1.令和6年司法試験論文式公法系第2問設問1小問(2)。違法事由は2つあって、1つが縦覧・意見書提出手続を欠く違法、もう1つが本件都市計画変更の違法である。このことは、「【S市都市計画課の会議録】」から、容易に読み取ることができます。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕(1)、〔設問1〕(2)、〔設問2〕の配点割合は、35:35:30〕) (中略) 〔設問1〕 (1) (略) (中略) 【S市都市計画課の会議録】 (中略) 課長:次に、本件事業計画変更認可の違法性ですが、第一に、変更認可の申請があった後、法第16条が定める縦覧及び意見書提出手続が履践されていないようです。これで問題はないのでしょうか。 係長:検討して御報告します。 課長:第二に、第一種市街地再開発事業の施行区域は都市計画として定められるため、「一体的に開発し、又は整備する必要がある土地の区域について定めること」という都市計画基準(都市計画法第13条第1項第13号)を満たさなければなりません。加えて、法第3条各号が掲げる施行区域の要件をも満たさなければなりません。これらは、施行地区を変更する都市計画にも同様に適用されます。まず、C地区の立地条件からみて、上記の都市計画基準を満たしているといえるのか、さらに、C地区は公園として整備される予定ですが、そのようにすることで法第3条第4号に定める施行区域の要件が満たされることになるのか、それぞれ疑問があります。 係長:本件都市計画変更の違法性の問題ですね。最高裁判決(最高裁判所昭和59年7月16日第二小法廷判決・判例地方自治9号53頁)は第一種市街地再開発事業に関する都市計画決定の処分性を否定していますから、その違法性は後続の処分の違法事由として主張することになります。本件事業計画変更認可に処分性が認められると仮定して、お示しいただいた事情を具体的に考慮し、同認可の違法事由となるかどうか検討してみます。 (引用終わり) |
今回は、前者の縦覧・意見書提出手続についてみていきましょう。ここの部分は、会議録のヒントがとても淡白で、具体的なことを何も教えてくれない。そこで、末尾の関係法令を高速で上から見て、関係ありそうな条文をピックアップする作業に入ります。事案ではなく、法令の方から先に見るのは、「法令を具体的事実に適用して一定の法効果が発生する。」という構造にあるので、まず、縦覧・意見書提出手続をしないことの法効果を規律する法令を探して、その後に、それに当てはまる具体的事実を探す、というプロセスになるからですね。
そうやって探していくと、以下の法令をピックアップできるはずです。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【資料 関係法令】 (中略) ○ 都市再開発法(昭和44年法律第38号)(抜粋) (中略) (事業計画の縦覧及び意見書の処理) (中略) (定款又は事業計画若しくは事業基本方針の変更) (中略) ○ 都市再開発法施行令(昭和44年政令第232号)(抜粋) (縦覧手続等を要しない事業計画等の変更) 一 都市計画の変更に伴う設計の概要の変更 2、3 (略) (引用終わり) |
ピックアップした条文を見れば、「要するに法施行令4条1項各号に当たるかどうかを判断すればいいわけね。」ということが分かるでしょう。なお、「政令で定める軽微な変更」とされていることから明らかなとおり、法施行令4条1項は法規命令です。なので、「法施行令4条1項は裁量基準である。」として、裁量基準の合理性や個別事情考慮義務の枠組みで検討してしまえば、「法規命令と行政規則(裁量基準)の区別という基本を理解していない。」と判断されて、評価を落とすことになるでしょう。
2.さて、法施行令4条1項各号のどれかに当たるのか、という目で、改めて「【本件の事案の内容】」の方に高速で目を通します。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【本件の事案の内容】 (中略) B地区組合は、平成28年認可に係る事業計画を変更すべく、Q県知事に対し、C地区を本件事業の施行地区に編入して公共施設である公園とする一方で、設計の概要のうち当該公園を新設すること以外は変更しないという内容で、事業計画の変更の認可を申請した(法第38条第1項)。Q県の担当部局は、この事業計画の変更が「軽微な変更」(同条第2項括弧書き)に当たると判断したため、Q県知事はR市長に事業計画の縦覧及び意見書提出手続(法第16条)を実施させなかった。 (引用終わり) |
