令和6年予備試験短答式試験直前期の睡眠について

1.予備試験は、短答・論文が別々の時期に行われ、短答は1日で終わるので、ギリギリまで睡眠時間を削って勉強しても、当日に大きな支障となることはない、と思われがちです。それは、短答の特性からみると正しい面もあるのですが、記憶のメカニズムという点からみると、注意すべきこともある。今回は、そのことについて説明をしておきたいと思います。

2.短答は、基本的に知識勝負ですから、記憶重視の勉強が有効です。それが、勉強時間の長いことの多い高齢受験者に有利に働いていたのでした(「令和5年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)。一方で、現場思考はそれほど求められない。それなら、睡眠不足で思考力が落ちてもいいから、ギリギリまで短答知識を記憶した方がいい、ということになるでしょう。

3.上記のことは、「睡眠不足になっても通常どおり記憶を引き出すことができる。」ということを前提にしています。しかし実際には、睡眠不足の時には記憶を引き出す力(記憶の想起能力)が低下することがわかってきています(※1)。そうなると、話が変わってくる。どんなにたくさんの知識を詰め込んでも、当日にそれを引き出すことができないのでは、短答で点が取れません。「あーこれやったことある!でも、◯か☓か思い出せねー。」という感じの経験は、結構あるでしょう。そうしたことが、起きやすくなるわけです。
 ※1 ナショナル・ジオグラフィック連載(要無料会員登録)、三島和夫(秋田大学大学院医学系研究科精神科学講座教授)『睡眠の都市伝説を斬る』第143回「睡眠不足で悪くなった物覚えを改善する意外な方法とは?」参照。

4.もう1つ、記憶の固定の問題があります。勉強した内容が記憶として固定されるのは、いつなのか。それは、睡眠中であることがわかっています(※2)。試験直前に、連日睡眠時間を削ってインプットしても、どこかでしっかり睡眠を取らないと、記憶として固定しない。これでは、勉強した意味がありません。
 ※2 前掲連載第159回「続々と明らかになる睡眠と学習の密接な関係」参照。

5.以上のことを踏まえると、普段は睡眠不足になりがちな人でも、短答の直前期には、ある程度しっかり睡眠を取り、記憶の想起能力を回復させるとともに、記憶の固定化を図るべきだ、ということがいえるでしょう。既に相応の短答知識を身につけている人であれば、直前に睡眠時間を削ってインプットするメリットよりも、上記の睡眠によるメリットの方が優るといえます。

6.もっとも、「そんなこと言ってられないの。」という人もいるでしょう。現状の短答知識を前提にすると、仮にそれをパーフェクトに引き出せたとしても、合格におぼつかない。そんな状況なら、睡眠不足のデメリットを承知で、一か八か、短答知識の詰め込みを図るしかありません。この場合には、上記の睡眠によるメリットよりも、直前に睡眠時間を削ってインプットするメリットが上回るといえなくもないでしょう。
 また、試験前日に緊張で全然眠れないよ、というときには、何もしないでベッドでゴロゴロしているより、知識の1つでもインプットした方がいい、という考え方も、成り立たないわけではありません。記憶の想起能力や記憶の固定という点からすれば、やっぱり寝た方がいいんだけど、眠れないものは仕方がない。この場合には、眠る選択肢がないので、やむを得ないといえます。

7.以上をまとめましょう。既に相応の短答知識を身につけている人であれば、直前期はしっかり睡眠をとるのがベストです。もっとも、前日などは緊張で眠れないこともある。どうにも寝れないのなら、眠くなるまで勉強するのもアリなのかな。そんな感じです。
 一方で、現時点で全然知識不足、一か八か詰め込んで勝負、という感じの人は、こまけーことは言ってられない。捨て身でギリギリまでインプットして、当日に臨むのが最善かもしれない。それでも、できれば前日は、ちょっと多めに睡眠が取れるとよさそうですが、いやそんなことも言ってられないのでしょう。「そもそもそんな状態で直前期を迎えてんじゃねーよ。」というのは正しい指摘ですが、そうなっちゃったんだから仕方がない。そんな人にとっては、「捨て身の一夜漬け」の選択肢が一定の合理性を持つかもね、という話でした。

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