令和6年司法試験論文式公法系第1問参考答案

【答案のコンセプト等について】

1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点があります。したがって、①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示することが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。下記に掲載した参考答案(その1)は、この①~③に特化して作成したものです。規範と事実を答案に書き写しただけのくだらない答案にみえるかもしれませんが、実際の試験現場では、このレベルの答案すら書けない人が相当数いるというのが現実です。まずは、参考答案(その1)の水準の答案を時間内に確実に書けるようにすることが、合格に向けた最優先課題です。
 参考答案(その2)は、参考答案(その1)に規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をしたものです。参考答案(その2)をみると、「こんなの書けないよ。」と思うでしょう。現場で、全てにおいてこのとおりに書くのは、物理的にも不可能だと思います。もっとも、部分的にみれば、書けるところもあるはずです。参考答案(その1)を確実に書けるようにした上で、時間・紙幅に余裕がある範囲で、できる限り参考答案(その2)に近付けていく。そんなイメージで学習すると、よいだろうと思います。

2.参考答案(その1)の水準で、実際に合格答案になるか否かは、その年の問題の内容、受験生全体の水準によります。令和6年公法系第1問についていえば、出題分野自体は基本的といえるものの、時間内に規制の仕組みを読み解いて的確に論述することは至難の技であり、多くの受験生が問題文を書き写すだけで精一杯と思われること、規制①で薬事法事件判例を無視したり、規制②でセントラルハドソンテストを示さないで、漫然と人権の重要性と規制態様を羅列して中間審査基準を採用する答案が一定程度生じると思われることから、参考答案(その1)でも、合格答案にはなるのではないかと思います。

3.参考答案中の太字強調部分は、『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』に準拠した部分です。 

【参考答案(その1)】

第1.規制①

1.犬猫販売業を営もうとする者と既存犬猫販売業者の職業選択の自由を侵害し22条1項に反するか。

2.犬猫販売業は職業であるから同項で保障され、免許がなければ犬猫販売業を選択できないから上記自由を制約する。

3.職業の許可制の合憲性は、重要な公共の利益のために必要かつ合理的かで判断する(薬事法事件判例参照)
 さらに、より緩やかな制限である職業活動の内容・態様に対する規制では目的を十分に達成できないことを要する(上記判例参照)との立場がありうる。しかし、上記は警察許可にのみ妥当する。人と動物の共生する社会の実現を図ることは積極目的であり、警察許可でないから妥当しない。

(1)販売業者・飼主による犬猫遺棄が大きな社会問題となり、各地公体による犬猫殺処分について命を軽視しているとの批判が大きくなったことから、人と動物の共生する社会の実現という目的は重要な公共の利益である。

(2)許可制の採用

ア.我が国におけるペット、とりわけ、犬猫関連総市場規模は拡大傾向にあり、ペットの種類が多様化する中、犬猫の飼養頭数割合は相対的に高いまま推移している。販売業者が、売れ残った犬猫を遺棄等し、飼主が、十分な準備・覚悟のないまま犬猫を安易に購入した後、犬猫を遺棄することが大きな社会問題となった。犬猫シェルターが制度化され、殺処分がなくなると、犬猫シェルターに持ち込まれる犬猫頭数が収容能力を大幅に超えることが懸念されている。これらの問題は、供給過剰による売れ残りや、売れ残りを減らそうとする無理な販売により生じている。犬猫の供給が過剰にならないように、犬猫の需給均衡の観点から免許発行数を限定し、犬猫シェルターの収容能力に応じて、免許発行数を調整することが必要である。以上から、必要性がある。
 規制対象は犬猫に限られ、それ以外の動物を販売してペットショップを営業できる。確かに、ペット動物飼養者のうち、犬は31%、猫は29%で犬猫割合は多い。しかし、犬猫以外の多種多様なペットを飼う人も増加傾向にあり、現在その割合が50%近くになっているから、犬猫販売業免許を取得できなくても、ペットショップとして営業できる。以上から、合理性がある。

イ.以上から、許可制採用は必要かつ合理的である。

(3)許可条件

 審査対象には個々の許可条件も含まれる(薬事法事件、酒税法事件各判例参照)

