(さいたま地決令2・10・19(上場会社の事案)より引用。太字強調は当サイトによる。) 少数株主が裁判所の株主総会招集許可を受けている場合、招集株主は、単なる株主としての地位にとどまらず、当該株主総会における決議が法831条1項1号所定の取消原因に該当する瑕疵を帯びることのないように株主総会を開催すべき善管注意義務を負うと解されるところ、それに違反し、又は違反するおそれがあるときは、監査役は、当該株主総会の開催について、法385条の類推適用により、同条に定める差止請求権を有すると解することが相当である。 (中略) 法120条1項は、株式会社は、何人に対しても、株主の権利等の行使に関する財産上の利益の供与をしてはならない旨を規定している。同項の趣旨は、取締役会は会社の所有者たる株主の信任に基づいてその運営にあたる執行機関であるところ、その取締役が、会社の負担において、株主の権利行使に影響を及ぼす趣旨で利益供与を行うことを許容することは、会社法の基本的な仕組みに反し、会社財産の浪費をもたらすおそれがあるため、これを防止することにあり、会社財産の浪費を防ぐとともに、取締役が株主の意思を歪めることを防ぐことを目的とするものと解される。 (引用終わり) |
(東京高決令2・11・2(上記さいたま地決令2・10・19の抗告審)より引用。太字強調は当サイトによる。) 本件臨時株主総会は、裁判所の許可を得た少数株主であるYが招集するものであり、本件臨時株主総会の開催を禁止することは、本件臨時株主総会において当該少数株主であるYを始めとするA社の株主の権利行使の機会を一方的に奪うことになる一方、上記のようなクオカードの贈与の表明によって本件臨時株主総会の招集又は決議の方法に瑕疵が生じるのであれば、株主総会決議の取消しを求める訴えによってその是正をすることが可能であり、この訴えの提起と共に、民事保全法23条2項に基づき、本件臨時株主総会の決議で選任された取締役等の職務の執行を停止し、その職務を代行する者の選任を求めるなどの仮処分命令を求めるなどの方法も可能であって、救済手段に欠けるところはない。そして、一般に、株主総会開催禁止仮処分の申立てにおける保全の必要性は、当該株主総会の開催を許すと、違法若しくは著しく不公正の方法で決議がされるなどの高度の蓋然性があって、その結果、会社に回復困難な重大な損害を被らせ、これを回避するために開催を禁止する緊急の必要性があることが求められる。 (中略) これらを踏まえて検討すると、Yが他のA社の株主に送付した本件当初書面及び本件追加書面において行ったクオカードの贈与の表明が、本件臨時株主総会の決議に影響を与えるものであるか否かは、議決結果の全体状況によるものであり、現時点で確定し得るものとは認め難く……(略)……クオカードの贈与の表明によってA社に回復困難な重大な損害を被らせるとの疎明があったとは認められない。 (引用終わり) |
(東京地判平26・2・10(非公開会社の事案)より引用。太字強調は当サイトによる。) 会社法上、株式会社は、株主総会の特別決議をもって株式を併合することができると定められているところ(同法180条1項、2項、309条2項4号)、その併合の理由、併合の割合等については、条文上、何らの制限も加えられていないから、株式会社は、原則として、所定の手続を踏めば、併合の理由及び併合の割合にかかわらず、株式併合を実施することができるものと解される。したがって、その併合の割合が大きく、多くの株式が1株未満の端数となって、その株主が株主権を失うような場合であったとしても、それのみで直ちに当該株式併合が違法、不当と評価されるものではない。もっとも、株式併合は、多数派によって濫用される危険性があることも否定することができず、その内容によっては、株主権を失う者にとって看過できない不利益を被らせるおそれがあるから、株主総会の特別決議を経たからといって、あらゆる株式併合が許容されるとはいえず、株主権を失う者とそうでない者との間に著しい不平等を生じさせるような場合には、その決議が株主平等原則に反するものとして無効となることもあるというべきである。そして、どのような場合にこれが無効となるかについては、①当該株式併合の目的、②その目的を達成するための手段としての合理性、③株主が被る不利益の程度、④その不利益を回避、緩和するための措置の相当性等を総合的に考慮して判断することが相当である。」 (引用終わり) |
(札幌地判令3・6・11(非公開会社の事案)より引用。太字強調は当サイトによる。)
株式の併合について、会社法は、株式の併合を必要とする理由を株主総会において説明しなければならないと規定するのみで(同法180条4項)、併合の理由の内容、当否等については条文上何らの制限も設けられていない。そして、株式の併合により、少数株主の持ち株数が1株に満たなくなり、株主としての地位を失うという結果が生じること自体は、会社法が予定しているものというべきであって、株式の併合が少数株主の締め出しを目的としているからといって、直ちに同法の趣旨に反するということはできない。現に、会社法においては、平成26年法律第90号による改正により、(1)事前開示手続(会社法182条の2)、(2)事後開示手続(同法182条の6)、(3)株主による差止請求の制度(同法182条の3)及び(4)反対株主による株式買取請求の制度(同法182条の4)が設けられたが、これらの整備は、少数株主の締め出しを目的とした株式の併合であっても直ちに会社法の趣旨に反するわけではないことを前提に、締め出される少数株主の保護を図り、もってその衡平性を担保しようとしたものとも解されるところである。 (中略) 本件決議による本件株式併合の結果、Xは株主としての地位を失い、これによりX以外の株主は会社に対する支配権を強化することになるのであるから、X以外の株主が本件決議についての特別利害関係人に該当するとみる余地もないわけではない。 (中略) X……(略)……と、Y代表者のA……(略)……とは、これまでYの株式の相続や株主権の行使をめぐって争いが度々生じていたところであり、その際、Xも株式の売渡しや会計帳簿等の閲覧を……(略)……請求していたものである……。そうすると、Yにおいて、Xが将来、Yの円滑な意思決定を妨げ、もってYの安定的な会社経営を阻害するのではないかと考えたというAの供述……(略)……も、不自然、不合理とまではいえない。 (中略)
本件株式併合は、会社経営の転換期を迎えたY会社において、その意思決定を円滑かつ迅速に進めるため、Xを株主から排除し、安定株主による会社支配権を確立することを目的として行われたものと認めるのが相当であって、これ自体、正当な事業目的ではないとまではいえない。……(略)……以上によれば、本件株式併合は正当な事業目的がなく、単にY会社代表者であるAの個人的感情に基づいて行われたということはできない。 (引用終わり) |
(東京地判平19・10・31より引用。太字強調は当サイトによる。) 本件6号議案について、退職慰労金支給の対象となるE前社長は特別利害関係人に当たるが、会社法831条1項3号は、「特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされた」場合に、取消事由があるとしているところ……(略)……本件総会で行使された議決権数は6万3598個で、本件6号議案の原案に賛成した議決権数は5万3242個であるが、この賛成議決権数からE前社長が行使した議決権数3789個を減じても、なお賛成議決権数は4万9453個であり、行使議決権数の過半数を超えている。 (引用終わり) |