1.今年の短答で不合格だった方。来年は憲民刑になるから何とかなる、という考え方は、「平成26年司法試験短答式試験の結果について(2)」でも述べたとおり、危険です。まずは、勉強時間を確保する必要があります。これまでも繰り返し述べてきたとおり、短答試験は勉強量が素直に結果に反映される試験です。ですから、短答が合格点に達しなかったということは、単純に勉強時間が不足していた可能性が高いのです。
2.とはいえ、漫然と基本書に目を通しているだけでは頭に入ってこない、という人が多いと思います。短答では、肢の正誤を素早く、正確に判断することが求められます。ですから、普段の勉強でもその訓練をする。それが、最も効率的な勉強法ということになります。具体的には、肢別の問題集を解くということです。
過去問ベースの肢別問題集としては、「肢別本」と、「考える肢」があります。前者がメジャーですが、どちらでもよいと思います。来年以降は憲民刑になりますから、この3科目分だけ揃えれば大丈夫です。
短答肢別本〈1〉公法系憲法〈平成25年版〉
短答肢別本〈3〉民事系民法1〈平成25年版〉
短答肢別本〈4〉民事系民法2〈平成25年版 2〉
短答肢別本〈7〉刑事系刑法〈平成25年版〉
司法試験・予備試験 考える肢 (1) 公法系・憲法 2014年 (司法試験・予備試験 短答式・肢別過去問集)
司法試験・予備試験 考える肢 (3) 民事系・民法(1) 2014年 (司法試験・予備試験 短答式・肢別過去問集)
司法試験・予備試験 考える肢 (4) 民事系・民法(2) 2014年 (司法試験・予備試験 短答式・肢別過去問集)
司法試験・予備試験 考える肢 (7) 刑事系・刑法 2014年 (司法試験・予備試験 短答式・肢別過去問集)
上記の問題集に収録された肢は、全部の正誤を判断できるようにする。それも、単に○☓というだけではなくて、理由付きで判断できるまで繰り返すことが大事です。誤っている肢であれば、どの部分がどのような理由で誤っているのか。条文なのか、判例なのか。そういったところまで、詰めて判断できるように、何度も回していく。全肢を2回連続正解できるようになれば、それだけでかなりのレベルに達しているはずです。
3.ただ、上記は過去問ベースなので、まだ過去問で出題されていない肢もやっておきたい。そこで、次に、予備校のオリジナル問題を中心にした肢別問題集に手を付けることになります。市販されているものとしては、伊藤塾の問題集があります。
伊藤真が選んだ短答式一問一答1000 憲法
伊藤真が選んだ短答式一問一答1000民法〈1〉総則・物権・親族・相続
伊藤真が選んだ短答式一問一答1000 民法〈2〉債権総論・債権各論
伊藤真が選んだ短答式一問一答1000刑法
これも、同じように全肢潰していく。ここまで終わった頃には、優に合格ラインに達していると思います。ただ、ここまで詰めるには、意外と時間がかかるものです。事前に計画を立てて、十分に時間を確保することが大切です。
4.若干補充が必要かもしれないのは、憲法判例です。憲法では、判例の細かい判示部分を問う問題が出題されることがあります。憲民刑の3科目になると、その傾向が強まるかもしれません。その場合は、肢別問題集だけでは、やや足りないところがあります。そこで、補充的に判例原文を読む、という作業をするとよいと思います。これは、短答だけでなく、論文でも役に立ちます。基本書等で取り上げられる判例について、裁判所HPで、原文を読む。毎朝2つ読む、というように、習慣にするとよいと思います。基本書の判例索引を利用してもよいでしょうし、頭から基本書のページを確認しつつ、判例が出てくるたびにチェックを入れて、順番に少しずつ読んでいく、というやり方でもよいでしょう。
読み方は、一般論的な記述を中心に、ざっと目を通す、という程度でよいでしょう。あまり熟読しようと思わないことがコツです。その程度の読み方でも、脳が勝手に覚えてくれます。判例と同じ言い回しの肢があれば、ピンと来るようになる。逆に、誤った肢は、見た瞬間に「そんなこと判例は言ってないはずだ」と直感的に判断できるようになっていきます。受験生の多くは、判例を軽視して学者の本ばかり読んでいるので、学説の見解を判例と置き換えられたときに、「正しい」と判断してしまいがちです。習慣的に判例を読むことによって、この点を修正することができます。
5.知識面は、以上で十分でしょう。後は、時間管理や論理問題に関するテクニカルな話です。来年以降、この点の重要性が増しそうだということは、「平成26年司法試験短答式試験の結果について(2)」 でも触れました。
(1)まず、時間管理です。時間切れになる人の多くが、事前の時間管理の計画を立てていない。例えば、試験問題が配布された段階で、すぐ表紙のページ数の記載を確認する。これを試験時間で割り算すれば、1ページ当たり何分くらいで解かなければならないかがわかります。これは、試験開始前の余裕のある時間帯にできることです。
それから、試験開始直後には、まず、問題全体に目を通す。落丁、乱丁を確認するという意味もありますが、今年の公法、刑事のように、後半に長文問題があること等を確認し、どのくらいのペースで解けばよいかを、予め確認しておくのです。こうしたことは、普段の模試などでも実践し、習慣にしておくべきです。
(2)それから、論理問題対策です。まず、普通に解いて簡単に解ける問題は、すぐ解いてしまえばよい。問題は、解き初めてから、途中で手が止まる問題です。こういうものは、いったん保留して飛ばすべきです。そして、他の問題を解き終わってから、残りの時間でじっくり解く。一見難しそうに見える問題は、余裕を持ってじっくり解けば、意外と簡単だったりします。例えば、今年の刑事系第37問です。
〔第37問〕(配点:3)
次のⅠ及びⅡの【見解】は,公判前整理手続において刑事訴訟法第316条の15により証拠開示の対象となる証拠の類型として,「被告人以外の者の供述録取書等であって,検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」を掲げる同条第1項第6号の解釈に関するものである。
