令和6年予備試験論文式民訴法参考答案

【答案のコンセプト等について】

1.現在の論文式試験においては、基本論点についての規範の明示と事実の摘示に極めて大きな配点があります。したがって、①基本論点について、②規範を明示し、③事実を摘示することが、合格するための基本要件であり、合格答案の骨格をなす構成要素といえます。下記に掲載した参考答案(その1)は、この①~③に特化して作成したものです。規範と事実を答案に書き写しただけのくだらない答案にみえるかもしれませんが、実際の試験現場では、このレベルの答案すら書けない人が相当数いるというのが現実です。まずは、参考答案(その1)の水準の答案を時間内に確実に書けるようにすることが、合格に向けた最優先課題です。
 参考答案(その2)は、参考答案(その1)に規範の理由付け、事実の評価、応用論点等の肉付けを行うとともに、より正確かつ緻密な論述をしたものです。参考答案(その2)をみると、「こんなの書けないよ。」と思うでしょう。現場で、全てにおいてこのとおりに書くのは、物理的にも不可能だと思います。もっとも、部分的にみれば、書けるところもあるはずです。参考答案(その1)を確実に書けるようにした上で、時間・紙幅に余裕がある範囲で、できる限り参考答案(その2)に近付けていく。そんなイメージで学習すると、よいだろうと思います。

2.参考答案(その1)の水準で、実際に合格答案になるか否かは、その年の問題の内容、受験生全体の水準によります。令和6年の民訴法についていえば、157条1項の各要件の規範を明示できない人、弁論準備手続終了後の提出に関する説明義務(174条、167条)を指摘できない人、L2の挙げた判例の趣旨に言及しない人、訴訟告知による参加的効力の範囲に関する判例・裁判例の規範を明示できない人が相当数いると思われることから、参考答案(その1)でも、優に合格答案にはなるのではないかと思います。

【参考答案(その1)】

第1.設問1

 時機に後れた攻撃防御方法として却下するためには、「時機に後れて」、「故意又は重大な過失」、「訴訟の完結を遅延させる」の各要件を満たす必要がある(157条1項)。

1.「訴訟の完結を遅延させる」とは、新たな期日を要することをいう。
 自働債権とされた貸金債権300万円の有無を審理するのに新たな期日を要するから、「訴訟の完結を遅延させる」を満たす。

2.「時機に後れて」とは、より早い提出を客観的に期待しえたことをいう。弁準終了後の提出で説明義務(174条、167条)を果たさないときは、特段の事情がない限り、弁準での提出が客観的に期待しえたといえる。
 L1がL2に対して、弁準終了前に提出できなかった理由の説明を求めたところ、L2は、「相殺の抗弁は自己の債権を犠牲にするものである」と述べるとともに、「相殺権の行使時期には法律上特段の制約がなく、判例によれば、基準時後に相殺権を行使したことを請求異議の訴えの異議事由とすることも許容されている」と述べた。L1は、本件訴訟の開始前から相殺適状になっており、仮定的抗弁として主張できたにもかかわらず、それをしなかった理由について更に説明を求めたが、L2からは上記以上の具体的な説明はされなかった。
 L2のいう判例の趣旨は、相殺の抗弁は自己の債権を犠牲にすることから前訴での主張が期待できず、既判力の自己責任を正当化する手続保障が欠ける点にあると考えられる。期待できない主張には仮定的抗弁も含まれると考えられる。そうだとすると、上記L2の説明は仮定的抗弁として主張しなかった理由にもなっており、説明義務は果たされている。
 そして、上記判例の趣旨によれば、相殺の抗弁のより早い提出を客観的に期待しえたとはいえない。
 以上から、「時機に後れて」を満たさない。

3.よって、裁判所は、相殺の抗弁を却下すべきでない。

第2.設問2

1.Xは、Aに訴訟告知をしたが、Aは本件訴訟に参加しなかった。前訴判決の参加的効力(53条4項、46条柱書)を検討する。

2.参加的効力は、被告知者に補助参加の利益(42条)があり、告知者敗訴の場合に生じる。
 Aは補助参加の利益を有していた。前訴判決は請求棄却でX敗訴である。

3.参加的効力は、主文に加え、主文を導き出すために必要な理由中の判断にも及ぶ(判例)。もっとも、訴訟追行を協同する実体関係にない事項については、この限りでない(裁判例)。

