなく、そのうち40万円の限度にとどまる。

3(1)釣堀の営業利益10万円は契約上当然予見すべき定型損害とはいえないから、通常損害でない。

(2)確かに、同年10月16日、Eは、Fに、乙池は同年11月上旬に釣堀営業のために使用する予定があり、同年10月末までにいったん空にしなければならないことを説明した。
 しかし、契約①締結に当たりEFが釣堀営業に関し交渉した事実はなく、Eは養鯉業者で、釣堀営業は地域の秋祭りに際し計画しただけで、Eは契約①締結後に釣堀営業を計画した。契約①におけるリスク分配からみて、上記Eの説明だけで、Fが釣堀営業に係るリスクについてまで、不履行時に賠償を覚悟すべきであったといえない。「予見すべき」に当たらない。

(3)以上から、上記損害は賠償範囲に含まれない。

(4)よって、釣堀の営業利益10万円について賠償請求できない。

第5.設問3

1.抵当権者は、賃料に対し物上代位権を行使できるが、抵当不動産の賃借人を所有者と同視すべき場合を除き、抵当不動産の賃借人は「債務者」(372条、304条1項本文)に当たらず、抵当権者は、転賃料に対して物上代位できない(判例)
 丙建物には、同年2月1日に抵当権の設定・登記がされた。契約②③④はその後にされたから、抵当権者Hに対抗できない。Lは、契約③の賃借人及び契約④の転貸人であり、Gは丙建物の所有者で契約②③の賃貸人である。契約③④は、β債権が弁済期に弁済されなかったため、LがGKに働き掛けて締結された。契約③④締結後も契約②と同様にKが丙建物の使用を継続し、契約④の賃料は契約②と同じ月額25万円である。契約③の賃料は月額3万円だが、実際には支払われないこととされた。
 以上から、抵当不動産である丙建物の賃借人Lを所有者Gと同視すべきである。
 したがって、契約④に基づく転賃料債権も物上代位の対象となりうる。

2.もっとも、上記物上代位の対象は、被担保債権の不履行後に発生した転賃料債権に限られる(371条)。
 確かに、5月分賃料は、6月分賃料と合わせて同年6月30日に支払うこととされた。
 しかし、上記合意は弁済期を延期しただけで、5月分賃料債権は5月末日の到来時に発生する。被担保債権であるα債権が債務不履行となるのは令和5年5月31日経過時である。
 したがって、5月分賃料債権は被担保債権の債務不履行前に発生しており、物上代位の対象とならない。

3.よって、同年5月分賃料債権についての物上代位権の行使は認められないが、同年6月分以降賃料債権についての物上代位権の行使は認められる。

以上

 

 

【参考答案(その2)】

第1.設問1(1)

1.Dは、被相続人Aの配偶者(1028条1項第1かっこ書)で、Aの所有する甲建物に相続開始時に無償居住していたから、遺産分割による甲建物の帰属確定日又は相続開始時から6か月経過日のいずれか遅い日までの間、甲建物を共同相続したBCに対し、配偶者短期居住権(以下、単に「居住権」という。)を有する(1037条1項1号)。
 令和5年8月31日現在、遺産分割未了で相続開始時(同年4月1日)から6か月を経過していない。

2.もっとも、DはBCの同意なく甲建物改築工事をし、1階部分で惣菜店を始めた。甲建物は居住用で店舗として使用されたことはない。従前の用法に従った使用とはいえず、1038条1項に違反する。

(1)Bは、同年8月10日、Dに「あなたには甲建物に住む権利はない。直ちに出て行くように。」と述べた。消滅請求(同条3項)の意思表示と評価できるか。
 確かに、上記発言は居住権の発生自体を認めない趣旨で、一度発生した居住権を消滅させる趣旨でないともみえる。しかし、前記1のとおり、客観的にDの居住権が発生しており、Bが甲建物改築及び1階部分での開店の事実を知って上記発言をしたことから合理的に解釈すれば、上記発言は消滅請求の意思表示と評価できる。

