令和6年予備試験行政法の参考判例等

宅建事件判例より引用。太字強調は当サイトによる。)

 宅地建物取引業法(昭和55年法律第56号による改正前のもの。以下「法」という。)は、第2章において、宅地建物取引業を営む者(以下「宅建業者」という。)につき免許制度を設け、その事務所の設置場所が2以上の都道府県にわたるか否かにより免許権者を建設大臣又は都道府県知事(以下「知事等」という。)に区分し(3条1項)、免許の欠格要件を定め(5条1項)、この基準に従って免許を付与し、3年ごとにその更新を受けさせ(3条2項)、免許を受けない者の営業等を禁止し(12条)、第6章において、免許を付与された宅建業者に対する知事等の監督処分を定め、右業者が免許制度を定めた法の趣旨に反する一定の事由に該当する場合において、業務の停止(65条2項)、免許の取消(66条)をはじめ、必要な指導、助言及び勧告(71条)、立入検査等(72条)を行う権限を知事等に付与し、業務の停止又は免許の取消を行うに当たっては、公開の聴聞(69条)及び公告(70条1項)の手続を義務づけている。法がかかる免許制度を設けた趣旨は、直接的には、宅地建物取引の安全を害するおそれのある宅建業者の関与を未然に排除することにより取引の公正を確保し、宅地建物の円滑な流通を図るところにあり、監督処分権限も、この免許制度及び法が定める各種規制の実効を確保する趣旨に出たものにほかならない。もっとも、法は、その目的の一つとして購入者等の利益の保護を掲げ(1条)、宅建業者が業務に関し取引関係者に損害を与え又は与えるおそれが大であるときに必要な指示をする権限を知事等に付与し(65条1項1号)、営業保証金の供託を義務づける(25条、26条)など、取引関係者の利益の保護を顧慮した規定を置いており、免許制度も、究極的には取引関係者の利益の保護に資するものではあるが、前記のような趣旨のものであることを超え、免許を付与した宅建業者の人格・資質等を一般的に保証し、ひいては当該業者の不正な行為により個々の取引関係者が被る具体的な損害の防止、救済を制度の直接的な目的とするものとはにわかに解し難く、かかる損害の救済は一般の不法行為規範等に委ねられているというべきであるから、知事等による免許の付与ないし更新それ自体は、法所定の免許基準に適合しない場合であっても、当該業者との個々の取引関係者に対する関係において直ちに国家賠償法1条1項にいう違法な行為に当たるものではないというべきである。

(引用終わり)

最判平25・3・26より引用。太字強調は当サイトによる。)

