令和5年予備試験口述試験(最終)結果について(4)

1.以下は、直近5年の職種別の受験者数の推移です。ただし、法務省の公表する資料において、「公務員」、「教職員」、「会社員」、「法律事務所事務員」、「塾教師」、「自営業」とされているカテゴリーは、まとめて「有職者」として表記し、「法科大学院以外大学院生」及び「その他」のカテゴリーは省略しています。なお、「無職」には、アルバイトを含みます。

有職者 法科大学院生 大学生 無職
令和
4240 1265 3340 2475
令和
3879 1064 3141 2116
令和
4360 1058 3508 2371
令和
5143 1067 3786 2514
令和
5663 496 3953 2704

 令和4年は、すべての職種で受験者が増加していました。令和5年は、法科大学院生の受験が激減しています。在学中受験が可能になったことによるものです。「それにしても減りすぎじゃね?」と思うかもしれませんが、それは、職種の記載が予備試験出願時のものであることを踏まえて考えると、よく理解できます。

(「令和5年司法試験予備試験 受験願書の記入要領」より引用)

 受験時ではなく、出願時現在の職種を記入してください。

(引用終わり)

 令和5年予備試験の出願をするのは、令和5年3月6日から同月17日までです(令和5年司法試験予備試験受験案内)。この時点で既修2年、未修3年の者は、同月に法科大学院を修了し、同年の司法試験を受験するので、予備を受験する余地がありません。また、既修1年、未修2年の者は、同年4月から既修2年、未修3年になって、同年の司法試験を在学中受験資格で受験するので、やはり予備を受験する余地がない(※1)。そうすると、残るは、未修1年の者だけです。しかも、未修1年の者も、同年4月には未修2年になり、翌年には未修3年になって、在学中受験資格を取得する。したがって、予備試験に合格して受験資格を得る必要はないのです。こうして、令和5年以降は、理屈の上では「法科大学院生」の職種で受験して受験資格を得る必要のある人は、存在しなくなったのです。この理屈どおりに考えると、令和5年予備試験に「法科大学院生」の資格で出願した者は、未修1年の者であり、その者は、受験資格を得る目的ではなく、模試代わりの腕試しのためであった、ということになるわけですね。そう考えると、496人も受験者が存在することは、むしろ、「ちょっと多すぎじゃね?」とも感じられるくらいです。
 ※1 厳密には、在学中受験の受控えをして予備試験の方を受ける、という余地はあります。予備試験であれば受験回数に参入されないので、模試感覚で受験するという人もいないとはいえないでしょう。もっとも、かなり少数でしょうから、ここでは考慮の外に置いています。

 さて、法科大学院生以外の職種に目を転じると、すべて増加しています。法曹コースの影響によって、大学生の予備受験が減少するかもという話もありましたが、受験者の数自体を抑制する効果はないといえそうです。
 有職受験者の増加も目立ちます。コロナ禍前の令和元年との比較でみても、1400人程度増加している。「仕事をしながら法曹を目指すことができる。しかも、受験回数や受験期間に制限がないので、マイペースに勉強できる。」ということで、受験してみようと思う人が増えているのでしょう。
 気になるのが、無職のカテゴリーです。このカテゴリーに属するのは、多くが専業受験者です。特別の事情がなければ毎年受験を継続する一方、新規参入するのは、司法試験の受験回数を使い切って予備に回る人くらいです(※2)。そのため、横ばい傾向となりやすいのです。とりわけ、令和5年から在学中受験が可能になり、受験回数を使い切った人も、既修で法科大学院に再入学すれば1年待つだけで再受験できるので、予備に回る人は減ったことでしょう。それにもかかわらず、令和5年は200人くらい増えている。コロナ禍前の令和元年と比較しても、やはり200人以上増えています。これは、不思議なことです。1つの可能性としては、高校生の受験者が増えたからではないか、ということが考えられます。高校生は、「無職」のカテゴリーに含まれるからです。
 ※2 仕事を辞めて専業受験者になるというのも考えられますが、仕事を辞めて法科大学院に入学するということはあっても、仕事を辞めて予備試験というのは、あまりないことでしょう。仕事を辞めなくても受験できるというのが、予備試験の最大の魅力だからです。

(「令和5年司法試験予備試験 受験願書の記入要領」より引用)

