1.受験資格別の受験予定者数を昨年と比較したとき、ちょっと気になることがあります。以下は、昨年との比較表です。
法科 大学院 修了 |
在学中 受験 |
予備試験 合格 |
|
昨年 | 2693 | 1114 | 358 |
今年 | 2267 | 1281 | 478 |
今年は、法科大学院修了資格の受験予定者が400人以上減少しています。昨年は、在学中受験が可能になった最初の年だったので、在学中受験の機会がないまま法科大学院を修了した者が、法科大学院修了資格で受験していました。今年は、そのような者はいないわけですから、法科大学院修了資格者が減っているのは、当然のことといえます。
ちなみに、昨年に在学中受験の資格で受験して不合格となり、法科大学院を修了した後に再度受験する場合、在学中受験資格と法科大学院修了資格のどちらで受験することになるのでしょうか。結論としては、「法科大学院修了資格での受験となるが、受験期間は在学中受験の時から起算される。」となります。司法試験法が、在学中受験資格を法科大学院修了前の特例と位置付けており、修了後は本則に戻って修了資格で受験する、という整理に依っているからなのですが、同法の規定からそれを読み解くのはなかなか大変です。法令を読み解く訓練も兼ねて、ちょっと見てみましょう。受験資格について定めるのは、司法試験4条です。
(参照条文)司法試験法4条(司法試験の受験資格等) 司法試験は、次の各号に掲げる者が、それぞれ当該各号に定める期間において受けることができる。 2 前項の規定にかかわらず、司法試験は、第1号に掲げる者が、第2号に掲げる期間において受けることができる。 3 前項の規定により司法試験を受けた者が同項第1号の法科大学院の課程を修了した場合における第1項第1号の規定の適用については、同号中「その修了の日後の最初の」とあるのは、「次項の規定により最初に司法試験を受けた日の属する年の」とする。 4 第1項又は第2項の規定により司法試験を受けた者は、その受験に係る受験資格(第1項各号に規定する法科大学院の課程の修了若しくは司法試験予備試験の合格又は第2項第1号に規定する法科大学院の課程の在学及び当該法科大学院を設置する大学の学長の認定をいう。以下この項において同じ。)に対応する受験期間(第1項各号に定める期間又は第2項第2号に掲げる期間をいう。)においては、他の受験資格に基づいて司法試験を受けることはできない。 |
司法試験法4条は、1項で原則的な受験資格として、法科大学院修了(1号)と、予備試験合格(2号)を定め、その例外として、2項で在学中受験資格を定めています。そして、2項1号は、「法科大学院の課程に在学する者」とするので、法科大学院を修了した者は、同項柱書の「第1号に掲げる者」に当たりません。また、同項2号は、「当該法科大学院の課程を修了若しくは退学するまでの期間」とし、法科大学院修了によって在学中受験資格での受験期間が終了する旨を定めています。したがって、在学中受験をしたが、不合格となり、その後に法科大学院を修了した者は、2項の在学中受験資格によって受験することはできないのです。では、もう受験できないのかというと、当然そんなことはありません。1項1号は、「法科大学院の課程を修了した者」とあって、過去に在学中受験をしたか否かは問題にされていないので、同号の法科大学院修了資格によって受験することができるのです。もっとも、同号は、「その修了の日後の最初の4月1日から5年を経過するまでの期間」とするので、そのままだと、在学中受験の分がノーカウントになりそう。その部分をケアする規定が3項です。同項は、1項1号の「その修了の日後の最初の」を、「次項の規定により最初に司法試験を受けた日の属する年の」に読み替えるものとします。そのように読み替えた1項1号は、「次項の規定により最初に司法試験を受けた日の属する年の4月1日から5年を経過するまでの期間」となって、「次項の規定」は、2項ですから、結局、在学中受験をしてから5年ということになる。そういうわけで、昨年に在学中受験の資格で受験して不合格となり、法科大学院を修了した後に再度受験する者は、法科大学院修了資格者ではあるけれども、受験期間は在学中受験の時から起算される、ということになるわけですね。
2.一方で、予備試験合格資格の者が120人も増加しているのは、不思議なことです。単純に考えると、「昨年の予備試験合格者が増えたんじゃね?昨年は大学生めっちゃ受かってたイメージあるもん。」と思うところですが、そうではない。以下は、直近5年の予備試験合格者数の推移です。
年 (令和) |
受験者数 | 合格者数 |
元 | 494 | 476 |
2 | 462 | 442 |
3 | 476 | 467 |
4 | 481 | 472 |
5 | 487 | 479 |
昨年の司法試験を受験するのは、令和4年予備試験合格者で、これは472人。これに対し、今年の司法試験を受験する令和5年予備試験合格者はというと、479人。確かに増えてはいますが、たったの7人です。120人もの増加は、説明できない。
ここで気が付くのが、「あれっ、令和4年予備で472人も受かってるのに、どうして昨年の予備試験合格資格者は358人しかいなかったの?」という点です。ここに気が付けば、120人増加の謎が解けます。
3.これまで、予備合格者の中には、予備に合格しなくても、翌年には法科大学院修了の受験資格で司法試験を受験できた、という人が、一定数いました。主に既修2年目の人で、模試感覚で受験していたのでしょう。そのような人は、司法試験の願書を記入する際に、受験資格を法科大学院修了とするか、予備試験合格とするか、選択できます。ここで、法科大学院修了資格を選択した場合には、その人は予備試験合格資格者には算入されない(※2)。そのような人が増加すると、予備試験合格資格の受験者は減少しやすくなるのです。
※2 奨学金等の関係で、法科大学院修了資格での受験を求められることもあるようです。
さて、昨年から在学中受験が始まったことで、昨年は、一時的に上記のような人が二重に生じるという現象が起きました。すなわち、令和4年予備合格時点において、既修2年だった人と、既修1年だった人です(※3)。前者は、予備に合格しなくても、翌年には法科大学院修了の資格で受験できました。後者は、予備に合格しなくても、翌年には在学中受験の資格で受験できました。このことが、「予備試験に合格しているのに、法科大学院修了又は在学中受験の資格を選択する者」の数を増加させたのでした。もっとも、これは一時的な現象です。今年は、そのようなイレギュラーがないので、通常どおり、概ね前年の予備試験合格者数と同数に収まったのでした(※4)。
※3 厳密には未修者もいますが、ここでは簡略に、既修のみを取り上げています。
※4 これは、必ずしも必然ではありません。今年の予備試験合格資格の受験者には、前年の予備試験合格者だけでなく、それ以前の予備試験合格者で、予備試験合格資格で受験したが不合格になり、再受験する者も含まれます。そこから、法科大学院修了又は在学中受験の資格を選択する予備試験合格者の数を差し引くと、たまたま前年の予備試験合格者数と同数くらいになった、というだけです。予備組の再受験者はかなり少ないのですが、昨年から在学中受験ができるようになったことで、法科大学院生の予備試験受験が激減し、「予備試験に合格しているのに、法科大学院修了又は在学中受験の資格を選択する者」もかなり少なくなっているので、いい感じに相殺されているのでしょう。
4.以上のことを正しく理解すれば、「今年、予備組の受験が増えた。」のではなく、「昨年の数字が予備組の数を正しく反映していなかった。」というだけであったことがわかります。そして、このことを正しく理解していれば、「今年は予備試験合格資格者が120人も増えた。難易度が上がるに違いない!」というような言説が誤りであることも、容易に見抜くことができるでしょう。