判例の射程を考える
(令和6年予備試験刑訴法)

1.令和6年予備試験刑訴法。設問2では、主観的要素を推認させる余罪立証の可否が問われました。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

〔設問2〕

 甲及び甲の弁護人は、【事件②】について、甲が軽自動車をBに衝突させたことは争わず、金品奪取の目的を否認したとする。その場合、【事件①】で甲が金品奪取の目的を有していたことを、【事件②】で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができるかについて論じなさい。

(引用終わり)

 ここは、著名な判例として、最決昭41・11・22(洲本社会福祉募金詐欺事件)があるところです。

洲本社会福祉募金詐欺事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 犯罪の客観的要素が他の証拠によつて認められる本件事案の下において、被告人の詐欺の故意の如き犯罪の主観的要素を、被告人の同種前科の内容によつて認定した原判決に所論の違法は認められない 

(引用終わり)

 上記判例については、特に射程を限定しない文献もみられます(※1)。補強証拠の範囲における罪体説が主観的要素を除外するのと同様の発想に立つものと理解できるでしょう。すなわち、客観面が立証されている以上、誤判のおそれは小さいし、主観面の立証は困難なので、ある程度は証拠を幅広に認めてよい、ということですね(※2)。これを端的に答案に示して当てはめができれば、ここは最低限の合格答案でしょう。当サイト作成の参考答案(その1)は理由付けを付していませんが、ここは答案の最後に書く部分なので、時間に余裕があれば理由付けまで書いてよいところです。このような場面では、理由付けを覚えていたことが役に立ちます(※3)。
 ※1 田口守一『刑事訴訟法[第7版]』(弘文堂 2017年)391頁。
 ※2 文脈としては米国判例法理の説明であるが、成瀬剛「類似事実による主観的要件の立証――性犯罪事件における性的意図の立証を素材として――」酒巻匡・大澤裕・川出敏裕編『井上正仁先生古稀祝賀論文集』(有斐閣 2019年)555頁を参照。ただし、立証困難性は、いわば便宜論であって、利益原則と矛盾しかねないので、積極の理由付けとして推すべきではありません。当サイト作成の『司法試験定義趣旨論証集刑訴法』で理由付けに含めていないのは、そのためです。
 ※3 逆にいえば、このような場面でなければ理由付けを覚えてもあまり意味がないので、当サイト作成の『司法試験定義趣旨論証集刑訴法』では、規範はAランクであるのに、理由付けはBランクとされているのです。

(参考答案(その1)より引用)

 犯罪の客観的要素が他の証拠によって認められる場合には、故意等の主観的要素を同種前科の内容によって認定することも許される(洲本社会福祉募金詐欺事件判例参照)。このことは、余罪にも当てはまる。
 事件②につき甲が軽自動車をBに衝突させたことに争いがなく、客観的要素が他の証拠によって認められる。金品奪取目的は主観的要素である。
 よって、事件①で甲が金品奪取目的を有していたことを、事件②で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができる。

(引用終わり)

(『司法試験定義趣旨論証集刑訴法』より引用)

・前科証拠によって主観的要素を認定できるか
重要度:A
 犯罪の客観的要素が他の証拠によって認められる場合には、故意等の主観的要素を同種前科の内容によって認定することも許される(洲本社会福祉募金詐欺事件判例参照)。

・前科証拠によって主観的要素を認定できる理由
重要度:B
 既に客観的要素が他の証拠によって認められる以上、事実誤認の危険性は乏しいと考えられるからである。

(引用終わり)

 なお、この考え方に依ったとしても、間接事実とすることができるというにとどまり、それだけで直ちに金品奪取目的を認定できるわけではない、という点には注意が必要です。金品奪取目的を認定できるか否かは、証明力の評価によるからです。後記2で説明している問題意識は、証明力の評価に係る要素として考慮すべきことになるでしょう。とはいえ、本問では「間接事実として用いることができるか」が問われているだけで、金品奪取目的を認定できるかは問われていないので、上記の考え方に立つ限り、証明力の評価にまで踏み込んで検討する必要はありません。

