伝聞例外書く?
(令和6年司法試験刑事系第2問)

1.令和6年司法試験刑事系第2問設問1。鑑定書の証拠能力が問われているので、鑑定受託者作成の鑑定書に321条4項を適用(準用)できるか、という論点を書くか、迷った人もいたでしょう。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 その後、同結晶の鑑定が実施され、同結晶が覚醒剤である旨の【鑑定書】が作成された。同月27日、甲は、覚醒剤取締法違反(所持)の事実で、H地方裁判所に起訴された。

 (中略)

〔設問1〕

 【鑑定書】の証拠能力について、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

(引用終わり)

(参照条文)刑事訴訟法

222条1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる

321条4項 鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。

最判昭28・10・15より引用。太字強調は筆者。)

 捜査機関の嘱託に基く鑑定書(刑訴223条)には、裁判所が命じた鑑定人の作成した書面に関する刑訴321条4項を準用すべきものである。

(引用終わり)

 結論からいえば、これは書かなくてよかったのだろうと思います。
 まず、着目すべきは、鑑定に関する問題文の記載が、とてもざっくりしている、ということです。作成者について、「鑑定受託者Qが」のような記述がない。仮に、321条4項の適用(準用)を問うつもりなら、捜査機関による鑑定の嘱託があった事実を明示して、その点が問題になりうることを明らかにするとともに、答案で、「Qの真正作成供述を要する。」のような記載をしやすいように、「鑑定受託者Qが」のような記述を入れてくれるものです。
 もう1つ、着目すべきは、弁護人の意見に関する問題文の以下の記載ぶりです。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

 検察官は、第1回公判期日において、前記【鑑定書】の証拠調べを請求したが、甲の弁護人は、前記【鑑定書】の取調べに異議がある旨の意見を述べた。

(引用終わり)

 「不同意とする旨の意見」ではなく、「取調べに異議がある旨の意見」とされています。「異議がある。」という証拠意見は、非供述証拠(証拠物)の取調べについて付すのが通例で、供述証拠(証拠書類)については、異議を含めて「不同意」という表現を用いるのが通例です。ここでは、それを敢えて、「異議がある。」という表現にして、326条1項の同意をしない趣旨を含まない記載にしているわけで、「伝聞例外は問題にしていませんよ。」という考査委員の意図が読み取れるのでした。

(参照条文)刑事訴訟法326条1項

 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第321条乃至前条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる

 ちなみに、「同意するが異議がある旨の意見」としなかったのは、普通に表現として違和感があるというだけでなく、同意の法的性質論との関係で、同意と異議は両立しないのではないか、違法収集証拠の瑕疵も治癒されるのではないか、というような論点を誘発しかねないので、それを避けたのでしょう。

2.そういうわけで、本問で、321条4項適用(準用)の可否を書いても、加点は望めないでしょう。そもそも、設問1は、メインの所持品検査ないし捜索の違法性、違法収集証拠・派生証拠の排除のところの当てはめ・事例分析がかなり大変で、そっちに物凄い配点があることは明らかです。仮に、上記の問題文の記載から読み取れなくても、伝聞なんて大展開してる場合じゃないことは、瞬時に判断できなければいけませんでした(※)。念のために、「作成者である鑑定受託者の真正作成供述を要する(321条4項準用)。」くらいは書いてもいいでしょうが、それ以上に論証を大展開してしまった人は、反省すべきでしょう。
 ※ 予備校答練では、本問のような問題でも伝聞にかなりの配点が振られていたりして、「よく書けています。後は伝聞例外にも触れられれば合格答案でした。頑張ってください。」のようなコメントが付されたりするので、答練で高得点を取るためには本試験で余事記載になりそうなことまで全部書かないといけない、ということがあったりします。よく、「答練ばかり受けていると感覚がおかしくなる。」と言われるのは、そのためです。

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