 建築士法によれば、一級建築士を含む建築士は、建築又は土木に関する知識及び技能を有するものとして所定の要件に該当する者を対象として、設計及び工事監理に必要な知識及び技能について行われる試験(12条から15条まで)に合格し、国土交通大臣又は都道府県知事の免許を受けた者であり(2条1項から4項まで、4条1項、2項)、その業務を誠実に行い、建築物の質の向上に努めなければならないほか、設計を行う場合においては、これを法令又は条例の定める建築物に関する基準に適合するようにしなければならないものとされている(18条1項、2項)。そして、同法3条から3条の3までによれば、各条に定める建築物の新築等をする場合には、それぞれ当該各条に規定する建築士でなければその設計及び工事監理をすることができず(違反した場合の罰則につき同法35条3号参照)、建築基準法5条の4によれば、それらの建築士の設計及び工事監理によることなくその工事をすることもできないものとされている(違反した場合の罰則につき同法99条1項1号参照)。これらの規定の趣旨は建築物の新築等をする場合におけるその設計及び工事監理に係る業務を、その規模、構造等に応じて、これを適切に行い得る専門的技術を有し、かつ、法令等の定める建築物の基準に適合した設計をし、その設計図書のとおりに工事が実施されるように工事監理を行うべき旨の法的責務が課せられている建築士に独占的に行わせることにより、建築される建築物を建築基準関係規定に適合させ、その基準を守らせることとしたものであって、建築物を建築し、又は購入しようとする者に対し、建築基準関係規定に適合し、安全性等が確保された建築物を提供することを主要な目的の一つとするものである(最高裁平成12年(受)第1711号同15年11月14日第二小法廷判決・民集57巻10号1561頁参照)。
 次に、建築基準法によれば、建築主は、同法6条1項各号に掲げる建築物の建築等の工事につき、あらかじめその計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて建築主事の審査及び建築確認を受けなければ、上記工事をすることができないものとされており(同条1項、4項、6項)、これは、建築基準関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを目的とするものであるところ(最高裁昭和58年(行ツ)第35号同59年10月26日第二小法廷判決・民集38巻10号1169頁参照)、同条1項及び建築基準法施行令9条によれば、建築主事による審査の基準となる建築基準関係規定とは、同法並びにこれに基づく命令及び条例の規定その他同条各号に掲げる各法律の規定並びにこれらの規定に基づく命令及び条例の規定で建築物の敷地、構造又は建築設備に係るものをいうと具体的に定められている。また、同法6条7項によれば、建築確認を受けようとする建築主が提出すべき確認の申請書は、所定の様式によって作成すべきものとされ、その様式は、同項の委任を受けた建築基準法施行規則(平成13年国土交通省令第128号による改正前のもの)1条の3において、添付すべき図書の種類並びに申請書及びこれらの図書に記載すべき事項を含めて具体的に定められており、同法6条3項によれば、申請に係る計画が建築士法3条から3条の3までの規定に違反するときは、建築主事は申請書を受理することができないものとされている。そして、建築基準法6条4項、5項によれば、建築主事は、同条1項1号から3号までに掲げる建築物の計画について申請書を受理した場合には、これを受理した日から21日以内に、その計画が建築基準関係規定に適合するかどうかを審査し、適合すると認めたときは確認済証を、適合しないと認めたとき又は申請書の記載によっては適合するかどうかを決定できない正当な理由があるときは、その旨及びその理由を記載した通知書を、それぞれ申請者に交付しなければならないとされている。このように建築主の確認の申請に対する応答期限が設けられたのは、建築確認制度が建築主の建築の自由に対する制限となり得ることから、確認の申請に対する応答を迅速にすべきものとし、建築主に資金の調達や工事期間中の代替住居・営業場所の確保等の事前準備などの面で支障を生じさせることのないように配慮し、建築の自由との調和を図ろうとしたものと解される(最高裁昭和55年(オ)第309号、第310号同60年7月16日第三小法廷判決・民集39巻5号989頁参照)。
 建築確認制度の根拠法律である建築基準法は、建築物の構造等に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的としており(1条)、上記……(略)……のような規制も、この目的に沿って設けられているところである。しかるところ、建築士が設計した計画に基づいて建築される建築物の安全性が第一次的には上記……(略)……のような建築士法上の規律に従った建築士の業務の遂行によって確保されるべきものであり、建築士の設計に係る建築物の計画についての建築主による建築基準法6条1項に基づく確認の申請が、自ら委託(再委託を含む。以下同じ。)をした建築士の設計した建築物の計画が建築基準関係規定に適合することについての確認を求めてするものであるとはいえ、個別の国民である建築主が同法1条にいう国民に含まれず、その建築する建物に係る建築主の利益が同法における保護の対象とならないとは解し難い。建築確認制度の目的には、建築基準関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを通じて得られる個別の国民の利益の保護が含まれており、建築主の利益の保護もこれに含まれているといえるのであって、建築士の設計に係る建築物の計画について確認をする建築主事は、その申請をする建築主との関係でも、違法な建築物の出現を防止すべく一定の職務上の法的義務を負うものと解するのが相当である。以上の理は、国民の社会生活上の重要な要素としての公共性を有する建築物の適正を公的に担保しようとする建築基準法の趣旨に沿うものであり、建築物の適正を担保するためには専門技術的な知見が不可欠であるという実情にもかなうものということができる。
 そこで、建築主事が負う職務上の法的義務の内容についてみるに……(略)……建築士の設計に係る建築物の計画について建築主事のする確認は、建築主からの委託を受けた建築士により法令又は条例の定める基準に適合するように設計されたものとして当該建築主により申請された当該計画についての建築基準関係規定との適合性の審査を内容とするものであり、建築士は建築士法に基づき当該計画が上記基準に適合するように設計を行うべき義務及びその業務を誠実に行い建築物の質の向上に努めるべき義務を負うものであることからすると、当該計画に基づき建築される建築物の安全性は、第一次的には建築士のこれらの義務に従った業務の遂行によって確保されるべきものであり、建築主事は、当該計画が建築士により上記の義務に従って設計されるものであることを前提として審査をすることが予定されているものというべきである。このことに加え……(略)……申請書及び法令上これに添付すべき図書(以下併せて「申請書類」という。)の記載事項等がこれらの様式や審査期間を含めて法令で個別具体的に規定されていること等に鑑みると、建築主事による当該計画に係る建築確認は、例えば、当該計画の内容が建築基準関係規定に明示的に定められた要件に適合しないものであるときに、申請書類の記載事項における誤りが明らかで、当該事項の審査を担当する者として他の記載内容や資料と符合するか否かを当然に照合すべきであったにもかかわらずその照合がされなかったなど、建築主事が職務上通常払うべき注意をもって申請書類の記載を確認していればその記載から当該計画の建築基準関係規定への不適合を発見することができたにもかかわらずその注意を怠って漫然とその不適合を看過した結果当該計画につき建築確認を行ったと認められる場合に、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(なお、建築主事がその不適合を認識しながらあえて当該計画につき建築確認を行ったような場合に同項の適用上違法となることがあることは別論である。)。