(1)前訴判決は、YはAに代理権を授与しておらず、また、表見代理の成立は認められないことを理由とする。YがAに代理権を授与していないことは、主文を導き出すために必要な理由中の判断である。

(2)確かに、YがAに代理権を授与したことは、表見代理との関係では訴訟追行を協同する実体関係にない。
 しかし、有権代理との関係では訴訟追行を協同する実体関係にある。AがYから代理権を授与されていたとのAの主張は、有権代理の主張である。訴訟追行を協同する実体関係にない事項とはいえない。

(3)以上から、参加的効力は、YがAに代理権を授与していないことに及ぶ。

4.よって、AがYから代理権を授与されていたとのAの主張は、訴訟告知の効果によって排斥される。

以上

【参考答案(その2)】

第1.設問1

 時機に後れた攻撃防御方法として却下するためには、「時機に後れて」、「故意又は重大な過失」、「訴訟の完結を遅延させる」の各要件を満たす必要がある(157条1項)。

1.「時機に後れて」とは、より早い提出を客観的に期待しえたことをいう。弁論準備手続終了後の提出について説明義務(174条、167条)を果たさないときは、同手続での提出を客観的に期待しえたことが事実上推定され、特段の事情がない限り、「時機に後れて」を満たす。

(1)L1が、L2に対して、弁論準備手続終了前に提出できなかった理由の説明を求めたところ、L2は、「相殺の抗弁は自己の債権を犠牲にする」こと、「判例によれば、基準時後に相殺権を行使したことを請求異議の訴えの異議事由とすることも許容されている」ことを述べた。
 上記説明は、その引用する判例の趣旨について、相殺の抗弁が認められて勝訴したとしても、対抗額について自働債権消滅の既判力が生じ(114条2項)、自己の債権を犠牲にする点で経済的には敗訴と同様の結果となることから、およそ前訴での主張が期待できず、自己責任としての既判力の拘束を正当化する手続保障が欠ける点にあるとの理解に立つと考えられる。
 その上で、上記判例は前訴の具体的手続内容を問題にしない以上、その趣旨によれば、弁論準備手続があったか否かに関わりなく、仮定的抗弁も含めて相殺の抗弁の提出はおよそ期待できないとの理解が前提となるから、本件訴訟においてもおよそ相殺の抗弁の提出は期待できないと理解される。
 このような理解によれば、L1が仮定的抗弁としての主張をしなかった理由について更に説明を求めたが、L2が上記説明以上の具体的説明をしなかったことも、既にされた説明によって理由が尽くされているからそれ以上の説明を要しない趣旨と理解でき、説明義務が果たされているという余地がある。

(2)しかしながら、上記理解によれば、相殺の抗弁についてはおよそ時機に後れた攻撃防御方法として却下されることはないはずであるところ、判例は、相殺の抗弁について、特別な考慮をすることなく、時機に後れた攻撃防御方法としての却下を認めている。
 これを整合的に理解するならば、L2の引用する判例の趣旨は、相殺の抗弁について、前訴判決基準時における受働債権の存在を認めた上で、基準時後の意思表示によってなされるものであること、又は、錯誤・詐欺を原因とする取消権のような基準時前の一回的原因事実によるものでなく、基準時後も継続する相殺適状が原因であること等から、そもそも既判力に抵触しないとする点にあると理解すべきである。
 上記理解によれば、L2の引用する判例は、本件訴訟での相殺の抗弁の提出がおよそ期待できないことの根拠とはならないから、L2の説明は、少なくとも仮定的抗弁としての主張をしなかった理由とはなっておらず、説明義務が果たされたとは評価できない。

(3)また、弁論準備手続での相殺の抗弁の提出ができなかったと認めるに足りる特段の事情も見当たらない。

(4)以上から、「時機に後れて」を満たす。

2.「故意又は重大な過失」とは、時機に後れることを認識し、又は容易に認識できたことをいう。
 L2は、「初めから主張する必要はない」、「弁論準備手続の終結後に相殺の抗弁を主張することも許容される」と述べており、時機に後れることの認識はない。
 しかし、L2は弁護士で、前記1(2)で指摘した判例の存在を容易に認識でき、L2の説明が少なくとも仮定的抗弁としての主張をしなかった理由とはなっていないことを容易に認識できた。
 以上から、「故意又は重大な過失」を満たす。