2.上記判例について、近時は、その射程を限定する学説が一般化しつつあります(※4)。
 ※4 下記引用の百選解説の他に、前掲成瀬549、568頁、川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』(立花書房 2016年)283、284頁、斎藤司『刑事訴訟法の思考プロセス』(日本評論社 2019年)330、331頁、白取祐司『刑事訴訟法[第10版]』(日本評論社 2021年)389、390頁等。

(細谷泰暢「判批」刑事訴訟法判例百選〔第11版〕140頁より引用。太字強調は筆者。)

 仮に「被告人は過去にも類似の詐欺をしているから、今回も詐欺の故意があったに違いない」というのであれば、被告人には詐欺を行う性向があるという犯罪性向を経由した推認となり許されないであろう。 この最決の事案は、当該被告人の主張が、宗教団体のお布施として受け取っていたから違法性の意識がなく、故意がないというものであったところ、前科証拠は、「被告人が、過去に本件と同様の手段による詐欺罪で処罰された経験から、本件も詐欺に問われる行為であると分かったはずで、違法性の意識がなかったはずはない」という推認に用いられ、それが許容されたものと解される。

(引用終わり)

 その背景には、葛飾区窃盗放火事件判例の判示について、犯人性認定の場合にとどまらない射程を有する部分を含む、という理解があります(※5)。
 ※5 前掲成瀬548、552注(7)、568頁。

葛飾区窃盗放火事件判例より引用。太字強調は筆者。)

 前科も一つの事実であり、前科証拠は、一般的には犯罪事実について、様々な面で証拠としての価値(自然的関連性)を有している。反面、前科、特に同種前科については、被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく、そのために事実認定を誤らせるおそれがあり、また、これを回避し、同種前科の証明力を合理的な推論の範囲に限定するため、当事者が前科の内容に立ち入った攻撃防御を行う必要が生じるなど、その取調べに付随して争点が拡散するおそれもある。したがって、前科証拠は、単に証拠としての価値があるかどうか、言い換えれば自然的関連性があるかどうかのみによって証拠能力の有無が決せられるものではなく、前科証拠によって証明しようとする事実について、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許されると解するべきである。本件のように、前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合についていうならば、前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって、初めて証拠として採用できるものというべきである。

(引用終わり)

 上記判示のうち、「被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合についていうならば」より前の部分は、「前科証拠によって証明しようとする事実」一般に関する判示と読むのが自然でしょう(※6)。そうすると、「実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許される」とする部分は、主観的要素の認定をも射程に含む一般的な判例法理と理解できます。そうだとすれば、洲本社会福祉募金詐欺事件判例の直接の射程範囲を超える部分については、上記葛飾区窃盗放火事件判例の判例法理に沿って検討すべきだ、ということになるでしょう。参考答案(その2)は、その理解に基づく論述の一例です。
 ※6 逆にいえば、それ以降の判示部分は犯人性認定に限定されたものなので、設問2で、「顕著な特徴」、「相当程度類似」を当たり前のように規範としてしまえば、判例の射程を理解していないものとして、厳しい評価になっても仕方がないでしょう。

(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

1.犯罪の客観的要素が他の証拠によって認められる場合には、故意等の主観的要素を同種前科の内容によって認定することも許されるとする判例がある(洲本社会福祉募金詐欺事件)。
 もっとも、上記事件は、前科に係る有罪判決の経験から違法性の意識を合理的に推認できる事案であった本件は違法性の意識ではなく金品奪取目的を推認する場面であり、過去の経験に基づく認識は問題にならないし、併合審理中の余罪を間接事実とする場合であり、事件①について有罪判決は存在しないから、上記判例の趣旨は、直ちに本件には及ばない

2.前記葛飾区窃盗放火事件判例は、直接には犯人性認定に関するものであるが、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許されるとする法理は、犯人性認定に限らない判示であるから、主観的要素を推認する場合にも、その趣旨が及ぶ

(引用終わり)

3.上記2の理解に立って論述する場合、当てはめで注意するべき点が3つあります。
 1つは、金品奪取目的は、自動車での衝突行為が財物奪取に向けられたもの、すなわち、強盗罪の実行行為である暴行に当たることを基礎付けるためのものであって、故意や不法領得の意思を基礎付けるためのものではない、ということです。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

