1.前回の記事(「平成26年予備試験短答式の結果について(5)」)では、極端に点数の低い答案を書く論文受験者が増えたことが、平成25年の平均点のみならず上位層の得点までも引き下げた、ということを説明しました。
2.では、平成25年に増加した極端な下位層とは、どのような人達なのか。論文が苦手というと、すぐ旧試組が思い浮かびますが、旧試組ではないでしょう。なぜなら、旧試組は安定してあと一歩の答案を書いてしまうという特性はありますが、極端にひどい答案は書かないからです。答練等をたくさんこなしているので、ある程度答案の体裁は整ったものが書けるのです。しかも、旧試組は減少傾向にあります。平成24年の旧試のみ受験経験のある短答合格者は1132人ですが、平成25年は1016人です。ですから、平成25年に旧試組が急増したと考えることはできません。
3.仮説ですが、これはおそらく、大学生だと思います。大学在学中の論文受験者は、増加しています。平成24年の大学生の短答合格者は244人であるのに対し、平成25年は、347人です。100人以上増えています。大学生は、論文が苦手というわけではありません。むしろ、論文合格率は高い(「平成25年司法試験予備試験口述試験(最終)結果について(5・完) 」参照)。きちんと論文対策をしている大学生は、論文に強いのです。しかし、大学生の中には、とりあえず短答の勉強はしているが、論文は今までに一度も書いたことはない、という感じの人がいます。そういう人が、とりあえず短答は受かってしまったけれども、論文というものをどのように書いていいかまるでわからない、という状態で答案を書いたのではないか。特に大学生は、大学受験の記憶や公務員試験対策で一般教養に強い。そのために、法律科目の知識が弱くても、短答に受かってしまうことがある。そういう人が、ダメ元で論文を受けて、ひどい答案を書いてくる。その結果、極端に低い点数を取って、全体の平均点のみならず上位陣の得点までも引き下げているのではないか、ということです。
4.上記の仮説が正しいとすると、来年も、合格点は210点となる可能性が高いでしょう。大学生の受験は今後も増加傾向となるでしょうから、上記のような「大学生による平均点押下げ現象」は、今後も続くと予想できるからです。従って、見かけ上は、不良にさえならなければ合格できる。しかし、それは飽くまで見かけ上の話です。極端に低い点数を取る大学生のおかげで、全体の得点が押し下げられた結果に過ぎませんから、素点ベースでは、もう少し高い得点を取る必要がある。これは、厄介なことです。その意味では、以前の記事(「平成25年予備試験論文式試験の結果について(3)」)は、単純に不良にならなければよいという趣旨を伝えている点で、緻密さを欠いていたと言わざるを得ません。とはいえ、基本論点をしっかり拾い、趣旨・規範を正確に書き、事実を評価して当てはめれば、優に上位で受かるということは変わりませんから、必要以上に気にすることはないでしょう。ただ、過去の再現答案を分析する際には、現在はもう少し(調整後の)得点が下がるだろう、という認識を持っておく必要があるということです。
他方、これは司法試験委員会としては、都合の良い現象です。素点ベースでは不良にはなっていないけれども、極端に出来の悪い大学生のおかげで、調整後は不良のレベルに押し下げられる人が増える結果、合格者数を抑制できるからです。これによって、合格率均衡のための極端な合格者増を避けることができるというわけです。
5.結論的には、論文の合格者数は、210点以上を取る受験生が何人であるかによる、ということになります。そうすると、現役ロー生の参入増で昨年より上位層のレベルが上がっているにもかかわらず、ダメ元の大学生が足を引っ張ることにより調整後の上位得点者の人員が減っているという構造を考慮すると、結局、昨年の381人と同じくらいの人数か、やや減少するという可能性が高そうです。その場合でも、実質的な難易度は、最下位層の増加の分だけ若干昨年より上がる。厳密に考えようとすると複雑ですが、試験対策という観点からは、概ね昨年並みと考えておけば足りるだろうと思います。