1.第65会法科大学院特別委員会の配布資料として、平成26年司法試験受験状況が公表されています。内容的には、予想どおりのものと、予想外のものがあります。今回は、これを順にみていきましょう。
2.まず、予想どおりの内容です。以下は、受験回数別の短答・論文の合格率です。短答は受験者ベース、論文は、短答合格者ベースの数字です。
受験回数 | 短答 合格率 |
論文 合格率 |
1回目 | 59.81% | 46.16% |
2回目 | 59.87% | 27.27% |
3回目 | 69.48% | 23.89% |
毎年の傾向を踏襲しています。短答は、受験回数が増えると合格率が上がる。逆に、論文は、受験回数が増えると、合格率が下がる。当サイトで繰り返し説明している短答・論文の特性の違いが、今年も顕著に現れています。
短答は勉強量を増やせば合格率は上がるが、論文はそうではない。短答で不合格だった人は、単に勉強不足です。しかし、論文で不合格だった人は、何が原因か、慎重に分析した上で、勉強法を考え直す必要があります。同じやり方で、単に勉強時間を増やすだけでは、結果に結びつかない可能性の方が高いでしょう。論文は、基本的な問題文の読み方、答案の書き方が間違っていると、どんなに頑張っても点が伸びないのです。論文の勉強は、知識の習得よりも、どうやったら配点のある事項を素直に答案に書けるようになるのか、その方法論の習得を目的としてやるべきです。
3.次に、予想外の内容をみてみましょう。以下は、予備試験合格の資格で受験した者の、予備試験合格年別の論文合格率(短答合格者ベース)です。短答は、1人を除いて全員合格していますので、省略しました。
予備試験 合格年 |
論文 合格率 |
平成25 | 80.7% |
平成24 | 38.3% |
平成23 | 35.3% |
これまで、予備組には、「論文に受かりにくい者は何度受けても受かりにくい法則」が当てはまらない、すなわち、受験回数が増えても論文合格率が下がらないという結果になっていました(「「平成25年司法試験状況」から読み取れること(上)」)。昨年は、平成23年予備合格者でも、論文合格率は7割を超えていたのです。当サイトでは、これこそが予備組の強さだ、と説明したのでした。
ところが、今年の結果をみると、やはり、予備組にも「論文に受かりにくい者は何度受けても受かりにくい法則」が強く作用しています。しかも、平成25年合格者と平成24年合格者の差が、あまりにも大きい。ここまで差が付いてしまうものか、と思ってしまいます。この結果をみるかぎり、昨年の平成23年合格者の合格率は、母集団が少なかった(受験者38人中27人合格)ことによる異常値だった、ということになりそうです。従って、昨年のデータに依拠して来年以降の予備組の合格率を予測した以前の記事(「平成26年司法試験の結果について(7)」)の内容は、修正を迫られることになります。来年以降、今年と同様に2回目以降の予備組の論文合格率の急落が続くのであれば、同記事で「微減又は横ばい」と予測していた予備組の合格率は、毎年下がっていくことになるでしょう。
合格率数パーセントの予備試験をクリアし、本試験の短答をほぼ100%の合格率で受かってくる予備組ですら、2回目以降になると論文合格率が4割を切ってしまうというのは、衝撃的です。予備組ですら、論文の特性を把握しきれていないということでしょう。思い出すのは、以前取り上げた黒猫さんの記事です。
(「旧司法試験・合格基準点の読み方について」より引用、太字強調は筆者)
「合格した最上位層の素点は下がっていないのに得点調整で得点を下げられた」という現象が成立するには,「平成18年以降の旧司法試験では,従来なら択一すら合格しなかった低レベルの受験者がどしどし択一試験に合格し,論文試験で従来ならあり得ない低レベルの答案が大量に出てきた」ことが必要不可欠です。
択一の合格最低点が上がっていた移行期の旧司法試験について,このような前提を立てるのはいかにも不自然かつ強引な議論というほかなく,しかも全体の質は下がっているのに合格した最上位層だけは従来どおりまたはそれ以上の質を維持している可能性というのは,「明日世界が滅びる可能性も無くはない」程度の可能性に過ぎないのではないかという気がします。
(引用終わり)
短答が得意なら論文も得意に決まっている。実力があれば、論文も高得点に決まっている。これは、直感的には誰もがそう思います。司法試験を丹念に分析する黒猫さんですら、短答で高得点を取る実力者が論文で酷い答案(より正確には、現在の採点基準では得点できない答案)を書くはずがない、そんなものは、「『明日世界が滅びる可能性も無くはない』程度の可能性に過ぎない」と思ってしまうのです(※)。しかし、「明日世界が滅びる」ような事態が、毎年普通に起こっているのが、司法試験の論文なのです。短答で毎年周囲が驚くような点を取る人が、論文では毎年酷い答案(より正確には、現在の採点基準では得点できない答案)を書いて帰ってくる。これが、司法試験では普通なのです。単純に実力を付ければ論文の成績が伸びるという思い込みが、「論文に受かりにくい者は何度受けても受かりにくい法則」を固定化させている。そのような思い込みがあるから、論文の勉強法の修正が効かないのですね。今回のこの数字は、論文の恐ろしさを、改めて実感させてくれます。
※ 末期の旧試験は、新規参入者がほとんどいない中で、大量の滞留者同士の争いになっていました。2回目や3回目の受験者というレベルではなく、10回目、15回目という人も普通にいる状況です。受験回数が増えると短答は受かり易く、論文は受かりにくくなるとすれば、短答は極端に高い点をとるが、論文は極端に低い点を取ります。この人達は、必死に何年も勉強を続けてきたわけです。しかし、合格するのは、わずかな新規参入者である大学生でした(「平成22年度旧司法試験論文式試験の結果について」)。長年努力してきた人達にとっては、「世界が滅びる」と形容できそうな修羅場が、展開されていたわけですね。この末期の旧試験で生じていた論文の恐ろしさは、現在の司法試験でもなお、生き続けているのです。
「勉強時間さえ増やせば論文の成績がよくなる」という思い込みを基礎に今年の予備組の結果をみると、平成24年、平成23年合格者は、「択一ばかり勉強して論文の勉強をしていないからだ」という短絡的な結論に至ってしまいます。そして、現に黒猫さんは、そのような記事を書いているのです(「なぜ,予備試験の合格者が司法試験に落ちるのか?【前編】」)。