ア.骨子第2の1

 現行の動物愛護管理法上の販売業者登録制でも存在する基準より厳しく、その必要性・合理性がないとの立場がありうる。
 しかし、施設要件の内容は、販売場ごとに、犬猫の販売頭数に応じた犬猫飼養施設を設けること、各犬猫飼養施設につき、犬猫の体長・体高に合わせたケージ・運動スペース基準及び照明・温度設定の基準であり、諸外国の制度や専門家の意見を踏まえ、国際的に認められている基準の範囲内である。
 以上から、必要かつ合理的である。

イ.骨子第2の2

 規制すべきなのは、売れ残ること自体ではなく、売れ残った犬猫を適切に扱わないことであるから、必要性・合理性がないとの立場がありうる。
 しかし、日本では生後2、3か月の子犬や子猫の人気が高く、生後6か月をすぎると値引きしても売れなくなるから、犬猫供給過剰で売れ残ること自体を抑制すべきである。需給均衡の要件については、都道府県ごとの人口に対する犬猫飼育頭数割合や取引量等が考慮される。
 以上から、必要かつ合理的である。

ウ.骨子第2の3

 犬猫シェルターは犬猫販売業者からの引取りを拒否でき、犬猫販売業者は売れ残った犬猫については終生飼養するか、自己に代わりそれを行う者を責任を持って探すことになる以上、飼主による持込みの増加が仮に起こるとしても直接は犬猫販売業者のせいではないから、必要性・合理性がないとの立場がありうる。
 しかし、売れ残りを減らそうとする犬猫販売業者による無理な販売も、飼主による犬猫シェルター持込増加要因となる。飼主個人の意識改革だけでは限界がある。譲渡先の見つからなかった犬猫は、犬猫シェルターで終生飼養される。犬猫シェルターの設置・運営は民間団体が行い、各地公体は必要な経費の一部を公費で助成する。犬猫シェルター適正運営のために、犬猫シェルター収容頭数が地公体や民間団体で現在引き取っている頭数を超えない方策を検討してほしいとの要望が多くの都道府県から寄せられている。
 以上から、必要かつ合理的である。

4.以上から、許可制採用・許可条件のいずれも重要な公共の利益のために必要かつ合理的である。

5.よって、22条1項に反しない。

第2.規制②

1.犬猫販売業者の表現の自由を侵害し21条1項に反するか。

2.商業広告の自由は商品・サービスに関する情報伝達であり、純粋な思想等の表明ではないが、消費者の知る権利に奉仕するから、21条1項で保障される。判例も、これを前提とする(適応症広告事件、風俗案内所規制条例事件各判例参照)

3.犬猫販売に関する広告は商業広告であり、犬猫のイラスト、写真、動画を用いることを禁止するから、上記自由を制約する。

4.表現の自由への制約が直接的か、間接的・付随的かは、意見表明そのものの禁止をねらいとするかで判断する(猿払事件判例参照)
 愛らしい犬猫の姿態が購買意欲を著しく刺激し安易な購入につながる点に着目しており意見表明そのものの禁止をねらいとするとの立場がありうる。
 しかし、一般に、商業広告は情報格差を是正して消費者の選択に資することをねらいとする制約であり、意見表明そのものの禁止をねらいとしないから、間接的・付随的制約である。購買意欲を著しく刺激し安易な購入につながることを防止するのも情報格差を是正して消費者の選択に資することをねらいとするといえるから、犬猫広告にも上記のことが妥当する。
 商業広告の間接的・付随的制約の合憲性は、目的が実質的な公共の利益を図るものか、手段が目的である利益を直接かつ相当程度促進するものか、規制範囲が合理的に画されているかで判断する(米国判例におけるセントラルハドソンテスト)

(1)前記第1の3(1)のとおり、目的は実質的な公共の利益を図るものである。

(2)動画等の情報は直ちに問題のある情報でなく規制不要であるから、手段が目的である利益を直接かつ相当程度促進するとはいえないとの立場がありうる。
 しかし、品種等の文字情報に比べて、動画等は、視覚に訴える情報であり、購買意欲を著しく刺激し、十分な準備と覚悟がないままの購入につながるから、手段が目的である利益を直接かつ相当程度促進する。

