狭義の職業選択の自由と営業の自由の区別
(令和6年司法試験論文式公法系第1問)

 広義の職業選択の自由は、狭義の職業選択の自由と営業の自由に分けられる。判例によれば、前者は職業の開始、継続、廃止の自由、後者は職業活動の内容、態様の自由に対応します。

薬事法事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである。右規定が職業選択の自由を基本的人権の1つとして保障したゆえんも、現代社会における職業のもつ右のような性格と意義にあるものということができる。そして、このような職業の性格と意義に照らすときは、 職業は、ひとりその選択、すなわち職業の開始、継続、廃止において自由であるばかりでなく、選択した職業の遂行自体、すなわちその職業活動の内容、態様においても、原則として自由であることが要請されるのであり、したがつて、右規定は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきである。

(引用終わり)

 そして、狭義の職業選択の自由そのものが規制されているか、そうでないかによって、審査基準を使い分けるのでした。表現の自由において、意見表明そのものをねらいとするか、そうでないかで区別する発想と少し似ていますね。

薬事法事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 職業の許可制は、法定の条件をみたし、許可を与えられた者のみにその職業の遂行を許し、それ以外の者に対してはこれを禁止するものであつて、右に述べたように職業の自由に対する公権力による制限の一態様である。このような許可制が設けられる理由は多種多様で、それが憲法上是認されるかどうかも一律の基準をもつて論じがたいことはさきに述べたとおりであるが、一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要……(略)……するもの、というべきである。

(引用終わり)

医薬品ネット事件第1審(東京地判平22・3・30)より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 原告らは, インターネット販売による医薬品販売業という職業を想定すべきであり,本件規制は,そのような職業の選択に関する制限である旨主張する……(略)……が,改正法及び改正省令の施行の前後を通じて,薬事法及びその関係法令(以下「薬事法令」という。)によれば,郵便等販売をすることができるのは薬局又は店舗販売業の許可を得ている者に限られている(新施行規則15条の4,142条参照)のであり,店舗を有しないインターネット販売専業の医薬品販売業といった営業形態は薬事法令上認められておらず,医薬品のインターネット販売という営業については,薬局又は店舗販売業の許可を得た者が一般用医薬品の郵便等販売を行うという薬事法令上認められている場合の販売方法の一態様として位置付けられているところ,薬局又は店舗販売業の許可を得た者は郵便等販売が認められなくなっても通常の販売方法による医薬品の販売ができなくなるわけではないから,本件規制は,その法的性質としては,営業活動の態様に対する規制であると解するのが相当である。原告らは, 本件規制は,前掲最高裁昭和50年4月30日大法廷判決(※注:薬事法事件判例を指す。)が職業選択の自由そのものに対する規制であるとした適正配置規制以上の規制であり,職業選択の自由そのものに対する規制と解すべきである と主張するが,上記最高裁判決の事例は,許可を得られないことにより薬局としての営業が全くできない場合であるのに対し,本件規制の場合は,薬局又は店舗において全区分の一般用医薬品を販売することが可能であり,上記のとおり,薬事法令上,インターネット販売は郵便等販売という販売方法の一態様であってそれ自体が独立した職業と位置付けられているものではないことからすれば,本件規制は上記最高裁判決の場合とは事例を異にし,同判決の適正配置規制以上の規制であるということもできない。

(引用終わり)

小売市場事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 憲法22条1項は、国民の基本的人権の一つとして、職業選択の自由を保障しており、そこで職業選択の自由を保障するというなかには、広く一般に、いわゆる営業の自由を保障する趣旨を包含しているものと解すべきであり、ひいては、憲法が、個人の自由な経済活動を基調とする経済体制を一応予定しているものということができる。しかし、憲法は、個人の経済活動につき、その絶対かつ無制限の自由を保障する趣旨ではなく、各人は、「公共の福祉に反しない限り」において、その自由を享有することができるにとどまり、公共の福祉の要請に基づき、その自由に制限が加えられることのあることは、右条項自体の明示するところである。

 (中略)

 したがつて、右に述べたような個人の経済活動に対する法的規制措置については、立法府の政策的技術的な裁量に委ねるほかはなく、裁判所は、立法府の右裁量的判断を尊重するのを建前とし、ただ、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限つて、これを違憲として、その効力を否定することができるものと解するのが相当である。

(引用終わり)

農業共済組合当然加入制事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 当然加入制は、もとより職業の遂行それ自体を禁止するものではなく職業活動に付随して、その規模等に応じて一定の負担を課するという態様の規制である……(略)……。

