(最大判昭45・11・11(「互」建設共同体事件)より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。) 訴訟における当事者適格は、特定の訴訟物について、何人をしてその名において訴訟を追行させ、また何人に対し本案の判決をすることが必要かつ有意義であるかの観点から決せられるべきものである。したがつて、これを財産権上の請求における原告についていうならば、訴訟物である権利または法律関係について管理処分権を有する権利主体が当事者適格を有するのを原則とするのである。しかし、それに限られるものでないのはもとよりであつて、たとえば、第三者であつても、直接法律の定めるところにより一定の権利または法律関係につき当事者適格を有することがあるほか、本来の権利主体からその意思に基づいて訴訟追行権を授与されることにより当事者適格が認められる場合もありうるのである。 (引用終わり) |
(最判平28・6・2(アルゼンチン国債事件)より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。) 任意的訴訟担当については,本来の権利主体からの訴訟追行権の授与があることを前提として,弁護士代理の原則(民訴法54条1項本文)を回避し,又は訴訟信託の禁止(信託法10条)を潜脱するおそれがなく,かつ,これを認める合理的必要性がある場合には許容することができると解される(最高裁昭和42年(オ)第1032号同45年11月11日大法廷判決・民集24巻12号1854頁参照)。 (引用終わり) |
(大判昭6・4・23より引用。太字強調及び現代表記化は当サイトによる。) 上告人ハ原審ニ於テ代金ノ支払滞レルニ依リ之カ提供ヲ為迄本訴物件ノ引渡ヲ拒ム旨抗争シ数多ノ証拠ヲ援用セリ而シテ特ニ当事者双方ニ共通ノ証拠タルヘキ原審被控訴本人訊問ノ結果ニ依レハ売買代金一千円中尚約二十円足ラスノ残金アル旨自白セリ(控訴本人訊問調書参照)然ルニ原判決ハ此ノ自白ヲ無視シ代金全部支払ヲ了シタルモノ ト認メ上告人ノ抗弁ヲ排斥シタルハ誠ニ違法ノ判決ナリト云フニ在リ 然レトモ本人訊問ニ於ケル当事者ノ供述ハ証拠ニシテ弁論ニアラサルカ故ニ其ノ相手方ノ主張ト一致スルモノアルモ之ヲ自白ト為スヲ得サルモノニシテ且被上告人本人ノ所論供述ハ原審カ措信セストシテ排斥シタルモノニカカルコト明ナルヲ以テ本論旨ハ採ルニ足ラス (引用終わり) |
(最判昭35・2・12より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。) 本件において、X(原告)は、家屋の所有権に基き、Y(被告)に対し、その占有部分の明渡を求めたところ、Yは、Xらとの間に使用貸借が存するものと主張し、Xは右の事実を認めたが、ついでYは、右主張を撤回し、YとXの前主Dとの間には、右占有部分につき、賃料1か月15円、毎月末日払、期間の定めのない約の賃貸借契約が成立しており、Xらは本件家屋の所有権を取得すると同時に、いずれも右賃貸借契約に基く権利義務を承継したものであると主張するにいたり、Xはこの事実を否認したものである。ところで、自白とは、自己に不利な事実の陳述をいうのであるから、以上の如き訴訟の経過に照らすと、本件において自白というべきものは、原審の判示した如くYの「本件家屋の占有は使用貸借に基くものである」との陳述ではなく、Xのなした「使用貸借の事実を認める」との陳述であり、その結果、Yとしては、使用貸借の事実については、立証を要しなくなつたものにほかならない。したがつて、Yが右主張を撤回し、新たに賃貸借の主張をするにいたつたとすれば、立証を要しない主張を立証を要する主張に変更したにとどまり、これをいわゆる自白の取消ということはできない。されば、右主張の変更のためには、従前の主張が事実に反し且つ錯誤に基いたとの主張立証を要すると解すべきではなく、新たな主張が「故意又ハ重大ナル過矢ニ因リ時機に遅レテ」なされ、それがために「訴訟ノ完結ヲ遅延セシム」るか否かによつてその許否を決すべきものといわなければならない(民訴139条(※注:現行の157条に相当する。)。 (引用終わり) |
(最判昭41・12・6より引用。太字強調は当サイトによる。) 被上告人のした所論自白の撤回につき、右自白が真実に反しかつ錯誤に基づくものであることが認められるから、右撤回が有効であるとした所論原判示は正当である。所論は、自白の撤回はその自白したことにつき過失がないことを自白者が直接に証明できる場合に限り許される旨主張するが、右錯誤につき無過失であることまでは必要でないと解すべきであるから、論旨は採用できない。 (引用終わり) |
(最判昭25・7・11より引用。太字強調は当サイトによる。) 当事者の自白した事実が真実に合致しないことの証明がある以上その自白は錯誤に出たものと認めることができるから原審において被上告人の供述其他の資料により被上告人の自白を真実に合致しないものと認めた上之を錯誤に基くものと認定したことは違法とはいえない。 (引用終わり) |