(引用終わり)

(岡山地判平27・3・25より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。)

 国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであり、公務員による公権力の行使に同項にいう違法があるというためには、公務員が、当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要である(最高裁平成13年(行ツ)第82号、第83号、同年(行ヒ)第76号、第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁(※注:在外国民選挙権事件判例を指す。)、最高裁平成18年(受)第263号同20年4月15日第三小法廷判決・民集62巻5号1005頁等参照)。

 (中略)

 法(※注:農地法を指す。)5条2項1号ロ、同項ただし書……(略)……の各規定は、……(略)……農地について、原則としてその転用のための権利取得を許可することができないとすることにより、優良な農地を確保し、農業生産力の維持を図る一方で、当該農地を地域の農業の振興に資する施設の用に供するために行われる権利取得については、それによって地域の農業の振興に寄与し、ひいては農業生産力の維持、向上にも繋がることから、これを例外的に許可することとしたものであって、申請に係る農地を含めた地域全体の農業の振興を図る趣旨のもとに規定されたものというべきであり、周辺の農地の所有者等の個別的な利益を保護する趣旨を含むものではないと解される。したがって……(略)……法5条1項に基づく転用のための権利取得の許可の申請を受け、その権利取得が当該農地を特定の施設の用に供するために行われるものであるときに、都道府県知事において、……(略)……審査を適切に行うべき職務上の法的義務を負うことは当然であるとしても、その法的義務を周辺の農地の所有者等に対する関係でも個別に負う義務と解することはできない

(引用終わり)

(広島高岡山支判平28・6・30(上記岡山地判平27・3・25の控訴審)より引用。太字強調及び※注は当サイトによる。)

 特に畑作の場合、排水は良好な耕作にとって重要な営農条件を成すと認められるところ、法(※注:農地法を指す。)5条2項4号が、用排水施設の有する機能を例示して、周辺の農地等の営農条件に支障を生ずるおそれのあることをもって、農地の転用を制限していることは、控訴人所有農地(畑部分)の排水等の営農条件に直接支障を及ぼすことが想定される場合にあっては、控訴人所有農地を所有する控訴人に対し、隣地である本件各農地が転用されることによって良好な排水等の営農条件に支障を受けないとする法的利益を個別的に保証する趣旨を含むと解される。そして……(略)……本件造成工事が行われた後、畑部分においては、その排水が悪化して、降雨の際には畝の周囲が冠水し、ひいては根の生育が悪化する等の支障が現に発生しているのであり、その原因として、控訴人所有農地に面してコンクリート製擁壁を設置することにより、畑部分のブロック等の下側からの排水の流れがせき止められ、造成によって地盤自身の地下水の浸透性が低下したことが考えられる……(略)……から、畑部分の排水、すなわち控訴人が従前享受していた良好な営農条件に支障を生じさせた原因は、本件造成工事にあったと認められる。そうすると、控訴人は、本件造成工事によって、法5条2項4号により法的に保護された、排水等の良好な営農条件に支障が生じているというべきである。

 (中略)

 以上によれば、本件造成工事は、本件各農地の周辺に位置する控訴人所有農地(畑部分)の営農条件に支障を生ずるものであったから、本件造成工事をすることによる農地の転用を目的として、Aが本件各農地に賃借権を設定することは、転用許可に関する法5条2項4号の要件を満たさないというべきところ、本件処分はこの点を看過し、控訴人の法的に保護された排水上の利益を侵害したから、国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるというべきである。

 (中略)