(3)広告に際して、品種、月齢、性別、毛色、出生地等を文字情報として用いることが可能で、実際に販売する段階では、購入希望者に対面で適正な飼養に関する情報提供を行い、かつ現物を確認させることが、動物愛護管理法と同様に、義務づけられている(骨子第3)から、規制範囲が合理的に画されている。

5.以上から、21条1項に反しない。

以上

【参考答案(その2)】

第1.規制①

1.犬猫販売業を営もうとする者又は既に業として犬猫を販売している者(以下「既存犬猫販売業者」という。)の職業選択の自由を侵害し22条1項に反するか。

2(1)職業選択の自由(同項)の保障根拠は、職業が生計維持だけでなく社会分業の活動でもあり、個人の人格的価値とも不可分の関連を有する点にある(薬事法事件判例参照)。犬猫販売業は、販売対価を得て生計を維持するだけでなくペット流通を担う社会分業の活動でもあるから、「職業」として同項の保障を受ける。

(2)職業の「選択」とは、開始、継続、廃止をいう(上記判例参照)。犬猫販売業免許を受けなければ、犬猫販売業を営もうとする者にあってはこれを開始できず、既存犬猫販売業者にあってはこれを継続できないから、規制①はこれらの者の職業選択の自由を制約する。

3.職業の許可制は、職業活動の内容・態様を超えて、職業選択そのものを制約する点で、職業の自由に対する強力な制限であり、それに見合った公益の重要性が求められるから、その合憲性は、重要な公共の利益のために必要かつ合理的かで判断する。職業の許可制とは、職業遂行を一般的に禁止し、許可された者のみに許すことをいう(以上につき上記判例参照)
 規制①は犬猫販売業の遂行を一般的に禁止し、犬猫販売業免許を受けた者のみにこれを許すから、職業の許可制である。
 これに対し、ペットショップ営業は禁止されない以上、職業選択そのものを制約する強力な制限でない、あるいは、職業遂行を一般的に禁止するとはいえないとの立場がありうる。この立場は、同項が独立した職業として保護するのはペットショップ営業であり、犬猫販売はペットショップ営業の取扱商品の態様にすぎないことを理由とする。しかし、犬猫は伝統的かつ代表的な愛玩動物であり、犬猫関連総市場規模は拡大傾向で、ペットの種類が多様化する中でも犬猫飼養頭数割合は相対的に高いまま推移している。ペット動物飼養者のうち、犬31%、猫29%で、犬猫以外のペットは50%にとどまる。犬猫を専門に扱うペットショップは一般に存在し、特異でない。本件法案も「犬猫の販売業」とし、独立した職業と位置付けている。独立した職業かの判断に当たっては、提供される商品役務の効用も考慮する(あマ指師養成施設不認定事件判例における草野耕一意見参照)。犬猫を飼いたいと思う者が、うさぎ、鳥、観賞魚等で同等の効用を得るとは考えられない。犬猫とその他の動物とでは、役務の効用が全く異なり、同一効用提供のための態様の差異という余地はない。以上から、上記立場は採用できない。

(1)規制①の目的(骨子第1)は、究極には「人と動物の共生する社会の実現」とされるが、具体の保護法益は、「国民の間に動物を愛護する気風」、「生命尊重、友愛及び平和の情操」、すなわち、動物愛護の良俗である。生類憐みの令に代表されるとおり、古来から動物愛護は我が国の良俗を構成し、国際的にも動物福祉は重視されている(ドイツ基本法20a条、欧州連合運営条約13条等参照)。販売業者・飼主による犬猫遺棄が大きな社会問題となり、各地公体による犬猫殺処分について命を軽視しているとの批判が大きくなった事実は、現在の我が国においても同様であることを裏付ける。以上から、動物愛護の良俗は、重要な公共の利益といえる。
 これに対し、動物愛護の良俗は個々人に帰属する人権とはいえないから、人権制約を正当化する規制目的とすることはできないとの立場がありうる。この立場は、人権制約原理である公共の福祉とは、人権相互の衝突を調整する実質的公平の原理であるから、人権の制約を正当化するのは他者の人権に限られることを理由とする。しかし、あらゆる制約が他者の人権によって正当化されなければならないとすると、人権の概念を本来の意味を超えて拡張せざるをえなくなり、かえって人権の外延を不明瞭にし、その価値を希薄化させる。判例は、「公共の福祉」(13条後段)とは国民全体の共同利益をいうとし(全農林警職法事件判例参照)、個体に対する人道観の上に全体に対する人道観を優位させることを認めている(死刑合憲事件判例参照)。上記立場はこれらの判例とも整合しない。以上から、上記立場は採用できない。

