令和6年司法試験刑事系第1問の参考判例等

(大阪高判平元・3・3より引用。太字強調は当サイトによる。)

 強盗罪は相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行、脅迫を手段として財物を奪取することによって成立する犯罪であるから、その暴行、脅迫は財物奪取の目的をもってなされることが必要であると解される。従って財物奪取以外の目的で暴行、脅迫を加え相手方の反抗を抑圧した後に財物奪取の意思を生じ、これを実行に移した場合、強盗罪が成立するというためには、単に相手方の反抗抑圧状態に乗じて財物を奪取するだけでは足りず、強盗の手段としての暴行、脅迫がなされることが必要であるが、その程度は、強盗が反抗抑圧状態を招来し、これを利用して財物を奪取する犯罪であることに着目すれば、自己の先行行為によって作出した反抗抑圧状態を継続させるに足りる暴行、脅迫があれば十分であり、それ自体反抗抑圧状態を招来するに足りると客観的に認められる程度のものである必要はない

(引用終わり)

(東京地判昭47・1・12より引用。太字強調は当サイトによる。)

 強盗罪は、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行もしくは脅迫を手段として財物を奪取することによって成立する罪であるから、本件のように、犯人が別個の目的により相手方に暴行、脅迫を加え相手方を反抗不能の状態に陥れた後に初めて財物奪取の犯意を生じこれを実行に移した場合において、当該奪取行為が強盗になるとするためには、犯人の右決意後において暴行又は脅迫と評価できる言動がなければならないというべきである。
 もっとも、相手方がこのように反抗不能の状態に陥っている場合においては、他の場合とは異なり犯人のちょっとした動作、たとえば単純な金品要求の申し向けとか単に相手の身辺に近づく等の行為があっても相手方の反抗を抑圧するに足りる無言の脅迫として作用する余地があると解せられるけれども、いずれにせよ財物奪取の手段として評価するに足る何らかの作為がなければならないというべきである。しかるところ、本件において、被告人は、前認定のように畏怖状態に陥った被告人が財布等をさし出した時に初めて財物奪取の犯意を生じ、しかも間ぱつを入れずそれを奪い取って逃走しているのであるから、被害者が右財物奪取の犯意を生じた後において、程度のいかんを問わず暴行又は脅迫と評価するに足る行為があったと解することはできない

(引用終わり)

(東京高判平21・11・16より引用。太字強調は当サイトによる。)

 キャッシュカードを窃取した犯人が,被害者に暴行,脅迫を加え,その反抗を抑圧して,被害者から当該口座の暗証番号を聞き出した場合,犯人は,現金自動預払機(ATM)の操作により,キャッシュカードと暗証番号による機械的な本人確認手続を経るだけで,迅速かつ確実に,被害者の預貯金口座から預貯金の払戻しを受けることができるようになる。このようにキャッシュカードとその暗証番号を併せ持つ者は,あたかも正当な預貯金債権者のごとく,事実上当該預貯金を支配しているといっても過言ではなく,キャッシュカードとその暗証番号を併せ持つことは,それ自体財産上の利益とみるのが相当であって,キャッシュカードを窃取した犯人が被害者からその暗証番号を聞き出した場合には,犯人は,被害者の預貯金債権そのものを取得するわけではないものの,同キャッシュカードとその暗証番号を用いて,事実上,ATMを通して当該預貯金口座から預貯金の払戻しを受け得る地位という財産上の利益を得たものというべきである。

 (中略)

 2項強盗の罪が成立するためには,財産上の利益が被害者から行為者にそのまま直接移転することは必ずしも必要ではなく,行為者が利益を得る反面において,被害者が財産的な不利益(損害)を被るという関係があれば足りると解される(例えば,暴行,脅迫によって被害者の反抗を抑圧して,財産的価値を有する輸送の役務を提供させた場合にも2項強盗の罪が成立すると解されるが,このような場合に被害者が失うのは,当該役務を提供するのに必要な時間や労力,資源等であって,輸送の役務そのものではない。)。そして,本件においては,被告人が,ATMを通して本件口座の預金の払戻しを受けることができる地位を得る反面において,本件被害者は,自らの預金を被告人によって払い戻されかねないという事実上の不利益,すなわち,預金債権に対する支配が弱まるという財産上の損害を被ることになるのであるから,2項強盗の罪の成立要件に欠けるところはない

