令和5年予備試験論文式民事実務基礎参考答案

【答案のコンセプト等について】

1.当サイトでは、「規範の明示と事実の摘示」を強調しています。それは、ほとんどの科目が、規範→当てはめの連続で処理できる事例処理型であるためです。しかし、民事実務基礎で出題されるのは、そのような事例処理型の問題ではありません。民事実務基礎の特徴は、設問の数が多く、それぞれの設問に対する「正解」が比較的明確で、一問一答式に近いという点にあります。そのため、当てはめに入る前に規範を明示しているか、当てはめにおいて評価の基礎となる事実を摘示しているか、というような、「書き方」によって合否が分かれる、という感じではない。端的に、「正解」を書いたかどうか。単純に、それだけで差が付くのです。ですから、民事実務基礎に関しては、成績が悪かったのであれば、それは単純に勉強不足であったと考えてよいでしょう。その意味では、論文式試験の特徴である、「がむしゃらに勉強量を増やしても成績が伸びない。」という現象は、民事実務基礎に関しては、生じにくい。逆にいえば、勉強量が素直に成績に反映されやすい科目ということができるでしょう。

2.上記の傾向を踏まえ、民事実務基礎については、参考答案は1通のみ掲載することとし、掲載する参考答案は、できる限り一問一答式の端的な解答を心掛けて作成しました。

 

【参考答案】

第1.設問1

1.小問(1)

 保証契約に基づく保証債務履行請求権

2.小問(2)

 Yは、Xに対し、220万円を支払え。

3.小問(3)

(1)Xは、Aに対し、令和4年8月17日、本件車両を代金240万円で売った。

(2)Yは、Xとの間で、同日、上記(1)の代金債務を保証する旨の合意をした。

(3)上記(2)のYの意思表示は書面による。

4.小問(4)

 記載すべきでない。期限の利益喪失を基礎づける事実であり、期限の抗弁に対する再抗弁となるからである。

5.小問(5)

 一般に、預金債権の仮差押えは、仮差押えの範囲で預金の引出しができなくなり(民保法50条1項、民法481条)、本件のように銀行借入れの期限の利益喪失事由ともなるなど、保全債務者に与える不利益が大きいため、保全債務者が他に保全余力のある不動産を有する場合には、「強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれ」(民保法20条1項)、すなわち、仮差押えの必要性を欠くからである。

第2.設問2

1.小問(1)

 ①実際には本件車両の前照灯改造部分が保安基準に適合しない
 ②保安基準に適合する
 ③AがXに対して有する上記(あ)(い)の錯誤に基づく取消権をもって、保証債務の全部について支払を拒絶する

2.小問(2)

 民法457条3項は「保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。」として保証債務の履行を拒むか否かを保証人の意思にかからせているため、同項の抗弁は権利抗弁であって、権利行使の意思表示を基礎づけるものとして、権利主張の摘示を要するからである。

第3.設問3

1.小問(1)

 同月末日、本件売買契約に基づく代金債務の履行として、10万円を支払った

2.小問(2)

 追認権者が取消権を了知して一部の履行をしたときは、追認したとみなされる(法定追認、民法125条1号)。追認により、取消権は消滅する(同法122条)。取消権を有する主債務者が追認したときは、「主たる債務者が債権者に対して…取消権…を有するとき」(同法457条3項)の要件を欠くに至るから、同項の抗弁権も消滅する。
 本小問の各事実主張は、主債務者Aについて法定追認があることを基礎づけるから、設問2の抗弁権が消滅したことを意味し、同抗弁に対する消滅の再抗弁として機能する。

第4.設問4

1.小問(1)

 ⑤Yの印章によって顕出された
 ⑥Yの意思に基づいて顕出された

2.小問(2)

(1)本件保証契約は本件契約書によってされたから、本件契約書は処分証書であり、Y作成部分の成立の真正(民訴法228条1項)が認められれば、本件保証契約が締結された事実が認められる。

(2)作成者の意思に基づく押印ある私文書は、真正に成立したと推定される(同条4項)。印章は厳重管理されみだりに他人に使用させない経験則から、印影が作成者の印章によって顕出されたときは、本人の意思に基づくと推定される(二段の推定、判例)。
 上記は事実上の推定であり、破るには真偽不明にする程度の反証で足りるところ、Qは、預託印章冒用を否認理由とし、Y供述は、アパートの賃貸借契約の保証人となるためAに印章を1週間くらい預けたとする。印章預託の事実は、冒用の可能性を基礎づけ、上記経験則適用を否定して真偽不明とするに足りるから、同事実が認定できれば、冒用そのものが認定できなくても反証が成立する。
 しかし、以下のとおり、印章預託の事実は認定できず、反証は成立しない。

ア.上記賃貸借等の事実につき、Yの一方的供述があるだけで、当然存在するはずの賃貸借契約書は証拠提出されず、Yの日記に上記賃貸借の記載がある旨もうかがわれない。

イ.Aの住民票の記載上、AがYの自宅から住所を移転したのは令和4年12月15日で、Yが印章を預けたする同年8月から4か月程度の大きなズレがある。賃貸借契約が8月中に締結されても、実際の転居や届出が遅延することはありえなくはないが、Y供述はそれら事情を何ら説明しない。

ウ.令和4年8月17日にYに電話があったこと、保証に関する内容だったこと、異議を述べなかったことについて、Yも認めており、事実と認定できる。同事実との一致から、X供述中、同日に電話した点は信用でき事実と認定できる。Yも同月にAがXから本件車両を購入した事実を自認しており、他にXがYに電話する理由がないから、同供述中、電話の内容が本件契約書調印及び本件保証契約成立の報告であった点も信用でき、事実と認定できる。
 Yは、「Aがアパートを借りた際の不動産仲介業者だろうと思い、適当に相づちを打ってしまいました」と供述する。しかし、Yは、「保証がどうとか」と言われたこと、その8日前にAから車購入の保証の相談を受けたことを自認し、事実と認定できるところ、これらの事実があるのに本件車両売却の件かもしれないと気付かないのは不自然、不合理であり、信用できない。

エ.類型的信用文書である金銭消費貸借契約書、年金振込通知書の記載から、Yが令和4年8月当時、約200万円の借入れの保証人で、当時、月15万円の年金暮らしであった事実が認定できる。
 確かに、上記各事実は、新たな保証につき消極方向の間接事実となりうる。
 しかし、Y自らその後にアパート賃貸借の保証人となった旨供述するとおり、上記各事実は、新たな保証が全く不自然・不合理で、およそありえないとの評価に直結しない。

(3)よって、本件契約書のY作成部分は真正に成立したと認められるから、本件保証契約が締結された事実が認められる。

以上

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