【答案のコンセプト等について】
1.当サイトでは、「規範の明示と事実の摘示」を強調しています。それは、ほとんどの科目が、規範→当てはめの連続で処理できる事例処理型であるためです。近時の刑事実務基礎では、事実認定・当てはめ重視の事例処理型の設問と、民事実務基礎のように端的に解答すれば足りる一問一答型の設問の両方が出題されています。事例処理型の場合でも、規範の明示より事実の摘示・評価が重視されやすい傾向です。いずれにしても、他の科目のような「規範の明示と事実の摘示」という書き方は、必ずしも要求されません。
2.上記の傾向を踏まえ、刑事実務基礎においても、民事実務基礎と同様に、参考答案は1通のみ掲載しています。
【参考答案】 第1.設問1 1.小問(1) 被害品との同一性に係る合理的疑いの余地を排斥するためである。 2.小問(2) (1)重要と考えた理由
一般に、被害発生と近接する時点において被害品を所持する者は、仮に犯人でないとすれば入手経路等につき容易に説明できるはずであるという経験則から、入手経路等につき合理的弁解のない限り、犯人と推認される(近接所持の法理)。 (2)不十分と考えた理由
Aは、入手経路につき、午後1時頃、X駅前バス乗場ベンチ横ごみ箱に捨ててあったので拾ったと弁解する。リュックは小さく短時間で持ち運び容易であり、Q公園からX駅は約2kmしか離れていないため、約5時間の間に犯人が同ごみ箱に捨て、Aが偶然発見して拾った可能性を直ちに不合理と排斥できない。 第2.設問2 1.小問(1) 勾留理由開示請求は可能である(刑訴法207条1項本文、82条2項)が、身体拘束からの解放に直接結びつく効果がなく、被疑者勾留の保釈は認められない(同法207条1項ただし書)からである。 2.小問(2) 被疑者勾留は裁判官の決定による(同項本文)から、裁判官がした勾留の裁判(同法429条1項2号)として準抗告の対象となり、認容決定で原決定が取り消され、改めて勾留請求却下決定がされる(同法432条、426条2項)ことにより、身体拘束解放を実現できる(同法207条5項ただし書)からである。 第3.設問3 1.事後強盗と構成しなかった理由 同罪の暴行といえないからである。 2.傷害罪にもしなかった理由 右手がVの頬と鼻に強く当たったが顔にけがはなく、Vに尻餅をつかせたが尻にもけがはなく、左足首捻挫の傷害は、Vが追いかける際に足を滑らせて転倒し、その時、足首をひねったがそのまま追い掛けたという不適切な行為によって生じたもので、各暴行がVの上記行為を誘発した面があるとはいえ、各暴行自体に傷害を生じさせる高度の危険性があったとはいい難いことを考慮すると、各暴行の危険が左足首捻挫の傷害として現実化したとはいえず、因果関係を欠くからである。 第4.設問4 1.小問(1)
Vの検面調書は、内容どおりの犯罪事実の存在を要証事実とする公判廷外供述を内容とするから、伝聞証拠(刑訴法320条1項)である。Bの不同意意見は同法326条1項の同意をしない趣旨であり、同法321条1項2号の事由も見当たらない。 2.小問(2) 左足首捻挫の傷害は訴因に含まれないから、関連性がない。 以上 |