1.平成26年司法試験民事系第3問の設問1。弁護士から与えられた課題に答えるという形式になっています。多くの人が、与えられた課題とは、「本件和解の訴訟法上の効力を維持する方向で立論してみてください。 」という部分であるとみて、解答したようです。その発想だと、その直後の修習生の「仮に訴訟行為としての和解の効力が否定されるとして,では私法上何の効果も生じないことになるのか,といった辺りも考えてみる必要がありそうです。」という発言は、上記課題、すなわち、本件和解の訴訟法上の効力を維持する立論をするためのヒントである、という位置づけになるでしょう。
2.しかし、よく見てみると、この点は、もう一つの課題だったようです。
(問題文より引用、太字強調は筆者)
L1:確かにこの判例の一般論については議論があるところですが,ここでは訴訟上の和解に表見法理を適用することの可否に絞って考えることにしましょう。本件のように訴訟上の和解が成立した事案においては,民法や商法の表見法理を適用することを否定する理由として,判旨が挙げるような取引行為と訴訟手続の違いや,P君が言うような手続の不安定を招くといった点を持ち出すことに果たして説得力があるかということを踏まえ,本件和解の訴訟法上の効力を維持する方向で立論してみてください。
P:訴訟上の和解には,私法上の契約とそれを裁判所に対して陳述するという両面がありますから,仮に訴訟行為としての和解の効力が否定されるとして,では私法上何の効果も生じないことになるのか,といった辺りも考えてみる必要がありそうです。
L1:頼もしいですね。それでは,和解が無効だとするDの主張を退け,無事に和解の履行期限を迎えられるよう,我々の側として用意できる法律論をまとめてみてください。実体法上の表見法理のうちどの条文の適用を主張すべきか,という問題もありますが,そこはひとまずおいて,まずは訴訟法の問題について検討してください。よろしくお願いします。
(引用終わり)
弁護士から与えられた課題は、端的には、一番最後の「和解が無効だとするDの主張を退け,無事に和解の履行期限を迎えられるよう,我々の側として用意できる法律論をまとめてみてください。」の部分です。そして、その法律論は2つ。一つは、本件和解の訴訟上の効力を維持する法律論。もう一つは、仮に訴訟上の効力が否定された場合の、私法上の効果を主張する法律論。この2つを書くことが、弁護士から与えられた課題であった、ということになると思います。具体的な中身は、「平成26年司法試験論文式民事系第3問参考答案」を参考にして下さい。
3.そうなると、冒頭で示した訴訟上の効力を維持する立論のみを書いた人は、2つの課題のうち、1つにしか答えていないことになる。これは、ちょっと酷だな、という印象を持ちます。不親切な出題でしょう。とはいえ、こういったことは、本試験では時々あるのです。このような場合に論点落ちにならないように、普段から過去問を分析し、本試験の不親切さに慣れておくことも必要だ、ということになるでしょう。こういうところは、基本書等を何冊読んでも対応できるようにはなりません。また、予備校答練は、受講生のクレームを恐れて過度に親切に作問する傾向があるため、本試験ほど理不尽な出題にはなりにくい。本試験過去問を検討する重要性は、このような点にもあるといえます。本試験特有の難しさは、学術的な高度さにあるというよりは、むしろ、このような理不尽さに原因があることも多いのです。