1.今年の刑訴設問2。現場で解いていて、ある文言に気になった人がいたかもしれません。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 5 ……(略)……。そこで、Qは、甲方から押収されたピッキング用具と同種のもの及び本件犯行時にV方に設置されていた錠と同種の特殊な錠を準備し、同日、同署において、甲に対し、「この道具を使って、この錠を開けられますか。」と尋ねた。甲は、随時説明しながらピッキング用具を使って解錠した。後日、Qは、その解錠の状況につき、【実況見分調書①】を作成した。 (中略) 6 H地方検察庁の検察官Rは、同月8日、……(略)……同検察庁において、Vを立会人とした実況見分を実施した。その際、Rは、前記ゴルフクラブと同種のものを準備し、検察事務官Sを犯人に見立て、Vに対し、被害状況について説明を求めつつ再現させた上、その再現状況を写真撮影した。後日、Rは、この結果につき、【実況見分調書②】を作成した。 |
実況見分調書について、「後日……作成した。」と書いてある。受験生の中には、実況見分調書というのは、実況見分をやりながら、リアルタイムで調書にしている、というイメージを持っている人が結構いたはずです。そのような人が、これに気付いてしまうと、「あれっ、実況見分調書に321条3項を適用できるのって、実況見分と同時かその直後に調書にしていることが根拠なんだから、『後日』作成した本問では、その理由が当てはまらないんじゃないの?」と思ってしまう。そうして、「実況見分調書を後日作成した場合にも、321条3項を適用できるか。」という感じのことを、論点として書いてしまった。そんな人もいたかもしれません。
2.しかし、結論としては、それは単なる余事記載です。なぜなら、そもそも実況見分調書というものは、実況見分をしながらリアルタイムに作成するのではなく、後日、実況見分で得られた資料を整理して作成するものだからです。321条3項を適用できる根拠として、実況見分と同時かその直後に調書にしているというニュアンスの説明がされることがありますが、それは不適切なのです。このことを、元東京高等検察庁検事(※)の渡辺咲子教授が指摘しています。
※ 明治学院大学法科大学院教員紹介参照。
(渡辺咲子「「税関職員が犯則事件の調査において作成した書面は,検証の結果を記載した書面と性質が同じであると認められる限り,刑訴法321条3項所定の書面に含まれる。」 との判断が示された事例 ―東京高判平26・3・13高刑集67巻1号1頁―」『明治学院大学法科大学院ローレビュー』第24号(2016年) 157頁より引用。太字強調及び※注は筆者。) 特に,問題は,②について,業務性のほか,「検証の直後に」作成されることが挙げられている点である。これが「調書」が採証活動の直後に作成されることを求めているとすれば,疑問がある(以下,本稿では,実施主体を問わず,「五官の作用によって対象の存否,性質,状態,内容等を認識,保全する処分」を「検証」と呼ぶこととし,特に刑事訴訟法上の検証を指す場合には,「強制処分である検証」とする)。検証に当たって,そのの(※注:ママ)結果をメモ書きするのは当然であるが,清書した調書は,これに基づき後日作成されるのが一般である。特に,図面や写真の整理には相当の時間がかかる。採証活動の結果が書面化されるまでの時間は,まさに真正に作成されたかどうかを判断するための要素に過ぎないのであって,3項書面をいわゆる伝聞例外とする趣旨に取り込むべきものではないであろう。 (引用終わり) |
本問は、この普通の取扱いをそのまま事実として記載した。それだけのことです。もっとも、これは普通の受験生が知らなくても仕方がない。なので、「後日作成した」ことに着目して論じてしまっても、それ自体によって減点されることはないでしょう。しかし、その部分には点が付かないので、本来であれば書けたはずのことを書けなくなります。結果として、評価を下げやすくなったでしょう。
3.このようなことに気が付いてしまった場合、2つのことを思い出す必要があります。1つは、「基本論点なのか。」ということ。基本論点でなければ、大きな配点がある可能性は低くなります。敢えて配点の低い事柄に文字数を費やすくらいならば、より配点の大きい事柄を優先して、論述した方が良い。もう1つは、「多くの受験生が書くだろうか。」ということです。応用論点であっても、設問で正面から問われていたり、事案の特殊性が見え見えな場合には、多くの受験生が書いてきます。そのような場合は、そこに配点を置いても適正な得点分布を実現し得るので、配点が置かれることが多い。応用論点は、いわゆる「正解」でなくても、自分なりに問いに答えていれば点が付くので、自分だけが書いていないと、差を付けられてしまいます。逆にいえば、誰も書かないような応用論点には、大きな配点はない。誰も書かない応用論点に大きな配点を置いてしまえば、適正な得点分布を実現できなくなるからです。そのようなものは、書いても得点効率が悪いので、よほど時間に余裕があるとき以外は、書かない。
今回のケースでいえば、「後日作成された実況見分調書に321条3項を適用しうるか。」なんて論点は聞いたことがなかったはずです。なので、基本論点ではない、と判断できる。設問で、その点が明示に問われているわけでもなく、「後日」の2文字に着目する人なんて、あんましいないだろうから、多くの受験生が書くとも思えない。しかも、本問では、他に書かなければいけないことがたくさんある。こうしたことを考慮すれば、仮に気が付いてしまっても、「こんなん書いてる場合じゃないぞ。」と判断できたでしょう。今回のケースで大展開しちゃったよ、なんて人はほとんどいないでしょうが、「何か論点っぽいのに気付いちゃった。」という場合の対応策として、参考にしてみて下さい。