(三菱樹脂事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。) 原判決は……(略)……上告人が、その社員採用試験にあたり、入社希望者からその政治的思想、信条に関係のある事項について申告を求めるのは、憲法19条の保障する思想、信条の自由を侵し、また、信条による差別待遇を禁止する憲法14条、労働基準法3条の規定にも違反し、公序良俗に反するものとして許されないとしている。 (引用終わり) |
(八幡製鉄事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。) 会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するわけであるが、目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行するうえに直接または間接に必要な行為であれば、すべてこれに包含されるものと解するのを相当とする。そして必要なりや否やは、当該行為が目的遂行上現実に必要であつたかどうかをもつてこれを決すべきではなく、行為の客観的な性質に即し、抽象的に判断されなければならないのである(最高裁昭和24年(オ)第64号・同27年2月15日第二小法廷判決・民集6巻2号77頁、同27年(オ)第1075号・同30年11月29日第三小法廷判決・民集9巻12号1886頁参照)。 (引用終わり) |
(国労広島地本事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。) 労働組合の組合員は、組合の構成員として留まる限り、組合が正規の手続に従つて決定した活動に参加し、また、組合の活動を妨害するような行為を避止する義務を負うとともに、右活動の経済的基礎をなす組合費を納付する義務を負うものであるが、これらの義務(以下「協力義務」という。)は、もとより無制限のものではない。労働組合は、労働者の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とする団体であつて、組合員はかかる目的のための活動に参加する者としてこれに加入するのであるから、その協力義務も当然に右目的達成のために必要な団体活動の範囲に限られる。しかし、いうまでもなく、労働組合の活動は、必ずしも対使用者との関係において有利な労働条件を獲得することのみに限定されるものではない。労働組合は、歴史的には、使用者と労働者との間の雇用関係における労働者側の取引力の強化のために結成され、かかるものとして法認されてきた団体ではあるけれども、その活動は、決して固定的ではなく、社会の変化とそのなかにおける労働組合の意義や機能の変化に伴つて流動発展するものであり、今日においては、その活動の範囲が本来の経済的活動の域を超えて政治的活動、社会的活動、文化的活動など広く組合員の生活利益の擁護と向上に直接間接に関係する事項にも及び、しかも更に拡大の傾向を示しているのである。このような労働組合の活動の拡大は、そこにそれだけの社会的必然性を有するものであるから、これに対して法律が特段の制限や規制の措置をとらない限り、これらの活動そのものをもつて直ちに労働組合の目的の範囲外であるとし、あるいは労働組合が本来行うことのできない行為であるとすることはできない。 (中略) 労働組合が他の友誼組合の闘争を支援する諸活動を行うことは、しばしばみられるところであるが、労働組合ないし労働者間における連帯と相互協力の関係からすれば、労働組合の目的とする組合員の経済的地位の向上は、当該組合かぎりの活動のみによつてではなく、広く他組合との連帯行動によつてこれを実現することが予定されているのであるから、それらの支援活動は当然に右の目的と関連性をもつものと考えるべきであり、また、労働組合においてそれをすることがなんら組合員の一般的利益に反するものでもないのである。それゆえ、右支援活動をするかどうかは、それが法律上許されない等特別の場合でない限り、専ら当該組合が自主的に判断すべき政策問題であつて、多数決によりそれが決定された場合には、これに対する組合員の協力義務を否定すべき理由はない。右支援活動の一環としての資金援助のための費用の負担についても同様である。 (中略) 労働組合が労働者の生活利益の擁護と向上のために、経済的活動のほかに政治的活動をも行うことは、今日のように経済的活動と政治的活動との間に密接ないし表裏の関係のある時代においてはある程度まで必然的であり、これを組合の目的と関係のない行為としてその活動領域から排除することは、実際的でなく、また当を得たものでもない。それゆえ、労働組合がかかる政治的活動をし、あるいは、そのための費用を組合基金のうちから支出すること自体は、法的には許されたものというべきであるが、これに対する組合員の協力義務をどこまで認めうるかについては、更に別個に考慮することを要する。 (中略) 政党や選挙による議員の活動は、各種の政治的課題の解決のために労働者の生活利益とは関係のない広範な領域にも及ぶものであるから、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。したがつて、労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由であるが(当裁判所昭和38年(あ)第974号同43年12月4日大法廷判決・刑集22巻13号1425頁(※注:三井美唄労組事件判例を指す。)参照)、組合員に対してこれへの協力を強制することは許されないというべきであり、その費用の負担についても同様に解すべきことは、既に述べたところから明らかである。 (引用終わり) |
