令和6年司法試験
前日から終了までの心構えなど

1.司法試験前日(7月9日火曜日)

 考えるべきことは、「睡眠時間を確保すること」です。論文は、基本的な論点、規範等の知識を除けば、後はどれだけ現場で当てはめ等を頑張ることができるか、それで勝負が決まります。現場で頑張るには、体力が必要です。知識よりも、体力の勝負になる。勉強は軽めに済ませ、早めに就寝するようにしましょう。これが、試験前日における最大の課題です。簡単なようですが、これがなかなか難しい。前日にほとんど眠れず、徹夜に近い状態で試験初日を迎える受験生が、毎年相当数いるようです。要因は複数あります。受験勉強で夜型になっている人が多いこと、緊張していること、試験期間中にホテル等に宿泊する場合、ベッド等の環境が普段と違うこと(※1)。こうしたことが重なり合って、なかなか眠れない。これは、ある程度はやむを得ないことだと思います。逆に言えば、ここで普通に眠れたのであれば、それだけで若干のアドバンテージを取ったと考えてよいでしょう。
 一般的な対策としては、午後にカフェイン飲料を飲まないようにする(※2)とか、照明を暗くする(※3)、就寝前に入浴してリラックスしたり(※4)、ストレッチ等をして体を軽く動かす等があります(※5)が、それだけではなかなかうまくいかないでしょう。安眠グッズの類が多く市販されたりしていますが、プラセボ以上の効果は期待できません(※6)。
 寝る時に試験のことを考えてしまうと、緊張が高まって、なかなか眠れなくなります。なので、試験のことは考えないようにする。とはいえ、何も考えないで休もうと思っていると、自然と試験のことが頭に浮かんで来てしまうものです。意識して、別のことを考えるのがよいかもしれません。試験が終わった後に何をして遊ぼうか、読みたい本、プレイしたいゲームとか、楽しいことを考える。昔に観た映画、印象に残った小説のこととか、自分の小学校、中学校時代の思い出などを思い出してみるのもよいかもしれません。とりとめもないイメージ的なことを考えている方が、何となくウトウトとしてくるものです。逆に、何か論理的な思考を巡らそうとすると、かえって頭が活発に働き始めて、目が冴えてきてしまいがちです。その意味では、羊の数を数えるのは有効ではないと、筆者は思っています。同じ羊をテーマにするなら、羊と戯れる映像をイメージする方が優ると感じます(筆者個人の感想です。)。
 夜中になかなか眠れないと、だんだんと気持ちが焦ってきます。焦ってくると、かえって眠れなくなる。そのようなときは、「まあ寝れなくても何とかなるだろう。」という楽観的な気持ちで、とりあえず体だけは休めることを考えましょう。実際のところ、全然眠れなくても、試験が始まってしまえば、これまでの演習の経験の蓄積があるので、頭と体が勝手に動いてくれます。それで、案外何とかなるものです(※7)。徹夜状態で初日を迎えて合格した人は、筆者の知っている範囲でも、たくさんいます。自分では眠れた自覚がなくても、断続的に睡眠が取れている場合がありますので、とりあえずベッドの中で休むことを考えましょう。
 眠れないからといって、酒を飲もうとする人がいます。しかし、飲酒しても案外眠れないことが多いですし、飲酒後の睡眠は質が悪いともいわれています(※8)。また、翌日の午前中くらいまでアルコールが残ってしまうことがあるようです。ですので、基本的に、酒を飲むのはやめておいた方がよいでしょう。
 ※1 ナショナル・ジオグラフィック連載(要無料会員登録)、三島和夫(秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座教授)『睡眠の都市伝説を斬る』第82回「枕が変わると眠れない、意外と大きな影響と対策」、第131回「左脳は「夜の見張り番」、“枕が変わると眠れない”わけ」参照。
 ※2 「睡眠と嗜好品について」『健康づくりのための睡眠ガイド 2023』(厚労省 健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会 令和6年2月)30~32頁参照。
 ※3 前掲連載第138回「節電と安眠の一石二鳥、照明を暗くしてみよう」、「光の環境づくりで大切なこと」前掲『健康づくりのための睡眠ガイド 2023』23頁参照。
 ※4 前掲連載第6回「お風呂で快眠できるワケ」、「温度の環境づくりで大切なこと」、「就寝前にリラックス」前掲『健康づくりのための睡眠ガイド 2023』23、27頁参照。
 ※5 ただし、就寝1時間前以内の過度な運動はかえって眠りを妨げるおそれがあることにつき、「よくある質問と回答(Q&A)」前掲『健康づくりのための睡眠ガイド 2023』28頁参照。
 ※6 前掲連載第10回「快眠グッズってホントに効くの?」、第142回「 ”快眠に効く”グッズや食品を見極める3つのポイント」参照。
 ※7 前掲連載第119回「徹夜明けに目が冴えたり爽快感を覚えたりするのはナゼなのか」参照。
 ※8 前掲連載第44回「寝酒がダメな理由」、前掲「睡眠と嗜好品について」『健康づくりのための睡眠ガイド 2023』参照。

