1.令和6年予備試験商法。設問1でADの責任に関する条文を見つけられなかったり、設問2で特別支配株主の株式等売渡請求に関する条文を見つけられなかったりして、ものすごく時間をロスしちゃった、という人がいたかもしれません。そのような人は、あまりにも演習が不足しているか、演習から何も学んでいない人です。
2.会社法に限らず、条文があることは分かっているけれど、どこにあるか忘れちゃった、というときは、目次を見る。これは、基本中の基本です。一番単純な方法は、目次を頭から順に見る、というやり方です。まずは、設問1のADの責任関係の条文を探してみましょう。
目次 第一編 総則 |
とりあえず、総則とか、設立とか、こんなところをじっくり見てるのはおかしい。そんなところにあるわけないのであって、こんなところは高速で読み飛ばしていきます。そうして、どんどん見ていくと、第5章の「計算」のところで、お目当ての条文を発見できるでしょう。
目次 (中略) 第五章 計算等 (以下略) |
ここで、「自己株式取得の財源規制も剰余金配当と一緒に規定されてた。」ということすら知らないと、「剰余金の配当等に関する責任」という文言を目にしても、「自己株式取得じゃないじゃん。」と言ってスルーしてしまうでしょう。それはもう、さすがに知識不足としかいいようがありません。そこさえクリアしていれば、最低限、目次を頭から順に見ることで、条文を発見できる。結構後ろの方にあるので、若干時間は掛かりますが、それでも5分くらいでいけるでしょう。
とはいえ、本試験現場で目次を頭から探し始めるというのは、ちょっといただけません。本来なら、普段の演習の際に一度やっていて、復習の際に、「これは『計算等』の章にあるのか。」、「そっか、分配可能額とかの話だから計算のところにあるのは当たり前か。」と条文の位置を確認して、納得しておくべきものです。一度やっていれば、そんなに忘れない。これをやっていれば、「ああ、あれは『計算等』の章にあったな。」というところから話が始まるので、秒で条文を発見できます。
自己株式取得や剰余金配当関連の問題を解いたことがなくても、演習の過程で条文を引けなかった体験をして、復習の際に、「条文を探すにはどうしたらいいか。」を考えて、「そうか目次からいけるのか。」ということに気が付けば、最低限、頭から目次を見る方法には思い至るはず。試験当日に目次すら見ることなく、闇雲に条文を探しまくって、「見つからねーよ。」、「見つからねーよ。」と焦りまくり、時間を猛烈にロスしちゃった、という人は、それまでの学習でこのようなプロセスを経ていなかった、ということです。
3.設問2の方はどうか。改正を知らないと、初めて聞くような制度だったかもしれません。それでも、問題文を読んだときに、親切に制度の名前を書いてくれていることには、気が付かなければなりません。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 6.Aは、旧知の税理士Hに甲社の株式の評価額の算定を依頼し、「1株当たり6万円から10万円までの範囲が甲社の株式の適正な評価額である。」との意見を得た。そこで、Aは、令和6年7月31日までに、甲社の取締役会の承認を受け、B、C及びDから、その保有する甲社の株式を1株当たり10万円で適法に取得し、当該株式について、株主名簿の名義書換が行われた。他方、Aは、同年8月以降、Eに対し、特別支配株主の株式等売渡請求(以下「本件売渡請求」という。)をすることとし、甲社に対し、その旨及び株式売渡対価を1株当たり6万円、取得日を同年9月20日とすることなどの会社法所定の事項を通知し、同年8月20日開催の甲社の取締役会において、その承認を受けた。甲社は、同月27日に、会社法所定の事項をEに通知し、また、本件売渡請求に関する事項を記載した会社法所定の書面を甲社本店に備え置いた。その通知を受けたEは、Aの都合で一方的に甲社から排除されることに不満を強く抱き、さらに、B、C及びDからの株式の取得の事実を知り、その取得価格が本件売渡請求における株式売渡対価の額と異なることに対して不満を一層強めた。 (引用終わり) |
これを手掛かりに目次を上から見ていけば、第2章の「株式」のところで発見できたでしょう。
目次 (中略) 第二章 株式 |
これは結構前の方にあるので、頭から見ていっても、それなりにすぐ見つかることでしょう。「株式の売渡しなんだから、株式の章にあるだろ。」と当たりを付けて第2章から探し始めた人は、秒で発見できたかもしれません。
4.上記のような方法論を知っていると、普段の学習で条文に接した際の対応も変わります。新しい条文に出会ったときに、「これは全体のどこにあるかな。」と目次を見る。例えば、特別支配株主の株式等売渡請求であれば、「そっか、株式の売渡しに関するものだから、株式の章にあるんだね。」と納得する。一度納得すれば、そんなに忘れません。仮に出題されても、「ああ、あれは『株式』の章にある。」と思い出して、すぐ発見できることでしょう。
「論証集グルグル」のような勉強しかしていなくて、演習を全然やっていなかったり、演習をやっていても、「次に条文をすぐ発見できるようにするにはどうしたらいいか。」というような方法論を考えて実践し、試行錯誤するというプロセスを経ることなく、「今回はたまたま条文を発見できなくて時間が足りなかったわ。まあいいや。次の問題やろ。」、「あーまた条文引けなかったわ。まあ、次は引けるやろ。はいはい次ね。」みたいな感じで解きっ放しにしていると、こうした方法論を修得できません。冒頭で、「そのような人は、あまりにも演習が不足しているか、演習から何も学んでいない人です。」と書いたのは、そのような意味です。このことは、条文を引けるかどうかということに限らず、合格に必要な他の方法論の修得にも当てはまります。早く受かる人は、1問解くごとに、どんどん方法論を修得していきます。いつまでも受からない人は、10問、20問と解いても、何も成長しない。今年、条文を発見できなかった人は、それまでの演習に対する姿勢に問題がなかったか、反省する必要があるでしょう。