「条文が見つからねぇ!」
(令和6年予備試験商法)

1.令和6年予備試験商法。設問1でADの責任に関する条文を見つけられなかったり、設問2で特別支配株主の株式等売渡請求に関する条文を見つけられなかったりして、ものすごく時間をロスしちゃった、という人がいたかもしれません。そのような人は、あまりにも演習が不足しているか、演習から何も学んでいない人です。

2.会社法に限らず、条文があることは分かっているけれど、どこにあるか忘れちゃった、というときは、目次を見る。これは、基本中の基本です。一番単純な方法は、目次を頭から順に見る、というやり方です。まずは、設問1のADの責任関係の条文を探してみましょう。

目次

第一編 総則
 第一章 通則(第一条―第五条)
 第二章 会社の商号(第六条―第九条)
 第三章 会社の使用人等
  第一節 会社の使用人(第十条―第十五条)
  第二節 会社の代理商(第十六条―第二十条)
 第四章 事業の譲渡をした場合の競業の禁止等(第二十一条―第二十四条)
第二編 株式会社
 第一章 設立
  第一節 総則(第二十五条)
  第二節 定款の作成(第二十六条―第三十一条)
  第三節 出資(第三十二条―第三十七条)
  第四節 設立時役員等の選任及び解任(第三十八条―第四十五条)
  第五節 設立時取締役等による調査(第四十六条)
  第六節 設立時代表取締役等の選定等(第四十七条・第四十八条)
  第七節 株式会社の成立(第四十九条―第五十一条)
  第八節 発起人等の責任等(第五十二条―第五十六条)
  第九節 募集による設立
   第一款 設立時発行株式を引き受ける者の募集(第五十七条―第六十四条)
   第二款 創立総会等(第六十五条―第八十六条)
   第三款 設立に関する事項の報告(第八十七条)
   第四款 設立時取締役等の選任及び解任(第八十八条―第九十二条)
   第五款 設立時取締役等による調査(第九十三条・第九十四条)
   第六款 定款の変更(第九十五条―第百一条)
   第七款 設立手続等の特則等(第百二条―第百三条)

 とりあえず、総則とか、設立とか、こんなところをじっくり見てるのはおかしい。そんなところにあるわけないのであって、こんなところは高速で読み飛ばしていきます。そうして、どんどん見ていくと、第5章の「計算」のところで、お目当ての条文を発見できるでしょう。

目次

 (中略)

 第五章 計算等
  第一節 会計の原則(第四百三十一条)
  第二節 会計帳簿等
   第一款 会計帳簿(第四百三十二条―第四百三十四条)
   第二款 計算書類等(第四百三十五条―第四百四十三条)
   第三款 連結計算書類(第四百四十四条)
  第三節 資本金の額等
   第一款 総則(第四百四十五条・第四百四十六条)
   第二款 資本金の額の減少等
    第一目 資本金の額の減少等(第四百四十七条―第四百四十九条)
    第二目 資本金の額の増加等(第四百五十条・第四百五十一条)
    第三目 剰余金についてのその他の処分(第四百五十二条)
  第四節 剰余金の配当(第四百五十三条―第四百五十八条)
  第五節 剰余金の配当等を決定する機関の特則(第四百五十九条・第四百六十条)
  第六節 剰余金の配当等に関する責任(第四百六十一条―第四百六十五条)
 第六章 定款の変更(第四百六十六条)
 第七章 事業の譲渡等(第四百六十七条―第四百七十条)
 第八章 解散(第四百七十一条―第四百七十四条)

(以下略)

 ここで、「自己株式取得の財源規制も剰余金配当と一緒に規定されてた。」ということすら知らないと、「剰余金の配当等に関する責任」という文言を目にしても、「自己株式取得じゃないじゃん。」と言ってスルーしてしまうでしょう。それはもう、さすがに知識不足としかいいようがありません。そこさえクリアしていれば、最低限、目次を頭から順に見ることで、条文を発見できる。結構後ろの方にあるので、若干時間は掛かりますが、それでも5分くらいでいけるでしょう。
 とはいえ、本試験現場で目次を頭から探し始めるというのは、ちょっといただけません。本来なら、普段の演習の際に一度やっていて、復習の際に、「これは『計算等』の章にあるのか。」、「そっか、分配可能額とかの話だから計算のところにあるのは当たり前か。」と条文の位置を確認して、納得しておくべきものです。一度やっていれば、そんなに忘れない。これをやっていれば、「ああ、あれは『計算等』の章にあったな。」というところから話が始まるので、秒で条文を発見できます。
 自己株式取得や剰余金配当関連の問題を解いたことがなくても、演習の過程で条文を引けなかった体験をして、復習の際に、「条文を探すにはどうしたらいいか。」を考えて、「そうか目次からいけるのか。」ということに気が付けば、最低限、頭から目次を見る方法には思い至るはず。試験当日に目次すら見ることなく、闇雲に条文を探しまくって、「見つからねーよ。」、「見つからねーよ。」と焦りまくり、時間を猛烈にロスしちゃった、という人は、それまでの学習でこのようなプロセスを経ていなかった、ということです。

