平成26年司法試験短答式試験の結果について(2)

1.前回の記事(「平成26年司法試験短答式試験の結果について(1) 」では、今年はみかけの難易度とは逆に、ここ数年で最も短答が甘い年であったことを説明しました。では、来年は、どうか。来年は、今年とは逆に、短答がみかけの数字以上に難化する年です。

2.来年から、受験回数制限の緩和が実施されます。ですから、4回目、5回目の受験者が、実際に受験してくる。この層は、短答には非常に強い層です。下記は、平成25年における受験回数と短答、論文合格率の対応表です(出所「平成25年司法試験受験状況(PDF)」 。短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字です。

受験
回数
短答
合格率
論文
合格率
1回目 65.78% 49.19%
2回目 67.10% 31.00%
3回目 73.93% 26.63%

 受験回数が増えると、短答合格率は上昇していくことがわかります。これは平成25年に限らず、毎年見られる確立した傾向です。短答は、勉強量を確保すれば、素直に点数が伸びる試験です。他方、論文は逆の傾向を示すことから、特別な対策が必要となる。このことは、当サイトを見ている方なら何度も聞いた話ですね。
 周囲の受験生をみても、2回目、3回目になってくると、「短答は受かって当然」という雰囲気でしょう。受験回数制限の緩和によって参入してくる層は、このような人達なのです。受験者数の増加分の主体が受控え層であった今年とは、この点が大きく異なるのです。特に、平成23、24、25と受験して三振してしまった人が、来年は復活します。この人達は、今年受験した人が9月まで脱力気味になるのに対し、既に来年に向けた勉強を始めているでしょう。短答で不合格になるような人達ではありません。来年の短答は、こうした人達との闘いになるのです。

3.これに拍車をかけるのが、短答科目の削減です。受験回数制限の緩和と同時に、短答の試験科目が7科目から、憲民刑の3科目に削減されることが、既に決まっています。

 

(司法試験法(平成26年法律第52号による改正前のもの)3条1項)

 短答式による筆記試験は、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とし、次に掲げる科目について行う。

一  公法系科目(憲法及び行政法に関する分野の科目をいう。次項において同じ。)
二  民事系科目(民法 、商法 及び民事訴訟法 に関する分野の科目をいう。次項において同じ。)
三  刑事系科目(刑法 及び刑事訴訟法 に関する分野の科目をいう。次項において同じ。)

 

司法試験法の一部を改正する法律(平成26年法律第52号)

司法試験法(昭和二十四年法律第百四十号)の一部を次のように改正する。

 第三条第一項各号を次のように改める。

一 憲法
二 民法
三 刑法

 (以下略)

附則 この法律は、平成二十六年十月一日から施行する。

 

 憲民刑だけなら楽勝、と思っている人もいるかもしれません。しかし、問題なのは、合格ラインの設定方法です。仮に満点の60%程度を取れば、たとえ短答合格者が8000人でも構わないということであれば、ほとんど恐れることはありません。負担緩和という科目削減の趣旨からすれば、そうなるのが筋でしょう。しかし、現実には論文の採点との関係上、そうはなりそうにない。やはり、上位5000人くらいで切ってしまうことになるのだと思います。これは、結果的に憲民刑の要求水準が従来よりも高くなることを意味します。このように、4回目、5回目の受験者の参入に、憲民刑への科目削減が加わることで、来年の短答は、従来より厳しい試験となるのです。

4.短答の試験科目が憲民刑となることで、パズル問題が復活するのではないか、ということがよく言われます。しかし、旧試時代のような極端なパズル問題が出題される可能性は、現状では極めて低いといえます。それは、そのような出題はしないという考査委員の申し合わせがされているからです。

 

(「司法試験における短答式試験の出題方針について」(平成25年12月2日司法試験考査委員会議申合せ事項)より引用、太字強調は筆者)

 司法試験の短答式による筆記試験は,裁判官,検察官又は弁護士となろうとする者に必要な専門的な法律知識及び法的な推論の能力を有するかどうかを判定することを目的とするものであるが,その出題に当たっては,法科大学院における教育内容を十分に踏まえた上,基本的事項に関する内容を中心とし,過度に複雑な形式による出題は行わないものとする。

(引用終わり)

 

 上記の文言は、旧試時代の論理問題を排除する趣旨で入れられたものです。ですから、かつてのような「並び替えて穴埋めし、下から4番目のカッコ内の語が文章全体で使われている回数を答えなさい」というような問題は、もう出題されないでしょう。
 そもそも、法務省が旧試時代にパズル問題を出題した狙いは、若い人を採りたいということにありました。

 

衆院法務委員会平成元年11月22日より引用、太字強調は筆者)

○井嶋政府委員 ・・近年、この試験が非常に異常な状況を呈してまいっておりまして、平均受験回数が六回以上、合格者の平均年齢が二十八・九一歳というようなことに象徴されますように、司法試験の受験を目指す者にとって非常に過酷な試験になっておる・・法務省といたしましても、まず司法試験の現状を改めて、より多くの人がより早く合格できるような試験制度に改めて、若くて優秀な人たちが司法試験に魅力を感じて受けてもらえるようなものにしたい・・まさに現在の司法試験に比べまして、より多くの者がより短期間に合格し得るような試験とするということを目途といたしまして、次のような改革の具体的内容を提言いたしました。

(引用終わり)

 

 勉強期間が長い人は知識がありますから、知識が結果に反映する試験にすると、若い人に不利になる。そこで、知識があっても解けない、知識がなくても現場で考えれば解ける問題を多用することで、頭の回転の早い若手を採ろうとしたわけです。ただ、現在はロー制度と受験回数制限が存在するために、受験生が何年も滞留するという問題は緩和されています。ですから、問題を若手有利にする必要性は低い。むしろ、合格者数増で知識不足の合格者が増えていると言われています。短答で知識をしっかり確認したい、というところでしょう。そういうこともあって、現在では、旧試のようなパズルを出す必要性もないのです。もちろん、従来から新試験で出題されてきた程度の論理問題は、これからも出題されるでしょう。しかしそれは、旧試パズルの復活を意味しません。
 では、どうやって差を付けようとしてくるのか。大きく3つの手法が考えられます。一つは、従来より細かい知識を出す。これは、特に民法で採用される可能性が高いでしょう。2つ目は、曖昧な肢を出す。条文や判例の文言をそのまま出すのではなく、少し改変して出題すると、読み方によって正しいとも誤りともとれる肢を作ることができます。こういう肢を増やすことで、正答率を下げる。3つ目は、時間をタイトにする。現在のところ、まだ3科目での問題数と試験時間が不明ですが、従来よりも問題数当たりの時間を厳しくすることで、正答率を下げることができます。
 上記のような傾向となった場合には、うまく捨て問を作ったり、短時間で正誤を正確に判断するというテクニカルな要素が、より重要になってくるでしょう。今後は、特に試験時間等の情報に注意をしておく必要があります。

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