2.司法試験初日(7月10日水曜日)

 初日は、体力的には一番楽ですが、精神的には最も緊張している状態です。ですので、気持ちの持ち方としては、リラックスする方向性で意識するのがよいでしょう。
 初日は、早めに試験会場に着くようにしましょう。試験室の場所や座席の位置を把握したり、会場の雰囲気に慣れる時間が欲しいからです。試験開始ギリギリだと、気持ちが落ち着かないまま、試験が始まってしまいます。
 試験会場に入ったら、他の受験生の様子を眺めるなどして、余裕を持つのが有効です。意識的に、他の受験生に対する優越感を持ちましょう。「周りの受験生はピリピリしてて、慌てて参考書とか見てるけど、自分は周囲の様子を確認する余裕もあるし、既に精神面で優位に立ってるな。」というような感じです。それから、監督員の様子も確認して、「慣れない仕事で大変そうだな。これは何かあっても仕方ない。」と、心の準備をしておきます。例年、監督員は色々と不手際を起こします。普通の感覚でいると、その仕事ぶりにイライラさせられるでしょう。あらかじめ心の準備をしていれば、不手際に対するイライラも、多少なりとも和らぐというものです。
 各科目の試験が終わると、その直後から、SNS等に、問題に対する感想や検討が書き込まれたりします。そういったものは、その後の試験で得になることはありません。気になるのは仕方がありませんが、意識して見ないようにしましょう。自分から積極的に検討に加わって、答案構成をアップするなどということは、もってのほかです(※9)。
 初日の夜は、試験の疲れがあるのと、実際に答案を書いて緊張がほぐれてくることもあって、前日よりはるかに眠りやすいはずです。試験が終わって帰ってきた頃には、もう暗くなっているはずなので、民事系の勉強をしようとは思わずに、すぐに就寝することを考えた方が良いでしょう。
 ※9 ここでは、合格可能性(ないしは試験の成績)を高めるためには何をすべきか、という観点から説明を行っています。試験中の高揚感の中で行うSNS等での検討や煽り合いは、非常にエキサイティングであり、その時にしか体験できない至福の瞬間であると感じられることも事実でしょう。敢えてその快楽に身を投じたいというのであれば、それは個人の選択です。しかし、それは合格可能性(ないしは試験の成績)を多少なりとも犠牲にすることになりますよ。それをわかった上でやりましょうね、というのが、当サイトの言いたいことです。

3.司法試験2日目(7月11日木曜日)

 司法試験で一番体力的に辛いのが、2日目です。前日の疲れが残っている状態で、6時間も答案を書かされたらたまらん、というのが、正直なところでしょう。ただ、ここを乗り切れば、翌日は中日です。なので、「今日さえ頑張れば、明日は休めるぞ。」という気持ちになれば頑張れる。このように、2日目は、気合で体力面をカバーすることを意識するのが重要です。
 特に怖いのは、最後の民訴です。疲れがピークの状態なので、「もういいから早く答案を書き上げて解放されたい。」という心理になって、答案が雑になりがちです。加えて、民訴は科目の特性上、一見すると簡単に結論が出そうに見える問題が多いです。「なんだ簡単じゃん。3頁くらいで終わらせちゃおう。」となってしまえば、致命傷となることがある。なので、「楽をしない。丁寧に。」という意識を、強く持っておきましょう。