「Q県の担当部局は、この事業計画の変更が「軽微な変更」(同条第2項括弧書き)に当たると判断した」の部分で、「やっぱり『軽微な変更』を検討すればいいのね。」と再確認できます。同時に、施行期間とか資金計画は変更の内容に全然入ってないので、「3号と4号はないわ。」と瞬殺できるはずです。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【資料 関係法令】 (中略) ○ 都市再開発法施行令(昭和44年政令第232号)(抜粋) (縦覧手続等を要しない事業計画等の変更) 一 都市計画の変更に伴う設計の概要の変更 2、3 (略) (引用終わり) |
そして、2号については、一瞬、「当たりそうかな。」と思える事実が目に入るでしょう。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【本件の事案の内容】 (中略) Q県R市は、その区域の全域が都市計画法上の都市計画区域に指定されている。R市内にあるA駅東口地区のうち、Dの所有する宅地を含む約2万平方メートルの土地の区域(以下「B地区」という。)について、組合施行による第一種市街地再開発事業(以下「本件事業」という。)の実施が目指された。 (中略) その後、本件事業が停滞している中、令和4年になって、R市は、B地区から見て河川を越えた対岸にある約2千平方メートルの空き地(以下「C地区」という。)を施行区域に編入するために、上記平成27年に決定された都市計画を変更した(以下「本件都市計画変更」という。)。 (中略) B地区組合は、平成28年認可に係る事業計画を変更すべく、Q県知事に対し、C地区を本件事業の施行地区に編入して公共施設である公園とする一方で、設計の概要のうち当該公園を新設すること以外は変更しないという内容で、事業計画の変更の認可を申請した(法第38条第1項)。Q県の担当部局は、この事業計画の変更が「軽微な変更」(同条第2項括弧書き)に当たると判断したため、Q県知事はR市長に事業計画の縦覧及び意見書提出手続(法第16条)を実施させなかった。 (中略) 【資料 関係法令】 (中略) ○ 都市再開発法施行令(昭和44年政令第232号)(抜粋) (縦覧手続等を要しない事業計画等の変更) 一 都市計画の変更に伴う設計の概要の変更 2、3 (略) (引用終わり) |
B地区が約2万平方メートルで、C地区は約2千平方メートルだから、約10分の1。ならば、ギリギリ「10分の1をこえる延べ面積の増減を伴わない」といえるのではないか。現場でパニックになっていると、「ああもうこれでしょ。他はもう見てるヒマないからこれに当たるってことにしよう。」と考えて、「法施行令4条1項2号に該当するから、『軽微な変更』に当たる。」などと解答してしまいそうです。しかし、落ち着いてください。そもそも、本問は違法の結論で書かないとダメです。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 〔設問1〕 (引用終わり) |
それだけじゃない。もう一度、落ち着いて2号の文言を見るべきです。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【資料 関係法令】 (中略) ○ 都市再開発法施行令(昭和44年政令第232号)(抜粋) (縦覧手続等を要しない事業計画等の変更) 一 都市計画の変更に伴う設計の概要の変更 2、3 (略) (引用終わり) |
本件事業計画変更認可に係る変更の内容は、「施設建築物の設計の概要の変更」なのか。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【本件の事案の内容】 (中略) B地区組合は、平成28年認可に係る事業計画を変更すべく、Q県知事に対し、C地区を本件事業の施行地区に編入して公共施設である公園とする一方で、設計の概要のうち当該公園を新設すること以外は変更しないという内容で、事業計画の変更の認可を申請した(法第38条第1項)。 (引用終わり) |
