1.以下は、司法試験受験経験別の受験者数の年別の推移です。
受験経験 | 平成23 | 平成24 | 平成25 | 平成26 |
受験なし | 1629 | 2517 | 4553 | 6025 |
旧試験のみ | 4512 | 4159 | 3929 | 3358 |
新試験のみ | 91 | 152 | 263 | 385 |
両方受験 | 245 | 355 | 479 | 579 |
「受験なし」のカテゴリーは、新規参入組です。多くは、大学生やロー生でしょう。受験者数が急増していることがわかります。このことは、以前の記事(「平成26年予備試験口述試験(最終)結果について(3)」)でも説明したとおりです。
他方で、減少しているのが、「旧試験のみ」のカテゴリーです。昨年、初めて「受験なし」のカテゴリーに追い抜かれ、今年は倍近い差を付けられてしまっています。当初は旧試験組の敗者復活戦的意味合いの強かった予備試験が、昨年から今年にかけて、大学生やロー生の近道へと急速に性格を変容させていったことがわかります。この傾向は、今後も強まっていくでしょう。
「新試験のみ」のカテゴリーは、新試験で受験回数を使い切り、受験資格を失った資格喪失者です。受験資格を失っても諦めきれずに予備に回る受験生が、徐々に増えてきています。
「両方受験」の人は、旧試験組がローに転向し、さらに受験資格を失った資格喪失者ということになります(※)。この数字が増加傾向にあるというのは、少し怖い状況です。旧試験はもう実施されていませんから、新たに旧試験を受験する人はいないわけですね。ですから、「旧試験のみ」のカテゴリーが減少傾向にあるのは、自然なことです。しかし、「両方受験」のカテゴリーは、なぜか増えている。このことは、旧試験で合格できずにローに転向した人が、ここ数年で次々と受験資格を喪失して、予備に回ってきているということを意味しています。
※ 厳密には、ロー在学中に旧試験を受験した人を含みます。
2.今度は、上記の各カテゴリーについての今年の短答、論文合格率を見てみましょう。なお、短答は受験者ベース、論文は短答合格者ベースの数字です。
受験経験 | 短答 合格率 |
論文 合格率 |
受験なし | 15.5% | 32.2% |
旧試験のみ | 21.4% | 6.5% |
新試験のみ | 31.1% | 15.0% |
両方受験 | 41.9% | 10.2% |
短答は、受験経験を積むごとに、合格率が上がっていきます。特に、新試験の受験経験があると、短答合格率は高くなる。旧試験は憲民刑しか短答がなく、しかも、憲法や刑法は論理問題の比重が高かったということが影響しています。新試験と予備試験の短答は、ほぼ同一の傾向ですから、新試験対策で勉強をしていた人は、短答合格率が高くなりやすいというわけです。
一方、論文は、「受験なし」が圧倒的です。受験経験のある人は、ほとんどの人が論文不合格経験者です。「受かりにくい人は何度受けても受からない」法則が、ここでも見て取れます。受験経験のある人の中では、「新試験のみ」のカテゴリーが、一応それなりの合格率を維持しています。まだ3回しか論文で不合格になっていないという意味で、負のセレクションをあまり受けていないというのが一つの理由です。それだけでなく、新試験の採点基準による成績評価を経験したことが、旧試験受験者より若干有利に働いているということもあるでしょう。旧試験と新試験は、配点の付き方が違います。旧試験は学説、理由付け(本質論や趣旨)、論理性の比重が高かったのですが、新試験では判例、規範、当てはめの比重が高い。そして、このことは、予備試験でも同様です。例えば、今年の商法や刑法のような多論点問題で、論点は一応拾ったのに評価が伸びていないという人は、規範を示したかどうかという点から見直してみるとよいでしょう。旧試験では、多論点型は規範を示さずにいきなり当てはめればよかったのですが、現在はそれでは点が伸びません。他の論述を犠牲にしても、まずは規範を示すべきなのです。このような現在の採点基準による成績評価を一度体感しているかどうかが、論文合格率に反映されているといえるでしょう。「両方受験」のカテゴリーは、旧試験時代の感覚がまだ残っているために、合格率が「新試験のみ」よりも低くなっているという理解も可能でしょう。旧試験時代から勉強をしていた人は、どうしても旧試験のイメージが残っています。意識して合格答案のイメージを変える必要があるのです。