2 同日午後11時頃、B(50歳代、男性)は、同市K町内を歩いていたところ、背後から黒色の軽自動車に衝突された。Bが路上に転倒すると、すぐに同車から男性が降りてきて、「怪我はありませんか。」と声を掛けながらBに歩み寄り、倒れたままのBが手に持っていたセカンドバッグに手を掛けたが、付近にいた通行人Xと目が合うと同バッグから手を離し、直ちに同車に乗り込んでその場から逃走した(以上の事件を、以下【事件②】という。)。このとき、B及びXは、同車のナンバーを目視することができなかった。

(引用終わり)

 金品奪取目的がなければ、そもそも衝突行為が強盗罪の暴行に当たらないので、故意を論ずる以前に強盗未遂罪を構成しません(※7)。衝突行為が強盗罪の暴行に当たるのであれば、その行為態様から故意は優に認定できます(金品奪取に向けられた暴行を行っていながら、その認識がない、ということは通常あり得ません。)し、セカンドバッグについて返還意思や毀棄・隠匿目的をうかがわせる事情がない以上、不法領得の意思も優に認定できます。したがって、金品奪取目的を故意や不法領得の意思の認定根拠とする答案は、消極に評価されやすいでしょう。
 ※7 ちなみに、「倒れたままのBが手に持っていたセカンドバッグに手を掛けた」時点においては、反対事実がない限り、財物奪取意思は優に認められるでしょう。なぜなら、「怪我はありませんか。」と声を掛けているものの、本当にBの身体を憂慮していたなら、倒れたBを気に掛けるはずであって、いきなりセカンドバッグに手を掛けるのはおかしいですし、「付近にいた通行人Xと目が合うと」、普通は事情を説明し、Bの救助を求めたりするはずであるところ、「同バッグから手を離し、直ちに同車に乗り込んでその場から逃走した」というのですから、「怪我はありませんか。」と声を掛けたのは、相手を油断させセカンドバッグを奪取するためであったろう、という推認が可能だからです(より厳密には、この推認において、財物奪取目的に争いのない事件①の行為態様を加味することが可能でしょうが、それによるまでもないと感じます。)。もちろん、「セカンドバッグに手を掛けたのは、Bの体勢等から、まずセカンドバッグに手を掛けて助け起こすのが適切だったからだ。」、「暗がりで視界不良であったため、慌てて手を伸ばしたところ、偶然セカンドバッグに手が掛かってしまったのだ。」、「逃走したのは、交通事故の責任を追及されるのが急に怖くなったからだ。」等の合理的疑いを喚起する程度の弁解があり、これを争点として形成し得る程度の証拠等が提出されたなら別ですが、本問では、そのような事情はみられません。もっとも、「倒れたままのBが手に持っていたセカンドバッグに手を掛けた」時点において財物奪取意思を認定できたとしても、通常のひったくりは強盗罪を構成しない(最決昭45・12・22は、その行為態様から例外的に強盗としたものと理解するのが一般です。)ことからすれば、衝突時を含む当初から財物奪取目的がなければ、強盗未遂罪を認めることができません(事後的奪取意思の理論で肯定する余地がギリギリありそうですが。)。合否を分けるレベルは超えていますが、理論的には、この点を正しく理解しなければ、適切な分析はできないのです。

 もう1つは、「『事件①で甲が金品奪取目的を有していたこと』以外の客観証拠から事件②で甲が同目的を有していたことを十分に認定できるから、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがない。だから、間接事実として用いることができる。」などと書いてはいけない、ということです。一見するともっともらしいのですが、冷静に考えてみると、「『事件①で甲が金品奪取目的を有していたこと』以外の客観証拠から事件②で甲が同目的を有していたことを十分に認定できる」のなら、そもそも「事件①で甲が金品奪取目的を有していたこと」を間接事実にする必要がありません。「実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがない」ことを強調しようとするあまり、勢い余って上記のような論述をしてしまわないように、注意が必要です。
 3つ目は、「わずか1時間の間に目的が変化するはずがないから」という理由を安易に用いない、ということです。例えば、高級宝石店への強盗を行った者が、数日後にまた高級宝石店に入店した事実、その者には資力がなく、普段そのような高級宝石店に入店したことがなかった事実が認定できる場合には、数日後の入店も強盗目的だろう、という推認は相応に合理的でしょう。しかし、自宅から離れたコンビニでお菓子を万引きした者が、約1時間後に自宅近くのコンビニに入店した事実が認定できるという場合に、約1時間後の入店も万引き目的だろう、という推認は合理性に乏しいでしょう。コンビニに入店するという行為は日常的にあることであって、首尾よくお菓子を万引きした者が、帰宅途中のコンビニで普通にお茶を買って自宅に戻ろうとすることも、普通にあり得ることだからです。それを踏まえて本問の事実を見てみると、事件②は後者の例に近いことが分かります。