(最判昭36・10・5より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。) 判決確定前に民訴420条1項5号前段(※注:現行の338条1項5号に相当する。)所定の刑事上罰すべき他人の行為による自白が効力がない旨の主張をするには、同条2項の要件を具備する必要がないものと解するを相当とする (引用終わり) (参照条文)民事訴訟法338条(再審の事由) 次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。 一~四 (略) 2 前項第4号から第7号までに掲げる事由がある場合においては、罰すべき行為について、有罪の判決若しくは過料の裁判が確定したとき、又は証拠がないという理由以外の理由により有罪の確定判決若しくは過料の確定裁判を得ることができないときに限り、再審の訴えを提起することができる。 3 (略) |
(最判平9・3・14より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。) 【事案】 1.亡D(昭和37年4月23日死亡)の相続人は、X(妻)、E(長女)及びY(次女)の3名である。 2.本件土地は、Dが所有者のFから賃借していた土地であるが、昭和30年10月5日に右土地につき同日付け売買を原因としてFからYへの所有権移転登記がされている。 3.Xは、Dが死亡した後の昭和46年、Yに対して、本件土地につきXが所有権を有することの確認及びXへの所有権移転登記手続を求める訴えを提起し、その所有権取得原因として、Xが本件土地をFから買い受けた、そうでないとしても時効取得したと主張した。これに対し、Yは、本件土地を買い受けたのはDであり、Dは上記土地をYに贈与したと主張した。 4.前訴の控訴審判決(以下「前訴判決」という。)は、本件土地の所有権の帰属につき、(1) 本件土地をFから買い受けたのは、Xではなく、Dであると認められる、(2) YがDから本件土地の贈与を受けた事実は認められない、と説示して、Xの所有権確認等の請求を棄却し、Yの地上建物所有者に対する請求も棄却すべきであるとした。前訴判決に対してXのみが上告したが、昭和61年9月11日、上告棄却の判決により前訴判決が確定した。 5.前訴判決の確定後、Dの遺産分割調停事件において、Yが本件土地の所有権を主張し、右土地がDの遺産であることを争ったため、X及びEは、平成元年に本訴を提起し、本件土地は、DがFから買い受けたものであり、Dの遺産であって、X及びEは相続によりそれぞれ上記土地の3分の1の共有持分を取得したと主張し、本件土地がDの遺産であることの確認及び右各共有持分に基づく所有権一部移転登記手続を求めた。 【多数意見】 所有権確認請求訴訟において請求棄却の判決が確定したときは、原告が同訴訟の事実審口頭弁論終結の時点において目的物の所有権を有していない旨の判断につき既判力が生じるから、原告が右時点以前に生じた所有権の一部たる共有持分の取得原因事実を後の訴訟において主張することは、右確定判決の既判力に抵触するものと解される。 【福田博反対意見】 一 本件は、共同相続人間で土地の所有権の帰属が争われた事察である。そこで、共同相続人間における財産の帰属をめぐる紛争がどのような形で争われ、訴訟・判決によって解決されるか、また、右紛争の中で相続による共有持分の存否が訴訟で争われるのはどのような場合かを検討する。 1.まず、ある土地について共同相続人甲は遺産であると主張し、共同相続人乙は自己の所有であると主張して、右土地が被相続人の遺産に属するか否かが争われる場合が考えられる。この場合、甲は、乙との間で右土地が被相続人の遺産に属することを確定するために、右土地につき相続による共有持分の取得を主張してその確認を求めることができる。そして、右訴訟において甲が勝訴すれば、右土地は被相続人の遺産ということになり、乙が勝訴すれば、右土地は乙の所有ということになって、右土地の遺産帰属性に関する紛争は事実上解決されることになる。訴訟法的に見れば、甲勝訴の判決は、甲が共有持分を有することを確定するにすぎず、その取得原因が相続であることや、右財産が被相続人の遺産であることについて既判力が生じるものではないし、乙勝訴の判決は、甲が共有持分を有しないことを確定するにすぎず、乙の所有権を確定するものではない。右のような難点を解消する手段として、特定の財産が被相続人の遺産に属することの確認を求める遺産確認の訴えが認められているのであるが、通常は、共有持分確認の訴えによって、遺産帰属性に関する紛争を解決するという目的は達成されるのである(最高裁昭和57年(オ)第184号同61年3月13日第一小法廷判決・民集40巻2号389頁参照)。このように、共同相続人間における相続による共有持分の主張は、遺産帰属性の主張にほかならず、確定的な共有持分の取得の主張とはその実質において異なるものということができよう。
