平成27年司法試験の結果について(8)

1,前回の記事(「平成27年司法試験の結果について(7)」)では、予備組全体の合格率をみていました。しかし、予備組内部で、明暗が大きく分かれています。下記は、年代別の受験者合格率です。

年齢 受験者数 合格者数 受験者合格率
20~24 103 93 90.2%
25~29 35 29 82.8%
30~34 35 18 51.4%
35~39 38 15 39.4%
40~44 37 14 37.8%
45~49 24 29.1%
50以上 29 10 34.4%

 大きく分けて、20代、30代前半、30代後半以降という3つのカテゴリーに分けることができます。20代は9割から8割の高い合格率。30代前半は五分五分30代後半以降になると、3割程度です。このような若手圧倒的有利の傾向は、今年の予備組に限ったことではありません。旧司法試験時代を含め、論文式試験における顕著な傾向です。その原因は何か。これを理解しておくことが、論文式試験を攻略する上で重要なヒントとなります。

2.考えられる主な原因は2つです。
 1つは、「論文に受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則です。現在の論文式試験は、規範と問題文の事実の摘示に極端な配点があります。ですから、規範と事実を丁寧に示す意識のある人は、さほど深い知識がなくても簡単に合格できます。しかし、そのような意識のない人は、どんなに勉強量を増やしても、答案に規範と事実を書かないから点が付かない。そのために、何度受けても受からない、という現象が生じるわけです。
 「論文に受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則を大きく受けるのは、旧司法試験組や、新司法試験の受験資格喪失者です。この類型の人は、30代以降の人に多いでしょう。30代に入ると、急に合格率が急落するのは、この影響が大きいのだろうと思います。ただし、30代前半は、それでも5割も受かっています。これは、一度予備の論文を合格したという体験が、大きいということでしょう。予備の段階で、意識を修正できている人が、一定数いるということです。

3.もう1つは、加齢による体力や反射神経の衰えです。論文試験は、限られた時間の中で、問題文を読み、論点を抽出し、事実を拾って当てはめるという作業が求められます。しかも、答案に手書きで書く速度も、それ相応のものが必要になる。これをこなすには、かなり高度の事務処理能力が必要となるのです。ところが、年を取ってくると、こうした作業の速度が落ちてきます。じっくり腰を据えて考えれば気が付くけれど、瞬時には気付かない。気付いても、答案に書いている間に時間切れになる。こうした能力の衰えは、論文ではかなりのハンデになります。
 30代後半以降、緩やかに合格率が下がっているのは、こうした加齢による能力の衰えが影響していると考えられます。

4.上記のうち、意識的に改善できるのは、前者の「論文に受かりにくい人は、何度受けても受からない」法則による影響です。これは、規範と事実をきちんと書くという意識を持って、演習をこなしていけば、容易に改善できます。最初は、極端に規範と事実しか書かない答案を書いてみるとよいでしょう。そのうち、答案のイメージができて、余裕ができてきたら、趣旨からの理由付けや事実の評価ができそうなところ、攻めるべきところは積極的に攻めていく訓練もやってみる。そうすれば、場合によっては上位も狙えるようになるでしょう。
 これに対して、加齢による衰えは、ある程度は如何ともし難いものがあります。とはいえ、これも演習を重ねて体を慣らすことで、ある程度対応は可能です。書くスピードも、意識して早く書く訓練をする。こうしたことで、ある程度は克服できるのではないかと思います。今年は、50代以上でも34%が合格していますが、それは、加齢による衰えも、ある程度克服可能なことを示しているといえるでしょう。

5.予備合格者のうち、大学在学中の者は、57人受験して51人合格。受験者合格率は、89.4%です。この数字から分かるのは、知識的には、大学在学中に学習できる程度の量で足りるということです。
 それなりにきちんと勉強量を確保している人は、知識の量としては、十分であるのが普通です。ただ、漫然と何となく知っているという程度では、実際には答案に書くことができません規範部分に絞って、その部分だけは正確に覚える。新しい知識を追いかけるのではなく、覚えるべき部分を絞って、その部分は正確に覚えるというメリハリ付けを意識すべきでしょう。

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