問題文より引用。太字強調は筆者。)

1 令和6年2月2日午後10時頃、A(30歳代、女性)は、H県I市J町内を歩いていたところ、背後から黒色の軽自動車に衝突された。Aが路上に転倒すると、すぐに同車から男性が降りてきて、「大丈夫ですか。」と声を掛けながらAに歩み寄り、立ち上がろうとしたAの顔面を拳で1回殴り、Aが手に持っていたハンドバッグを奪い取った上で、直ちに同車に乗り込んでその場から逃走した(以上の事件を、以下【事件①】という。)。このとき、Aは、同車のナンバーを目視した。

2 同日午後11時頃、B(50歳代、男性)は、同市K町内を歩いていたところ、背後から黒色の軽自動車に衝突された。Bが路上に転倒すると、すぐに同車から男性が降りてきて、「怪我はありませんか。」と声を掛けながらBに歩み寄り、倒れたままのBが手に持っていたセカンドバッグに手を掛けたが、付近にいた通行人Xと目が合うと同バッグから手を離し、直ちに同車に乗り込んでその場から逃走した(以上の事件を、以下【事件②】という。)。

(引用終わり)

 本問で、「たった1時間くらいしか経過していないのだから、目的が変化するわけがない。」と、言い切れるか。以下のような事実関係は、普通にあり得ることでしょう。

【考えられる事実関係の例】

 甲は、事件①によって首尾よくハンドバッグを奪取したことに気をよくし、ハンドバッグの中身を確認しながら軽自動車を運転して帰宅しようとしていたところ、前方不注視が原因で、Bの背後から軽自動車を衝突させてしまった。甲は、「しまった。」と思ったものの、路上に転倒したBがセカンドバッグを手にしていることに気付き、「この機会にこのセカンドバッグも頂いておこう。」と思い、すぐに同車から降りて、「怪我はありませんか。」と声を掛けながらBに歩み寄り、倒れたままのBが手に持っていたセカンドバッグに手を掛けたが、付近にいた通行人Xと目が合うと同バッグから手を離し、直ちに同車に乗り込んでその場から逃走した。

 軽自動車を運転するというのは、事件①を起こした甲であれば、必然的に行う行為でしょう。一戸建ての民家が建ち並ぶ住宅街を夜間に走行しているという状況であれば、前方不注視で歩行者に気が付かず、後方から衝突させてしまうことも普通にある。「たった1時間くらいしか経過していないのだから、およそ財物奪取目的に決まってる。」なんて決め付けることは、できないわけです。
 では、どのようにして財物奪取目的を認定するか。本問で明らかな事実関係だけでも、被害者Bの供述、目撃者である通行人Xの供述が証拠となり得るでしょうし、甲の軽自動車のドライブレコーダーも有力な証拠でしょう。他にも、他の目撃者や防犯カメラ等の証拠があるかもしれません。仮に、事件①が存在しないとした場合には、これらの証拠等を総合して、「およそ通常人なら過失ではなく故意で衝突させただろう。」という行為態様であることが明らかになれば、合理的疑いを喚起する反対事実がない限り、衝突が故意であることが認定でき、仮に衝突が故意であれば、その後の甲の行為等も加味して考えれば、合理的疑いを喚起する反対事実がない限り、当初から財物奪取目的があったのだろう、という推認が可能となるでしょう。ここに、事件①を加味するとき、「通常人なら」ではなく、より具体的に、「約1時間前に実際に財物奪取目的をもって行った行為態様」が存在することになるわけですから、これと対照することで、より精度の高い正確な判断ができるでしょう。このような推認過程を理解すれば、事件①に関するAの供述やAと衝突した際のドライブレコーダーの映像等が事件②との関係でも関連性を有し得ることに加え、「事件①で甲が金品奪取目的を有していたこと」がその意味付けを付与する間接事実となることにも気が付くでしょう。「事件①で甲が金品奪取目的を有していた」からこそ、事件①に係る関係証拠との対照が意味を持つからです。単に、「わずか1時間の間に目的が変化するはずがないから」という理由で間接事実となるわけではないのです。主観的要素の推認に余罪事実を用いた例とされる東京高判平25・7・16も、「その衝突態様や時間帯、衝突場所の状況」の認定を踏まえた判示(※8)であって、単に時間的近接性のみから間接事実とすることができるとしたものではないことに注意を要します。
 ※8 認定対象となる主観的要素が強姦(現在の不同意性交)の目的であったという点も、留意すべき特殊性の1つです(我が国の判例法理のベースとなった米国の連邦証拠規則が性犯罪について特則を設けていることにつき、前掲成瀬557~561頁参照)。