2.次に、共同相続人甲、乙がある土地について互いに自己の所有であると主張して争う場合が考えられる。この場合には、甲又は乙のいずれか一方が他方を相手方として所有権の確認を求めるか、あるいは、双方が互いに所有権の確認を求めることになる。そして、判決により甲、乙のいずれかの所有権の主張が認められれば、右土地は勝訴者の所有ということになって、紛争が事実上解決される。なお、訴訟法的に見れば、甲のみが所有権確認訴訟を提起した場合において、乙の所有であることを認めて甲の請求を棄却する旨の判決が確定しても、右判決は甲の所有権の不存在を確定するにすぎず、乙の所有権について既判力を生じるわけではないが、実際には、右判決によって乙の所有ということで紛争が解決されるのが通例であろう。右のように甲、乙のいずれかの所有権の主張が認められて紛争が解決する限りにおいては、甲乙間の紛争は、相続や遺産とは無関係であり、相続による共有持分の存否が争われることはない。
二 確定判決において示された既判力ある判断(訴訟物に関する判断)について、当事者が後の訴訟においてこれと矛盾抵触する主張をすることを許さないのは、一回の訴訟・判決によって紛争を解決し、当事者に同一の紛争の蒸し返しを許さないためにほかならない。しかし、訴訟・判決による紛争の解決は、既判力ある判断部分のみによってもたらされるのではなく、既判力を生じない判断部分も含め、判決によって示された判断が全体として紛争解決の機能を果たしていることは、共同相続人間の紛争について先に検討したところからも明らかであり、紛争の当事者も判決の右のような機能を前提とし、これに期待して訴訟制度を利用しているものと考えられる。そうであるとすれば、後の訴訟における当事者の主張が前の訴訟の判決との関係で許されるか否かを判断するに当たっては、既判力との抵触の有無だけでなく、当事者が一般的に期待する判決の紛争解決機能に照らし、当該主張が前の訴訟の判決によって解決されたはずの紛争を蒸し返すものか否かという観点からの検討も必要であり、前の訴訟における紛争の態様、当事者の主張及び判決の内容、判決後の当事者の対応及び後の訴訟が提起されるに至った経緯等の具体的事情によっては、既判力に抵触しない主張であっても信義則等に照らしてこれを制限すべき場合があり、また、その反面、既判力に抵触する主張であっても例外的にこれを許容すべき場合があり得ると考えられる。 【根岸重治補足意見】 一 特定の土地についての所有権の存否と当該土地の共有持分の存否との間には、その共有が相続による遺産共有であるとしても、訴訟物の同一性があるから、多数意見の説示するとおり、本件土地についてのXの所有権確認請求を棄却する旨の前訴判決が確定したことにより、Xが前訴の事実審口頭弁論終結時以前に相続により本件土地の共有持分を取得したことを本訴において主張することは、前訴判決の既判力に抵触すると解するほかはない。ところで、反対意見は、本訴における主張が前訴判決の既判力に抵触することは是認しながらも、既判力に抵触する主張であっても例外的にこれを許容すべき場合があり、本件は正にこのような場合に該当するというのである。しかし、私は、このような見解に賛同することはできない。
二 いうまでもないところであるが、確定判決の既判力(民訴法199条1項(※注:現行の114条に相当する。))とは、確定判決の内容について認められる拘束力であって、この既判力が生ずると、同一当事者間の後の訴訟において、裁判所は、前の訴訟の確定判決の主文に包含される判断(すなわち訴訟物に関する判断)と異なる判断をすることが許されないこととなる(同法420条1項10号(※注:現行の338条1項10号に相当する。)参照)。もし、確定判決にこのような効力があることを承認しないとすると、同一当事者間において同一の権利をめぐって訴訟が繰り返され、受訴裁判所ごとに相反する判断が下され得ることとなり、確定判決によっても紛争が最終的に解決されたことにはならず、国家が公権的法律判断を下して私人の紛争を強制的に解決するために設けた民事訴訟制度の目的に反することとなるのである。また、前の訴訟の確定判決に右のような効力を認めることは、その反面として、当事者が後の訴訟において当該確定判決の訴訟物に関する判断に反する主張をすることはでき得ないこととなるため、前の訴訟の原告としては、その訴訟においてこれと訴訟物を同じくする範囲では主張立証を尽くす必要を生じてくるのである。
三 反対意見は、本件の具体的事情の下においては、Yが、紛争の解決についての合理的な期待を裏切って前訴判決の判断に従わず、遺産分割調停において本件土地の遺産帰属性を争うという信義則に反する対応をしたために、Xが本訴の提起を余儀なくされたのであって、これを許さないとすることは条理に反するという。しかし、本件の個別的事情に基づく実質論をもって、既判力に抵触する主張であっても許容すべきであるとする見解が認められないことは二において述べたとおりであるが、私は、反対意見のいう実質論そのものにも、にわかに賛同することができない。 (引用終わり) |