(米子強盗事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。) 警職法は、その2条1項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。しかしながら、職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であつて、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。もつとも、所持品検査には種々の態様のものがあるので、その許容限度を一般的に定めることは困難であるが、所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法35条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であつてもこれを受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであつて、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである。 (引用終わり) |
(最判昭61・4・25より引用。太字強調は当サイトによる。) 奈良県生駒警察署防犯係の係長巡査部長A、巡査部長B、巡査Cの3名は、複数の協力者から覚せい剤事犯の前科のある被告人が再び覚せい剤を使用しているとの情報を得たため、昭和59年4月11日午前9時30分ころ、いずれも私服で警察用自動車(ライトバン)を使つて、生駒市内の被告人宅に赴き、門扉を開けて玄関先に行き、引戸を開けずに「Dさん、警察の者です」と呼びかけ、更に引戸を半開きにして「生駒署の者ですが、一寸尋ねたいことがあるので、上つてもよろしいか」と声をかけ、それに対し被告人の明確な承諾があつたとは認められないにもかかわらず、屋内に上がり、被告人のいた奥八畳の間に入つた。右警察官3名は、ベツトで目を閉じて横になつていた被告人の枕許に立ち、A巡査部長が「Dさん」と声をかけて左肩を軽く叩くと、被告人が目を開けたので、同巡査部長は同行を求めたところ、金融屋の取立てだろうと認識したと窺える被告人は、「わしも大阪に行く用事があるから一緒に行こう」と言い、着替えを始めたので、警察官3名は、玄関先で待ち、出てきた被告人を停めていた前記自動車の運転席後方の後部座席に乗車させ、その隣席及び助手席にそれぞれB、A両巡査部長が乗車し、C巡査が運転して、午前9時40分ころ被告人宅を出発した。被告人は、車中で同行しているのは警察官達ではないかと考えたが、反抗することもなく、一行は、午前9時50分ころ生駒警察署に着いた。午前10時ころから右警察署2階防犯係室内の補導室において、B巡査部長は被告人から事情聴取を行つたが、被告人は、午前11時ころ本件覚せい剤使用の事実を認め、午前11時30分ころ右巡査部長の求めに応じて採尿してそれを提出し、腕の注射痕も見せた。被告人は、警察署に着いてから右採尿の前と後の少なくとも2回、B巡査部長に対し、持参の受験票を示すなどして、午後1時半までに大阪市a区のEセンターに行つてタクシー乗務員になるための地理試験を受けることになつている旨申し出たが、同巡査部長は、最初の申し出については返事をせず、尿提出後の申し出に対しては、「尿検の結果が出るまでおつたらどうや」と言つて応じなかつた。午後2時30分ころ尿の鑑定結果について電話回答があつたことから、逮捕状請求の手続がとられ、逮捕状の発付を得て、B巡査部長が午後5時2分被告人を逮捕した。 (中略) 本件においては、被告人宅への立ち入り、同所からの任意同行及び警察署への留め置きの一連の手続と採尿手続は、被告人に対する覚せい剤事犯の捜査という同一目的に向けられたものであるうえ、採尿手続は右一連の手続によりもたらされた状態を直接利用してなされていることにかんがみると、右採尿手続の適法違法については、採尿手続前の右一連の手続における違法の有無、程度をも十分考慮してこれを判断するのが相当である。そして、そのような判断の結果、採尿手続が違法であると認められる場合でも、それをもつて直ちに採取された尿の鑑定書の証拠能力が否定されると解すべきではなく、その違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なものであり、右鑑定書を証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められるときに、右鑑定書の証拠能力が否定されるというべきである(最高裁昭和51年(あ)第865号同53年9月7日第一小法廷判決・刑集32巻6号1672頁参照)。以上の見地から本件をみると、採尿手続前に行われた前記一連の手続には、被告人宅の寝室まで承諾なく立ち入つていること、被告人宅からの任意同行に際して明確な承諾を得ていないこと、被告人の退去の申し出に応ぜず警察署に留め置いたことなど、任意捜査の域を逸脱した違法な点が存することを考慮すると、これに引き続いて行われた本件採尿手続も違法性を帯びるものと評価せざるを得ない。しかし、被告人宅への立ち入りに際し警察官は当初から無断で入る意図はなく、玄関先で声をかけるなど被告人の承諾を求める行為に出ていること、任意同行に際して警察官により何ら有形力は行使されておらず、途中で警察官と気付いた後も被告人は異議を述べることなく同行に応じていること、警察官において被告人の受験の申し出に応答しなかつたことはあるものの、それ以上に警察署に留まることを強要するような言動はしていないこと、さらに、採尿手続自体は、何らの強制も加えられることなく、被告人の自由な意思での応諾に基づき行われていることなどの事情が認められるのであつて、これらの点に徴すると、本件採尿手続の帯有する違法の程度は、いまだ重大であるとはいえず、本件尿の鑑定書を被告人の罪証に供することが、違法捜査抑制の見地から相当でないとは認められないから、本件尿の鑑定書の証拠能力は否定されるべきではない。 (引用終わり) |