 (中略)

 上記の当然加入制の採用は……(略)……立法府の政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であることが明白であるとは認め難い

(引用終わり)

 判例によれば、「狭義の職業選択の自由そのもの規制」以外は同じ扱いなので、「営業の自由」に対する規制は、広く「経済活動の自由」に対する規制に包摂されます。小売市場事件判例が、最初だけ原告や原審の表現を用いて、「営業の自由」と表記したものの、後は一貫して「経済活動の自由」と表記しているのは、その趣旨と理解できます(※1)。
 ※1 小売市場事件が職業の許可制の事案でないことについては、『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』「職業の許可制の意義」の※注を参照。

 また、薬事法事件判例のいうLRAの要求とは、「狭義の職業選択そのものを規制するためには、職業活動の内容・態様に対する規制では目的を十分に達成できないこと」を要求するというもの、すなわち、営業の自由規制で目的を十分達成できるなら、すすんで職業選択の自由そのものを規制することは許さない、というものです。一般的に「より制限的でない選びうる手段がおよそ存在しないこと」を要求するものではないことに注意が必要です。

薬事法事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)

 一般に許可制は、単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し、また、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によつては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要するもの、というべきである。

(引用終わり)

 職業活動の内容・態様に対する規制であっても、狭義の職業選択の自由そのもの規制に匹敵するほどの強い規制である場合には、薬事法事件判例の法理に準じた審査がされることがあります。

医薬品ネット事件第1審(東京地判平22・3・30)より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 もっとも,各種商品のインターネット販売を主要な事業内容とする業者が,医薬品のインターネット販売を目的として店舗販売業の許可を受け,医薬品の販売方法として,実際には通常の店舗における販売を行わず,専ら郵便等販売の一態様としてのインターネット販売を行っている場合に,当該業者としては,事実上,医薬品の販売に係る営業活動そのものを制限される結果となることを考慮すると,上記のとおり本件規制はその法的性質としては営業活動の態様に対する規制ではあるものの,上記の業態の業者に関する限り,当該規制の事実上の効果としては,規制の強度において比較的強いものということができる。
 そして,……(略)……本件規制は,自由な営業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的・警察的な目的による規制措置であり,また,その規制の方法は,第三類医薬品の販売についてはその販売方法から郵便等販売を除外していないものの,第一類・第二類医薬品の販売に関する限り,例外を許さない一律の制限を内容とするものであることなどによれば,規制の強度において比較的強いものということができる。

 (中略)

 以上の諸事情を総合的に考慮すると,本件規制は……(略)……規制目的(一般用医薬品の適切な選択及び適正な使用を確保し,一般用医薬品の副作用による健康被害を防止すること)を達成するための規制手段としての必要性と合理性を認めることができ,医薬品の副作用(副作用に関する消費者一般の意識・認識等を含む。)及び情報通信技術等をめぐる本邦の現状の下において,営業活動の態様に対するより緩やかな制限を内容とする規制手段によっては上記の規制目的を十分に達成することができないと認められる以上,立法機関(立法府の制定した法律により行政立法の権能の委任を受けた行政機関を含む。)の合理的裁量の範囲について,職業活動の内容及び態様に関する規制として,あるいは狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課する規制に準じて,広狭のいずれに解するか……(略)……にかかわらず,その合理的裁量の範囲を超えるものではないというべきであり,本件規制及びこれを定める本件各規定を薬事法施行規則に加える改正省令中の本件改正規定は,憲法22条1項に違反するものということはできない。

(引用終わり)

 この辺りの判例法理を踏まえられているかどうか。例えば、被侵害利益を「営業の自由」とし、営業の自由を「職業活動の内容、態様の自由」と定義しておきながら、許可制を論じるところで、「狭義の職業選択の自由に対する強力な制限である。」などと書いてしまえば、「それなら被侵害利益は職業選択の自由でしょ。」と考査委員から論理矛盾の判定を受けるおそれがあるでしょう。また、仮に判例とは異なる見解を採るとしても、判例の枠組みは答案に示すべきでしょう(※2)。もっとも、ここは受験生の多数が把握できていないと思われますので、大きな差にはならないかな、という感じです。なお、上記に説明した内容は、『司法試験定義趣旨論証集(憲法)』において、いずれも論証化していますので、参考にしてみてください。
 ※2 学説の状況については、赤坂正浩「職業遂行の自由と営業の自由の概念--ドイツ法を手がかりに--」立教法学 第 91号(2015年)を参照。

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