 高校生の場合は、「無職(アルバイトを含む。)」を選択してください。

(引用終わり)

 しかし、最終学歴別の受験者数から、令和5年の高校在学中の受験者は32人しかいないことがわかっています。したがって、高校生の受験者の増加では、説明できません。では、どうして急に無職が増えたのか。この謎を解く鍵は、令和5年から、出願時が1月から3月に後ろ倒しになった、ということにあります。
 上記のとおり、令和5年予備試験の出願期間は、令和5年3月6日から同月17日まででした。ちょうど年度末。大学生が卒業するのも、3月です。令和5年3月卒業予定だった大学生にとって、3月の6日から17日までというのは、もう卒業判定通知はもらっているけれども、卒業式は終わってないよね、という時期だったのではないかと思います。仮に、卒業判定通知をもらったことによって正式に卒業し、卒業式は事実上のセレモニーにすぎない、という理解に立つと、出願時の職種は、「無職」ということになるでしょう。4月から法科大学院に入学することが決まっている人であれば、「気分はもうロー生」ということで、職種に「法科大学院生」と書いてしまう人もいるかもしれない。「そんな人いる?」と疑問に思う人もいるでしょうから、当サイトでは、Xにおいて、アンケートを実施してみました。

Xにおけるアンケート及びその結果より引用)

 今年3月大学卒業・4月ロー入学予定者が、予備試験出願時(3月4日から15日まで)までに既に大学の卒業判定通知を受けたが、卒業式は終えていない場合、予備試験出願時の職種としてどれを選ぶと思いますか?
 ※ 上記対象者以外の人も、自分ならどうするかという感覚で答えてみて下さい。

 無職  6.5%
 大学生  71.5%
 法科大学院生  9.2%
 閲覧のみ  12.7%

 上記の結果から、「閲覧のみ」を除いた割合で計算し直すと、以下のようになります。

 無職  7.4%
 大学生  81.9%
 法科大学院生  10.5%

 8割くらいは普通に「大学生」と書くけれども、7%くらいは「無職」、1割くらいは「法科大学院生」と書くかもしれない。もちろん、これは直感で選んでもらった結果なので、実際の願書に書く割合とは違うでしょう。それでも、令和5年3月卒業予定の大学生のうちの一定割合が、「無職」や「法科大学院生」を職種として選んだ可能性は、それなりにあるといえそうです。仮にそうだとすると、令和5年に無職のカテゴリーの受験者が200人くらい増加したのは、卒業予定の大学生が一部カウントされてしまったことによるものである可能性を否定できない、ということになるわけです。これは結構ゆゆしき事態です。なぜなら、無職は、これまで長期専業受験者を表すカテゴリーだったからです。そこに、フレッシュな大学生が混じってもらっては困る。今後は、「無職に大学生が混じっている可能性」も念頭に置いた上で、数字をみる必要が出てきたといえるでしょう。それから、前に説明した、未修1年しかカウントされないはずの法科大学院生のカテゴリーがちょっと多すぎないか、という問題についても、卒業予定の大学生が混じった結果かもしれない、ということを考える必要があるのです。

2.さて、上記1で説明したことも踏まえつつ、個別の数字を見ていきましょう。以下は、令和5年の職種別最終合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。

職種 受験者数 最終
合格者数
最終合格率
(対受験者)
有職者 5663 95 1.67%
法科大学院生 496 21 4.23%
大学生 3953 286 7.23%
無職 2704 69 2.55%

 概ね例年どおりの結果になっているのが、有職者と大学生です。これは、前回の記事で説明した年代別最終合格率に対応しています(「令和5年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)。すなわち、高齢受験者の多い有職者は最終合格率が低く、若手受験者の多い大学生は最終合格率が高いというわけです。有職者は、「仕事を続けながら法曹になれる。」と安易に考えるのではなく、「ただし、合格できるのは毎年2%に満たない。」という事実も認識した上で受験を考える必要があるでしょう。
 一方で、法科大学院生と無職のカテゴリーには、上記1で説明したことの影響が表れています。令和4年の数字と比較すると、それがよくわかります。