(最決平7・5・30より引用。太字強調は当サイトによる。) 平成5年3月11日午前3時10分ころ、同僚とともにパトカーで警ら中の警視庁a警察署A巡査は、東京都港区内の国道上で、信号が青色に変わったのに発進しない普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。)を認め、運転者が寝ているか酒を飲んでいるのではないかという疑いを持ち、パトカーの赤色灯を点灯した上、後方からマイクで停止を呼び掛けた。すると、本件自動車がその直後に発進したため、A巡査らが、サイレンを鳴らし、マイクで停止を求めながら追跡したところ、本件自動車は、約2.7キロメートルにわたって走行した後停止した。 (中略) 警察官が本件自動車内を調べた行為は、被告人の承諾がない限り、職務質問に付随して行う所持品検査として許容される限度を超えたものというべきところ、右行為に対し被告人の任意の承諾はなかったとする原判断に誤りがあるとは認められないから、右行為が違法であることは否定し難いが、警察官は、停止の求めを無視して自動車で逃走するなどの不審な挙動を示した被告人について、覚せい剤の所持又は使用の嫌疑があり、その所持品を検査する必要性緊急性が認められる状況の下で、覚せい剤の存在する可能性の高い本件自動車内を調べたものであり、また、被告人は、これに対し明示的に異議を唱えるなどの言動を示していないのであって、これらの事情に徴すると、右違法の程度は大きいとはいえない。 (引用終わり) |
(大津違法逮捕事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。) (1) 本件逮捕には,逮捕時に逮捕状の呈示がなく,逮捕状の緊急執行もされていない(逮捕状の緊急執行の手続が執られていないことは,本件の経過から明らかである。)という手続的な違法があるが,それにとどまらず,警察官は,その手続的な違法を糊塗するため……(略)……逮捕状へ虚偽事項を記入し,内容虚偽の捜査報告書を作成し,更には,公判廷において事実と反する証言をしているのであって,本件の経緯全体を通して表れたこのような警察官の態度を総合的に考慮すれば,本件逮捕手続の違法の程度は,令状主義の精神を潜脱し,没却するような重大なものであると評価されてもやむを得ないものといわざるを得ない。そして,このような違法な逮捕に密接に関連する証拠を許容することは,将来における違法捜査抑制の見地からも相当でないと認められるから,その証拠能力を否定すべきである(最高裁昭和51年(あ)第865号同53年9月7日第一小法廷判決・刑集32巻6号1672頁参照)。 (2) ……(略)……本件採尿は,本件逮捕の当日にされたものであり,その尿は,上記のとおり重大な違法があると評価される本件逮捕と密接な関連を有する証拠であるというべきである。また,その鑑定書も,同様な評価を与えられるべきものである。 (中略) (3) 次に,本件覚せい剤は,被告人の覚せい剤使用を被疑事実とし,被告人方を捜索すべき場所として発付された捜索差押許可状に基づいて行われた捜索により発見されて差し押さえられたものであるが,上記捜索差押許可状は上記(2)の鑑定書を疎明資料として発付されたものであるから,証拠能力のない証拠と関連性を有する証拠というべきである。 (引用終わり) |
(宅配便エックス線検査事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。) 本件エックス線検査は,荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について,捜査機関が,捜査目的を達成するため,荷送人や荷受人の承諾を得ることなく,これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察したものであるが,その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上,内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって,荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから,検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。そして,本件エックス線検査については検証許可状の発付を得ることが可能だったのであって,検証許可状によることなくこれを行った本件エックス線検査は,違法であるといわざるを得ない。
(引用終わり) |
(最判令4・4・28より引用。太字強調は当サイトによる。)
警察官らは、令和元年7月26日に別件大麻取締法違反で現行犯逮捕した者(以下「参考人」という。)の尿から覚醒剤が検出されたことから、覚醒剤の入手先について参考人を取り調べ、「被告人から何度か覚醒剤を買った。」旨の供述を得るとともに、被告人に覚醒剤事犯の多数の犯歴があること(被告人は覚醒剤取締法違反の前科7犯を有し、平成16年以降の前科は覚醒剤自己使用の罪又はこれを含む罪による4犯であって、平成30年12月に最終前科による服役を終えていた。)を確認するなどした。 (中略) 被疑者の体内からカテーテルを用いて強制的に尿を採取することは、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経て、被疑者の身体の安全と人格の保護のための十分な配慮の下にこれを行うことが許されると解するのが相当である(最高裁昭和54年(あ)第429号同55年10月23日第一小法廷決定・刑集34巻5号300頁参照)。 (引用終わり) |
(静岡地判平11・9・2より引用。太字強調は当サイトによる。)
捜査機関である警察官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由(すなわち逮捕の理由)があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、被疑者を逮捕することができるところ(刑事訴訟法199条1項)、逮捕状の請求にあたり、逮捕の理由及び逮捕の必要があることを認めるべき資料を裁判官に提出しなければならない(刑事訴訟規則143条)。 (引用終わり) |
(GPS捜査事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)
GPS捜査は,対象車両の時々刻々の位置情報を検索し,把握すべく行われるものであるが,その性質上,公道上のもののみならず,個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて,対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得るものであり,また,そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において,公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり,公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。 (引用終わり) |