(2)共同賃貸人による賃貸借契約解除は管理に当たり、持分過半数を要する(252条1項前段)が、消滅請求も同様に持分過半数を要するか。
 確かに、1038条3項の消滅請求は、居住権が法定債権で直接には契約の規定が適用されず、解除はできないことから認められたもので、解除と同様の機能を有する。
 しかし、賃貸借は有償契約で、その解除は他の共有者の賃料を受ける利益を失わせるから管理として持分過半数を要するが、居住権は無償で消滅請求は単に他の共有者の義務を免れさせるだけであるし、配偶者の用法遵守義務違反から建物価値を保全するから、保存行為といえ、各共有者は単独行使できる(252条5項)。
 したがって、Bは持分過半数を要せず単独行使できる。

(3)消滅請求前の使用利益返還を配偶者に強いるのは配偶者保護という居住権制度の趣旨に反するから、消滅請求に遡及効はなく、将来効にとどまる。

(4)以上から、居住権は同日に消滅し、Dは、その翌日以降の使用利益を不当利得(703条)として返還する義務を負う。なお、1040条1項ただし書は、「配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては」とし、居住権消滅に基づく債権的明渡請求(同項本文)との関係で特に共有持分保有の抗弁を認める規定であるから、共有持分権に基づく明渡請求である請求1との関係では適用がない。

3.よって、Dは、請求1を拒めない。請求2は、同年8月10日までに係る部分は拒めるが、同月11日から明渡しまでに係る部分は拒めない。

第2.設問1(2)

1.Dは、BCとともに甲建物を共同相続した(887条1項、890条)から、共有持分権を有する(898条1項)が、BCの同意なく甲建物を単独使用する。

2.協議を経ずに共有建物を占有する共有者であっても、自己の持分の限度で共有建物を占有する権原を有するから、他の各共有者は、共有建物を占有する共有者に対し、当然にはその明渡しを請求できない(判例)

(1)共有建物の占有利用は管理事項であるから、他の各共有者は、持分過半数の決定(252条1項前段)を経ることにより、共有建物を占有する共有者に明渡請求をすることができる(同項後段)
 Aの遺言はなく法定相続分に従うから、DBCの持分割合は2:1:1である(898条2項、900条1号、4号本文)。Bは、仮にCの協力を得ても持分過半数に至らない。上記方法による明渡請求はできない。

(2)使用継続によって建物価値が減少する場合には、使用者に対し、直ちに明渡請求することが建物価値保全に必要といえるから、明渡請求は保存行為といえ、各共有者が単独でできる(252条5項)。
 既に改築工事は終わっており、現在Dは2階に居住し1階で惣菜店を営んでいる。惣菜店の営業によって建物の価値が直ちに低下するとは考えにくいから、使用継続によって建物価値が減少するとはいえない。原状回復請求等の余地はあるとしても、上記方法による明渡請求はできない。

(3)よって、Dは、請求1を拒める。

3.もっとも、Dは別段の合意なく自己の持分を超える使用をしているから、対価償還義務を負う(249条2項)。対価償還請求権は単純な金銭債権であり、持分割合に応じて各共有者に分割帰属する。
 Bには、甲建物賃料相当月額20万円のうち持分割合4分の1に相当する1か月当たり5万円の対価償還請求権が分割帰属するから、これを単独行使できる。
 よって、Dは、請求2を拒めない。

第3.設問2(1)

1.契約①で代金の弁済期は引渡しから2か月とされ、まだ経過していないから、Fの代金債務不履行を理由とする催告解除(541条)はできない。

2.受領遅滞は解除権発生原因でない(413条)。なお、いわゆる債権法改正前の同条は「遅滞の責任を負う」の文言を用い、具体の効果を明定しなかったため、「責任」とは債務不履行責任であり、解除権発生も含まれると解釈する余地があったが、同改正により同文言は削除され、具体の効果が明定されたから、上記解釈は成立しない。