(引用終わり)

(東京高判平2・2・21より引用。太字強調は当サイトによる。)

 Aは、現実には、当初の計画どおり地下室で本件被害者を射殺することをせず、同人を車で連れ出して、地下室から遠く離れた場所を走行中の車内で実行に及んだのであるから、被告人の地下室における目張り等の行為がAの現実の強盗殺人の実行行為との関係では全く役に立たなかったことは、原判決も認めているとおりであるところ、このような場合、それにもかかわらず、被告人の地下室における目張り等の行為がAの現実の強盗殺人の実行行為を幇助したといい得るには、被告人の目張り等の行為が、それ自体、Aを精神的に力づけ、その強盗殺人の意図を維持ないし強化することに役立ったことを要すると解さなければならない。しかしながら、原審の証拠及び当審の事実取調べの結果上、Aが被告人に対し地下室の目張り等の行為を指示し、被告人がこれを承諾し、被告人の協力ぶりがAの意を強くさせたというような事実を認めるに足りる証拠はなく、また、被告人が、地下室の目張り等の行為をしたことを、自ら直接に、もしくはCらを介して、Aに報告したこと、又は、Aがその報告を受けて、あるいは自ら地下室に赴いて被告人が目張り等をしてくれたのを現認したこと、すなわち、そもそも被告人の目張り等の行為がAに認識された事実すらこれを認めるに足りる証拠もなく、したがって、被告人の目張り等の行為がそれ自体Aを精神的に力づけ、その強盗殺人の意図を維持ないし強化することに役立ったことを認めることはできないのである。

 (中略)

 したがって、被告人の右目張り等の行為がAの本件強盗殺人の行為に対する幇助行為に該当するものということはできず、これに当たるとした原判決は、その前提となる事実関係を誤認し、ひいて法令の適用を誤ったものというほかはなく、かつ、これが判決に影響を及ぼすものであることは明らかであって、この点において、原判決中被告人に関する部分は破棄を免れず、この点の論旨は理由があることに帰する。

(引用終わり)

フィリピンパブ事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)

 共同正犯が成立する場合における過剰防衛の成否は、共同正犯者の各人につきそれぞれその要件を満たすかどうかを検討して決するべきであって、共同正犯者の一人について過剰防衛が成立したとしても、その結果当然に他の共同正犯者についても過剰防衛が成立することになるものではない。原判決の認定によると、被告人は、Cの攻撃を予期し、その機会を利用してAをして包丁でCに攻撃を加えさせようとしていたもので、積極的な加害の意思で侵害に臨んだものであるから、CのAに対する暴行は、積極的な加害の意思がなかったAにとっては急迫不正の侵害であるとしても、被告人にとっては急迫性を欠くものであって(最高裁昭和51年(あ)第671号同52年7月21日第一小法廷決定・刑集31巻4号747頁参照)、Aについて過剰防衛の成立を認め、被告人についてこれを認めなかった原判断は、正当として是認することができる。

(引用終わり)

最決平29・4・26より引用。太字強調は当サイトによる。)

 刑法36条は,急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに,侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものである。したがって,行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合,侵害の急迫性の要件については,侵害を予期していたことから,直ちにこれが失われると解すべきではなく(最高裁昭和45年(あ)第2563号同46年11月16日第三小法廷判決・刑集25巻8号996頁参照),対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきである。具体的には,事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相当性,対抗行為の準備の状況(特に,凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等),実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同,行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し,行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだとき(最高裁昭和51年(あ)第671号同52年7月21日第一小法廷決定・刑集31巻4号747頁参照)など,前記のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には,侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきである。

(引用終わり)

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