「参考人から『・・・』旨聴き取った。」との捜査官の聴取捜査報告書(以下「本件捜査報告書」という。)が存在し,参考人の「・・・」という供述が「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する」内容のものである場合,この本件捜査報告書が前記の証拠の類型(以下「6号の証拠の類型」という。)に該当するかどうかについて述べた後記アからオまでの【記述】のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。ただし,「供述録取書等」とは,「供述書,供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの・・・」(同法第316条の14第2号)をいう。(解答欄は,[No.68])
【見解】
Ⅰ.「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述」は,供述者が直接体験した事実に関する供述に限る。
Ⅱ.「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述」には,供述者が直接体験した事実に関する供述のほか,供述者が他者から伝聞した供述も含む。
【記述】
ア.本件捜査報告書について,参考人の供述を録取した供述録取書であるとの見方に立ち,Ⅰの【見解】を採るならば,同報告書は,「検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」といえるが,参考人の署名若しくは押印がない場合には「供述録取書等」に当たらないので,6号の証拠の類型に該当しない。
イ.本件捜査報告書について,参考人の供述を録取した供述録取書であるとの見方に立ち,Ⅰの【見解】を採るならば,同報告書は,「検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」といえ,捜査官の署名若しくは押印がある場合には「供述録取書等」に当たるので,6号の証拠の類型に該当する。
ウ.本件捜査報告書について,参考人の供述を聴き取った捜査官の供述書であるとの見方に立ち, Ⅰの【見解】を採るならば,同報告書は,「検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」といえ,捜査官の供述書として「供述録取書等」に当たるから,6号の証拠の類型に該当する。
エ.本件捜査報告書について,参考人の供述を録取した供述録取書であるとの見方に立ち,Ⅱの【見解】を採るならば,同報告書は,「検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」といえず,参考人の署名若しくは押印がない場合には「供述録取書等」にも当たらないので,6号の証拠の類型に該当しない。
オ.本件捜査報告書について,参考人の供述を聴き取った捜査官の供述書であるとの見方に立ち, Ⅱの【見解】を採るならば,同報告書は,「検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」といえ,捜査官の供述書として「供述録取書等」に当たるから,6号の証拠の類型に該当する。
1.ア ウ 2.ア オ 3.イ エ 4.イ オ 5.ウ エ
一見すると、大変な難問に見えます。しかしこの問題は、公判前整理手続の知識は全くなくても、時間さえかければ容易に解けます。
問題文冒頭と、見解部分を読んでも、何がなんだかわからないという感じでしょう。
とりあえず、アからオまでの肢を眺めてみる。そうすると、「本件捜査報告書について・・であるとの見方に立ち」の部分は、以下の2通りしかないことに気付きます。
(1)参考人の供述を録取した供述録取書であるとの見方(アイエ)
(2)参考人の供述を聴き取った捜査官の供述書であるとの見方(ウオ)
そこで、見解Ⅰ、Ⅱをみると、説と結論の対応関係がわかるはずです。Ⅰ説からは、(1)は「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述」に含まれるが、(2)は含まないという帰結になる。他方、Ⅱ説からは、(1)も(2)も含まれるということになる。これを理解した上で記述をみると、この時点でウ、エが誤っていることがわかります。正しいものの組み合わせを選ぶ問題ですから、選択肢のうち、ウ又はエを含む肢は、正解とはなり得ません。そこで、選択肢をみると、1、3、5がウ又はエを含んでいます。ですから、この時点で、正解は2か4に絞れるのです。
2と4の選択肢をよくみると、オが共通している。ということは、オの肢の正誤は判断する必要がない。従って、アとイのどちらかの正誤が判断できれば、その時点で正解が出ます。そこで、アの後半部分を見てみると、「参考人の署名若しくは押印がない場合には「供述録取書等」に当たらない」とある。これは問題文冒頭で、「「供述録取書等」とは,「供述書,供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの・・・」(同法第316条の14第2号)をいう」と書いてあるわけですから、正しいでしょう。この時点で、2が正解と確定します。念のために、イの後半部分を見てみると、「捜査官の署名若しくは押印がある場合には「供述録取書等」に当たる」となっています。参考人の供述録取書に、捜査官の署名押印があっても、「供述者の署名若しくは押印のあるもの」とはいえませんから、これは誤りです。ですから、やはり4は正解ではなく、2が正解であると確認できる。このように、本問は問題文の記述を冷静に組み合わせれば、ほとんど刑訴の知識はなくても解けるのです。
重要なことは、上記のような作業を冷静に行えるような時間的、精神的な余裕を作るということです。他の問題をまだ解き終えていない段階で、こういう問題を解こうとすると、どうしても、「早く解いて次の問題に行きたい」「この問題にこんなに時間をかけて大丈夫なのか」という焦りの気持ちが生じます。そのような精神状態では、上記のような作業はとてもできません。また、論理問題を解くのに長時間をかけ過ぎて、残りの知識問題が解けずに時間切れになりかねない。ですから、一度保留しておいて、全問題を解き終えた段階で、改めてじっくり解くべきなのです。