(東京高判平25・7・16より引用。太字強調及び※注は筆者。)

 原判決は、A事件について、具体的に、被害者Aは、被告人車両に背後から衝突されたことでフェンスにたたきつけられ、膝を打つなどし、左肩打撲、腰部、臀部、両膝打撲、左膝擦過傷、頸椎捻挫等の傷害を負っており、被告人の衝突行為は、接触程度の軽いものとはいえず、強い衝撃を与えるものであり、その衝突態様や時間帯、衝突場所の状況に加えて、被告人が本件A事件の約1時間35分後に、B事件(強姦致傷等)の犯行に及んでいることからすれば、本件衝突行為も強姦の目的でなされたものということができる旨説示する。
 原判決の上記認定及び判断は、論理則、経験則等に適う合理的なものといえる。犯人性の問題とは異なり、近接した日時場所において、被告人が深夜に一人歩きの若い女性を狙って類似した態様で引き続いてA、B事件を起こしたことを前提とすれば、B事件の犯行動機、目的等から、A事件のそれを推認することは許容される(最高裁昭和41年11月22日決定・刑集20巻9号1035頁(※注:洲本社会福祉募金詐欺事件判例を指す。)等参照。)。所論がいうように、見ず知らずの女性に、単に怖がらせたり、傷害を与えたりするためだけに車両を衝突させるというのは甚だ考え難いことからも、上記推認は合理的であるといえる。

(引用終わり)

 以上の理解を答案化したものが、参考答案(その2)です。

(参考答案(その2)より引用。太字強調は筆者。)

2.前記葛飾区窃盗放火事件判例は、直接には犯人性認定に関するものであるが、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許されるとする法理は、犯人性認定に限らない判示であるから、主観的要素を推認する場合にも、その趣旨が及ぶ。
 事件②について、倒れたBを意に介さずセカンドバッグに手を掛けた事実、付近にいた通行人Xと目が合うと同バッグから手を離し、直ちに車に乗り込んでその場から逃走した事実が認められ、他に合理的疑いを喚起する特段の反対事実がない限り、上記セカンドバッグに手を掛けた時に金品奪取意思があったことを認定できる。もっとも、これだけでは、衝突時には金品奪取目的はなく、衝突後ににわかに金品奪取意思が生じたのであるから、衝突させた行為は強盗罪の実行行為である暴行には当たらないという余地を排斥できない
 そこで、衝突の状況に関するB及びXの供述や犯行に用いられた車両のドライブレコーダーの映像等から、金品奪取目的を認定することになるが、その際、金品奪取目的に争いのない事件①のAの供述やAと衝突した際の同車のドライブレコーダーの映像等を対比し、客観状況の類似性から甲の主観を合理的に推認することができるこのような推認は、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがない
 したがって、事件①で甲が金品奪取目的を有していたことを、上記各証拠と共に間接事実とするときは、事件②における金品奪取目的との関係で、上記判例の趣旨に反しない。

3.よって、事件①の客観状況に係る関係証拠と共に間接事実とするときは、事件①で甲が金品奪取目的を有していたことを、事件②で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができる。

(引用終わり)

 本問の場合、ここまでたどり着く受験生は皆無だと思いますから、本試験現場では考える必要もないことです。とはいえ、本問を演習として解き、復習をする段階では、刑訴で問われる事実認定の例として、こうしたことを考えてみてもよいのだろうと思います。

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