4.中日(7月12日金曜日)

 中日は、これまでの疲れが残っているので、昼過ぎまでずっと寝ていたいという気持ちになります。しかし、それだと夜に眠れなくなってしまいます。なので、朝は目覚ましをかけて、初日や2日目と同じような時間に起きるようにしましょう。午前中はコーヒー等のカフェイン飲料を積極的に投入して目を覚まし、午後になったらカフェイン飲料を控えて眠れるようにする等の工夫も考えられるところです(※10)。
 中日に気を付けたいのは、緊張の糸を切らないようにする、ということです。何となく、もう試験が終わってしまったかのような錯覚に陥りがちなのです。例年、SNS等を見て、公法系や民事系の反省会を始めたりする受験生が相当数います。当然ながら、それはやってはいけない行為です。「まだ試験は終わっていない。ここで気を抜いたらダメになる。」という感じで、意識して緊張感を保つようにする。この辺りは、初日とは逆の方向性で意識を持つことになります。
 もっとも、中日に集中して刑事系の勉強をする、というのは、おすすめできません。上記1でも説明したとおり、論文は知識より体力重視の試験なので、基本的には休息を優先すべきなのです。とはいえ、何もしないというのも、落ち着かないでしょう。知識を積極的にインプットするというよりは、暇つぶしという趣旨で、これまで使い慣れた教材をまったり眺めるのがよいと思います。ホテル等に宿泊している人は、気分転換に周辺を散策したりしてみてもよいかもしれません。気持ちの上では適度の緊張を保ちつつ、体はしっかりリラックスして休める。この辺り、うまく心身のバランスを取る必要があります。
 ※10 ただし、カフェインの影響には個人差があり、人によっては朝の摂取でも夜の睡眠に影響が出る可能性があるとされます(前掲「睡眠と嗜好品について」『健康づくりのための睡眠ガイド 2023』30頁参照)。カフェインに過敏な自覚のある人は、避けた方がよいでしょう。

5.司法試験3日目(7月13日土曜日)

 3日目は、論文の最終日です。中日で体を休めることができることに加え、15時前に試験が終了するということもあって、初日、2日目と比べると、とても楽に感じられることでしょう。それだけに、怖いのは油断です。刑事系は、刑法・刑訴ともに、文字数勝負になりがちな科目です。当てはめ等が雑になると、それだけで致命傷になりかねません。気持ちが緩んでしまっていると、「まあこのくらいでも受かるでしょ。」というような、奇妙な楽観に支配されて、後から考えると信じられないような、雑な答案を書いてしまうことがあります。「自分の人生が懸かっているんだ。ここで雑になったら一生後悔する。」と言い聞かせて、全力投球で8頁書き切るつもりで頑張りましょう。限界まで力を出し尽くしても、翌日は短答だけですから、問題ありません。肩がおかしくなりそうなくらい、筆力をフル回転させて頑張るべきです。
 3日目の夜は、眠れないなら短答のインプットをするというのもアリでしょう。短答は、知識勝負ですし、体力的にも、最終日は楽な日程なので、徹夜に近い状態でも十分戦えるからです。

6.司法試験最終日(7月14日日曜日)

 最終日は短答だけですから、淡々と受験すれば足りるところでしょう。敢えて言えば、これまでと違って最初の休み時間が昼食時間ではないので、試験室外で過ごす予定の人は、勘違いしないように気を付ける必要があるでしょう。昼休みだと思って外でゆっくり過ごし、遅刻してしまったりすれば、これまでの努力が水の泡になってしまいます。
 試験終了後、予備校がアルバイトや再現答案の募集などの入ったパンフレットを配っていたりするので、希望する人はもらっておくとよいだろうと思います。

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