(2)許可制の採用

ア.職業の警察許可における必要性・合理性の判断に当たっては、制約効果の大小、予防措置として許可制とする必要性、目的と手段の均衡などを考慮し、より緩やかな制限である職業活動の内容・態様に対する規制では目的を十分に達成できないことを要する。職業活動の内容・態様に対する規制によって十分に危険を防止できる場合には、さらにすすんで強力な予防措置をとる必要性は乏しく、目的と手段の均衡を欠くからである。警察許可とは、職業活動がもたらす危険を予防する目的でする許可制をいう(以上につき薬事法事件判例参照)
 規制①は、犬猫販売業による職業活動が、飼主及び犬猫販売業者による犬猫遺棄を生じさせ、動物愛護の良俗を害する危険をもたらす場合があることから、許可制とすることでこれを予防する目的による。したがって、警察許可である。
 これに対し、犬猫の生命の保護という積極的な動物福祉が目的であるとの立場がありうる。しかし、国民が享受しない動物独自の利益をもって公共の利益という余地はない(前記全農林警職法事件判例参照)から、採用できない。

イ.犬猫販売業者に対し、遺棄を禁じ、飼主に十分な情報提供を行わせる(骨子第3)という職業活動の内容・態様に対する規制で十分に目的を達成できるから、許可制を採用する必要性・合理性がないとの立場がありうる。
 しかし、販売業者の管理能力を超える売れ残りが生じたときは、たとえ遺棄を禁じたとしても、既に飼養継続困難な以上、不可能を強いることになって脱法に走る結果となるだけであり、実効性がない。これまでの動物愛護管理法の下においても、既に適正な飼養に関する情報提供が義務付けられており、それでも飼主の遺棄を防止できなかった。飼主の意識改革では限界がある。職業活動の内容・態様に対する規制では十分に目的を達成できない。上記立場は採用できない。
 以上から、許可制の採用は、必要かつ合理的である。

(3)許可条件

 許可条件は許可制の内容を構成するから、審査対象には個々の許可条件も含まれる(薬事法事件、酒税法事件各判例参照)

ア.施設要件(骨子第2の1)

 販売場ごとに、犬猫の販売頭数に応じた犬猫飼養施設を設けること、各犬猫飼養施設に関する犬猫の体長・体高に合わせたケージ・運動スペース基準及び照明・温度設定の基準は、広い意味で「虐待…の防止、犬猫の適正な取扱いその他犬猫の健康」に資することに加え、諸外国の制度や専門家の意見を踏まえ、国際的に認められている基準の範囲内であるから、必要かつ合理的であるとの立場がありうる。
 しかし、規制①の目的は、犬猫遺棄等によって動物愛護の良俗が害されるのを予防するため、その原因となる供給過剰を防止する点にあり、広い意味での「虐待…の防止、犬猫の適正な取扱いその他犬猫の健康」をすべて含むものでない。施設要件厳格化が犬猫の動物福祉に資するとしても、それは当該目的の下に既に飼養施設に関する基準を定める動物愛護管理法の改正において達成されるべきものである。不十分な施設によって供給過剰が生じているとの事実はうかがわれないから、供給過剰防止手段として施設要件を設けることに合理的な関連性はない。
 以上から、施設要件は必要かつ合理的でない。

イ.需給要件(骨子第2の2)