(南九州税理士会事件判例より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。) 1 税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、法49条2項で定められた税理士会の目的の範囲外の行為であり、右寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効であると解すべきである。すなわち、 (一) 民法上の法人は、法令の規定に従い定款又は寄付行為で定められた目的の範囲内において権利を有し、義務を負う(民法43条)。この理は、会社についても基本的に妥当するが、会社における目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為であればすべてこれに包含され(最高裁昭和24年(オ)第64号同27年2月15日第二小法廷判決・民集6巻2号77頁、同27年(オ)第1075号同30年11月29日第三小法廷判決・民集9巻12号1886頁参照)、さらには、会社が政党に政治資金を寄付することも、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためにされたものと認められる限りにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げないとされる(最高裁昭和41年(オ)第444号同45年6月24日大法廷判決・民集24巻6号625頁(※注:八幡製鉄事件判例を指す。)参照)。 (二) しかしながら、税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その目的の範囲については会社と同一に論ずることはできない。 (三) 以上のとおり、税理士会は、税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的として、法が、あらかじめ、税理士にその設立を義務付け、その結果設立されたもので、その決議や役員の行為が法令や会則に反したりすることがないように、大蔵大臣の前記のような監督に服する法人である。また、税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない……(略)……。 (四) そして、税理士会が前記のとおり強制加入の団体であり、その会員である税理士に実質的には脱退の自由が保障されていないことからすると、その目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で、次のような考慮が必要である。 (五) そうすると、前記のような公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり(最高裁昭和48年(オ)第499号同50年11月28日第三小法廷判決・民集29巻10号1698頁(※注:国労広島地本事件判例を指す。)参照)、税理士会がそのような活動をすることは、法の全く予定していないところである。税理士会が政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、法49条2項所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない。 2 以上の判断に照らして本件をみると、本件決議は、被上告人が規正法上の政治団体であるK税政へ金員を寄付するために、上告人を含む会員から特別会費として5000円を徴収する旨の決議であり、被上告人の目的の範囲外の行為を目的とするものとして無効であると解するほかはない。 (引用終わり) |
(群馬司法書士会事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)
司法書士会は、司法書士の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするものであるが(司法書士法14条2項)、その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で、他の司法書士会との間で業務その他について提携、協力、援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきである。そして、3000万円という本件拠出金の額については、それがやや多額にすぎるのではないかという見方があり得るとしても、阪神・淡路大震災が甚大な被害を生じさせた大災害であり、早急な支援を行う必要があったことなどの事情を考慮すると、その金額の大きさをもって直ちに本件拠出金の寄付が被上告人の目的の範囲を逸脱するものとまでいうことはできない。したがって、兵庫県司法書士会に本件拠出金を寄付することは、被上告人の権利能力の範囲内にあるというべきである。 (引用終わり) |
(佐賀地判平14・4・12より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。)
憲法20条1項前段は「信教の自由」を保障し、同条2項は何人も「宗教上の行為」への参加を強制されないと定めているが、そこでいう「信教」、「宗教」とは、超自然的、超人間的本質(すなわち絶対者、造物主、至高の存在等、なかんずく神、仏、霊等)の存在を確信し、畏敬崇拝する心情と行為をいうと解される(津地鎮祭控訴審判決)。また、同条1項後段により特権の付与等が禁止された「宗教団体」、憲法89条により公金支出が禁止された「宗教上の組織若しくは団体」とは、特定の信仰を有する者らによる、当該宗教目的を達成するための組織若しくは団体を指すものと解される。 (中略)
日本国憲法は、政教分離の制度をとった上、信教の自由を手厚く保障している(憲法20条、89条)。これは、人がある特定の信仰を持つということが、場合によってはその人が自らの価値観のすべてを信仰に委ねることをも意味し、信仰を持つことが人の精神的活動において中核をなすからである。かかる意味で、信教の自由は、憲法が保障する人権の中でも中核的な人権の一つといえる。 (中略) 被告町区は、法律上は公法人ではなく、認可によって公共団体その他行政組織の一部とみなされるわけでもない(地方自治法260条の2第6項)。また、市町村長の一般的監督も受けない(同条15項、民法67条の準用がない。)。被告町区は、任意加入の団体であり、その加入及び脱退は、原則として区民の自由な意思による(地方自治法260条の2第7項は、正当な理由があれば加入拒否ができる旨定めるが、少なくとも脱退については、形式的には完全に自由である。)。 (中略) 本件では、被告町区は、原告らに対し、何らかの宗教上の行為への参加を直接に強制したわけではないが、特定宗教関係費(※注:甲神社、神社神道の維持及び活動のために支出された費用を指す。)の支出を続けながら、原告らから区費を徴収するということは、原告らにとっては、区民であるために、信仰しないことを誓った神社神道のために区費の支払を余儀なくされるということであり、これは、被告町区への加入及び脱退の自由が大きく制限されているという現状に照らすと、事実上、原告らに対し、宗教上の行為への参加を強制するものであったと認められる。 (引用終わり) |