 Bは本件申請をする前から本件造成工事に着手し、控訴人はこれを受けて総社市農業委員会に対し排水に支障が生じる旨を訴えていたところ、総社市農業委員会は、控訴人の訴えを受けてBに対し指導し、Bによって素掘りの水路が設けられることとなったものの、Bが設けた水路も、排水のため十分な断面がとられていないことなど、畑部分から本件各農地への浸透による排水の障害を根本的に解決するものとは容易に認めがたかった……(略)……総社市農業委員会としては……(略)……Bによる素掘りの水路の設置後もなお畑部分に排水に支障が生じているか否か、生じているとしてその原因等を適切に調査すべきであり、この調査を踏まえたうえで本件処分をすべき職務上の注意義務を負っていたというべきである。
 ところが……(略)……同委員会の事務局において、畑部分の排水の問題は解決済みとされていたため、その問題は、同総会での討議事項とはならず、また、これに先立つ農業委員による現地調査においても、その問題に着眼した調査がされたとも認めるに足りない。
 よって、同委員会が、本件の事実経過に照らして特に求められていた前記の調査義務を尽くしたとは認められない。

 (中略)

 以上を総合すると、総社市農業委員会は、職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件処分をしたというほかないから、過失があったというべきである。

(引用終わり)

衆院法務委員会平16・4・27より引用。太字強調は当サイトによる。)

房村精一法務省民事局長
 ここで「一定の処分」と申しておりますのは、まずは、義務づけの訴えの要件について、裁判所の判断が可能な程度に特定をされていなければいけない。漠然と、何を、どういう処分を求めるのかがはっきりしなければ、これは訴訟そのものとして成り立ちませんので、そういう意味で、特定が必要ですということが入っているわけでございますが、ただ、この一定の処分として具体的にどの程度特定すべきであるかということにつきましては、……(略)……必ずしも具体的な処分に限らず、ある程度の幅が許されるのではないかというぐあいには考えられます。
 この特定の程度については、当然、当該処分または裁決の根拠法令の趣旨及び社会通念に従って判断すべきものと考えられますが、そうした観点からは、特定の必要性の限度を超えて過度に厳密な特定が必要とされるということはないだろうと思いますし、例えば、是正措置の具体的な方法につきまして、その根拠法令において複数の選択肢が定められている場合に、その根拠法令の定める範囲内における一定の幅のある処分の義務づけを求める訴えであっても、その根拠法令の趣旨に照らして、義務づけの対象となる一定の処分としてその対象が特定されているというぐあいに解されれば、そういった、ある程度幅の持った一定の処分を義務づけ訴訟で求めるということも可能ではないか、こう考えられます。

(引用終わり)

(東京地判平25・3・26(北総鉄道事件)より引用。太字強調は当サイトによる。)

 非申請型義務付けの訴えは、一定の処分を求める法令上の申請権のない者が第三者に対する規制権限の行使としての処分等の一定の処分をすべき旨を命ずることを求める訴えであり、法令上の申請権がない者にあたかも申請権を認めることと同じような結果をもたらすものであるから、そのような訴訟上の救済を認めるのは、国民の権利利益の実効的な救済と司法と行政の権能の適切な均衡の双方の観点から、そのような措置を行わなければならないだけの救済の必要性がある場合であることを要するものと解される。そうすると、非申請型義務付けの訴えの訴訟要件としての上記「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには、処分がされないことにより生ずるおそれのある損害が、事後的な金銭賠償等により容易に救済を受けることができるものでなく、裁判所が一定の処分を命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要するものと解するのが相当である。

 (中略)

 原告らは、P1に旅客運賃を支払って、居住地から職場や学校等への日々の通勤や通学等の手段として反復継続して日常的にP6線を利用している者であるから、違法に高額な旅客運賃が設定された場合、その経済的負担能力いかんによっては、当該鉄道を日常的に利用することが困難になり、職場や学校等に日々通勤や通学等すること自体が不可能になったり、住居をより職場や学校の近くに移転せざるを得なくなったりすることになりかねず、仕事や居住場所などといった日常生活の基盤を揺るがすような損害が生じかねないのであって、このような損害については、事後的な金銭賠償等により救済することが容易ではないものと認めるのが相当である。

(引用終わり)

(福島地判平24・4・24より引用。太字強調は当サイトによる。)

 補助参加人に対し、民事上の差止め請求等をすることが可能であるとしても、義務付けの訴えと民事上の請求とでは、請求の相手方、要件及び効果の諸点において異なるものであるから、実効的な権利救済という見地からしても、救済手段としての義務付けの訴えを排除すべきではない

(引用終わり)

(東京地判平29・10・20より引用。太字強調は当サイトによる。)

 行政手続による紛争解決と民事訴訟等の手続による紛争解決との間に優劣があるわけではないから、ここにいう他に適当な方法があるかは、行政手続の枠内において他に適当な方法があるかという観点から吟味されるべきものであって、被告補助参加人に対する民事訴訟の提起が可能であることは、ここにいう他に適当な方法がないことを左右しないと解される。

(引用終わり)

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