令和6年予備試験商法。設問1(1)では、分配可能額を超える自己株式取得の効力が問われました。
(問題文より引用。太字強調は筆者。) 3.甲社は、会社法上必要な手続を経て、令和6年3月31日に、Dから、本件株式を総額1000万円で買い取った。 (中略) 4.ところが、……(略)……令和6年3月31日における分配可能額は800万円であった。 〔設問1〕 上記1から4までを前提として、次の(1)及び(2)に答えなさい。なお、本件株式の取得価格は適正な金額であったものとする。 (1) 甲社による本件株式の買取りは有効かについて、論じなさい。 (2) 甲社による本件株式の買取りに関して、A、D及びFは、甲社に対し、会社法上どのような責任を負うかについて、論じなさい。 (引用終わり) |
分配可能額を超える自己株式取得の効力については、大雑把に分けて、有効説、絶対的(純粋)無効説、相対的無効説があります(※)。もっとも、有効説のいう「効力を生じた日」(463条1項)の文言解釈については、「決定的だ。」、「いや決定的でない。」という水掛け論にしかなりませんし、実質論として挙げられる株主の同時履行の抗弁権の肯否については、小問(2)のDの責任のところで書くべき内容です。なので、設問1(1)は、これらの優劣を論じさせる趣旨というよりは、自説を明示させる趣旨でしょう。小問(1)で自説を明確にさせておいて、小問(2)において、それぞれの立場から論理的に一貫した論述ができるかどうかをみる。それが、小問(1)を独立の問いとした趣旨であろうと思います。なので、小問(1)では簡潔に自説の立場を示せば足り、小問(2)をメインにして解答すべきである。当サイトとしては、そのように考えています。
※ 学説分岐の詳細については、村田敏一『財源規制に違反した株式会社の剰余金配当等の規整に関する幾つかの問題(1)』立命館法学2010年5・6号(333・334号)1480~1482頁参照。当サイト作成の『司法試験定義趣旨論証集会社法【第2版】』では、同論文のB―Ⅱ―b説に相当する考え方を採用しています(「分配可能額(461条2項)を超える自己株式取得(同条1項1号から7号まで)の効力」の項目を参照)。その理由については、別の記事で詳しく説明する予定です。