3.「訴訟の完結を遅延させる」とは、新たな期日を要することをいう。
 自働債権とされた貸金債権300万円の存否について、L1は認否を明らかにしていないが、相殺の抗弁の却下を申し立てたことから、これを争うことが想定されるところ、この点を審理するには新たな期日を要するから、「訴訟の完結を遅延させる」を満たす。

4.同条1項は「却下の決定をすることができる。」とするから、裁判所は、同項の各要件を満たす場合であっても、却下が明らかに不合理と認めるときは、却下をしないことができる。
 L2は、「判例によれば、基準時後に相殺権を行使したことを請求異議の訴えの異議事由とすることも許容されている」と述べる。これは、請求異議の訴えにおいて相殺の抗弁を主張して争いうる以上、本件訴訟において相殺の抗弁を却下しても紛争の早期解決に繋がることはなく、かえって紛争を長期化させるとして、却下が明らかに不合理であることをいう趣旨とも理解できる。
 しかし、請求認容判決によってYが本件代金を負担することを既判力をもって早期に確定することで、Yの任意弁済が促され、ないしは、訴訟外におけるYの相殺をXが受け入れるなどして、強制執行に至らず早期の紛争解決に至る可能性がある。仮に、強制執行に至ったとしても、本件訴訟での早期提出を怠ったYの側に請求異議の起訴責任を負担させるという意味があり、不合理とはいえない。
 以上のように、却下が明らかに不合理とはいえない。

5.よって、裁判所は、相殺の抗弁を却下すべきである。

第2.設問2

1.Xは、Aに訴訟告知をしたが、Aは本件訴訟に参加しなかった。前訴判決の効力(53条4項、46条柱書)を検討する。

2.53条4項、46条の趣旨は公平のため敗訴責任を分担する点にあるから、同条の「効力」は既判力と異なる参加的効力であり、告知者敗訴の場合にのみ生じる。
 前訴判決は請求棄却判決であるから、告知者X敗訴の場合である。

3.53条4項が「参加することができた時に」とする趣旨は、補助参加しようと思えばできたことを参加的効力を及ぼす正当化根拠とする点にあるから、補助参加の利益(42条)を要するところ、Aは補助参加の利益を有していた。

4.前記2の趣旨から、参加的効力は主文に加え、主文を導き出すために必要な理由中の判断にも及ぶ(判例)。もっとも、前記3の正当化根拠は、補助参加による訴訟追行の協同を前提とし、利害対立により告知者・被告知者の主張・立証が矛盾抵触するような場合には妥当しない(46条2号参照)。したがって、訴訟追行を協同する実体関係にない事項については、参加的効力は及ばない(裁判例)。

(1)前訴判決は、有権代理及び表見代理の双方の請求原因を否定して、請求棄却の結論を導いている。YA代理権授与の事実は、前者の請求原因を構成し、これを否定するには同事実を認定できない旨の判断が不可欠であるから、主文を導き出すために必要な理由中の判断である。

(2)本件訴訟において、YA代理権授与の事実は有権代理の請求原因を構成する。Aは、Xに補助参加して、これを主張・立証することで、自らが無権代理人の責任追及を受ける事態を回避することができる。したがって、YA代理権授与の事実について訴訟追行を協同する実体関係がある。
 なお、本件訴訟では表見代理も請求原因とされているところ、代理権授与の不存在は表見代理の請求原因その他の主要事実を構成しないから、Xにおいて代理権授与の不存在を主張する一方で、Aにおいて代理権授与の存在を主張するという場面は想定されない。したがって、表見代理が請求原因とされていることは、上記の実体関係があることを妨げない。

(3)以上から、前訴判決のうちYA代理権授与が認定できない旨の理由中の判断について、Aに参加的効力が及ぶ。

5.よって、AがYから代理権を授与されていたとのAの主張は、訴訟告知の効果によって排斥される。

以上

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