3.Fの引取義務不履行を理由とする催告解除が考えられる。

(1)買主の義務は原則として代金支払に尽きる(555条)のであって、当然には引取義務を負わない。契約①の締結に際し、Fが引取義務を負う旨の明示の合意もない。
 しかし、目的物の本件コイは1等級錦鯉で、単に倉庫等に保管するのでは足りず、毎日の世話、保管用の池の確保、水質維持等の特別の管理を要する。Fが引き取らない場合、Eは、通常の売買では生じない上記管理の継続を強いられる。それも1匹や2匹でなく、乙池で育成中の100匹全部である。Fが増加費用を負担する(413条2項)だけでは解決にならないから、EF間において、上記場合にはFの債務不履行となり、Eは解除して上記管理から解放されうることが当然の前提とされていたといえる。
 以上から、Fは、黙示の合意に基づく引取義務を負う。

(2)ア.引取義務とは、弁済提供があれば引き取るべき義務をいうから、弁済提供がなければ遅滞とならないのが原則である。
 契約①で引渡日は令和4年10月1日、履行場所はEの事務所とされた。Eの債務は確定期限つき取立債務である。一般に、取立債務は債権者の協力を要するから現実の提供は不要であるが、口頭の提供は必要とされる(493条ただし書)。もっとも、確定期限つき取立債務においては、口頭の提供がなくても、履行期の引取りがないことで当然に引取義務遅滞となるのではないか。
 確かに、履行遅滞との関係では、債務者は債権者の協力を待たざるをえず、遅滞と評価できないから、弁済提供がなくても、債権者の必要な協力があるまで遅滞とならないとされ、これと同様に考えれば引取義務遅滞との関係でも口頭の提供は不要とみえる。とりわけ、確定期限つき取立債務については、確定した履行期日に債権者が取立てに来ることが当然予定されるから、受領の催告をする意味がないともみえる。
 しかし、消極に売主自らが遅滞責任を免れるのと、積極に買主の引取義務遅滞を追及するのとでは場面が異なる。確定期限つき取立債務であっても、売主が引取遅延に無関心でなく、直ちに引取りを求める旨の意思の通知として、受領の催告には意味があり、その前提として準備を要するといえる。
 以上から、口頭の提供は必要である。

イ.本件コイを引き渡すには出荷用容器に入れる必要があるが、同容器に入れたままでは長期保管できないと考えられること、前日に連絡があれば乙池から同容器に入れて当日引き渡すことが可能なことから、乙池に戻した後も準備が継続していると評価できる。
 令和4年10月2日の朝、Eは、Fに対し、引渡日が過ぎたので早急に本件コイを受け取りに来てもらいたいこと、その際は前日までに連絡が欲しいことを伝えたから、準備に加えて受領の催告(口頭の提供)がされた。

ウ.取立債務については、引取義務遅滞の評価に当たり、取立てに必要な相当期間を考慮すべきである。
 上記イの提供後、Fからは特に連絡がないまま2週間が過ぎた。取立てに必要な相当期間を経過したと評価できる。

エ.以上から、Fは、遅くとも同月16日に引取義務遅滞に陥っている。

(3)同日、Eは、Fに対し、同月30日までに本件コイを受け取りに来なければ同月31日付けで契約①を解除する旨を告げた。同月30日までにFの引取りがないことを停止条件とする解除の意思表示があるとみえる。しかし、一般に、履行の提供の事実は本来債務者が主張・立証すべきであるところ、「催告期間内に履行がないこと」を停止条件とする解除と考えると、条件成就について債権者が主張・立証責任を負うことになってしまうから、債権者の合理的意思解釈から、「催告期間が経過したときは解除する。」という停止期限付解除の意思表示と考える。一般に、遡及効のある単独行為である解除は相手方の地位を不安定にする点で期限に親しまないが、停止期限付解除の意思表示は、債務者に履行機会を与える点に変わりはなく、債務者の地位を不安定にすることもないから、有効である
 以上から、2週間の相当期間を定めた催告に加え、その経過を停止期限とする解除の意思表示がされたといえる。

