1.令和6年司法試験論文式公法系第1問。規制①で、骨子第2の文言から、「不許可事由に該当するときも犬猫販売業免許を与える効果裁量がある。」と理解して、合憲方向の要素とした人もいたのではないかと思います。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 第2 犬猫販売業免許 犬猫の販売業を営もうとする者は、販売場ごとに、その販売場の所在地の都道府県知事から犬猫販売業免許を受けなければならない。次の各号のいずれかに該当するときは、都道府県知事は、犬猫販売業免許を与えないことができる。 1 販売場ごとに設けられた犬猫飼養施設の状況により、犬猫販売業免許を与えることが適当でないと認められるとき。 2 当該都道府県内の犬猫の需給均衡の観点から、犬猫販売業免許を与えることが適当でないと認められるとき。 3 当該都道府県内の犬猫シェルター収容能力の観点から、犬猫販売業免許を与えることが適当でないと認められるとき。 (引用終わり) |
「与えないことができる。」という文言からして、「与えることもできる。」ということだろう。この文理解釈ないし反対解釈は、全く正しい。しかし、その解釈は個々の不許可事由の内容と整合するのでしょうか。そんな目で、改めて個々の不許可事由を見てみましょう。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 第2 犬猫販売業免許 犬猫の販売業を営もうとする者は、販売場ごとに、その販売場の所在地の都道府県知事から犬猫販売業免許を受けなければならない。次の各号のいずれかに該当するときは、都道府県知事は、犬猫販売業免許を与えないことができる。 1 販売場ごとに設けられた犬猫飼養施設の状況により、犬猫販売業免許を与えることが適当でないと認められるとき。 2 当該都道府県内の犬猫の需給均衡の観点から、犬猫販売業免許を与えることが適当でないと認められるとき。 3 当該都道府県内の犬猫シェルター収容能力の観点から、犬猫販売業免許を与えることが適当でないと認められるとき。 (引用終わり) |
すべての不許可事由で、「犬猫販売業免許を与えることが適当でないと認められるとき。」とされている。さて、この不許可事由を前提にしても、「不許可事由に該当するときも犬猫販売業免許を与える効果裁量がある。」という命題は成立するでしょうか。都道府県知事が、「不許可事由に該当スル!」と判断したということは、「犬猫販売業免許を与えることが適当でない。」、すなわち、「免許なんて与えたらダメでし!」と判断したということを意味します。その上で、「でも、免許を与えてヨシ!」と判断する。そんなことがあり得るか(※1)。「免許を与えることが適当でない。」という判断と、「免許を与えることが適当だ。」という判断を同時にしているわけで、そんなのは矛盾というほかありません。そんなわけで、「不許可事由に該当するときも犬猫販売業免許を与える効果裁量がある。」とは、到底いえないと思います。
※1 厳密には、各号の「状況」ないしは「観点」とは異なる要素を考慮して免許を与えるという合理的な判断があり得る、という解釈の余地が絶対にあり得ないとまではいえませんが、そのようなマニアックな趣旨でこんな文言にしたとは考えにくいと思います。
2.そうすると、どうして、「犬猫販売業免許を与えないことができる。」なんて文言にしたのだろう、という疑問が湧くことでしょう。これは、単純に「法令の文言を作るのに慣れてない人(憲法学者)が作問したから」だと思います(※2)。それぞれの不許可事由に「犬猫販売業免許を与えることが適当でないと認められるとき。」という文言を入れるなら、要件該当性において実質判断を含んでいるので、「犬猫販売業免許を与えてはならない。」という文言とするのが普通なのです。「与えないことができる」の文言を用いて効果裁量を許すのは、不許可事由が形式要件である場合が通常です。食品衛生法の営業許可制度に関する55条2項ただし書の例を挙げておきましょう。
※2 このことは、問題文冒頭の「取り分け」という文言からも、感じられることです。公用文では、これは平仮名にするのが通例だからです。なお、副詞としてではなく、「取り分ける」という動詞で用いる場合は、漢字で表記します。
(参照条文)食品衛生法 54条 55条 |
この場合、55条2項各号に形式的に該当する場合であっても、実質的にみて許可を与えてよいときがあり得ます。なので、「許可を与えないことができる。」という定め方が意味を持つわけですね。作問者は、上記のような立法例を参考にして本問の骨子第2を作ったのかもしれませんが、不許可事由との関連にまでは意を用いることができなかったものと考えられます。ついでに、54条の「公衆衛生に与える影響が著しい営業」が何か気になって仕方がない、という人のために、同条の「政令で定めるもの」を定めた食品衛生法施行令35条を掲げておきましょう。個人的には、25号の「煮物(つくだ煮を含む。)、焼物(いため物を含む。)」の部分が好みです。なお、記事はこの後も続きます。
(参照条文)食品衛生法施行令35条(営業の指定) 法第54条の規定により都道府県が施設についての基準を定めるべき営業は、次のとおりとする。 一 飲食店営業 |
3.「与えないことができる。」という文言でも、解釈上、許認可等を与える効果裁量が認められないこともあり得ますし、不許可事由が許認可等を与えることの不当性を強く基礎付ける要素である場合には、実質上は許認可等を与えてよい場面は極めて限られるでしょう。上記2で挙げた食品衛生法55条2項各号の事由についても、申請書の記載上は「申請者の欠格事項」と呼称されており、実務解説書でも、「これに該当すれば許可を受けられないことがある。」という説明をするものがある一方、「これに該当すればそもそも申請できないので、該当しないことを確認して『なし』を記入する。」のような説明をするものもあります。また、これに該当しつつ許可を受けられた例はほとんどないようです。
「与えないことができる。」の解釈が議論された例があります。当時の医療法7条5項(現在の同条7項)が営利目的の場合に病院開設許可を「与えないことができる。」と規定していたことについて、この規定は株式会社への病院開設許可を一切認めない趣旨か、ということが問題とされたのでした。
(参照条文)医療法7条 病院を開設しようとするとき……(略)……は、開設地の都道府県知事……(略)……の許可を受けなければならない。 2~6 (略) 7 営利を目的として、病院……(略)……を開設しようとする者に対しては……(略)……第1項の許可を与えないことができる。 |
(総合規制改革会議第6回アクションプラン実行WG(平成15年4月22日)議事概要「株式会社等による医療機関経営の解禁について」 より引用。太字強調は筆者。) ○鈴木良男(株式会社旭リサーチセンター代表取締役社長)副主査 ○榮畑厚生労働省医政局総務課長 ○鈴木副主査 ○榮畑総務課長 ○鈴木副主査 ○榮畑総務課長 ○鈴木副主査 (中略) ◯福井秀夫(政策研究大学院大学教授)専門委員 ○榮畑総務課長 ○福井専門委員 ○榮畑総務課長 (引用終わり) |
上記の議論を踏まえて、ものすごく穿った見方をすれば、「既に犬猫販売業を営んでいるペットショップについては、それを適用除外にする趣旨で『与えないことができる。』という文言にされたとの解釈が可能であることを問うものである。」という説明も全然不可能とまではいいませんが、そんなわけねーよ。なので、この部分は作問の不備ということで、そっと無視するのが正解である。当サイトは、そう考えています。