(京都府学連事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)
憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであつて、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。 (引用終わり) |
(オービス事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。) 速度違反車両の自動撮影を行う本件自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいつて緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法13条に違反せず、また、右写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになつても、憲法13条、21条に違反しないことは、当裁判所昭和44年12月24日大法廷判決(刑集23巻12号1625頁(※注:京都府学連事件判例を指す。))の趣旨に徴して明らかである (引用終わり) |
(最決平20・4・15より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。) 所論引用の各判例(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁(※注:京都府学連事件判例を指す。),最高裁昭和59年(あ)第1025号同61年2月14日第二小法廷判決・刑集40巻1号48頁(※注:オービス事件判例を指す。))は,所論のいうように,警察官による人の容ぼう等の撮影が,現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは許されないという趣旨まで判示したものではない……(略)……。 (中略)
本件は,金品強取の目的で被害者を殺害して,キャッシュカード等を強取し,同カードを用いて現金自動預払機から多額の現金を窃取するなどした強盗殺人,窃盗,窃盗未遂の事案である。 (中略) 捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められ,かつ,前記各ビデオ撮影は,強盗殺人等事件の捜査に関し,防犯ビデオに写っていた人物の容ぼう,体型等と被告人の容ぼう,体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため,これに必要な限度において,公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し,あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等を撮影したものであり,いずれも,通常,人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである。以上からすれば,これらのビデオ撮影は,捜査目的を達成するため,必要な範囲において,かつ,相当な方法によって行われたものといえ,捜査活動として適法なものというべきである。 (引用終わり) |
(山谷ビデオ撮影事件高裁判例より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。) 弁護人は、犯罪の証拠とするためのテレビカメラによる人の容貌の撮影・録画は強制捜査であって、警察法2条1項を根拠としてはこれを行うことはできず、その根拠は憲法及び刑事訴訟法に求めざるをえず、その具体的基準は最高裁昭和44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁(※注:京都府学連事件判例を指す。)によるべきであると主張する。
(引用終わり) |
(東京地判平17・6・2より引用。太字強調は当サイトによる。)
弁護人は、本件ビデオテープは、被告人方玄関ドア付近を、被告人の承諾を得ずビデオカメラで撮影した結果得られたものであって、これは被告人のプライバシー権ないしみだりに容ぼう等を撮影されない自由を侵害して違法であるから、本件ビデオテープ及び関係各報告書は違法収集証拠として証拠排除されるべきである旨主張する。 (引用終わり) |
(さいたま地判平30・5・10より引用。太字強調は当サイトによる。) まず,平成27年10月の本件撮影開始時点において,Xが被告人方に立ち寄る可能性があったこと,逮捕のためにXの所在や行動パターンを把握する必要があり,そのためには被告人方前をビデオ撮影する必要があったことが認められる。もっとも,証人は,本件捜査の一番の目的はXの逮捕である,あるいは本件撮影にはXの逮捕以外の捜査目的はなかった旨を述べているが,本件撮影開始の少し後には,Xがほぼ毎日被告人方に立ち寄っていることが確認できており,警察も同年11月には逮捕する態勢を取ったというのに,同年12月に1度,平成28年1月に1度逮捕に失敗しただけで,その他逮捕に向けた具体的対応を取っていなかったというのは理解できない。そうすると,逮捕のために本件ビデオ撮影がどこまで必要であったのか,そもそもXの逮捕のためというのが本件撮影の真の目的であったのかについても疑問があるが,証人の証言する目的を前提にしたとしても,平成28年の初め頃までしかXの立ち寄りが確認できておらず,Xを被告人方において逮捕できる可能性が低下し,本件撮影を継続する必要性は相当程度減少していたのに,同年5月19日まで漫然と本件撮影を続けていた点において,警察の対応は不適切であったと言わざるを得ない。
(中略) 以上……(略)……検討してきた事情を基に考えれば,本件撮影が類型的に強制処分に当たるとまではいえないものの,少なくとも平成28年の初め頃以降はその撮影の必要性が相当程度低下していたことは明らかで,それにもかかわらず長期間にわたって撮影を継続したこと自体不適切であった上,しかも本件撮影方法は他の類似事案と比べるとプライバシー侵害の程度が高いものであったと評価できることを考慮すれば,本件放火事件当時の撮影は,任意捜査として相当と認められる範囲を逸脱した違法なものであったと認められる。 (引用終わり) |