(4)買主本来の債務は代金債務であり、引取義務は付随義務にとどまる。付随義務違反が「軽微」(同条ただし書)かは、契約目的達成に不可欠又は重大な影響を与えるかで判断する(判例)
 Fは本件コイの全部の引取りをしない。Fの代金債務の弁済期は引渡しから2か月とされ、Fが引き取らない限り、Eは代金債務を回収できないから、契約目的達成に不可欠といえる。
 以上から、「軽微」でない。

(5)停止期限である同月30日の経過により、同月31日に契約①は解除された(540条1項)。

4.よって、下線部㋐の主張は正当である。

第4.設問2(2)

1(1)前記第3の3(2)のとおり、Fに引取義務不履行(415条1項)がある。

(2)免責事由(同項ただし書)は債務者が引き受けていないリスクかで判断する。債務不履行責任の根拠は契約の拘束力にあり、過失責任ではない以上、無過失や不可抗力(419条3項参照)ではなく、契約等から定まるリスク分配という観点から考えるべきだからである。支配・考慮・回避が可能であったかを考慮する(ウィーン売買条約参照)
 不履行の原因は、Fが同年9月以降に錦鯉相場が下落したため錦鯉輸出事業計画を中止したことにある。相場下落自体はFの支配が及ばず、回避できないとしても、計画を中止するかはFが自由に決められる。錦鯉相場が変動しうることは契約①締結時に考慮でき、錦鯉輸出事業をしようとする者は、事業に内在するリスクとして、錦鯉相場の下落リスクを自ら負担すべきである。契約①でそのリスクを特にEが引き受ける合意はない。
 以上から、Fが引き受けていないリスクとはいえないから、免責事由はない。

(3)前記第3の3のとおり、同年10月30日経過時に解除権が発生(同条2項3号)した。

(4)以上から、遅延賠償に加え、填補賠償も請求できる。解除はこれを妨げない(545条5項)。

2.損害とは、本旨履行があったとした場合とそれがない現状との財産状態の差額をいう(差額説)。通常損害(416条1項)とは、契約上当然予見すべき定型損害をいう

(1)代金相当額は、通常、代金債務の履行に代わる性質を有するが、契約上、引取義務が認められるときは、引取りがあったならば代金支払に至るのが通常と考えられるから、引取義務の履行に代わる性質をも有し、契約上当然予見すべき定型損害となる。
 もっとも、不履行と同一の原因により債権者が得た利益は、賠償額から控除される(損益相殺)。本旨履行のない現状の財産状態には、不履行で得た利益が含まれるからである

ア.Eは、引取義務違反によって本件コイの引渡しを免れる利益を得たから、本件コイの価値相当額は賠償額から控除される。
 賠償請求権は、内容が確定したものとして発生するから、損害算定は、賠償請求権発生時を基準とする(判例)
 前記1の賠償請求権が発生するのは、同(3)の解除権発生時であるから、10月末の時価を基準に本件コイ100匹の価値を算定すると、70万円となる。

イ.したがって、100万円から70万円を控除した30万円が通常損害として損害範囲に含まれる。

(2)上記のとおり、Fの引取義務違反による通常損害の算定は10月末の時価が基準とされるから、同年10月末から同年11月末までの本件コイの時価下落による10万円の損害は、通常損害には含まれない。では、特別損害(同条2項)として賠償範囲に含まれるか。