職種 令和4 令和5
有職者 1.86% 1.67%
法科大学院生 11.62% 4.23%
大学生 5.17% 7.23%
無職 1.90% 2.55%

 法科大学院生の最終合格率が、あり得ないほど低下している。これは、「法科大学院生」の職種で受験する受験者が、未修1年生に限られてしまった結果といえます。他方で、無職は、微妙にですが、最終合格率が上昇しています。これは、最終合格率が高めになる属性を持つ大学生が、無職のカテゴリーに一部混入してしまった結果と考えると、筋が通ります。

3.短答合格率を見てみましょう。以下は、令和5年の職種別短答合格率(受験者ベース)等をまとめたものです。

職種 受験者数 短答
合格者数
短答
合格率
有職者 5663 1152 20.3%
法科大学院生 496 63 12.7%
大学生 3953 717 18.1%
無職 2704 620 22.9%

 ここでも、概ね例年どおりの結果になっているのが、有職者と大学生です。最終合格率が最も高いカテゴリーである大学生が短答で苦戦するのは、年代別短答合格率において若手が苦戦していることを反映しています。一方で、有職者は、高齢受験者が多いはずであるのに、それほど高い短答合格率とはなっていない。このことは、高齢受験者の短答合格率が高いことは、「短答は高齢者に有利」ということを意味するのではなく、「高齢受験者に勉強期間の長い者が多い。」ということを意味することを示します。有職者のカテゴリーは、昔から勉強を続けているのではなく、新たに法曹を目指して勉強を始める人が含まれやすいことから、高齢受験者が多い割には、短答合格率は低めになりやすいのです。新規参入の有職者にとって、短答の勉強時間を確保することが課題になっているといえるでしょう。
 一方で、法科大学院生と無職のカテゴリーには、上記1で説明したことの影響が表れています。令和4年の数字と比較すると、それがよくわかります。

職種 令和4 令和5
有職者 21.2% 20.3%
法科大学院生 23.8% 12.7%
大学生 17.6% 18.1%
無職 27.2% 22.9%

 法科大学院生の短答合格率が、あり得ないほど低下している。これは、「法科大学院生」の職種で受験する受験者が、短答の学習時間を確保できない未修1年生に限られてしまった結果といえます。他方で、無職の短答合格率が大きく下落している。無職は、苦節10年、20年と勉強を続けてきた人達なので、急に短答の知識が抜ける、なんてことはない。短答合格率が低めになる属性を持つ大学生が、無職のカテゴリーに一部混入してしまった結果と考えると、筋が通ります。

4.論文ではどうか。以下は、令和5年の職種別論文合格率(短答合格者ベース)等をまとめたものです。

職種 短答
合格者数
論文
合格者数
論文
合格率
有職者 1152 98 8.5%
法科大学院生 63 21 33.3%
大学生 717 288 40.1%
無職 620 72 11.6%

 ここでも、概ね例年どおりの結果になっているのが、有職者と大学生です。高齢者の多い有職者が酷い目に遭うのを横目に、若い大学生はウハウハです。これが、若手優遇策だったのでした。
 令和4年の数字と比較してみましょう。

職種 令和4 令和5
有職者 8.9% 8.5%
法科大学院生 50.9% 33.3%
大学生 29.2% 40.1%
無職 7.1% 11.6%

 法科大学院生の論文合格率が大きく下落し、大学生は逆に大きく上昇していることがわかります。法科大学院生の合格枠を、大学生が奪い取った形です。「法科大学院生」の職種で受験する受験者が未修1年生に限られた結果と考えると、筋が通ります。ただ、未修1年生にしては、33%というのはちょっと高すぎる。これは、卒業予定の大学生の一部が「法科大学院生」の職種に混入したためだと考えると、筋が通ります。
 無職の論文合格率が上昇していますが、無職が急に「受かりやすい人」になったということは考えにくい。論文に受かりやすい属性を持つ卒業予定の大学生の一部が「無職」の職種に混入したためだと考えると、筋が通ります。

5.以上のとおり、令和5年の職種別の合格率は、前年からの変動が大きいものの、それは在学中受験が可能になったことと、出願時期が後ろ倒しになったことによるもので、実質の傾向には大きな変化はないと考えるべきでしょう。今後も、「法科大学院生」、「無職」のカテゴリーに卒業予定の大学生が一定数混入することは避け難いと考えられることから、職種別の数字をみる際には、注意を要します。

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