令和6年予備試験論文式民事実務基礎参考答案

【答案のコンセプト等について】

1.当サイトでは、「規範の明示と事実の摘示」を強調しています。それは、ほとんどの科目が、規範→当てはめの連続で処理できる事例処理型であるためです。しかし、民事実務基礎で出題されるのは、そのような事例処理型の問題ではありません。民事実務基礎の特徴は、設問の数が多く、それぞれの設問に対する「正解」が比較的明確で、一問一答式に近いという点にあります。そのため、当てはめに入る前に規範を明示しているか、当てはめにおいて評価の基礎となる事実を摘示しているか、というような、「書き方」によって合否が分かれる、という感じではない。端的に、「正解」を書いたかどうか。単純に、それだけで差が付くのです。ですから、民事実務基礎に関しては、成績が悪かったのであれば、それは単純に勉強不足であったと考えてよいでしょう。その意味では、論文式試験の特徴である、「がむしゃらに勉強量を増やしても成績が伸びない。」という現象は、民事実務基礎に関しては、生じにくい。逆にいえば、勉強量が素直に成績に反映されやすい科目ということができるでしょう。

2.上記の傾向を踏まえ、民事実務基礎については、参考答案は1通のみ掲載することとし、掲載する参考答案は、できる限り一問一答式の端的な解答を心掛けて作成しました。

【参考答案】

第1.設問1(1)

 所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権

第2.設問1(2)

 被告は、原告に対し、本件建物を収去して本件土地を引き渡せ。

第3.設問1(3)

 Xは、本件土地を所有している。
 Yは、本件土地上に本件建物を所有して本件土地を占有している。

第4.設問1(4)

 Xは、令和2年7月1日、Aに対し、本件土地を賃料月額10万円の約定で賃貸した(本件賃貸借契約)。
 Xは、同日、Aに対し、本件賃貸借契約に基づき、本件土地を引き渡した。
 Aは、令和5年3月17日、Yに対し、本件土地を賃料月額10万円の約定で賃貸した(本件転貸借契約)。
 Aは、同日、Yに対し、本件転貸借契約に基づき、本件土地を引き渡した。
 Aは個人で腕時計販売店をしていたが、全額を出資し、腕時計販売を目的とするYを設立して、自ら代表取締役に就任した。
 Yには他の役員や従業員はおらず、本件建物は引き続き腕時計販売店として使用し、A一人で営業に当たっていた。

第5.設問2(1)

1.(i)

(1)①

 再抗弁として主張すべきである。

(2)②

 X及びAは、本件賃貸借契約において、毎月末日までに翌月分の賃料を支払う旨の合意をした。
 令和5年5月から令和6年2月までの各末日は経過した。
 Xは、同年3月7日、Aに対し、上記期間に係る賃料の支払を催告した。
 同月21日は経過した。
 Xは、同月31日、Aに対し、本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をした。

2.(ii)

(1)①

 再抗弁として主張しない。

(2)②

 既に非背信性の評価根拠事実が顕れている以上、無断転貸解除を再抗弁とするにはその評価障害事実の主張も要するところ、同主張だけで障害の再抗弁を構成し、解除の意思表示は過剰(a+b)だからである。

第6.設問2(2)

1.①

 Aは、同日、Xに対し、上記売買契約に基づき、本件商品を引き渡した。

2.②

 (ア)の主張によって同時履行関係が顕れることから、その抗弁権の存在効果を消滅させる事実として、(イ)の主張を要するからである。

第7.設問3(1)

1.①

 Xは、令和4年11月9日、Aに対し、再々抗弁(ア)の売買契約に基づく代金債務の履行として、100万円を支払った。

2.②

 (あ)(い)は、和解契約の権利変動効(696条)によって、再々抗弁(ア)の売買契約を発生原因とする代金債権200万円のうち100万円が消滅した旨の主張となるが、残額100万円があるから、同部分に関し、(う)の弁済の抗弁があって初めて、自働債権全体が消滅し、相殺の法的効果の発生の全部を障害する再々々抗弁として意味を持つ(合体抗弁)からである。

第8.設問3(2)

1.(i)

(1)①

 本件合意書の甲(売主) 欄の「A」とする記載が、Aの意思に基づく署名であること(A署名の真正)の認否

(2)②

 本件合意書のA作成部分の成立の真正に係る推定(民訴法228条4項)の肯否を左右するからである。

2.(ii)

 本件合意書は、これによって和解契約がされたといえるから、処分証書である。Pは、本件合意書の成立の真正(同条1項)を立証(本証)すれば、本件事実を立証できる。

(1)QがA署名の真正を争わない場合

 依然Pが証明責任を負うが、署名時白紙、署名後改ざん等のQの反証、すなわち、真偽不明とする程度の立証がない限り、本件合意書のA作成部分の成立の真正が認定される(同条4項 事実上の推定)。Pは、本証として、上記反証を妨げる訴訟活動をすれば足りる。

(2)QがA署名の真正を否認した場合

 Pは、本証として、対照用文書として本件賃貸借契約・本件商品に係る売買契約の各契約書の証拠調べ、筆跡鑑定を請求し、筆跡対照によってA署名の真正を立証する訴訟活動が考えられる(同法229条1項)。

第9.設問4

1.①

 口頭弁論終結前の承継人であるZに執行力が及ばない(民執法23条1項3号反対解釈)という不都合が生じる。

2.②

 建物収去土地明渡請求権を保全するための建物処分禁止仮処分の申立て(民保法13条1項、24条)である。なお、処分禁止の登記(同法55条1項)は裁判所書記官の嘱託による(同条2項、47条3項)から、Xが申請する必要はない。

以上

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