 供給過剰防止の目的と直結しており、容易に関連性を認めうる。
 もっとも、開業場所を制限する許可条件は、開業そのものの断念にもつながりうるから、職業選択の自由に対する大きな制約効果がある(薬事法事件判例参照)。需給要件は、結果的に供給過剰の都道府県での開業を制限することになるから、上記のことが当てはまる。そのため、予防措置として許可制とする必要性、目的と手段の均衡は慎重に判断すべきところ、規制すべきなのは、売れ残ること自体ではなく、売れ残った犬猫を適切に扱わないことであり、売れ残った犬猫の遺棄を禁止し、飼養を義務付ければ足りるとして、必要性・合理性がないとの立場がありうる。
 しかし、前記(2)イのとおり、売れ残った犬猫の遺棄を禁止し、飼養を義務付けるという手段には実効性がない。とりわけ、日本では生後2、3か月の子犬や子猫の人気が高く、体の大きさがほぼ成体と同じになる生後6か月を過ぎると値引きしても売れなくなるという特殊性もある。すなわち、生後6か月を過ぎた犬猫が利益を生まない在庫として積み上がる一方、その管理費用等を捻出するためには利益を生む生後2、3か月の子犬や子猫を新たに仕入れざるを得ない。生後2、3か月の子犬や子猫が3~4か月で売れなければ、そのまま売れ残ることとなるから、これは新たな売れ残りを増加させる原因となるが、販売業者としては運転資金確保のため新たな仕入れを止めることができない。このように、犬猫販売業には構造的に供給過剰を生む原因が内在する以上、事前予防措置として需給調整を行うことが必要不可欠である。また、申請者にとって需給状況の判断が困難で予測可能性に乏しいという問題はありうるが、都道府県ごとの人口に対する犬猫飼育頭数割合や取引量等が考慮されることとされており、需給の現状に見合わない不合理な不許可については裁量逸脱の違法として取り消されうるから、目的・手段の均衡を欠くともいえない。
 以上から、需給要件は必要かつ合理的である。

ウ.シェルター収容能力要件(骨子第2の3)

 規制①の目的は、犬猫遺棄等によって動物愛護の良俗が害されるのを予防する点にあり、仮に、シェルターに持ち込まれる犬猫が収容能力を大幅に超えれば、やむを得ず殺処分せざるを得ない事態も容易に想定できる。これは動物愛護の良俗を害する。収容能力要件の趣旨は、その防止にある。しかし、シェルターは犬猫販売業者からの引取りを拒否でき、犬猫販売業者は売れ残った犬猫については終生飼養するか、自己に代わりそれを行う者を責任を持って探すことになる。したがって、犬猫販売業者の増加が、直接にシェルター持込増加につながる関係になく、許可をしないことで収容超過を直ちに回避できるとはいえない。このように、上記イの需給要件と異なり、手段が目的と直結せず、直接の関連性がない。
 手段が目的と直結せず、直接の関連性がないときは、関連性を基礎付ける確実な根拠があるかを審査する(薬事法事件判例参照)。文面から容易に関連性を認めることができないため、立法事実の存否について立ち入った審査をする必要があるからである

(ア)以下の理由により、関連性を基礎付ける確実な根拠があるとの立場がありうる。
 許可により犬猫販売業者が増加すると、供給過剰により売れ残りを減らそうとする犬猫販売業者による無理な販売が生じ、安易に購入した飼主によるシェルター持込増加の要因となる。現に、シェルター適正運営のために、収容頭数が地公体や民間団体で現在引き取っている頭数を超えない方策を検討してほしいとの要望が多くの都道府県から寄せられている。

(イ)しかし、供給過剰→無理な販売→安易購入→シェルター持込増加の各過程の因果関係は観念的な想定にすぎない。上記要望は収容能力超過を回避すべき必要性を基礎付けるにすぎず、上記因果関係を何ら基礎付けない。他に確実な根拠は示されていない。また、上記過程の起点となる供給過剰については、前記イの需給要件によって回避される仕組みとなっており、重ねて収容能力要件を課す必要性も乏しい。需給要件と同様、収容能力要件も収容能力不足の都道府県での開業を制限する点で大きな制約効果があることを考慮すると、目的と手段の均衡を欠く。

