1.今年の民訴設問2課題1では、反射効肯定説に立って判決効の拡張を認めた人もいたでしょう。しかし、結論からいえば、それは適切ではないと思います。
2.反射効については、一般に、「既判力のような訴訟上の効力ではなく、実体法上の効力である。」と説明されます。このこと自体は、学生向けの概説書等にも書いてある。もっとも、学生向けの概説書等では、この「実体法上の」という意味が十分に説明されていないために、受験生の理解が不十分であることが多いと感じます。順を追って説明しましょう。以下の事例を見て下さい。
【事例】 1.甲は、乙に100万円を貸し渡し、丙との間で、丙が乙の負担する貸金債務を保証する旨の保証契約を締結した。 2.甲は、乙に対し、上記貸金債務を免除する意思表示をした。 3.甲は、上記貸金債務の返済日に乙に返済を求めたが、拒否されたため、丙に対し、保証債務の履行として、100万円の支払を請求する訴訟を提起した。 |
上記事例では、甲による請求原因の主張・立証に対し、丙が上記2の免除による主債務消滅を抗弁として主張・立証すれば、余裕で請求棄却にできます。上記2の免除によって主債務が消滅し、これに伴って、保証債務も消滅するからです(付従性)。これは、誰がどうみても、「実体法上の」効力です。
では、以下の事例では、どうか。
【事例】 1.甲は、乙に100万円を貸し渡し、丙との間で、丙が乙の負担する貸金債務を保証する旨の保証契約を締結した。 2.甲は、上記貸金債務の返済日を経過しても乙が貸金の返済をしないため、乙に対し、上記貸金債務の支払を求める訴訟を提起したが、敗訴した。 3.甲は、丙に対し、保証債務の履行として、100万円の支払を請求する訴訟を提起した。 |
上記事例でも、甲による請求原因の主張・立証に対し、丙が上記2の甲敗訴による主債務消滅を抗弁として主張・立証すれば、余裕で請求棄却にできる、というのが、反射効肯定説の帰結です。丙は、甲敗訴以外に、主債務ないし保証債務の消滅原因を主張・立証する必要がない。上記2の甲敗訴の確定判決によって主債務が消滅し、これに伴って、保証債務も消滅するからです(付従性)。すなわち、甲敗訴の確定判決は、免除の意思表示と同じ実体法上の効力を有する。「確定判決によって、実体法上、敗訴当事者が訴訟物に係る権利を処分したのと同じ効果が生じる。」と考えるわけです。これが、「反射効は実体法上の効力である。」と説明される所以です。「既判力は職権調査事項であるが、反射効は当事者の援用を要する。」とされるのも、免除の主張について弁論主義が適用されるのと同じ理屈だと考えれば納得できるでしょう。このことは、「甲は、乙に対し、~の限度で〇〇に係る義務があることを認め、乙は、その余の〇〇に係る権利を放棄する。」という訴訟上の和解が成立した場合、(純粋な訴訟行為説を採らない限り、)その内容に対応する実体法上の効力が生じる(※1)ことを想起すると、「確定判決にも同じような効力があってもいいよね。」と感じられることでしょう。
※1 民法696条。訴訟上の和解について既判力を認めるか、という論点がありますが、「訴訟上の和解に既判力を認めなくても、実体法上の効力を主張すれば問題ないんじゃね?」というのが、既判力否定説の論拠でした。
3.以上のことを理解した上で、以下の事例を考えてみましょう。
【事例】 1.甲は、乙に100万円を貸し渡し、丙との間で、丙が乙の負担する貸金債務を保証する旨の保証契約を締結した。 2.甲は、上記貸金債務の返済日を経過しても乙が貸金の返済をしないため、乙に対し、上記貸金債務の支払を求める訴訟を提起し、勝訴した。 3.乙にはめぼしい財産がなかったことから、甲は、丙に対し、保証債務の履行として、100万円の支払を請求する訴訟を提起した。 |
上記事例において、甲による請求原因の主張・立証に対し、丙において、主債務の弁済の抗弁を主張・立証し、これが認められたとしましょう。この場合に、甲の側で、上記2の甲勝訴(乙敗訴)による反射効、すなわち、何らかの実体法上の効力を主張して、再抗弁とすることができるでしょうか。仮に、敗訴した乙が、甲に対し、100万円の債務を新たに負担する意思表示をしたのと同じ効果が生じるとしましょう。これは、「確定判決によって、実体法上、敗訴当事者が訴訟物に係る権利を処分したのと同じ効果が生じる。」という反射効肯定説からは、認めることのできる帰結です。しかし、敗訴当事者でない丙がこれを保証したのと同じ効果が生じるとまでは、いうことができません(※2)。したがって、仮に、甲が再抗弁として、上記2の甲勝訴(乙敗訴)による乙の新たな債務負担を主張したとしても、主張自体失当です。すなわち、このような事案では、反射効は作用しないのです。
※2 乙が主債務を復活させる意思表示をしたのと同じ効果であると考えたとしても、これを丙に対して対抗できないというのが、実体法上の解釈論の帰結です。通常は債権譲渡における抗弁放棄の意思表示の解釈論(主債務者が、債権の譲受人に対し、主債務消滅の抗弁を放棄する意思表示をしても、保証人には対抗できない。)として登場する考え方ですね。
4.本問はどうか。問題文をみれば、上記3と同様の事案であることがわかります。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) Xは、Yに対して令和3年5月20日に、弁済期を同年11月末日として200万円を貸し渡し、既に弁済期は到来している旨を主張して、令和4年5月9日、Yを被告として200万円の支払を求める訴えを提起した(以下、この訴えの訴訟物の内容をなす貸金債権を「甲債権」といい、この訴えに係る訴訟手続を「本件訴訟」という。)。 (中略)
甲債権についてはYの兄Zが保証しており、Zは、第3回口頭弁論期日から、Yを補助するために補助参加をしている。
(中略) L2:Zの説明によると、XがZに対して保証債務の履行を求めて訴えを提起する可能性があります。その場合、Zとしては甲債権の存在を争うことになると思いますので、XのZに対する上記訴えに係る訴訟手続において、甲債権の存在を認めた前訴確定判決に基づく何らかの拘束力が作用するか否かが問題になります。そこで、この点を検討してください。これを「課題1」とします。 (引用終わり) |
したがって、反射効肯定説からも、前訴確定判決の反射効が作用するとはいえない。なので、反射効肯定説の立場から、Zが甲債権の存在を争うことができないとすることは、評価を下げるでしょう。
5.なお、反射効については、これを既判力の拡張として再構成する立場もありますが、この立場は、手続保障が与えられなかった者については既判力の不利な拡張を認める正当化根拠を欠くとして、敗訴当事者以外の者への不利な拡張は認めません。なので、この立場からも、やはりZへの拡張を認めるのは無理でしょう。補助参加人としての手続保障があった点をどう考えるか、という問題は一応ありますが、当事者としての手続保障がないことは同様ですから、少数説である新既判力説に立たない限り、既判力の拡張を認めることは難しいと思います。