ア.同項の趣旨は、契約のリスク分配を前提に、不履行時の債務者の予見性を規範的に評価する点にあるから、「予見すべき」かは、契約におけるリスク分配からみて、不履行時に債務者が賠償を覚悟すべきかで判断する。遅滞は継続するから、遅滞による填補賠償における不履行時とは、遅滞時から履行可能な最後の時までをいう。
 Fは錦鯉輸出事業を新規計画し、契約①を結んだ。契約①によれば、同年10月1日に本件コイはFに引き渡されるはずであった。Eが相場下落のリスクを引き受ける特約はない。仮に、同日にFが本件コイを引き取っていたとすれば、相場下落の損害を被ったのはFであり、相場下落リスクは輸出事業をしようとするFが事業に内在するリスクとして引き受けるべきであった。Fが引き取らなかったのは、同年9月以降の錦鯉相場下落のため錦鯉輸出事業計画を中止したことによる。Fは、これによって、本来引き受けるべきリスクをEに転嫁する結果となることを容易に予見しえた。
 確かに、Eは、契約①が解除された同年10月31日以降は本件コイを当時の時価70万円で売却する代替取引が可能であり、これによって、同日以降の本件コイの時価下落による損害を回避できた。しかし、上記のとおり、契約①によれば、引渡日以降の相場下落リスクはすべてFが引き受けるべきで、Eに代替取引が可能であったというだけで、引取義務を履行しないFがEにリスクを転嫁することは許されない。
 以上から、契約①におけるリスク分配からみて、Fは、同月末から同年11月末までの本件コイの時価下落のリスクにつき、履行可能な最後の時(同年10月30日)までに賠償を覚悟すべきであったといえ、「予見すべき」に当たる。

イ.以上から、上記損害は特別損害として賠償範囲に含まれる。

(3)したがって、本件コイの代金相当額100万円のうち40万円について損害賠償請求権が発生する。

(4)Eは、直ちに上記請求権を行使できるか。
 受領遅滞は一般に期限の利益喪失事由でなく(137条参照)、契約上買主に引取義務があり、その不履行がある場合も、あくまで引取義務不履行の効果が生じるにすぎず、当然に代金債務の期限の利益が失われ、代金債務不履行による解除・損害賠償請求等ができるとは考えられていない。
 催告期間の末日である同年10月30日にFの引取りがあれば、代金債務の弁済期は同日から2か月後である同年12月30日となり、Eはその時まで売却益を実現できなかったはずであるのに、同年11月30日現在において上記請求を直ちになしうるとすれば、Fの期限の利益を失わせ、Eは解除によって本来の契約利益を超える利益を享受することになり、相当でない。上記請求権は、同年12月30日経過を確定期限として発生するというべきである。
 以上から、同日経過まで上記請求権は行使できない。

(5)よって、同年11月30日現在において、本件コイの代金相当額につき賠償請求できない。

3(1)釣堀の営業利益10万円の損害は、釣堀の営業が不可能となる時期以降にFが引取義務を履行しても発生するから、引取義務の履行に代わるものでなく、引取遅滞による遅延損害の性質を有する。
 錦鯉の売買において、引取遅滞から定型的に生じる損害は世話、保管等のための追加費用であって、釣堀営業利益は契約上当然予見すべき定型損害とはいえないから、通常損害でない。

(2)特別損害として賠償範囲に含まれるか。遅延損害の予見性に関する不履行時とは、遅滞時から遅延損害発生を避けられた最後の時までをいう。
 Eは養鯉業者で、契約①は錦鯉売買契約であり、養鯉営業上の取引そのものである。これに対し、釣堀営業は、乙池に5等級の錦鯉を放ってするから養鯉営業と無関係ではないが、地域の秋祭りに際し計画しただけの付随的・一時的なものにすぎない。契約①の締結過程において、釣堀営業に関する交渉がされた形跡はなく、Fは、Eの養殖池を見て回っているが、当時釣堀として営業している池があったとの事実はない。Eが釣堀営業を計画したのは契約①締結から1か月後で、契約①締結時には、計画すら存在していない。以上から、契約①と釣堀営業の関連性は乏しく、Fは、契約①において、釣堀営業に関し何らのリスクも引き受けていない。釣堀営業のための池の確保は、Eが自らのリスクで行うべきことである。
 確かに、同年10月16日、Eは、乙池は同年11月上旬に釣堀営業のために使用する予定があり、同年10月末までにいったん空にしなければならないことを説明した。しかし、一方的にFに告げただけで、これによって、契約①で全く予定されていなかったリスクを新たにFが引き受けるいわれはない。
 以上から、契約①におけるリスク分配からみて、Fが釣堀の営業利益10万円についてその発生を避けられた最後の時(同年10月30日)までに賠償を覚悟すべきであったといえず、「予見すべき」に当たらない。