(ウ)以上から、シェルター収容能力要件は必要かつ合理的でない。

4.職業の自由は財産権行使の側面もあり、財産権に関する判例法理が妥当する。既存犬猫販売業者との関係では、既得の利益を侵害しないかという観点から、その合憲性は、内容変更に伴って当然容認される程度の不利益にとどまるかで判断する(財産権に関する国有農地売払特措法事件判例参照)。その判断に当たっては、既に具体に発生した権利のはく奪か、期待の喪失にとどまるかを考慮する(同事件、損益通算廃止事件各判例参照)
 規制①によって既存犬猫販売業者が被る不利益は、従来営んできた犬猫販売業をなしうる地位の喪失であり、単なる期待の喪失にとどまらず、既に具体に発生した権利のはく奪と評価でき、何らの激変緩和措置もない以上、内容変更に伴って当然容認される程度の不利益にとどまるとはいえない。
 これに対し、規制の対象は犬猫に限られ、それ以外の動物を販売して営業を続けることは可能であり、犬猫以外のペットを飼う人は50%近くになっているから、ペットショップとしての営業継続は可能だとして、内容変更に伴って当然容認される程度の不利益にとどまるという立場もありうる。しかし、前記3のとおり、犬猫販売業は独立の職業として22条1項で保護されるから、犬猫以外のペット販売業を営むことが可能であることは、十分な正当化理由とはならない。のみならず、ペット動物飼養者のうち、犬31%、猫29%で、犬猫合計で60%にのぼる。犬猫以外のペットを飼う50%のうち、少なくとも10%は同時に犬猫も飼っていることになる。犬猫販売ができなくなる不利益は重大であって、内容変更に伴って当然容認される程度の不利益にとどまるという余地はない。上記立場は採用できない。

5.規制①の目的は犬猫遺棄等によって動物愛護の良俗が害されるのを予防するため、その原因となる供給過剰を防止する点にあり、需給要件は必須の許可要件であるが、施設要件及びシェルター収容能力要件は、これを無効としても上記目的を害することはない。また、既存犬猫販売業者への適用がなく、犬猫販売業を営もうとする者との関係でのみ適用する場合においても、上記目的は相当程度達しうる。

6.よって、規制①を定める骨子第2のうち既存犬猫販売業者に適用される部分は22条1項に反し、無効である(意味上の部分違憲)とともに、許可条件のうち骨子第2の1及び3に係る部分は同項に反し無効であるが、その余の部分は同項に反せず、その本来の効力が認められる。

第2.規制②

1.犬猫販売業者の表現の自由を侵害し21条1項に反するか。

2.「表現」(同項)とは、自らの思想等を外部に表明することをいう。商業広告の自由は商品・サービスに関する情報伝達であり、純粋な思想等の表明ではないが、消費者の知る権利に奉仕するから、同項で保障される。犬猫の販売に関する広告(以下「犬猫広告」という。)についても上記のことがそのまま当てはまるから、同項の保障を受ける。
 これに対し、犬猫のイラスト、写真、動画(以下「動画等」という。)を用いる広告は虚偽・誇大に流れやすいから、適応症広告事件判例及び同判例における垂水克己補足意見に照らせば、同項の保障を受けないとの立場もありうる。確かに、虚偽・誇大な広告は、かえって消費者を害するから、表現の自由の濫用(12条後段)として、21条1項の保障を受けない(米国のセントラルハドソン事件判例も参照)。しかし、犬猫広告がすべて虚偽・誇大とまではいえない。虚偽・誇大とまではいえない広告については、同項の保障を肯定した上で、合憲性の審査をすべきである。適応症広告事件、風俗案内所規制条例事件各判例も、同項適合性の審査を行っているから、これを前提にすると考えられる。上記立場は採用できない。