試験現場で、「あーわからんけど公園も広い意味で『施設建築物』なんじゃね?」なんて雑な思考を走らせた人もいるかもしれません。仮にそうだったとしても、2号を普通に読むと、既に計画された公園の規模をちょっと大きくするとか、「新しく遊具やトイレを増設しますね。」という感じの意味になるだろう。今回の計画変更は、新たな地区を編入して今まで全然計画になかった公園を新しく新設しようというのだから、仮に「施設建築物」に公園が含まれるとしても、「施設建築物の設計の概要の変更」とは読めない。いずれにしても、無茶な判断です。今年受験していない人は、「そんなバカみたいな間違いするわけないじゃん。」と思うかもしれませんが、演習慣れしていないと、パニックになって、普通ならやらないような意味不明の判断をしてしまうものなのです。これが本試験の怖さというものであって、これを軽視していると、自分も試験当日にとんでもないことをやらかすことになります。
こういうときは、まず、冷静に、「施設建築物って何?」というところから確認すべきでしょう。そのような目で、関係法令を高速で見る。すると、「公共施設」とは区別して定義されていることに気付きます(※1)。
※1 ちょっとだけどうでもいいことをいうと、法2条は、「意義」を各号のように「定める」もので、条文見出しは、「定義」とされています。すなわち、「意義を定めること」が「定義」なのですね。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【資料 関係法令】 (中略) ○ 都市再開発法(昭和44年法律第38号)(抜粋) (引用終わり) |
これだけでも、今回の計画変更で新設される公園が、「施設建築物」になるわけない、と判断できる。しかし、手掛かりはそれだけではありません。考査委員は、制度に詳しくない受験生が誤解しないように、問題文冒頭でわざわざ「【市街地再開発事業の制度の概要】」という項目を設けて、補足説明を加えています。これは、ありがたく利用すべきです。その冒頭の一文を読んだだけで、公園が施設建築物なんかになるわけないと判断できるでしょう。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【市街地再開発事業の制度の概要】 市街地再開発事業とは、都市計画法上の都市計画区域内で、細分化された敷地を共同化して、いわゆる再開発ビル(法上の「施設建築物」)を建築し、同時に道路や公園等の公共施設の用地を生み出す事業であり、……(略)……。 (引用終わり) |
「公園も広い意味で再開発ビルでしょ。」なんて言う人は、さすがにいないでしょう。しかも、「同時に道路や公園等の公共施設の用地を生み出す事業」と書いてある。C地区を編入して公園にするという変更が、「施設建築物の設計の概要の変更」になるわけがないのです。ここに気が付けば、5号にも当たるはずがない、と判断できます。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 【資料 関係法令】 (中略) ○ 都市再開発法施行令(昭和44年政令第232号)(抜粋) (縦覧手続等を要しない事業計画等の変更) 一 都市計画の変更に伴う設計の概要の変更 2、3 (略) (引用終わり) |
公園が施設建築物になり得ない以上、C地区が施設建築敷地になるわけないので、5号にも当たりません(※2)。こうして、2号及び5号に該当しないことを確認できました。
※2 「施設建築敷地」は、法2条7号で、「市街地再開発事業によつて造成される建築敷地」と定義されています。これは、要するに施設建築物の敷地を指し、公共施設の用に供する土地は含みません。問題文では、法2条7号が省略されていて、「【市街地再開発事業の制度の概要】」でも、「再開発ビルの敷地」の文言に置き換えられています。「施設建築敷地」の文言だけでも、「施設建築物のための敷地」という意味に理解できるでしょうし、「市街地再開発事業によつて造成される建築敷地」という文言はちょっと分かりにくく、公共施設の敷地は除かれるという趣旨が読み取れないかもしれないので、かえって記載しない方が分かりやすいと判断されたのでしょう。
3.そうなると、残るは、1号該当性です。これについては、次回、説明したいと思います。