3.設問2の方はどうか。改正を知らないと、初めて聞くような制度だったかもしれません。それでも、問題文を読んだときに、親切に制度の名前を書いてくれていることには、気が付かなければなりません。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

6.Aは、旧知の税理士Hに甲社の株式の評価額の算定を依頼し、「1株当たり6万円から10万円までの範囲が甲社の株式の適正な評価額である。」との意見を得た。そこで、Aは、令和6年7月31日までに、甲社の取締役会の承認を受け、B、C及びDから、その保有する甲社の株式を1株当たり10万円で適法に取得し、当該株式について、株主名簿の名義書換が行われた。他方、Aは、同年8月以降、Eに対し、特別支配株主の株式等売渡請求(以下「本件売渡請求」という。)をすることとし、甲社に対し、その旨及び株式売渡対価を1株当たり6万円、取得日を同年9月20日とすることなどの会社法所定の事項を通知し、同年8月20日開催の甲社の取締役会において、その承認を受けた。甲社は、同月27日に、会社法所定の事項をEに通知し、また、本件売渡請求に関する事項を記載した会社法所定の書面を甲社本店に備え置いた。その通知を受けたEは、Aの都合で一方的に甲社から排除されることに不満を強く抱き、さらに、B、C及びDからの株式の取得の事実を知り、その取得価格が本件売渡請求における株式売渡対価の額と異なることに対して不満を一層強めた。

(引用終わり)

 これを手掛かりに目次を上から見ていけば、第2章の「株式」のところで発見できたでしょう。

目次

 (中略)

 第二章 株式
  第一節 総則(第百四条―第百二十条)
  第二節 株主名簿(第百二十一条―第百二十六条)
  第三節 株式の譲渡等
   第一款 株式の譲渡(第百二十七条―第百三十五条)
   第二款 株式の譲渡に係る承認手続(第百三十六条―第百四十五条)
   第三款 株式の質入れ(第百四十六条―第百五十四条)
   第四款 信託財産に属する株式についての対抗要件等(第百五十四条の二)
  第四節 株式会社による自己の株式の取得
   第一款 総則(第百五十五条)
   第二款 株主との合意による取得
    第一目 総則(第百五十六条―第百五十九条)
    第二目 特定の株主からの取得(第百六十条―第百六十四条)
    第三目 市場取引等による株式の取得(第百六十五条)
   第三款 取得請求権付株式及び取得条項付株式の取得
    第一目 取得請求権付株式の取得の請求(第百六十六条・第百六十七条)
    第二目 取得条項付株式の取得(第百六十八条―第百七十条)
   第四款 全部取得条項付種類株式の取得(第百七十一条―第百七十三条の二)
   第五款 相続人等に対する売渡しの請求(第百七十四条―第百七十七条)
   第六款 株式の消却(第百七十八条)
  第四節の二 特別支配株主の株式等売渡請求(第百七十九条―第百七十九条の十)
  第五節 株式の併合等

 これは結構前の方にあるので、頭から見ていっても、それなりにすぐ見つかることでしょう。「株式の売渡しなんだから、株式の章にあるだろ。」と当たりを付けて第2章から探し始めた人は、秒で発見できたかもしれません。

4.上記のような方法論を知っていると、普段の学習で条文に接した際の対応も変わります。新しい条文に出会ったときに、「これは全体のどこにあるかな。」と目次を見る。例えば、特別支配株主の株式等売渡請求であれば、「そっか、株式の売渡しに関するものだから、株式の章にあるんだね。」と納得する。一度納得すれば、そんなに忘れません。仮に出題されても、「ああ、あれは『株式』の章にある。」と思い出して、すぐ発見できることでしょう。
 「論証集グルグル」のような勉強しかしていなくて、演習を全然やっていなかったり、演習をやっていても、「次に条文をすぐ発見できるようにするにはどうしたらいいか。」というような方法論を考えて実践し、試行錯誤するというプロセスを経ることなく、「今回はたまたま条文を発見できなくて時間が足りなかったわ。まあいいや。次の問題やろ。」、「あーまた条文引けなかったわ。まあ、次は引けるやろ。はいはい次ね。」みたいな感じで解きっ放しにしていると、こうした方法論を修得できません。冒頭で、「そのような人は、あまりにも演習が不足しているか、演習から何も学んでいない人です。」と書いたのは、そのような意味です。このことは、条文を引けるかどうかということに限らず、合格に必要な他の方法論の修得にも当てはまります。早く受かる人は、1問解くごとに、どんどん方法論を修得していきます。いつまでも受からない人は、10問、20問と解いても、何も成長しない。今年、条文を発見できなかった人は、それまでの演習に対する姿勢に問題がなかったか、反省する必要があるでしょう。

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