3.規制②は、虚偽・誇大かを問わず、犬猫販売業者が犬猫広告に犬猫の動画等を用いることを禁止するから、上記自由を制約する。

4.表現の自由への制約が直接的か、間接的・付随的かは、意見表明そのものの禁止をねらいとするかで判断する(猿払事件判例参照)
 一般に、商業広告は情報格差を是正して消費者の選択に資することをねらいとする制約であり、意見表明そのものの禁止をねらいとしないから、間接的・付随的制約である
 規制②は、消費者保護を直接のねらいとしない。もっとも、愛らしい犬猫の姿態そのものをおよそ有害とみて禁圧しようとするのではなく、それが犬猫広告として用いられるときは購買意欲を著しく刺激し安易な購入につながり、ひいては飼主による犬猫遺棄や犬猫シェルター持込増加につながるとの認識の下、これを防止して動物愛護の良俗を保護することをねらいとするから、意見表明そのものの禁止をねらいとしないことは同様である。したがって、間接的・付随的制約である。その合憲性は、目的が実質的な公共の利益を図るものか、手段が目的である利益を直接かつ相当程度促進するものか、規制範囲が合理的に画されているかで判断する(米国判例におけるセントラルハドソンテスト)
 これに対し、商業広告は自己統治の価値がないから低価値表現であり、それゆえに緩やかな審査基準が妥当するとの立場がありうる。確かに、表現の自由の保障根拠は、自由な意見表明と情報の相互受領により多数意見が形成されて国政が決定されることが民主制国家の存立の基礎であるという点にある(北方ジャーナル事件判例参照)。しかし、政治的意味を持たない絵画、音楽等の表現であっても、一般に低価値とはされていないこと、わいせつ、名誉毀損、せん動は意見表明そのものが他者ないし公共の利益を害するが、虚偽・誇大に至らない商業広告については、意見表明そのものによって直ちに他者ないし公共の利益が害されるとはいえないことを踏まえると、商業広告を低価値とする根拠に乏しい。以上から、上記立場は採用できない。

(1)実質的な公共の利益とは、目的とされる利益が抽象的なものにとどまらず、客観的な事実に照らし明確に実在するものをいう(電話勧誘拒絶登録簿制度に関する米国判例等を参照)
 規制②の目的は動物愛護の良俗を保護する点にあり、前記第1の3(1)で述べた事実から、抽象的なものにとどまらず、客観的な事実に照らし明確に実在する。したがって、実質的な公共の利益といえる。

(2)飼主による遺棄及び犬猫シェルター持込みは十分な準備と覚悟がないまま安易に購入したことに起因するところ、動画等は、品種等の文字情報に比べて、視覚に訴える情報であり、購買意欲を著しく刺激し、安易な購入につながるから、手段が目的である利益を直接かつ相当程度促進するとの立場がありうる。
 しかし、直接かつ相当程度促進するというためには、生じうる害悪が現実的で、規制によってその害悪を相当程度緩和できることを要する(上記米国判例等を参照)
 犬猫販売業者は実際に販売する段階では購入希望者に現物を確認させることが義務付けられている(骨子第3)ところ、現物の直接確認は視覚のみならず五感(味覚を除く)すべてに訴えかける。愛玩動物には、外見・仕草などの愛らしさが重要であるという商品特性がある。規制②では品種等の文字情報が利用可能であるが、それだけでは外見・仕草などの愛らしさを的確に知ることができないから、購入希望者としては店舗で現物を見に行くしかなく、その場で現物の愛らしい外見・仕草などを目の当たりにし、十分な準備と覚悟がないまま安易に購入する可能性が容易に想定できる。だからといって、現物確認を禁止することは、およそ不合理で許されないことが明らかである。他方、動画等の犬猫広告を見た者が安易な購入に至ることについては、観念的には想定可能としても、上記の現物確認と比較して、特に禁止を正当化しうるほどに現実に生じうるかは疑問の余地があるところ、これを基礎付ける資料は全く示されていない。動画等の犬猫広告によって生じうる害悪が現実的であるとは認めがたく、規制によってその害悪を相当程度緩和できるともいいがたい。
 以上から、直接かつ相当程度促進するとはいえない。

5.よって、規制②を定める骨子第4は、21条1項に反する。

以上

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