(3)したがって、上記損害は賠償範囲に含まれない。

(4)よって、釣堀の営業利益10万円について賠償請求できない。

第5.設問3

1.抵当権は非占有担保であるが、賃料債権に対して抵当権を行使できるとしても、設定者の使用を妨げることにはならない以上、「賃貸」の文言(372条、304条1項本文)に反する解釈をする理由はないから、抵当権者は、賃料債権に対し、物上代位権を行使することができる(判例)。もっとも、抵当不動産の賃借人(転貸人)は被担保債権について責任を負う立場にないし、物上代位を肯定すれば賃借人(転貸人)の利益を不当に害することになるから、抵当不動産の賃借人を所有者と同視すべき場合を除き、抵当不動産の賃借人は「債務者」(372条、304条1項本文)に当たらず、抵当権者は、転賃料債権に対して物上代位できない(判例)。抵当権侵害の目的で転貸借関係が仮装・濫用されたかなどを考慮する。

(1)丙建物には既に同年2月1日設定・登記されたHの抵当権がある。契約②③④はその後にされたから、Hに対抗できない(177条、605条。387条1項も対照。)。
 契約②を維持した場合、Hは、GがKから収取する賃料25万円について物上代位できるから、Lは、Gが収取した賃料からβ債権の弁済を受けられない。

(2)契約③④によっても、実際に丙建物の使用を継続するのは契約②と同じKで、Kが支払う金額も月額25万円で変わらない。使用収益の実態に変化はない。

(3)契約③の賃料は月額3万円で、実際には支払われないこととされた。後者の約定は賃料の免除ないし放棄であり、賃料には抵当権が及ぶため、Hに対抗できない(398条類推適用)。そうであるとしても、HがGの収取すべき賃料に物上代位することで回収できる金額は、月額3万円と著しく低額になる。

(4)契約③④はβ債権が弁済期に弁済されなかったため、LがGKに働き掛けて締結された。LがKから収取する転賃料月額25万円をβ債権弁済に充当する目的でされたと推認される。

(5)以上から、契約③④は、契約②においてGがKから収取した賃料から、Lがβ債権の弁済を受けるのと同様のことを、上記(1)のHによる物上代位を回避しつつ実現しようとするもので、抵当権侵害の目的で転貸借関係が仮装・濫用されたといえる。実質においてLがGに代わってKから月額25万円を収取するだけで、Lに保護すべき独立の利益はないから、LをGと同視すべきである。

(6)よって、契約④に基づく転賃料債権も物上代位の対象となりうる。

2.5月分賃料債権は、被担保債権であるα債権の不履行時(令和5年5月31日経過時)の前に発生しており、371条によれば抵当権が及ばないのではないか。

(1)賃料債権は使用収益の対価である(601条)から、日々刻々の使用収益と同時に発生し、支払時期(614条)は期限にすぎない。
 5月分賃料債権は、同月における日々の使用収益と同時に既に発生し、支払時期が同年6月30日とされたのは期限の合意にすぎず、債権発生時期を左右しないから、抵当権は及ばないともみえる。

(2)しかし、371条は担保権実行手続の1つである不動産収益執行(民執法180条2号)を実体上根拠づけるために創設され、民執法は、担保不動産収益執行に強制管理に関する93条2項をそのまま準用し(188条)、既に弁済期の到来した法定果実をも対象とする。したがって、371条の趣旨は、抵当権の非占有担保性にかかわらず、不履行後は担保権の実行によって設定者の使用収益が制限されうるという当然のことを確認するにとどまり、不履行前に弁済期が到来し、不履行後も収取されずに残存する法定果実に抵当権が及ばない趣旨までは含まない。
 以上から、被担保債権の不履行時に既に発生した賃料債権でも、現実に収取されずに残存するときは、抵当権が及ぶ。

(3)5月分賃料債権は同年6月30日に支払うものとされ、現実に収取されずに残存するから、抵当権が及ぶ。

(4)よって、5月分賃料債権と6月分以降賃料債権のいずれにも物上代位権を行使でき、結論は異ならない。

以上

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